「顧客起点」の本当の意味とは?元コーチが語る、要望の”奥”にある成功を導く技術
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尾崎未弥
2025.11.27
あなたの仕事は「プロダクト起点」?それとも「顧客起点」?
カスタマーサクセスのお仕事は、毎日お客様の「要望」を聞いて、それに応えていく場面が多いですよね。
しかし、それは本当に「顧客起点」になっているでしょうか?
気づかないうちに「どうすれば自社プロダクトを使ってもらえるか」に意識が寄ってしまっていませんか?それは「プロダクト起点」の罠です。
本当の「顧客起点」とは、ただ要望に応えることではなく、
お客様がその要望の裏で本当に叶えたい未来を起点に考え、その実現から逆算して支援を設計することです。
カスタマーサクセスに出会う前から実践していたこと
実は、私は「カスタマーサクセス」という言葉を知る前、フィットネスクラブのコーチ時代から自然とこの考え方を実践していました。
そして、SaaS業界に転職して初めて、「あの経験は、まさに顧客起点だったな」と気づきました。
この記事では、コーチ時代に実際にあったエピソードを通じて、「顧客起点」の考え方を3つのステップでご紹介していきます。
実例:「顧客起点」でお客様の成功を導く3つのステップ
ステップ1:「顧客起点」で聞く — 要望の奥にある「本当の目的(インパクト)」を見つける
価値提供のスタートは、お客様が「どうしてそれを望んでいるのか」を理解することです。
例えば、私がコーチ時代に出会った70代の女性。
最初は「膝の痛みを治したい」とだけおっしゃっていました。
プロダクト起点なら、すぐに「太ももの筋トレメニューを提案しますね」になりがちです。(※膝痛には太ももの筋肉強化が効果的です)
でも私は「どうして膝を治したいのですか?」と一歩踏み込んでお聞きしました。
そこで語られたのはこんなお話です。
「家族旅行中に膝の痛みでバスを降りられず、一人で待っていたのですが、夫が付き添ってくれて、かえって申し訳なかった」この経験の中に、真の願いが隠れていました。
さらに「どうなったら嬉しいですか?」と尋ねると、少し考え込んでからこう答えてくださったのです。
「次の旅行では、家族に気兼ねなく、一緒に思い出を作れるようになりたい」
これがまさにインパクトです。
数字では測れない、理想の未来の姿を指します
ステップ2:「顧客起点」で分解 — 理想を「成果(アウトカム)」と「行動(アウトプット)」に落とす
「家族と旅行を楽しむ」だけでは目標達成の状態の意味合いが大きすぎます。
そこで私は、まず「痛みなく10分歩けるようになること」を具体的な成果(アウトカム)として定めました。
そして、次に必要なのは「そのために今日からやれること」です。
ここで「レッグカールは10回目標で動かす」といった具体的な行動(アウトプット)を提示しました。(※レッグカールは太ももの筋肉を鍛えるマシンです)
こうしてゴールを細かく分解することで、お客様は「自分が何をすればいいか」が明確に見えてきます。
ステップ3:「顧客起点」で伴走 — 日常に寄り添ったサクセスプランを二人で作る
最後に大切なのは、これらを「サクセスプラン」としてまとめ、お客様と一緒に進めることです。
私は「週に何回なら来店できそうですか?」と生活リズムを聞きながら、お客様自身が“自分ごと”として納得できる計画を立てました。
しかし、サクセスプランをただのToDoリストにすると長続きしません。
これは「理想の自分になるためのワクワクプランだ」と感じてもらえるような声掛けが必要です。
トレーニング中は「この動きを続ければ、次の旅行でたくさん歩けますよ!」と、行動が理想に繋がっていることを伝え続けていました。
まとめ「顧客起点」はSaaSのあらゆるフェーズで活きる
まとめると、顧客起点は次の3ステップで構成されます。
ステップ1:お客様の背景からインパクトを理解する
ステップ2:インパクトをアウトカムとアウトプットに落とす
ステップ3:サクセスプランに落とし込み、伴走する
この考え方があるかないかで、顧客に届ける価値の深さはまったく違ってきます。
SaaSにも同じ法則が当てはまります。
例えば人事評価システムの導入で、「評価で使用する紙を電子化し効率を上げたい」という要望があったとします。ニーズに単に応えるだけなら、機能提案で終わってしまいます。
しかし「なぜ効率化したいのか?」と一歩踏み込むと、その先には「評価業務の時間を減らし、マネージャーが部下との面談により多くの時間を割けるようにしたい」といった背景が見えてくるかもしれません。
そしてさらに話を深めることで、「人材定着率を改善したい」という、より本質的なインパクトが浮かび上がるのです。
こうして顧客の真のゴールを共有できて初めて、私たちは“戦略的パートナー”として伴走できる立場に立てます。
オンボーディング、アダプション、解約防止、アップセルなど、SaaSのさまざまな顧客フェーズで、この考え方は応用できます。
これから、ぜひこんな質問を加えてみてください。
「もしこのサービスが完璧に機能したら、あなたのビジネス(あるいは部署)は最終的にどうなっていたいですか?」
この問いかけが、あなたの関わり方を「プロダクト起点」から「顧客起点」へと変える第一歩になると思います。
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この記事を書いたライター
尾崎未弥
約10年間、フィットネス業界で店舗運営からマネジメントまで幅広い経験を積む。その後、組織マネジメントを専門とするコンサルティング会社でカスタマーサクセスを担当し、この分野の奥深さを知る。現在はアディッシュでカスタマーサクセスを務め、日々学びながら業務に取り組む。未経験の分野にも挑戦を恐れず、一歩ずつ成長する姿勢を大切にする。
