ゼロから作るカスタマーサクセス体制:定例MTGもマニュアルもなかった現場で私が取り組んだこと

ダル トリシャ
2025.06.19

カスタマーサクセス(以下、CS)を機能させるためには、業務の標準化と仕組みづくりが欠かせません。しかし、CSの体制が整っていない環境では、業務フローが存在せず、マニュアルも定例ミーティングもないといった状況が見受けられます。
私が携わったのは、まさにそのような“ゼロの状態”からCS体制を構築するプロジェクトでした。対応は属人化し、顧客との接点は限られ、情報も担当者ごとに分散。改善すべき課題がいくつも並んでいた状況の中で、どこから手を付け、どう仕組み化していったのか。
本記事では、具体的な取り組みと成果を振り返りつつ、再現性のあるノウハウとして紹介いたします。
業務フローがないことによる対応品質のばらつき
CS体制整備において最初に着手したのは、業務フローの明確化でした。従来は、担当者ごとに対応方法が異なり、品質のばらつきがある状況でした。
CSの業務全体を整理し、「誰が・いつ・どのように対応するか」を可視化することを目的に、以下の施策を実施しました。
- 業務フローの可視化
CS業務を一覧化し、対応ステップごとの責任範囲を明確に定義。属人化されていた対応プロセスを言語化・標準化することで、誰が見ても業務全体の流れが把握できる状態に。これにより、初めてCS業務に関わるメンバーでもスムーズに対応ができるようになりました。 - マニュアル作成・更新
顧客対応に用いるツール操作や仕様について、画面のスクリーンショットを活用しながら分かりやすく手順化。属人化されがちだった設定方法や機能説明についても、マニュアルを参照すれば誰でも同じ水準で対応できる状態を実現し、対応品質の標準化を図りました。 - メールテンプレートの整備
問い合わせ対応をテンプレート化し、対応スピードと品質の均一化を実現。加えて、業界特有の文化(丁寧な言葉遣いや柔らかい表現、細やかなやり取りなど)に配慮したテンプレート内容とし、顧客にとって違和感のないコミュニケーションを実現しました。
こうした仕組みの整備により、CSとしてのベースラインを引き上げ、担当者間の差異を最小化する土台を構築できました。
顧客とつながり続けるための仕組み作り
高単価のプロダクトであるにもかかわらず、顧客の約8割に対して定期的なフォローができておらず、サービスの価値が十分に伝わっていないという課題がありました。
実際、「使い方が分からない」「どう活用すればいいのかイメージできない」といった声も多くいただいていました。
高単価であればあるほど、導入前後のサポートが求められるのは当然です。導入時のハードルが高い分、使いこなすまでの伴走も必要になります。だからこそ、「必要なときに届かない」状態は、大きな機会損失につながると考えます。
そこで、この課題を解決すべく、以下のような施策を実施しました。
- 全顧客へのレポート提供
従来は希望者のみに提供していた月次レポートを、すべての顧客に展開。プロダクトの利用状況を定量的に可視化することで、「ちゃんと使えているか」「活用できているか」を顧客自身が把握しやすくなり、CS側もフォローの優先度を判断しやすくなりました。 - 月次定例ミーティングの導入
月次レポートをきっかけに、月に一度の定例ミーティングを設置。一方通行の報告にとどまらず、活用状況のヒアリングや課題感のすり合わせを行うことで、顧客との対話を通じて解像度の高い支援が可能になりました。
この結果、定期的にコミュニケーションを取る顧客の割合は、従来の約20%から70%まで拡大。顧客との定期的な接点を増やし、サービスの価値を最大化する仕組みを作ることが可能になりました。
情報の属人化による非効率な社内連携
CS業務では、過去の対応履歴や顧客からのご要望といった情報を、担当者個人の手元で管理しているケースが少なくありません。その結果、担当変更時の引き継ぎミスや、社内エスカレーションの頻発といった問題が発生しやすくなります。
そこで以下のような情報管理の標準化を実施しました。
- 顧客管理シートの作成
従来は個々の対応履歴や顧客要望が担当者の中にとどまり、引き継ぎ時に情報が正確に共有されないことが多かったです。対応履歴、現在の対応方針、顧客のステータスなどを一元管理できるシートを構築することで、誰が見ても「今、何が起きているか」がわかる状態を実現しました。 - ヒアリングシートの統一
初回の導入時にヒアリングすべき項目をテンプレート化。導入背景、成功の定義、運用体制など、顧客ごとに異なる重要情報を網羅的に取得し、抜け漏れのない支援を可能に。これにより、チャーン兆候の早期発見や、利用フェーズに応じた提案の基盤を構築しました。
顧客情報を組織全体で共有することで、対応のスピードが向上し、先回りして顧客へ改善のご提案をすることが可能になります。能動的なCSを実現するためには、いかに情報を全体に共有できるか、一元管理できるかどうかが重要であると考えます。
結果と得られた学び
これまでの取り組みにより、以下のような成果と学びが得られました。
- 顧客接点の拡大
月次レポート提供と定例ミーティングの導入により、定期的に接点を持つ顧客の割合が20%から70%へと大きく向上。「気づいたときには活用されていなかった」という状況を防ぎ、利用促進・課題把握のタイミングを早期化。結果として、アップセルや継続利用へのつながりも生まれやすくなりました。 - 業務効率の改善
対応フローや情報管理の標準化により、個人に依存していた業務がチーム全体で回る仕組みになり、社内エスカレーションや引き継ぎ時のミスも減少し、顧客対応のスピードが向上しました。 - 業界特性に合わせた対応の最適化
業界文化に即した丁寧な表現ややり取りの仕方をテンプレートに反映することで、より自然で信頼感のある対応が可能に。CSの在り方を「スピードと正確さ」だけでなく、「伝え方」からも見直すきっかけとなりました。
CSの現場は、業種やサービス特性によって求められるものが大きく異なります。しかし、どの現場においても共通して重要なのは「仕組みで品質を支えること」だと実感しました。
今後の展望
現体制を踏まえ、次のステップとして以下を検討しています。
- データに基づいた提案型CSの強化
蓄積された利用データを分析し、顧客ごとの最適な提案を可能にする - ナレッジのさらなる体系化
属人性を限りなく減らし、誰が対応しても一定の品質が保たれるようなCS基盤の強化 - CSチーム内でのナレッジ共有の習慣化
定期的なCS内ミーティングを通じて、ノウハウをチームで共有・更新する文化の定着
おわりに
ゼロからCS体制を築く取り組みは、決して簡単ではないと思います。しかし、業務フローの整備や顧客接点の設計、情報の標準化といった「基本」を丁寧に積み重ねていくことで、ようやく「届けたい価値」が伝わるようになると実感しました。
今回の取り組みを通じて、仕組みの力でCSの質を支える大切さを改めて学びました。
今後もよりよいCS体制を目指して、一歩ずつアップデートを重ねていきたいと思います。

この記事を書いたライター
ダル トリシャ
不動産・リノベーション事業を展開するベンチャー企業にて、toB・toC向けの研修・イベント企画運営、広報業務としてプレスリリース作成やSNS運用などを担当。これまでの幅広い経験と強みであるコミュニケーション力を活かし、「誰かのために自分のスキルを磨きたい」という想いからカスタマーサクセスに挑戦中。現在は、顧客の目標達成に向けて、先回りした提案と丁寧な支援を心がけている。