マネージャーが作る「人に依存しないカスタマーサクセス」——安定して成果を出す仕組み化のススメ

A.K
2025.10.21

はじめに
カスタマーサクセスの現場では、顧客ごとに状況や課題が異なり、「こうすれば必ず成功する」という単一の正解は存在しません。
そのため担当者は、顧客の背景や業界知識、関係構築力を駆使し、ケースバイケースで最適な対応を取っていく必要があります。
しかしその一方で、対応履歴やノウハウが十分に共有されないまま、属人的に蓄積されやすく、「○○さんだからうまくいった」という状態になりがちです。こうした状況では、担当者のスキルや経験がチームの成果を大きく左右し、退職や異動があれば一気にパフォーマンスが低下するリスクがあります。
このような背景から、安定して成果を出し続けるためには「人に依存しない仕組み化」が不可欠です。
本記事では、複数のプロジェクトをマネージャーとして担当してきた経験をもとに、安定的に成果を出すために必要な「仕組み化」のポイントをわかりやすく解説します。
なぜ「人に依存する体制」は危険なのか
カスタマーサクセスは、顧客の成功を支援し、継続的な利用やアップセルにつなげる重要な役割を担います。
しかし担当者に過度に依存した体制には、次のようなリスクが潜んでいます。
1. 属人化の弊害
担当者の頭の中にしかないノウハウや手順は他者に伝わらず、急な欠勤や退職が業務の停滞を招く恐れがあります。
実際に「前任者の対応内容が引き継がれておらず、顧客からの信頼を失った」というケースも少なくありません。
引き継ぎに膨大な時間と労力が必要となり、顧客満足にも直結してしまいます。
2. 品質のばらつき
人によって対応方法や判断基準が異なると、顧客体験の均一性が保てません。
「A社では迅速に課題解決できたのに、B社では放置されてしまう…」
このような差が積み重なると、組織全体の信頼性にダメージを与えます。特定の担当者がいないと成果が出にくい状態は、成長を大きく妨げます。
3. 成長のボトルネック
組織全体で活動を拡大しようとしても、ノウハウが共有されていなければ生産性は頭打ちになります。
結果として「人を増やせばなんとかなる」と属人的に頼るしかなく、コストばかり増えて成果は伴わない状態に陥ります。
仕組み化の第一歩は「業務の見える化」
属人化を解消する土台作りは、現場の業務や判断基準を「見える化」することから始まります。
業務フローを書き出す
オンボーディングから定例ミーティング、顧客対応まで、どんなタイミングでどんなタスクが発生しているかを整理します。
これにより、担当者の頭の中だけにある“暗黙知”が可視化され、業務の全体像が明らかになります。
タスクの発生トリガーと判断基準を整理する
各タスクがどのような状況で発生するのか、優先度や条件を文章や表にしてまとめます。
たとえば「利用率が2週間下がったらフォローコールを入れる」「解約兆候が見られたら上長へエスカレーションする」など、具体的な判断基準を明確化します。
テンプレートやチェックリストを作成する
問い合わせ対応の優先度判断シートやリスク兆候チェックリストなど、誰でも使えるツールを用意します。これにより「やり方が分からない」という不安を減らし、新人でも同じ品質で対応できるようになります。
業務の見える化は、マネージャーの管理負担を減らすだけでなく、現場担当者が自律的に判断・行動できる環境を整える土台にもなります。
マイクロマネジメントしなくても回る仕組み作りの4つのポイント
仕組み化を進める際に、特に意識したいのは次の4点です。
1.判断基準の標準化
「この担当者ならこうする」ではなく、「誰でも同じ判断をする」ためのルールを整えます。
たとえば顧客からの問い合わせを受けたときに「緊急度をどう判定するか」「優先順位をどう決めるか」を共通化することが重要です。
2.情報共有の自動化・仕組み化
SlackやCRM、ナレッジ管理ツールを連携し、顧客情報や課題をチーム全体でリアルタイムに共有します。口頭での伝達や個人DM、個人メモに依存した情報共有は、属人化の温床となるため、早期の仕組み化が求められます。
3.定期的なレビューサイクルの構築
仕組みは作って終わりではなく、運用しながら改善を続けることが大切です。
定例ミーティングで「どのチェックリストが役立ったか」「見落としはなかったか」を振り返り、現場の声を反映し続けます。
4.プレイブックの整備
「このような状況では、こう動く」といった判断と行動のセットをまとめたマニュアルやプレイブックを用意します。
これがあると経験値に左右されず、均質な顧客対応が可能になります。新人教育にも効果的です。
事例:管理者不在の現場を「仕組み」でカバーしたケース
私が関わったあるプロジェクトでは、担当者をマネジメントする上長が多忙で、マネジメントまで手が回らない状況が続いていました。
このままでは現場が自己流で動き、属人化と品質低下が避けられないと感じられる状況でした。
そこで、チームメンバー自身で OKR(Objectives and Key Results) を設計し、個々の目標をチーム全体の成果に直結させる取り組みを開始しました。目標と進捗が可視化されるようになったことで、誰がどこまで進んでいるかが一目で把握でき、自然とチーム全員が共通のゴールに向かって動けるようになりました。
結果として、マイクロマネジメントをおこなわなくてもチームは自走し、上長も最小限のチェックだけで状況を把握できるようになりました。このように、仕組みが整うことで、限られたマネジメントリソースでも安定的に現場が回り、継続的な成果を出し続けられる体制に変わったのです。
仕組みと人のベストバランスを目指して
仕組み化は非常に重要な取り組みですが、すべてをマニュアル化すれば良いというわけではありません。
カスタマーサクセスの現場では、顧客の状況に応じた柔軟な判断や、人ならではの感度が求められる場面が必ずあります。
たとえば「顧客が言葉にしない不満や不安を察知する」「プロダクトの新たな活用方法を顧客と一緒に模索する」といった対応は、人の力だからこそ実現できる領域です。
仕組みはあくまで土台であり、その上で担当者が付加価値を発揮できる環境を整えることが理想です。
まとめ
カスタマーサクセスの成果は、「担当者のスキルや能力」だけでなく、「仕組みや環境」によっても大きく左右されます。
属人的な対応に頼り過ぎれば、品質のばらつきや業務のブラックボックス化といった課題が生まれますが、仕組みを整えることで、誰でも再現性高く成果を出せる土壌を作ることができます。
-
- 1. 判断基準の標準化
- 2. 情報共有の自動化・仕組み化
- 3. 定期的なレビューサイクルの構築
- 4.プレイブックの整備
この4つに注力することで、カスタマーサクセスチームは安定して成長し、顧客満足度も向上します。
「人」だけでなく「仕組み」にも投資すること。
それこそが、変化の激しい顧客環境においても、揺るがないカスタマーサクセスを支える基盤となるのです。

この記事を書いたライター
A.K
アディッシュに入社後、監視業務のオペレーターとしてキャリアをスタート。アルバイトから社員へとステップアップし、監視・カスタマーサポート領域でSVとして勤務。その後、カスタマーサクセスのマネージャーとして、メンバーの後方支援に従事。スピード感を強みとし、課題を見つけて改善施策を実行し、必要に応じて現場とも連携しながら柔軟に取り組むことを大切にしている。