SaaSサポート入門:いち早く戦力化!仕様確認・検証の進め方ガイド

山家瑞紗
2025.07.01

SaaSサービスのカスタマーサポートにアサインされた際に、最初に求められるのは 「仕様を理解し、適切な対応ができるようになること」 です。
しかし、多機能で複雑化しがちなSaaSにおいて、単にマニュアルを読むだけでは、実際の問い合わせ対応に必要な知識をなかなか身につけることはできません。
重要なのは、 実際にサービスを触りながら仕様確認・検証を進めること(実機検証) です。
本記事では、スムーズにサポート業務を開始するために押さえておくべき 実機検証の優先順位と進め方 について解説します。
本記事では、そのために取り組んだ内容をご紹介します。
なぜ「実機検証」が不可欠なのか?
マニュアルはSaaSで「できること」をリスト化したものですが、実機検証は以下のような、マニュアルだけでは得られない深い理解をもたらします。
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- 文脈の理解:機能が「どのような状況で」「どのように使われるか」を体感できます。
- "行間"の把握:マニュアルに明記されていない、暗黙の前提や注意点に気づけます。
- ユーザー体験の共感: 顧客がどこでつまずき、何に疑問を感じるかを肌で感じられます。
- 問題解決能力の向上: エラーや予期せぬ挙動に直面し、その原因と解決策を探る経験が積めます。
また、SaaSの場合、目まぐるしい頻度で機能更新が行われることも珍しくないため、マニュアルが整備しきれていなかったり、マニュアルが古くなっているケースも散見されます。
そのような場合、実機検証をおこなうことで、マニュアルを修正すべき点や、新たにマニュアル化すべき点に気づきやすい状態とすることができます。
仕様確認・検証の優先順位と進め方
以下の5つのステップで進めることで、網羅的かつ効率的に仕様を理解できます。
【STEP 1】 ユーザー視点で「基本動作」を把握する
まずは顧客と同じ目線で、サービスのコアとなる体験を把握することが最重要です。
- 目的: サービス全体の流れと、主要機能の基本的な使い方をマスターし、簡単な質問には即答できるレベルを目指しましょう。
- 具体的なアクション:
- アカウント作成・初期設定: 顧客が最初に体験するプロセスをなぞりましょう。
- 主要なワークフローの実行: 例えばCRMなら「リード登録→商談化→受注」、プロジェクト管理ツールなら「プロジェクト作成→タスク登録→担当割り当て→進捗更新」など、サービスの根幹をなす一連の操作を試しましょう。
- データ入力・検索・フィルタリング: 日常的に使われる操作を、様々な条件で試しましょう。意図した通りにデータが表示されるか、絞り込みができるか、どういった条件で絞り込めるか等を確認します。
- 各種メニュー・画面の探索: 「このボタンは何?」「このメニューは何ができる?」という疑問を持ちながら、クリックできる箇所は一通り触ってみます。
- ポイント:
- 直感的に操作できるか
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- 基本操作については、マニュアルを都度見なくとも、操作できるようになっているかを確認しましょう。
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- 過去の問い合わせ傾向を確認する
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- 特に頻出する質問や簡単な操作に関する問い合わせ内容を確認し、その操作を重点的に検証します。
- 「問い合わせが多い=顧客がつまずきやすい or よく使う機能」の可能性が高いです。
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- 直感的に操作できるか
【STEP 2】つまずきポイントの特定
次に、顧客が「わからない」「できない」と感じやすい箇所を特定し、その原因を探ります。
- 目的: 顧客が陥りやすい問題とその原因を理解し、先回りしたサポートやFAQ改善に繋げましょう。
- 具体的なアクション:
- 問い合わせ履歴・FAQの分析: 「エラー」「不明」「できない」といったキーワードで問い合わせを検索し、具体的な問題点をリストアップしましょう。
- 問題の再現: リストアップされた問題や、FAQに記載されている「よくある間違い」を、実際に自分の環境で再現してみて、なぜその問題が起こるのか?を考えます。
- UI/UXの検証: 「このボタン配置は紛らわしいな」「このエラーメッセージだけでは原因がわからないな」など、ユーザーが誤操作や勘違いをしそうな箇所を探します。
- ポイント:
- 仮説検証
- 「もし自分がITに詳しくないユーザーだったら、どこで迷うだろうか?」という仮説を立てて検証しましょう
- 発生条件の確認
- 特定の操作手順を踏んだときにだけ発生する問題がないかを確認しておきましょう
- エラーメッセージの内容
- メッセージの内容は具体的か、解決に繋がるヒントを示せているかといった視点を持ちましょう
- 仮説検証
【STEP 3】 設定や権限による違いを確認する
SaaSサービスでは、 権限設定や料金プラン によって、利用できる機能が異なったり、挙動が変わることも多くあります。
- 目的: 顧客の状況(プラン、権限、設定)に応じて、利用可能な機能や正しい挙動を正確に案内できるようになることを目指しましょう。
- 具体的なアクション:
- 権限別の比較: 管理者アカウントと一般ユーザーアカウントなど、異なる権限を持つテストアカウントを用意し、同じ操作をした際の画面表示や利用可能機能の違いを比較・整理します。
- 設定項目の影響検証: 設定画面にある各項目(チェックボックス、ON/OFFスイッチ、選択肢など)を変更し、それがサービスのどの部分に、どのように影響するのかを一つずつ確認します。「この設定をONにすると、あのメニューが表示されるようになる」といった関連性を把握します。
- プラン別の機能差確認: 可能であれば、異なる料金プランのテスト環境を用意し、プランによる機能制限や追加機能を実際に操作して確認します。
- プランごとの機能比較表があると便利なので、ない場合はこの機会に作成すると後から役立ちます。
- ポイント:
- 権限起因かどうかの切り分け
- 顧客からの「〇〇ができない」という問い合わせに対し、「それは△△の権限がないためです」「□□の設定を有効にしてください」と即座に判断・案内できるようになっているかを目安に、仕様把握を進めましょう
- 特殊な機能、条件の把握
- 特定の条件下(例: 特定の設定が有効、かつ特定の権限を持つユーザー)でのみ発生する挙動はないかに注意して、検証を進めましょう
- 権限起因かどうかの切り分け
【STEP 4】エラーメッセージの意味や仕様の境界を知る
サービスが「どこまでできて、どこからできないのか」という仕様上の限界、制約を明確に把握します。
- 目的: 「できること」と「できないこと」を明確に切り分け、不可能な要求に対して「仕様です」と根拠を持って説明できることを目指しましょう。同時に、代替案を提示する引き出しを増やしましょう。
- 具体的なアクション:
- エラー発生条件の特定: 様々なエラーメッセージが表示される状況を意図的に作り出し、「どういう操作をすると」「どのエラーが出るのか」を記録します。
- 限界値・制約のテスト: 入力可能な文字数制限、アップロード可能なファイルサイズ上限、一度に処理できるデータ件数などを実際に試して確認します。
- サポート外操作の試行: マニュアルには載っていない、想定外の操作や組み合わせを試してみます。予期せぬ動作やエラーが発生しないか確認します。
- ポイント:
- できない理由の把握
- 「仕様上できない」場合、その根拠(例: 設計思想、パフォーマンス上の理由など)まで把握することを意識しましょう。
- 代替案の模索
- 顧客の要望が仕様上実現できない場合に、「〇〇はできませんが、△△機能と□□機能を組み合わせれば、近いことは実現できます」といった代替手段や回避策を提案できるよう、関連機能の知識を深めましょう。
- できない理由の把握
【STEP 5】開発・営業との橋渡しを意識する
カスタマーサポートは、顧客と開発、営業、マーケティングなどを繋ぐハブとしての役割もあります。実機検証を通じて得た知識を、他部署との連携に活かす視点も持ちましょう。
- 目的: サポートだけで解決できない問題をスムーズにエスカレーションしたり、顧客の声を的確にフィードバックしたりするために必要な知識や連携体制を理解しましょう。
- 具体的なアクション:
- 機能担当の把握: 実機検証で不明点が出た際に、「この機能については誰(どのチーム)に聞けば詳細がわかるか?」を把握しておきます。
- 営業デモの理解: 営業担当が顧客によく見せる機能やデモンストレーションの流れを把握しておくと、導入前後の顧客との会話がスムーズになります。
- フィードバックフローの確認: 実機検証で見つけたバグや改善要望を、開発チームにどのように伝え、それがどう扱われるのか、社内のプロセスを確認します。
- ポイント:
- 判断基準の把握
- この問い合わせはサポート範囲か? それとも開発へのエスカレーション案件か? を切り分けられるようにしましょう。
- 言語化
- 顧客からの要望を、開発チームが理解しやすいように具体的に言語化することを意識しましょう。
- 判断基準の把握
実機検証を成功させるための「心構え」
上記のステップを進める上で、以下の点を常に意識しましょう。
① 常に「ユーザーだったらどう思うか?」を考える:
マニュアル通りではない、ユーザーがやりそうな「予想外の使い方」を試してみましょう。
(例: 入力欄にわざと違う種類の情報を入れてみる、順番を飛ばして操作してみる)
専門用語を知らないユーザーでも、画面を見ただけで直感的に意味がわかるか?を考えましょう。
※複数のペルソナ(初心者、中級者、管理者など)になりきって操作してみましょう
② 発見・疑問は即座にメモ&整理・共有:
検証中に気づいた仕様、挙動、エラー、疑問点、代替案などは、スクリーンショットなども活用しながら、すぐに記録に残しましょう。
「あれ、どうやるんだっけ?」「前にも調べたはずなのに…」を防ぐため、情報を整理しましょう。
整理や共有を行う場合は、ナレッジベース(Notion, Confluence, Qast, Kibelaなどのツール)の活用も検討してみてください。
チームメンバーが必要な時に参照できるよう、構造化して記録・共有することで、チーム全体の知識レベルが底上げされ、属人化を防ぐ手段となります。
③ 仮説を持って検証する:
「このボタンを押したら、こうなるはずだ」という仮説を立ててから操作し、結果が予想通りかを確認します。予想と違った場合は、その理由を深掘りします。
④ 繰り返しと継続:
一度検証した機能も、サービスのアップデートで仕様が変わることがあります。定期的に、あるいは関連する問い合わせがあった際に、再検証する習慣をつけましょう。
⑤ 疑問点は放置せず、質問する:
自分で調べてもわからないことは、先輩や開発担当者など、詳しい人に積極的に質問しましょう。疑問を放置することが一番のボトルネックになります。
まとめ
SaaSカスタマーサポートにおける仕様のキャッチアップは、受け身の学習だけでは不十分です。
- 「ユーザー視点」で基本を体感し、
- 「トラブル視点」でつまずきポイントを特定し、
- 「設定・権限の違い」による影響を理解し、
- 「エラーと仕様の境界」を見極め、代替案を探り、
- 「開発・営業連携」を意識した知識を習得する
このステップで能動的に実機検証を進めることが、効果的かつ効率的な学習方法です。検証で得た気づきは、必ず整理・共有し、チーム全体のナレッジとして蓄積しましょう。
カスタマーサポートは、顧客とプロダクト、そして社内の各部署をつなぐ、非常に重要な役割を担っています。
深い製品理解に基づいた的確なサポートは、顧客満足度を高めるだけでなく、プロダクト改善にも繋がり、サービス全体の価値向上に貢献します。
本記事を参考に、自信を持って顧客対応ができるよう、今日から実機検証に取り組んでみてください!

この記事を書いたライター
山家瑞紗
カスタマーサポート歴7年以上。2019年にアディッシュへ入社し、約5年間SVとしてチーム運営を経験。 研修や従業員オンボーディングを得意とし、カスタマーサクセス人材のマネジメントにも携わる。教える力でチームや顧客を支えることを得意とする。