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導入支援は「ツール説明」ではなく「信頼づくり」だった ――AI議事録サービスのオンボーディング現場から見えた、カスタマーサクセスの本質

ツール導入の先にある「人のつながり」

「このツール、結局どう使えばいいんですか?」

オンボーディングの場で、よく聞くこの言葉。


多くのカスタマーサクセス担当者が「操作説明をしっかりしなければ」と身構える瞬間です。
しかし、AI議事録サービスの導入支援を担当する中で、筆者はある気づきを得ました。

 

オンボーディングの主役はツールではなく、“人と人との信頼関係”である。

 

どんなに丁寧に説明しても、相手が「この人に任せて大丈夫」と感じていなければ、支援は定着しません。ツール導入とは“機能を教えること”ではなく、“顧客が安心して変化できる状態をつくること”。


それこそが、オンボーディングにおけるカスタマーサクセスの使命だと考えています。

 


オンボーディングは「導入」ではなく「信頼構築の入口」

オンボーディングは、カスタマーサクセスと顧客の関係が正式に始まる最初のフェーズ。
営業から引き継いだ情報をもとに、ツールをスムーズに定着させることが求められます。

 

リリースからある程度経過したサービスや早期から体制整備に集中している組織では、導入時のミーティング進行がしっかりと型化されているケースが少なくありません。


そのため、オンボーディング担当者に求められるのは「自由な提案」ではなく、 限られた時間と形式の中で“いかに相手の理解を深め、信頼を得るか”という力になっていきます。

 

多くの顧客は、新しいツールに対して期待と同時に不安を抱えています。

    • 「使いこなせるだろうか」
    • 「社内で浸透するだろうか」
    • 「もし導入が失敗したら自分の責任になるのでは」

その不安を受け止め、安心して前に進めるよう伴走するのがカスタマーサクセスの役割です。
ここで最も大切なのは、「ツール導入を成功させること」ではなく、“人として信頼されること”
その信頼こそが、後の定着やアップセルに直結していきます。

 


決められた型の中で、“一歩深く理解する”工夫を持つ

前章で触れたように、筆者が参画していたAI議事録サービスでも、オンボーディングの進行や内容は体系化されていました。 そのため、個人の裁量で進行を変えたり、MTG構成を独自に変更したりすることはできません。


しかし、だからこそ問われるのは、「型の中でどこまで深く顧客を理解できるか」という点です。

 

営業からの引継ぎで顧客課題を把握していても、顧客担当者と実際に話してみると違和感を覚えることがあります。


例えば、引継ぎ資料には 「会議の効率化を目的に導入した」と書かれているケースでも、
改めて「効率化」の具体を確認してみると「記録漏れによるトラブルを防ぎたい」といった本来の課題が見つかることがあります。


「会議の効率化」では単に企業のDX促進の文脈にも捉えかねないのですが、「記録漏れを防ぎ、会議や業務進行上の手戻りを減らしたい」という意図であれば、当初の印象と本質が大きく異なってしまいます。


このように現場では、課題一つとってもその目的の本位が別のところにある場合も多いのです。筆者は、オンボーディング中にその「ズレ」を丁寧に観察するようにしています。

 

例えば、こんな瞬間です。

    • 担当者がある機能の説明で一瞬黙る
    • 「なるほど」と言いながらも表情が曇る
    • 「社内メンバーにどう伝えようか」と言葉を濁す

 

そうしたサインを見逃さず、「少し確認させてください」と自然に問い返す。
この一言で、顧客が抱える“本音”が見えてくることがあります。

 

形式を守りながらも、対話の中で一歩踏み込み、表面的な課題を越えた理解を示すこと。
それが、カスタマーサクセスとしての信頼残高を積む最初のステップだと感じています。

 


ツールの“使い方”より、“使う意味”を共有する

オンボーディングの場では、カスタマーサクセスがツールの操作を説明し、顧客が頷きながら理解を深めていきます。


けれど、定着が進まない原因の多くは「使い方を知らない」ことではなく、 「使う意味を理解できていない」ことにあります。例えば、AI議事録サービスを導入する目的は単に「文字起こしを自動化する」ことではありません。


本来は、

    • 会議後の情報共有のスピードを上げたい
    • 議論の質を上げたい
    • チーム間の認識齟齬をなくしたい

 

といった“組織的な課題解決”の一助であるはずです。

カスタマーサクセスとしてこの「使う意味」を言語化して伝えることができれば、 顧客はツールを「操作対象」ではなく「業務改善の相棒」として認識するようになります。

 

筆者はオンボーディングの終盤に、こうした“意義づけの一言”を意識的に添えています。「今日ご案内した設定ができると、〇〇チームの方も翌日から議事録を共有しやすくなると思います」といった言葉です。


小さなコメントですが、これが顧客の納得感とモチベーションを大きく変えると実感しています。

 


信頼は“安心”と“前進”の両輪で築かれる

オンボーディングは、信頼を築くための最初の関門です。
顧客が「このカスタマーサクセスは自分たちの状況を理解してくれている」と感じられると、その後の利用促進もスムーズに進みます。

 

筆者は、信頼を築くうえで大切なのは「安心」と「前進」のバランスだと考えています。

 

安心:質問しやすい空気、相談できる関係性をつくること
前進:小さな成功体験を一緒に確認し、「できた」を積み重ねること

山岸俊男氏の研究『安心社会から信頼社会へ』*では、「安心」は制度や枠組みへの依存に支えられた安定であり、「信頼」は相手にリスクを委ねて関係を築く行為だとされています。

 

企業間取引においては、契約や実績といった“制度的な安心”は最初から存在します。
しかし、担当者同士の関係においては、その安心を改めて“関係として再構築”していくプロセスが必要です。

 

オンボーディングの中で顧客から「〇〇の設定がチームで喜ばれました」と報告をくれた瞬間、 それは「前進」のサインです。


その小さな成功を一緒に喜び、次のステップへ橋渡しをする。
このサイクルの中で、「安心」から「信頼」へと関係が育ち、最終的には解約リスクの減少につながっていきます。

 

カスタマーサクセスの仕事は、“導入の瞬間”で終わるのではなく、導入を「成功体験」に変えるまで伴走し続けること。


信頼は、説明の巧みさではなく、「伴走し続ける姿勢」の中で育まれます。

*山岸俊男. (1999). 安心社会から信頼社会へ: 日本型システムの行方. (中央公論新社).

 


「型を守る」ことと「心を込める」ことは両立できる

型化されたオンボーディングに携わる中で、筆者が学んだのは、「型の中でも、顧客の心に届くカスタマーサクセスはできる」ということです。

 

決まった進行の中で工夫できる余地は確かに限られています。

しかし、

    • 声のトーンや間の取り方
    • チャットフォローでの一言
    • ミーティング後の補足メールの書き方

 

これらの細部こそが、「この人は丁寧だ」「安心して任せられる」と感じてもらえる要素になります。

形式を超えて“心を込める”。
これが、型を持つプロフェッショナルとしてのカスタマーサクセスの矜持ではないでしょうか。

 


ツールの説明を超えた「信頼の設計」を

AI議事録サービスのオンボーディングを通じて、筆者はカスタマーサクセスの本質を改めて実感しました。


ハイタッチなオンボーディングを推し進める場合、ツールを導入することがゴールではなく、 顧客がそのツールを信頼し、業務の一部として根付かせることが真の目的となるでしょう。

 

そのためには、カスタマーサクセス自身が「信頼を設計する」意識を持たなければなりません。
それは特別なテクニックではなく、次のような小さな積み重ねの中にあります。

    • 表情や声のトーンに気を配る
    • 引継ぎ情報の“行間”を読み取る
    • 顧客の成功を自分の喜びとして捉える

 

オンボーディングは「導入支援」という言葉で語られがちですが、 本質は「信頼づくりの入口」です。そして、カスタマーサクセスはその入口で、顧客が前向きに一歩を踏み出せる体験を設計する存在なのだと改めて感じています。

 


まとめ

カスタマーサクセスの本質は、ツールを「使ってもらうこと」ではなく、そのツールを通して「顧客が前に進める状態を共につくること」にあります。

 

オンボーディングという限られた時間の中でも、その一つひとつの接点に「信頼づくり」という視点を持てるかどうかが、CSとしての価値を決定づけます。

 

たとえ進行が定められていても、その中に“心”と“解像度”を持って臨むことで、顧客の小さな成功体験を積み重ねていけます。

 

「導入支援はツール説明ではなく信頼づくりである」
――それは、すべての顧客対応の根底に流れる、CSの原点そのものなのだと思います。

要点:
・オンボーディングの目的は「ツール導入」ではなく「信頼構築」
・“型”の中でも顧客理解と丁寧な観察を積み上げる
・型を守りつつ心を込める――それがCSの矜持


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