スタートアップ・カスタマーサクセス常駐支援でわかった、マニュアルにないリアル

山田紀貴
2025.10.30
──営業にも、事業にも生きる“共創”の力──
スタートアップを中心としたカスタマーサクセス(以下CS)の常駐支援を通じて、私は多様な企業現場に人材を送り出してきました。そうした中で、成果を出す人材に共通する“姿勢”が見えてきました。この記事では、CSにとどまらず、営業や事業推進にも通じる「現場で生きる力」とは何かを、私なりの視点でご紹介します。
やり方よりも在り方──「売る力」も「支える力」も同じだった
成果を出している人材に共通するのは、スキルや知識の多さではありません。圧倒的に違うのは、「スタンス=在り方」です。
スタートアップのCS支援では、マニュアル通りに動けばうまくいく場面はほとんどありません。あるSaaSスタートアップに常駐していたCSメンバーは、プロダクト仕様が週単位で変わり、ドキュメントも未整備という環境下で、高い顧客満足とNRR向上を実現しました。
この時、その担当者が実践していたのは、顧客の変化を最前線で捉え、営業や開発と密に連携しながら、日々のフィードバックを具体的なアクションにつなげていく姿勢でした。こうした地道な積み重ねが、成果につながっていったのです。
実はこの力は、営業にも直結します。顧客の課題に応え、信頼を勝ち取り、プロダクトを一緒に育てる。「売る」「支える」の違いを超えて、本質は「目の前の顧客に本気で向き合うかどうか」なのです。
前提が変わることが前提──「売ったあと」も「支えたあと」も続く
スタートアップでは、決めた通りに物事が進まないのが日常です。プロダクトのピボット、組織変更、資金調達による戦略転換──前提は常に変化し続けます。
こうした環境下で、単に計画通り動くことを目的化してしまうと、すぐにズレが生まれます。逆に、環境変化をチャンスと捉え、自分の役割やゴールを柔軟にアップデートできる人は、圧倒的に信頼されます。
たとえば、あるシリーズAフェーズのBtoB向けSaaS企業では、関連会社が多数関わる管理ツールの導入プロジェクトにおいて、当初はマニュアル整備やFAQ対応を担っていたCS担当者が、現場の課題を丁寧に拾い上げ、動画マニュアルやウェビナーなど複数のチャンネルを活用したオンボーディングを提案・実行しました。その姿勢が評価され、ITリテラシーやユーザー間の関係性のばらつきといった複雑な構造の整理を任されるようになり、プロダクトの定着と業務改善に大きく貢献しています。
こうした成果は、「この範囲だけやります」と自ら線引きをしていたら生まれなかったものです。こうした在り方は、CSにとどまらず、営業やプロダクトといった他の機能にも共通しています。売った“そのあと”にどれだけ柔軟に動けるかが、次の提案や長期的な信頼につながっていきます。
フレームワークよりも解像度──「顧客を語れるか」が勝負
もうひとつ、強く感じることがあります。スタートアップでは、型にはまったフレームワークよりも、個々の顧客をどれだけ深く理解できるかが勝負だということです。
「なぜこのプロダクトを導入したのか」「どんな未来を期待しているのか」「誰がキーマンなのか」。こういった問いに、テンプレートではなく自分の言葉で答えられるかどうか。この理解の深さが、どんな行動を“いつ”取るかを左右します。
これはCSだけでなく、営業、プロダクト、経営──すべての領域に共通する本質です。「顧客理解」が浅いままだと、何を売っても、何を支援しても、ズレた結果になってしまう。だからこそ私たちは、現場で“顧客のストーリー”を語れることを目指して支援を続けています。
成功のカギは“共に創る”マインドセット
スタートアップにおけるカスタマーサクセスの常駐支援は、単なる「代行業務」や「運用代替」ではありません。顧客とともに成功の形を探り、築いていく“共創”のプロセスそのものです。
この共創を実現するうえで求められるのは、「正解を知っていること」でも、「指示通りに動くこと」でも、「決められた手順をなぞること」でもありません。
むしろ大切なのは、常に変化に向き合い、顧客に対して誠実であり続け、自分自身の在り方を問い続ける姿勢です。
これはカスタマーサクセスに限らず、営業、プロダクト開発など、あらゆる領域に共通する“現場で生きる力”です。
カスタマーサクセスを目指す方や、常駐支援の導入を検討している企業の方々だけでなく、すべてのスタートアップに関わる人にとって、明日の業務が少しだけ前向きになる、そんなヒントとして受け取っていただけたら幸いです。

この記事を書いたライター
山田紀貴
不動産および大手金融業界でのマネジメント経験を経て、アディッシュではスクールガーディアン事業部の運用統括としてチーム再生を牽引。現在はカスタマーサクセス領域のプロダクトオーナーとして組織拡大を推進している。
