できなかった私だからこそ伝えられること―CSとして新人と向き合う日々

島田 映美
2026.01.08
はじめに
カスタマーサクセス(以下CS)部門で新人メンバーの育成やサポートを担当していると、ふとした瞬間に前職での苦い経験が、今の自分の血肉となっていることに気づかされます。顧客と直接向き合うCSという役割は、時に新人を孤独にし、「一人で抱え込む」という状況を生み出しやすい特性を持っています。
「お客様のために、早く一人前にならなければ」
「こんな初歩的なことを質問して、チームの迷惑になりたくない」
そんな真面目さと責任感が、かえって彼らを追い詰めてしまうのです。
私自身も過去に、まさにそのような状況で大きな失敗を経験しました。誰にも頼れず、すべてを一人で抱え込み、結果として多くの人に迷惑をかけてしまったあの日の苦しみ。──あの経験と、そこから得た学びがあったからこそ、今の私には新人たちに伝えられることがあると信じています。
この記事では、私の失敗談を通して、CSとして、そしてチームの一員として大切にしたい考えをお伝えしたいと思います。
経験談:抱え込んで失敗した、あの日の私
社会人になって数年が経った頃、私はあるプロジェクトのリーダーを任されました。
経験も知識も十分とはいえない中での大抜擢に、期待に応えたい一心で、「リーダーなのだから、すべて自分でやらなければならない」と思い込んでしまったのが、すべての始まりでした。
日々のタスク管理から、クライアントとの折衝、チームメンバーへの指示出しまで、あらゆる業務を一人で抱え込んでいました。
しかし、すぐに限界が訪れます。わからないことがあっても、リーダーとしてのプライドが邪魔をして「こんなことも知らないのか」と思われるのが怖く、誰にも相談できませんでした。
結果は火を見るより明らかでした。私は目の前のタスクをこなすのに精一杯となり、プロジェクトの進行は大幅に遅延しました。
連日の残業でカバーしようとし、時には夜中の2:00まで作業したこともあります。当時はコロナ渦でリモートワークだったこともあり、そうした無理な働き方が(皮肉にも)可能だったのです。
クライアントがグループ企業だったこともあり、直接的な𠮟責こそありませんでしたが、今振り返れば本当にギリギリの状況でした。そして、チームメンバーは疲弊し、チーム全体の雰囲気は最悪の状態に陥りました。これは、私が一人でタスクを抱え込んだせいで、結果的にメンバーに大きな迷惑をかけてしまったことが原因です。
「全部自分でやらなきゃ」。その強迫観念にも似た思い込みが、自分自身を縛り付け、視野を狭め、そして何より、顧客とチームに多大な迷惑をかける結果を招きました。
ただただ、苦しい毎日だったことを今でも鮮明に覚えています。
学び:チームで成果を出すという視点
この失敗から私が得た最も大きな教訓は、「人に頼ることの大切さ」です。
リーダーだからといって、すべてを完璧にこなす必要はありません。 むしろ、自分の弱さや不得意なことを開示し、チームメンバーを頼り、互いの得意分野(強み)を活かすことこそが、リーダーとして最も重要な役割でした。
「この部分はAさんの方が得意だからお願いしよう」
「この件は知見のあるBさんに相談してみよう」
そうやって、お互いの強みを活かし、弱みを補い合うことで、初めてチームは機能します。一人ひとりの力は小さくても、対話と共有を通じてそれらを束ねることで、一人では決して到達できない大きな成果を生み出すことができる。
この苦い経験を通して、私は「チームで働くこと」の本質を学びました。
CSだからこそ感じる、新人の「抱え込み」リスク
現在のCS業務に携わる中で、私はかつての自分と同じように「抱え込み」に苦しむ新人たちを何度も見てきました。 特にCSは、その業務の特性上、悩みを一人で抱えやすい環境にあります。
なぜなら、顧客対応は「わからない」をそのままにしておくことが許されないからです。
お客様からのお問い合わせに対し、「わかりません」で終わらせることはできず、必ず解決策を見つけ、ご案内する必要があります。そのため、新人は「自分の知識不足が、お客様に直接的な不利益を与えてしまう」という強いプレッシャーに常に晒されています。
「こんな質問をして、先輩の時間を奪うのは申し訳ない」
「自分で調べればわかることかもしれない」
そうやって相談をためらっている間にも、お客様をお待たせしている時間は過ぎていきます。結果として、顧客体験は損なわれ、問題が大きくなってから報告されることで、かえってチーム全体で対応するコストが増大してしまうのです。
「迷惑をかけたくない」という健気な思いが、結果的に顧客にも、チームにも、そして何より新人本人にも大きな負担を生んでしまうという──。
CSの現場では、そんな負のスパイラルに陥りやすいのです。
今、新人対応で大切にしていること
過去の自分と、今目の前にいる新人たちの姿が重なるからこそ、私にはできることがあると考えています。
まず、新人が発する「困っているサイン」に、誰よりも早く気づけるようになりました。
少し浮かない表情、PCの前で固まっている時間、ため息の数。──それらはすべて、彼らが助けを求めているサインです。そんな時、私はすかさず「どうした?何か困ってる?」と声をかけるようにしています。
そして、その際には必ず「実は私も昔、同じことで失敗してね」と、自身の経験を話すようにしています。上司や先輩からの一方的なアドバイスではなく、「自分も同じだった」という共感のメッセージが、彼らの心を和らげ、安心して悩みを打ち明けられる土壌を作ると信じているからです。
さらに、小さな成功体験を一つひとつ一緒に積み重ねていくことを大切にしています。
最初はうまくいかなくても、対話を重ね、一緒に解決策を考え、そして乗り越える。──その経験が「次もきっと大丈夫」という自信へとつながっていきます。
一人で悩ませず、常に伴走者として隣にいること。
それが、今の私にできる最大の役割だと考えています。
まとめ:失敗は、誰かを支える力になる
過去の失敗や苦労は、決して無駄にはなりません。
それは、他人の痛みに気づき、寄り添うための大切な力となって、自分の中に蓄積されていきます。「できなかった自分」がいたからこそ、「できない誰か」の気持ちを本当の意味で理解することができるのです。
新人を支え、彼らが安心して挑戦できる環境を整えることは、遠回りのようで、実は最高の顧客体験を創造するための最も確実な道だと私は信じています。安心して働けるチームからこそ、質の高いサービスが生まれるからです。
これからも私は、かつての自分のように悩み、立ち止まっている「誰かの最初の一歩」に、そっと寄り添い、共に歩む存在であり続けたいと思っています。

この記事を書いたライター
島田 映美
新卒でWebエンジニアとして業務システム開発に携わり、SaaSプラットフォームの業務開発やセミナー講師も経験。 2024年にアディッシュへ入社し、ITスキルと丁寧な説明力を活かして、顧客接点の質を高めるカスタマーサクセスに取り組んでいる。
