カスタマーサクセスにおけるNPSとは?計算方法や活用時のポイントを解説
NPS(Net Promoter Score)は、質の高いカスタマーサクセスを実現するうえで重要な指標の一つです。なぜなら、NPSでは、商品・サービスの継続率に大きな影響を与える顧客ロイヤルティを測定できるからです。NPSの結果をもとに製品の品質やカスタマーサクセスの施策を見直せば、顧客が商品やサービスに対してより価値を実感できるでしょう。結果、売上やLTVといった企業業績の向上につながります。
本記事では、NPSの仕組みや計算方法、活用時のポイントを詳しく解説します。
カスタマーサクセスの重要指標「NPS」とは
NPSとは、米国を拠点にコンサルティングサービスを展開する「Bain & Company(ベインアンドカンパニー)」が考案した、顧客ロイヤルティを測るための指標です。ここでは、NPSの仕組みやCSATとの違いについて解説します。
NPSは顧客ロイヤルティを測定するためのKPI
NPS(Net Promoter Score)は、顧客へのアンケート調査からロイヤルティを測定するための指標です。顧客ロイヤルティが重要なKPIとなる、カスタマーサクセスの領域でよく活用されています。顧客ロイヤルティは、企業の商品やサービスに対する忠誠心・愛着度を表します。顧客ロイヤルティが高ければ、商品・サービスのリピート購入やリファラル(他者への推薦)、建設的なフィードバックなど、企業にとってたくさんの恩恵をもたらします。そのため、NPSをもとにカスタマーサクセスの施策を改善することで、売上やLTVの向上につながるでしょう。
NPSとCSATの違い
NPSとよく似た指標にCSAT(Customer Satisfaction)があります。いずれもアンケート調査によって、商品やサービスに対する顧客の感じ方を計測する指標ですが、NPSは顧客ロイヤルティ、CSATは顧客満足度をはかる点が大きな違いです。
顧客ロイヤルティと顧客満足度は、どちらも似たような概念だといえます。しかし厳密にいえば、顧客満足度は現時点における商品・サービスへの印象を、顧客ロイヤルティは長期的な商品・サービスへの印象を表しています。そのため、顧客からの現状のリアクションを確かめたい場合はCSAT、中長期的な関係構築をはかりたい場合はNPSを用いるのが適切です。
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NPSスコアの算出方法
NPSは、アンケート調査によってスコアを算出します。顧客に対して、「自社商品・サービスを友人や知り合いに勧める可能性はどのくらいありますか」という質問を投げかけ、0~10点まで11段階のなかから回答してもらいます。点数による分類は次の通りです。
- 0~6点:批判者(Detractors)
- 7~8点:中立者(Passives)
- 9~10点:推奨者(Promoters)
そして、回答結果を集計したうえで次の計算式からNPSを求めます。
- NPS = 推奨者の割合 - 批判者の割合
例えば、顧客1,000人のうち、9~10点と回答した人が400人であれば、推奨者の割合は40%です。0~6点と答えた人が100人の場合、批判者の割合は10%なので、差し引き30という数値がNPSスコアとなります。
日本と欧米における調査結果の違い
NPSの調査方法は、「知り合いに商品を勧めたいか」という直接的な意見表明につながる質問を行うだけあり、国民文化が反映されやすい傾向にあります。NPSの発祥地である米国と比べ、集団主義的な傾向がある日本の場合は極端な意見表明を避けることも多く、11段階の点数が中央付近に偏るケースも珍しくありません。仮に4~6点の回答が多ければ、NPSスコアがマイナスになりやすいのです。そのため、NPSスコアを算出する際は、絶対的な評価ではなく相対的な評価を参考にすることが大切です。
NPSスコアがマイナスになったとしても、前回に比べて数値が上向いていれば、改善効果があったとみなせます。常に前回のNPSスコアと比較し、徐々に改善をはかるのがNPSの適切な活用方法だといえるでしょう。
カスタマーサクセスでNPSを活用するメリット
NPSは、アンケート調査を使って比較的容易に実施できるのがメリットです。それ以外にもいくつかメリットがあるため、具体的な効果をイメージするためにもポイントを押さえましょう。
- NPSスコアの改善により業績アップにつながりやすい
- 自社に対する評価を同業他社と比較しやすい
- PMF(プロダクトマーケットフィット)を見極める際に役立つ
- NPS調査を顧客接点の一つとして活用できる
NPSスコアの改善により業績アップにつながりやすい
顧客ロイヤルティ向上のツールを提供する「米Satmetrix社の調査」によると、NPSスコアと収益成長率には相関係数0.70以上と、強い相関性があることがわかっています。もちろん、単一の指標のみで収益成長率が向上するわけではありませんが、NPSスコアの改善は業績に直結しやすいといえるでしょう。NPSスコアは、VOC(顧客の声)の重要な要素の一つです。NPSスコアをはじめとするVOCをもとに、製品品質の向上やカスタマーサクセスの施策見直しなどを行えば、顧客が商品やサービスに対する価値をより実感できます。結果として、売上やLTVの向上に結び付きます。
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自社に対する評価を競合他社と比較しやすい
NPSスコアの算出方法は世界中で統一されているのが特徴です。そのため、競合他社と数値を比較しやすいメリットがあります。競合他社よりも自社のNPSスコアが低い場合は、商品やサービスに関して改善すべきポイントを検討すると良いでしょう。また、同業界のなかでNPSスコアの高い企業をベンチマーチに設定し、ケーススタディによって改善策のヒントを得るのも手段の一つです。
PMF(プロダクトマーケットフィット)を見極める際に役立つ
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、自社商品・サービスがターゲット市場のなかで適合している状態を指します。NPSスコアのように、顧客へアンケート調査を行ってスコアを算出し、商品やサービスの市場への浸透度を探ります。NPSスコアが高いということは、それだけ商品やサービスを他者に勧めたいということです。つまり、自社が狙っている市場に適合している状態を示すため、NPSスコアとPMFスコアは相関性の高い指標だといえるでしょう。NPSスコアと同時にPMFスコアを改善すれば、顧客ロイヤルティの向上だけではなく、市場競争力の強化にもつながります。
NPS調査を顧客接点の一つとして活用できる
顧客へのアンケート調査でスコアを算出するNPSは、顧客接点の一つの手段として活用できます。顧客にとっては、企業に対して意見を表面化できる貴重な機会です。そのため、顧客からのフィードバックに対して真摯に対応し、その姿勢をアピールすることで、企業のイメージアップにつながる可能性があります。特にBtoB領域では、意思決定者が抱える課題の解決策につながる提案を行えば、顧客の離反を防ぐことにもつながるでしょう。
カスタマーサクセスでNPSを活用する際のポイント
カスタマーサクセスでNPSを効果的に活用するには、やみくもにアンケート調査を実施するだけでは不十分だといえます。そのため、次の5つのポイントを参考に、施策を最適化させることが大切です。
- 情報の信頼度を高めるためにサンプル数を増やす
- NPS以外の指標と組み合わせる
- ネガティブ情報の共有で危機感を募らせる
- 調査実施ペースは1人あたり年2回までに抑える
- NPSの調査に役立つツールを活用して効率性を高める
情報の信頼度を高めるためにサンプル数を増やす
NPSを製品品質や施策の改善に活かすためには、情報の信頼度を高める必要があります。NPSスコアは基本的に、母集団に対するサンプル数(母集団から抽出したデータの集合)が多いほど信頼度が高くなります。アンケート調査を実施する際は、まず自社が理想とする許容誤差を明確にしましょう。許容誤差とは、アンケート結果で示された数値の上下幅です。仮に、「はい」と回答した人が全体の50%で許容誤差が5%なら、母集団全体で45~55%の割合が同じ回答をすることがわかります。許容誤差を5%以内に抑えたい場合は400以上、2%以内であれば2,000以上のサンプル数が必要です。
NPS以外の指標と組み合わせる
NPSスコアだけでは、低い点数を付けた批判者が、どのような課題を抱えているかといった情報までは読み取れません。そのため、より精度の高いデータ分析を行う際は、NPS以外の指標と組み合わせることが大切です。NPSと相関性の高い指標には、解約率(チャーンレート)や維持率(リテンションレート)、NRR(売上継続率)などが挙げられます。こうした指標は、それぞれの数値が上昇すると、NPSの水準も向上しやすいため、改善につながるアクションプランを策定しやすくなります。カスタマーサクセスでよく使用されるKPIを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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ネガティブ情報の共有で危機感を募らせる
NPSスコアの結果は、経営の意思決定や製品の品質改善に役立ちます。しかし、普段から顧客と接する機会の少ない経営層や開発メンバーなどは、報告を受けてもいまいちイメージがつかみきれない場合も少なくありません。このような際は特に、NPSスコアに関するネガティブな情報を共有すると良いでしょう。たとえ顧客のイメージが湧きにくい経営層や開発チームでも、商品やサービスに関する不満が多いとわかれば、危機感が募ります。結果として、業績改善につながる意思決定や品質改善などの推進剤になる可能性があります。
調査実施ペースは1人あたり年2回までに抑える
NPSのアンケート調査は顧客接点として活用できるとはいえ、あまりにも多用しすぎると、かえって顧客からの印象が悪くなります。頻繁にアンケート調査を迫られると、回答者側はストレスが溜まってしまうからです。そのため、調査実施ペースは、1人あたり年2回程度に抑えると良いでしょう。また、NPSのアンケート調査では、どうしても質問内容が似通ってしまいます。仮に、商品やサービスに前回調査のフィードバックが反映されていないとすれば、何度も同じ質問に答える顧客からネガティブな印象を持たれる可能性があります。同じ顧客にアンケートを依頼する場合は、しっかりと改善を行った後に再調査を依頼したり、改善効果をアピールしたりする方法が効果的です。
NPSの調査に役立つツールを活用して効率性を高める
NPSのアンケート調査を効率的に実施するには、ICTツールの活用がおすすめです。NPSに対応したツールには、回答結果の集計やデータ管理、レポート作成などを効率化できる機能が搭載されているため、業務効率の向上につながります。代表的なツールは次の通りです。
ツール名 | 料金プラン | 主な機能 |
NPX Pro | 要問い合わせ |
・アンケート項目の作成
・アンケートの自動配信 ・アンケートテンプレート ・回答結果の自動集計 ・カスタマージャーニーマップ分析 ・回答結果に応じた担当者へのアラート通知 |
見える化エンジン | 要問い合わせ |
・アンケート項目の作成
・回答結果の自動集計 ・NPS比較マップ ・NPSスコアの相関分析 ・自社と顧客のギャップ分析 |
EmotionTech CX | 要問い合わせ |
・アンケート項目の作成
・アンケートテンプレート ・回答結果の自動集計 ・カスタマージャーニーマップ分析 ・データの閲覧権限管理 ・SalesforceやKARTEとのデータ連携 |
NPS調査を実施する4つの手順
NPSのアンケート調査を実施する手順は次の通りです。
- 目的をもとにNPS調査の実施方法を決定
- アンケート項目を作成
- アンケートの依頼
- アンケートの回収・回答結果の整理
アンケート項目には、「商品・サービスを第三者に勧めたいか」という質問に加え、任意でその推奨度を選んだ理由や評価ポイントなどの項目を設定すると良いでしょう。顧客にアンケートを依頼する場合は、一度にすべての顧客を対象にするのではなく、まずは個別のタッチポイントに分けて実施します。タッチポイント別にNPS調査を行う方法を、「トランザクショナル調査」と呼びます。調査の結果、特定のタッチポイントでNPSスコアが低ければ、改善策を実行した後に再調査(リレーショナル調査)を行うのが一般的です。
まとめ:NPSを活用してカスタマーサクセスの施策を改善
NPSは、企業の売上やLTVに大きな影響与える顧客ロイヤルティを測定できるため、カスタマーサクセスにおいて重要な指標だといえます。NPSスコアをもとに、製品品質やカスタマーサクセスの施策を改善すれば、より効率的に業績向上へとつなげられるでしょう。
効果的にNPSのアンケート調査を行うには、調査時のサンプル数を増やす、複数の指標を組み合わせるといった工夫が必要です。今回ご紹介した5つのポイントを参考にNPS調査を実施し、カスタマーサクセスのパフォーマンスを向上させましょう。