SaaS企業のCS立ち上げ時に押さえるべき実践ポイント

私は過去にカスタマーサクセス(CS)立ち上げ業務を経験しました。
その際、「何から手をつければいいか分からない」「顧客がまだ少ない中で、どこまで取り組むべきか」と悩んだことがありました。
本記事では、既存顧客の有無やプロダクトの種類に関係なく、CS立ち上げ時にまず取り組むべきことを私なりに整理しました。
これからCSを立ち上げる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
CS部署の目的とKPIを決める
CSを立ち上げる際にまず取り組むべきことは 「何のためにCSを行うのか」という目的の明確化です。目の前の顧客対応に追われてしまうと、活動の本質や役割を見失いやすくなります。そのためにも、CSが担うべきミッションや社内外における存在意義を言語化しておくことが重要です。
たとえば、CSの目的として以下のような例が挙げられます:
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- 解約率を下げ、契約継続率を向上させる
- 顧客のプロダクト活用度を高め、アップセル/クロスセルにつなげる
- 顧客の声をプロダクト開発や営業活動にフィードバックするパイプ役となる
こうした目的を明確にすることで、組織としての活動方針に一貫性が生まれ、意思決定の判断軸がぶれにくくなります。
他にもCSの目的を定めることは、他部署とのスムーズな連携を実現するためにも不可欠です。CSの役割が不明確なままだと、他部署が「CSは何をしてくれるのか」「どこまで任せてよいのか」が分からず、責任範囲が曖昧になりがちだからです。
例えば以下のような齟齬が実際に起こり得ます。
例:営業が「CSがオンボーディングをすべて担ってくれる」と考えていたが、実際には「CSはオンボーディング支援は一部のみ」と想定していた
→ 引き継ぎ時の認識齟齬から顧客対応の遅延やミスが発生
こうした事態を防ぐためにも、CSが「何のために存在し、どのような価値を提供する部署なのか」を最初に明確化し、関係部署に共有しておくことが連携の土台となります。
KPIの具体設定方法と例
次に、目的を実現するための KPI (重要業績評価指標)を設定します。
代表的なCS関連KPIの例は以下になるかと思います。
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- 解約率(チャーンレート)
- オンボーディング完了率
- NPS(Net Promoter Score)
- LTV(Life Time Value)
- ヘルススコア
- アップセル/クロスセル率
初期KPIの設計ポイント
立ち上げ初期では、顧客数やデータが少ないことも多いため、仮設定でも構いません。私は以下のような方法で検討していました。
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- 業界ベンチマークを調査する
- 仮説ベースで数値を立てる
- 自社の既存のデータを参考にする
- 測定しやすい指標から始める
ターゲット顧客を把握する
CSが顧客を成功に導くためには、まず「価値を提供する対象顧客」を理解することが不可欠です。その上で顧客規模、顧客業界、顧客リテラシーの3つの観点から把握すると良いかと思います。
顧客規模による違い
- 大手企業向けの場合
組織構造が複雑で関係者も多く、機能開発やカスタマイズの要望が多い傾向があります。そのため推進者の特定や関係各所との社内調整が発生し、中長期的な支援計画やプロジェクト管理が必要です。
- 中小企業向けの場合
短期間での成果実感が重要で時間的リソースが限られています。担当者が他業務と兼任しており、時間的なリソースも限られているためシンプルな導入フローと、明確なゴール設定、すぐに価値を感じられる施策の準備が必要です。
上記の違いから対象顧客規模によってプロジェクトの進め方、必要な心構えと準備は大きく異なります。
対象業界の把握
各業界には共通する課題やワークフローがあるため、それを事前に理解しておくことで、プロダクトやサービスが「どう価値を提供できるか」を明確にできます。
顧客が製品・サービスを導入し、使いこなし、価値を感じるまでのステップは業界ごとに異なります。
その業界ならではの利用方法や導入障壁を事前に理解することで、スムーズなオンボーディング設計ができるかと思います。
顧客リテラシーの把握
顧客のリテラシーに応じて、オンボーディングの進め方、サポートの深さ、コミュニケーションの手法を調整する必要があります。
- リテラシーが高い場合
機能理解が早く、より高度な活用を前提とした要望やフィードバックが多くなる傾向があります。また運用が複雑化しやすく、CS側もその前提を踏まえた支援が求められます。 - リテラシーが低い場合
画面上の言葉や専門用語の理解が難しく、誤操作や操作遅延が発生しやすくなります。その結果、「使いづらい」「難しい」という印象を持たれ、導入初期でつまずいてしまうこともあります。このような場合は、専門用語を避けたわかりやすい説明や、操作動画・マニュアルなどの補助コンテンツの整備が必要です。
競合を把握する
顧客は常に他の競合プロダクトと比較しています。だからこそ、他社と比較したうえでの自社プロダクトの「提供価値」や「強み」を明確に説明できることが重要です。
私は以下の点を抑えていました
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- 競合ごとの特徴や提供サービス
- 強み・弱み
- 価格帯や料金体系
- 顧客規模や業界セグメント
- サポート体制やCSの有無
- 特定機能や技術面での優位性
ユーザー業務を把握する
顧客を成功に導くためには、単にプロダクトの使い方を教えるだけでは不十分です。ユーザーの実際の業務フローを詳細に理解し、部署ごとの課題やニーズを正確に把握することが非常に重要です。
CS担当者は、ドメイン知識をしっかりとインプットし、現場レベルで業務内容の詳細を把握することでより最適な提案ができます。
具体的には、以下のような情報を把握します:
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- 業務フローの構造や各業務が発生する頻度
- 業務に関わる社員の役職や部署の把握
- プロダクトが支援すべきポイントや現場の具体的な課題の理解
業務理解の方法としては、業務フロー図の作成が役に立ちました。図解を通して業務の流れを可視化すると、どのプロセスに課題が集中しているのかがわかります。
また作成した業務フロー図に「プロダクトを導入することで、どう業務が変わるのか」も追記して顧客に提示することで、導入メリットについて顧客と認識をすり合わせることができました。
プロダクトの提供価値を把握する
CSが果たすべき役割は、顧客の成功支援です。だからこそ、自社のプロダクトがどんな課題を解決し、どんな価値を提供できるのかを把握する必要があります。
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- ライトサクセス:現場レベルの課題をどう解決するか
- ディープサクセス: 経営層に対してどんな成果を届けられる
の2軸で考えると、提案の方向性がブレにくくなります。
カスタマージャーニーを作成する
カスタマージャーニーの作成は、顧客体験の全体像を把握し、CS活動における支援の抜け漏れを防ぐうえで有効です。
顧客が契約前から継続利用に至るまでの一連のステップを可視化することで、どのタイミングで何が起きているか、顧客が各タイミングでどんな感情を持っているかを理解できます。
上記を把握することによって、各フェーズで「何を目指すべきか」が明確になり、各タイミングで行うべきアクションを設定できるようになります。
また、営業、カスタマーサクセス、開発など複数部署が関わる顧客対応の流れを可視化することで、どの部署がどのフェーズで何を担うべきかを明確にできます。これにより、連携ミスや重複作業を防ぎ、効率的なチーム運営が可能になります。
なお、カスタマージャーニーの作成に時間をかけすぎる必要はありません。顧客の状況やプロダクトの変化により必ず変更は発生するため、最初は仮バージョンとして作成し、更新しながら運用したほうが良いかと思います。
私自身、最初の作成に時間をかけましたが、運用直後に多くの変更点が発生しました。今振り返ると最初はもっと顧客理解やプロダクト理解など他の業務に時間を費やしたほうが良かったと感じています。
まとめ
CSの立ち上げは、顧客がまだ少ない初期の段階からでも取り組む価値が十分にあります。
最初から完璧な体制を整えることは難しいですが、まずは仮説ベースでもよいので「顧客を成功に導くために何が必要か」を考え、できる範囲から実行すると良いかと思います。
本記事でご紹介した内容以外にも、他に行うべき業務はまだあります。それらについては、次回の記事で取り上げていきたいと思います。