「見える」だけじゃない。眼鏡屋が届ける“顧客の成功”とは

安田光希
2025.10.02

眼鏡屋さんのカスタマーサクセスとは
「眼鏡」と聞いて、どんなイメージが思い浮かびますか?
一昔前までは、視力を補うための“道具”という認識が一般的でした。
しかし近年では、ファッションアイテムとしての位置づけも定着し、眼鏡はおしゃれの一部として楽しむ人が増えています。
それに伴い、眼鏡を取り扱うお店も多様化しました。アパレルブランドや雑貨店でも手軽に度なし眼鏡が購入できる時代となり、眼鏡店にはこれまで以上に多様な価値提供が求められています。
つまり、単に「モノ」として眼鏡を販売するだけではなく、「コト」としての顧客体験をいかに提供できるかが、店舗の成長とリピート獲得に直結するようになってきたのです。
では、お客様に「また来たい」と思ってもらえる眼鏡店とは、どのような体験を提供しているのでしょうか。
本記事では、売上を伸ばしつつ高い顧客満足を実現している眼鏡店に共通する、カスタマーサクセスの考え方と仕組みをご紹介します。
眼鏡屋における顧客の成功の定義とは
眼鏡を購入する目的は、かつては「視力矯正」が中心でした。
しかし現在では、眼鏡は機能面を超え、見た目や自己表現、日常生活の快適さにまで影響する存在になっています。顧客は単に「よく見えるようになる」だけでなく、「自分らしく快適な生活」を求めています。
そのため、眼鏡屋における顧客の成功は、次の5つの状態が満たされることだと考えられます。
- 見え方の改善と快適性の両立
- 自分に合ったデザイン・印象の実現
- 安心・信頼感の獲得
- 買い物体験そのものの満足
- 生活の質(QOL)の向上
こうした要素が揃ったとき、顧客は「ここで買ってよかった」と感じ、再来店や紹介につながります。逆に言えば、この“理想像”を明確に持たないまま接客や販売を行うと、価格競争に巻き込まれたり、リピート率が低下するリスクが高まります。
顧客の成功を達成するにあたり直面する課題
顧客の成功を実現するには、理想と現実の間にあるギャップを埋める必要があります。
しかし、現場では以下のような課題が立ちはだかります。
- 視力測定や提案が“機械的”になりがち
→ 顧客の生活背景や好みまで踏み込んだ提案が不足する。 - 販売後のフォロー不足
→ フィッティングや使用感の確認がなく、「買ったら終わり」になってしまう。 - スタッフ間で接客品質にばらつき
→ 経験やスキルの差によって顧客体験にムラが出る。 - 顧客情報の活用不足
→ 過去の購入履歴や好みを次の提案に活かせない。 - 時間的・人的リソースの制約
→ 混雑時に十分なヒアリングや接客ができない。
こうした課題は、一見すると接客スキルや店舗オペレーションの問題に見えますが、根底には「顧客の成功の定義」が共有されていないことがあります。
その課題に対する施策と実施例
課題を解消し、顧客の成功を実現するためには、店舗全体で統一されたCS(カスタマーサクセス)体制の構築が欠かせません。
以下では、その主な施策と、実際に行われた取り組み事例をあわせてご紹介します。
1. 顧客ヒアリングの型化
施策概要
- 視力や用途だけでなく、生活習慣、ファッションの好み、仕事や趣味までを質問項目に組み込み、提案の質を均一化。
- 自店舗や他店舗の実体験を事例化し、提案の幅を広げることが可能に。
実施例
- 対応例スクリプトを作成し、よくある質問や接客背景をもとに必要なヒアリング項目や提案例を一覧化。
- 問診チェック表と情報記載フォーマットを用意し、必須項目を誰でも引き出して共有できる体制を整備。
→ ヒアリング漏れを防ぎ、どのスタッフでも質の高い提案が可能に。
2. 販売後のフォロー体制整備
施策概要
- 商品お渡し時に、販売後のフォロー案内を実施し、関連POPを顧客導線に掲示する。
- 来店時に眼鏡を持参された場合は状態を確認し、状況に応じたフォロー内容を提案する。
実施例
- 店舗ではPOP掲示だけでなく、来店時に「無料点検」の声掛けをルール化。
→ アフターサービスの認知度向上と、再来店の動機づけに成功。
3. 顧客情報の一元管理
施策概要
- 購入履歴、好み、過去の調整内容などを記録し、次回来店時に活用できる仕組みを導入。
実施例
- 月1回の店舗定例会で顧客情報や特記事項を共有し、納品遅れや対応漏れを防止。
→ 「覚えてくれている」という顧客体験を生み、リピート率を向上。
4. スタッフ教育の継続化
施策概要
- 商品知識、技能、接客力の向上を目的とした定期研修を実施。
- スタッフ間でスキルレベルや得意・不得意を共有し、全員が把握できる体制を構築。
実施例
- 新人スタッフ向けに「交換ノート」を導入し、教育内容や習得状況、苦手分野を全員で可視化。
→ 教育漏れを防ぎ、店長や教育担当以外のスタッフでもフォロー可能に。
5. 混雑時対応の仕組みづくり
施策概要
- 事前予約や簡易見え方体験を設定し、接客品質を落とさず回転率を確保。
- 受付や必須ヒアリング項目をセルフ化し、待機時間を削減。
実施例
- 混雑時は「セルフ問診」シートを用意し、お客様自身に事前入力してもらう運用を導入。
→ 待機時間を減らしつつ、接客時間を提案に集中できるように改善。
これらの施策と事例を組み合わせることで、顧客は「ここはいつ来ても安心」「自分のことを理解してくれている」と感じ、長期的な信頼関係が築かれます。
最後に
眼鏡屋におけるカスタマーサクセスとは、単に商品の販売を成功させることではありません。
顧客が自分らしく快適な生活を手に入れるまで伴走し、その満足を継続させることです。
顧客の成功の定義を明確にし、それを達成するための仕組みを持つ店舗は、売上だけでなくブランド価値や顧客との信頼関係も積み上げていきます。
変化の早い市場環境においても、この考え方と体制こそが、選ばれ続ける眼鏡店の共通点といえるでしょう。

この記事を書いたライター
安田光希
接客業(toC)にて店長としてスタッフのマネジメント・複数店舗の運営管理などを経験。より相手のために人のために自分ができる事をしたいと思いカスタマーサクセスとしてアディッシュに入社。