エクスパンションとは?カスタマーサクセス担当者が押さえておきたい基礎と実践!
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武田龍哉
2025.08.28

「新規開拓に時間とコストをかけていて非効率だ」「既存顧客がサービスを継続利用してくれないため、売上につながらない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。
近年、新規顧客の獲得コストが高騰し、従来の営業手法では成長が鈍化してしまいます。このような背景から、注目を集めているのが「エクスパンション」です。そこで、今回はカスタマーサクセス担当者が知っておきたいエクスパンションについて詳しく解説します。
エクスパンションとは
エクスパンション(expansion) とは、既存顧客のサービス利用範囲を拡げて、売上を伸ばす営業戦略です。新規顧客の獲得が年々難しくなっている今、企業が持続的に成長するためには、既存顧客との関係を深めて、アプローチする重要性が増してきています。
後ほど詳しくご紹介しますが、代表的な施策には次のようなものがあります。
- アップセル:既存顧客に上位プラン、追加機能を提案して単価を引き上げる
- クロスセル:関連商品を提案して、サービス利用範囲を拡げる
- ダウンセル:解約を検討中の顧客に対して、代替案を提案する
エクスパンションのメリット
エクスパンションにはメリットが3つあります。
既存顧客との信頼関係を活かせる
エクスパンション戦略のメリットは既存顧客との信頼関係を活かせることです。すでに商品やサービスを利用して価値を実感している顧客は、追加の提案に対しても耳を傾けやすくなります。
企業や担当者に対して「この人は自社の成功を考えて提案してくれている」という前向きな印象を持っているため、提案内容をスムーズに受け入れてもらえる傾向にあります。
これは新規顧客との大きな違いです。新規顧客の場合、まず信頼を築くところから始まり、競合製品との比較検討も発生するため、契約までに時間がかかります。
一方、既存顧客であれば、上位プランや関連サービスの提案を比較的短期間でクロージングできるのが特徴です。
顧客生涯価値(LTV)を最大化できる
エクスパンションは、顧客生涯価値(LTV)を最大化することを目的としています。
顧客生涯価値(LTV)とは、顧客が取引期間中にもたらしてくれる総収益のことです。新規顧客の獲得コストが上昇している今、既存顧客との関係性を深めてLTVを伸ばすことは、企業の成長にとって不可欠です。そのため、既存顧客と中長期で付き合える信頼関係を築き、顧客生涯価値の最大化を目指すための施策を打つ企業が増えてきました。
関連記事:『LTVとは?意味や計算式、向上させるための施策まで徹底解説!』
安定した経営基盤を構築できる
エクスパンション戦略を通じて既存顧客との継続的な取引を実現できれば、企業はより強固で安定した経営基盤を築くことができます。その理由は、既存顧客はすでに商品やサービスの価値を理解し、企業や担当者に信頼を寄せているため、サービスの継続利用率が高く、売上の予測がしやすくなるからです。
見込みが立てやすい収益構造は、財務の安定化だけでなく、中長期の投資判断や事業計画の立案にも好影響を与えます。
たとえば、売上が安定していれば、新規プロダクトの開発やマーケティング予算の拡大、人材採用への投資など、企業の未来をつくる意思決定にスピードと柔軟性を持たせることができます。さらに、既存顧客からの継続収益が増えることで、新規顧客獲得に依存しすぎない体質へと変わり、経営リスクの分散にもつながります。
エクスパンションのデメリット
エクスパンションのデメリットも3つあります。
過剰な提案で離脱を招くことがある
既存顧客に過剰な接触や提案をすると、不信感を与えてしまい、商品やサービスを解約されてしまう恐れがあります。エクスパンションは顧客生涯価値(LTV)を高める有効な手段でありますが、提案内容やタイミングを間違えてしまうと逆効果になるため注意してください。
顧客が求めているものを理解せずに、一方的に商品やサービスを押し付けてしまうと「売り込みが強引だ」「本当に必要なものを提案してくれているのか不安だ」と感じさせてしまい信頼関係が壊してしまいかねません。そのため、顧客を理解した上で、どのような提案をどのタイミングで行うべきか考えて実行するようにしましょう。
既存顧客に継続的に関与しなければならない
エクスパンションを実現するためには、既存顧客に継続的に関わっていくための体制が不可欠です。
たとえば、顧客のサービス利用状況を把握したり、日々のコミュニケーションを通じてニーズの変化を捉えたりするには、常に顧客に目を向け、適切なタイミングで価値ある提案を行う必要があります。
こうした積み重ねで信頼関係を深めていくことでアップセルやクロスセルの成功率を高めていくのです。そのため、カスタマーサクセス部門の設置や、顧客対応フローの整備などにリソースが必要なことを理解しておきましょう。
商品やサービスを拡張する必要がある
エクスパンションを成立させるには、顧客に商品、サービスに価値を感じてもらう必要があります。例えば、顧客から商品やサービスに対する意見を伺った際には、それを反映させていくことが大切です。
商品やサービスを改善せずに、単一のもの、固定的なものにしてしまうと、顧客への追加の提案が難しくなりエクスパンションの余地が限られてしまいます。そのため、顧客ニーズの変化に合わせて商品やサービスを改善できる状態にしておきましょう。
エクスパンションの施策例
エクスパンションの施策には「アップセル」「クロスセル」「ダウンセル」があります。
アップセル
アップセル(Upsell)とは、顧客が現在利用しているプランよりも上位のプランや追加機能を提案することで、顧客単価を引き上げる施策です。
単に売上を伸ばすための手法ではなく、顧客がより高い成果や利便性を得られるよう支援することが大前提です。
たとえば、「今より便利になる」「業務効率が大きく向上する」「セキュリティが強化される」など、顧客にとって明確なベネフィットを提示できるかで成功率は変わります。
またアップセルはタイミングも重要です。顧客がサービスの価値を十分に実感しており、「もっと活用したい」「改善したい課題がある」と感じているタイミングで提案することで受け入れてもらいやすくなります。
関連記事:『アップセルを成功させる方法とは?注意点や役立つツールを紹介』
クロスセル
クロスセルとは既存顧客に対して、関連する商品を提案して売上を伸ばす施策です。顧客単価を引き上げる手段として有効でLTVの向上にも直結します。
クロスセルは関連商品を単純に売るのではなく、顧客の課題解決や成功体験をさらに後押しするための提案であるべきです。
たとえば、あるツールを導入して業務効率が上がった顧客に対して、補助的なツールを提案することで、「この会社は本当に自社の業務改善を考えてくれている」と信頼を得ることができます。
重要なのは、顧客の現在のニーズだけでなく、次に起こり得る課題を先読みして提案する姿勢です。顧客に未来をイメージしてもらい「このサービスがあると、もっと便利になる」と感じてもらえれば、クロスセルの提案が通りやすくなります。
関連記事:『クロスセルとは?メリット・デメリット、手順やポイントまで解説』
ダウンセル
ダウンセルとは、顧客が解約を検討しているタイミングで、現在よりも価格を抑えた下位プランや代替プランを提案することで、離脱を防ぐための施策です。
アップセルやクロスセルのように収益の拡大を直接目指すものではなく、顧客との関係を維持し、LTV(顧客生涯価値)の低下を最小限に抑えることが目的です。
たとえば、「現在の上位プランはコストが高すぎる」と感じている顧客に対して、必要最低限の機能だけを利用できるエントリープランやライトプランを提示すれば、完全な解約を避け、一定の収益を維持できるようになります。
エクスパンションを成功させるコツ
エクスパンションを成功させるコツは5つあります。
顧客の利用状況をモニタリングする
顧客に最適な提案をするためには、利用状況をモニタリングして「顧客がどの機能を使用しているのか?」「どのようなタイミングで利用しているのか」を把握することが大切です。
商品やサービスの利用状況をモニタリングすることで、顧客の関心、抱えている課題を仮説立てできるようになります。
例えば、SaaSサービスでチャット機能の利用頻度が増えている場合は、社内コミュニケーション量が増えていると考えられます。
このような場合、グループ管理機能やログ管理機能を提案すると、より便利だと感じてもらえるでしょう。このように利用状況をモニタリングして、適切なタイミングでアプローチすることで受け入れてもらいやすくなります。
カスタマーサクセス体制を強化する
エクスパンションを成功に導くためには、単に上位プランや関連商品を売り込む姿勢ではなく、「顧客の成功」を第一に考える姿勢が不可欠です。
顧客は、製品やサービスを購入した時点ではなく、導入後にどれだけ効果を実感できたかによって企業の価値を判断します。つまり、提供側としては「契約してもらうこと」ではなく、「成果が出るまで継続的に支援することが求められます。そのためには、カスタマーサクセスという考え方が欠かせません。
カスタマーサクセスとは、顧客が自社の製品・サービスを通じて目的を達成できるように、能動的かつ継続的に支援する役割です。
顧客の利用状況をもとに、適切なタイミングで声かけやフォローを行うことにより、「この会社は自社の成功を真剣に考えてくれている」という信頼感が醸成され、自然とアップセル・クロスセルの提案にも耳を傾けてもらえるようになります。
関連記事:『カスタマーサクセスとは?仕事内容や成功事例や導入メリットをわかりやすく解説!』
顧客セグメント別にアプローチを最適化する
全ての顧客に同じ提案しても響きません。その理由は「業種」「企業規模」「導入目的」「利用フェーズ」により、顧客ニーズは変わるためです。
例えば、サービス利用開始直後の顧客に対しては、上手く使いこなせるようになるまでサポートが欠かせません。
一方で、一定期間サービスを継続利用している顧客に対しては、より良くなる提案が必要不可欠です。このように利用フェーズに応じて、アプローチを切り替える必要があります。つまり、顧客をセグメントで細分化して、適切な提案をすることで受け入れてもらいやすくなります。
顧客への価値提案を大切にする
エクスパンションを成功させるためには、顧客に対する価値を第一に考えることが大切です。上位プランや関連商品を売り込み企業の売上を伸ばすことではなく、顧客が得られる価値を第一に考えましょう。
たとえば、「この機能を使えばレポート作成が自動化でき、月10時間の作業を削減できます」といった形で、顧客の課題や目標に直結するベネフィットを示すことが効果的です。
ただ単に「上位プランにすると便利です」と言うのではなく、「◯◯の業務をもっとラクにできます」と伝えることで、納得感と関心が生まれ、提案が通りやすくなります。
まとめ
エクスパンションは、アップセル・クロスセルのテクニックではなく、顧客との信頼関係を軸にした中長期的な成長戦略です。
顧客のニーズに合わせた提案を行うことで、顧客生涯価値(LTV)を最大化し、安定した経営基盤を構築できます。
売上が安定すれば投資計画も立てやすくなります。一方で、顧客に寄り添う姿勢が不可欠です。顧客と継続的に関わるためのリソースや工数が必要になります。
新規顧客が獲得しにくくなってきたと感じ始めたときこそ、エクスパンションを取り入れるタイミングです。さまざまな企業が取り組み始めているため、これを機会にエクスパンションを取り入れてみてください。
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この記事を書いたライター
武田龍哉
Web制作会社、広告代理店を経験後、アディッシュに入社。 マーケティング担当としてリード獲得やナーチャリングの施策立案、実行を担当した後、インサイドセールスチームへ参画。 インサイドセールスチームでは、主にカスタマーサクセスの関連商材を担当し、商談機会創出とチーム体制構築に携わる。