「導入して終わり」にしない──DXの定着を支えるカスタマーサクセスの役割

安田光希
2026.02.03
物流業界や小売業など、サプライチェーンにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功は、単にツールの性能だけでは決まりません。
現場の課題は複雑かつ多岐にわたり、その課題を解決するためにDXを導入しても、多額の費用を払うだけで「使いこなせず不満が残る」「期待した成果が出ない」といったケースも少なくありません。
そこで、DXの成功のため必要とされているのがカスタマーサクセスの存在です。カスタマーサクセスは単なる導入サポートではなく、現場に寄り添い、経営層との橋渡し役を担う「変革の伴走者」として機能します。
本記事では、物流業界のSaaS企業に常駐して得た知見を基に、「なぜ今カスタマーサクセスが求められているのか」を整理し、「DXを成功に導くためにカスタマーサクセスが果たすべき役割」について詳しく解説します。
なぜ今、カスタマーサクセスが必要なのか
物流業界をはじめとするサプライチェーン業界は、今まさに大きな変革の渦中にあります。
深刻化する人手不足や、根強く残る紙や電話・FAXといったアナログ業務、「効率化を求める現場」と「投資対効果を重視する経営層」の意識のずれなど様々な問題がありますが、これらは日々の業務に直結する大きな課題です。
近年はDXの重要性が高まり、多くの企業でさまざまなツールや仕組みが導入されています。しかし実際には「導入したものの現場に浸透しない」「一部の担当者しか使いこなせない」といった壁に直面する企業が少なくありません。
そこで重要となるのがカスタマーサクセスです。カスタマーサクセスは単なる「導入サポート」ではなく、ツールや仕組みを「現場に根付かせ、成果につなげる伴走者」として機能します。
業界共通の課題とDXの必要性
サプライチェーン全体で以下のような課題が共通しています。
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- 人手不足と業務の複雑化
荷量の増加や人材不足により、現場は常にリソースが不足している。
そのため、属人化した業務が残りやすく、効率化が進みにくい。 - アナログ文化の根強さ
発注や確認に紙・FAX・電話が未だ多く使われ、データ化や自動化が進みにくい。 - 現場と経営層のギャップ
現場と経営層では、DX化の目的が異なる場合が多く、課題解決したい優先度が異なるため、DXの推進がしづらい。- 現場スタッフ
- 手間を減らしたい
- 今のシステムが変わることへの抵抗感
- 経営層
- コストの最適化
- データ活用
- 現場スタッフ
- 地理・環境の制約
倉庫や拠点が地方に点在し、訪問や研修が難しく、デジタル環境も整備不足のケースが多い。
- 人手不足と業務の複雑化
これらの課題を解消しなければ、サプライチェーン全体の効率化は進みません。
DXは単なる効率化ではなく、サプライチェーン全体が持続可能な成長を遂げるために不可欠な基盤と言えます。
カスタマーサクセスの4つの役割とは
この難しいDX推進において、カスタマーサクセスは具体的にどのような役割を担うのでしょうか。ここでは、特に物流・サプライチェーン領域で重要となる4つの視点を紹介します。
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- 「導入をゴール」にせず、定着まで伴走する存在
物流DXでは、システムを導入しただけで業務が劇的に変わることはありません。
現場に合わせて調整し、習慣として根付いてこそ、効果が生まれます。カスタマーサクセスは現場が使い続けられるよう、細やかに伴走します。 - 現場と経営層をつなぐ「価値翻訳者」
現場は「今すぐ業務が楽になるか」を重視し、経営層は「投資対効果」を見ています。この両者の期待を調整し、共通のゴールに導いていくのがカスタマーサクセスです。現場には「手間が省ける安心感」を、経営層には「効率化による経営改善」を伝えることで、双方が納得できる変革を進めます。 - 個社・現場ごとの事情に合わせる柔軟性
「物流」と一口に言っても、倉庫業務なのか輸配送なのか、地域はどこなのか、またどの程度の規模なのかなど、環境によって課題は異なります。カスタマーサクセスは「業界一般のベストプラクティス」といった一方的な正解を押しつけるのではなく、顧客の事業内容や現場の実情に合わせた最適解を一緒に考える存在になる必要があります。 - 信頼関係を築く長期的パートナー
DXは一度導入すれば完成するものではなく、改善と定着を繰り返す長期戦です。だからこそ「この人に相談すれば安心だ」と思える関係構築が不可欠であり、それを担っていくのがカスタマーサクセスです。
- 「導入をゴール」にせず、定着まで伴走する存在
つまり、カスタマーサクセスは単なる支援担当者ではなく、「物流DXを現場に定着させ、成果を生み出すための橋渡し役」であり、変革のキーパーソンなのです。
カスタマーサクセスとしてできること
では、実際にカスタマーサクセスはどのように企業を支援できるのでしょうか。物流業界を例にとって具体的に見てみましょう。
現場に寄り添ったオンボーディング
新しいシステムは現場にとって「負担」と映ることもあります。そのためカスタマーサクセスは、操作説明にとどまらず、「現場でどの業務が楽になるか」を一緒に確認し、効果を実感できる導入プロセスを設計します。
【事例】
担当者だけでなく実際に現場へ足を運び、日々の業務の流れや作業環境を自ら見て、現場スタッフから直接話を聞くことで、リアルな課題や困りごとを把握しています。
さらに、こうした現場視点でのヒアリングを通じて、どの工程がボトルネックになっているのかを明確にし、改善につながる導入プロセスの設計に活かしています。
ステークホルダーごとの価値訴求
ステークホルダーごとに訴求ポイントを整理し伝え方を変えます。
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- 現場スタッフ向け:直接的なメリットを掲示します。
- 「入力作業の手間が半分になる」
- 「確認の電話が不要になる」など
- 管理者・経営層向け:経営課題の解決を示します。
- 「データで輸送効率を見える化できる」
- 「コスト削減につながる」など
- 現場スタッフ向け:直接的なメリットを掲示します。
【事例】
デモ環境を活用し、実際にシステムを操作しながら「どのように見えるのか」「どの課題をどのように解決できるのか」を具体的に実演しています。
これにより、現場スタッフには作業負担の軽減を、管理者や経営層には業務効率やコスト面での効果を、視覚的かつ実感を伴って伝えることができています。
訪問とオンラインを組み合わせた支援
信用を得るには、倉庫や拠点への訪問サポートは有効な手段ですが、物理的制約もあります。そのためオンラインも活用し、細やかなフォローやトレーニングを実施します。
【事例】
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- 導入初期の集中訪問
まずは現地へ伺い、現場の空気感や物理的制約(倉庫レイアウト等)を把握した上で、スタッフや管理者へ対面トレーニングを行います。 - 定着フェーズでのオンライン活用
基礎ができた後はオンラインへ移行。距離やスケジュールの制約にとらわれず、現場スタッフが必要な時にすぐに相談できる環境を提供します。 - 状況に応じた柔軟な対応
トラブル時や重要局面では再訪問するなど、オンライン一辺倒にならず、状況に応じた最適な手段を選択します。
- 導入初期の集中訪問
定着支援と属人化の解消
一部の人しか使えない状態を防ぐために、「誰でも使える仕組みづくり」が欠かせません。そのため、マニュアルや動画教材を整備し、FAQやお問い合わせ対応を組み合わせて属人化を解消していきます。
【事例】
基本的な操作方法を網羅した「ユーザガイド」の提供に加え、専用の「サポートセンター」を設置しています。サポートセンターに寄せられたお問い合わせ内容は、単に回答するだけでなく、分析・蓄積して「よくある質問(FAQ)」や「ユーザガイド」に反映させています。
これにより、誰もが安心してシステムを利用できる体制を整えています。
改善サイクルの伴走
「導入して終わり」ではなく、運用状況をモニタリングし、課題があれば改善提案を行います。これにより「ツールは導入したが成果が出ない」という状態を防ぎます。
【事例】
-
- 必要に応じた訪問やオンラインでの打ち合わせを実施
定期的に担当者が連絡を取り、利用状況の確認や課題のヒアリングを行いながら、必要に応じた打ち合わせを実施しています。
これにより、課題の早期発見と迅速な改善提案を可能にしています。 - 自社主催カンファレンスやユーザー会の開催
顧客同士が交流できる場を定期的に設けています。
似た業態や運営方法の企業をマッチングし、成功事例や工夫を共有することで、顧客が自ら活用を深められる仕組みづくりを支援しています。
- 必要に応じた訪問やオンラインでの打ち合わせを実施
こうした取り組みを通じて、カスタマーサクセスは「顧客が自ら成果を生み出せる状態」を目指し、継続的に支援を続けます。特にサプライチェーンのように多くの人が関わる業務では、この伴走が成否を大きく分けるのです。
まとめ
サプライチェーン業界が抱える人手不足やアナログ慣習、現場と経営層の温度差は、もはや一部の企業だけの課題ではなく、日本全体が直面している根深い課題です。
これらの課題を解決するためにDXは不可欠ですが、その成否を分けるのは、導入するツールの性能ではなく、いかに「現場の業務を変革」し、「組織全体に定着」させられるかにかかっています。どれほど優れたツールでも、現場が使わなければ、DXは失敗に終わってしまいます。
この定着と変革を変えるのがカスタマーサクセスの存在です。
カスタマーサクセスは、その課題を解消する単なる「ツールの提供者」ではなく、現場と経営層の「橋渡し役」として機能し、顧客と一緒に成功を描き、DXの実現へと導く伴走者です。DXの定着を支え、変革を推し進める鍵となる存在です。
DXは一度導入すれば完結するものではなく、継続的な改善が不可欠な長いプロセスです。だからこそ今求められているのは「導入して終わり」ではなく、「顧客と共に成長を続ける」アプローチです。カスタマーサクセスはその姿勢を体現し、業界の未来を支えていく存在なのです。

この記事を書いたライター
安田光希
接客業(toC)にて店長としてスタッフのマネジメント・複数店舗の運営管理などを経験。より相手のために人のために自分ができる事をしたいと思いカスタマーサクセスとしてアディッシュに入社。
