テクニカルライティングが支えるカスタマーサクセス ─ 顧客の自己解決力を高めるドキュメントとは?

山家瑞紗
2025.10.07

テクニカルライティングとは?
日々目にしている「製品マニュアル」や「FAQ」「操作ガイド」
実はこうしたドキュメントは、すべて“テクニカルライティング”という技術によって書かれています。
テクニカルライティングとは、技術的・専門的な内容を、非エンジニアの読者にもわかりやすく伝えるためのライティング手法です。
単に文章を書くのではなく、「どう伝えるか」「どう見せるか」まで設計する、“UX(ユーザー体験)”の一部とも言えます。
正確性と分かりやすさを両立させるためのスキルであるため、習得することにより、プロダクトを使うすべてのユーザーにとっての「案内人」のような役割を果たせるようになります。
なぜ今、テクニカルライティングがCSにとって重要なのか?
自己解決の促進=顧客体験の向上
ユーザーが疑問を感じたときに、すぐにヘルプページやガイドで解決できる――
そんな状態を実現するのがテクニカルライティングの力です。
問い合わせ前に問題が解決できる体験は、ユーザーにとって大きな安心感となり、顧客満足度にも直結します。
問い合わせ削減によるサポートコストの抑制
よくある質問が網羅されており、検索しやすい状態にドキュメントが整備されていれば、問い合わせ数を大幅に減らすことができます。
サポートチームの負担軽減だけでなく、顧客対応のスピードや品質の維持にもつながります。
プロダクトと顧客の橋渡し役としても大切
特にSaaSのように継続利用が前提のサービスでは、ユーザーがプロダクトを「使いこなせるかどうか」が、解約率に直結します。
テクニカルライティングは、プロダクトと顧客のあいだにある“理解の壁”をなくす、CSにとって欠かせない戦略的手段です。
テクニカルライティングがもたらす具体的なメリット
ドキュメントが「ナレッジベース」として機能するようになり、サポートチームの育成や品質維持に寄与
よく整理されたドキュメントは、サポートメンバーの学習や引き継ぎにも役立ち、チーム全体の対応品質の平準化につながります。
製品アップデート時の混乱を最小限に
アップデート内容や変更点を迅速に、かつわかりやすく伝えるドキュメントがあれば、ユーザーの混乱や問い合わせの急増を抑えることができます。
開発・マーケとの連携がしやすくなる
テクニカルライティングで書かれたドキュメントを中心に据えることで、開発・CS・マーケの情報共有がスムーズになり、顧客コミュニケーションの質も向上します。
CSチームがテクニカルライティングにどう関わるか
テクニカルライティングは、専門のライターが担うもの…と思われがちですが、実際にはCSチーム自身が関わる場面も少なくありません。
執筆者として
ヘルプページやFAQ、回答テンプレートなど、実際にドキュメントを作成するケースも多々あります。
監修者・仲介者として
開発者やプロダクトマネージャーが書いた技術的な説明を、お客様にとってわかりやすい形に翻訳・再構成する役割も、CS担当者には求められることが多いです。
顧客インサイトの提供者として
顧客の声から見えてきた「つまずきポイント」や「誤解されやすい表現」は、ドキュメント改善のヒントとなります。顧客と直接接する機会が多いCS担当者は、ドキュメント改善の種を集めやすい立ち位置です。CS担当がかかわることで、よりよいドキュメントの作成が行えます。
社内連携のハブとして
仕様変更や機能追加など、開発からの情報を社内に展開する際、CSが“わかりやすく伝える”役割を担うことで、全体の業務効率が上がります。
テクニカルライティングを身につけるには?
テクニカルライティングは一朝一夕では身につきませんが、日々の業務の中で鍛えることができます。
ポイントは「書く前」と「書いた後」の工夫です。
1. 書く前に整理する
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- 読者像を決める:初心者か、経験者かで説明の深さを適宜調整しましょう
- 目的を明確にする:読んだ後に何ができるようになってほしいのかを定義しましょう
- 情報を構造化する:見出しや箇条書き、図を効果的に配置しましょう
2. 読み手目線で文章化する
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- 専門用語は必要に応じて解説しましょう
- 1文は短く、動作や手順はステップごとに区切りましょう
- スクリーンショットや図解を活用しましょう
3. 書いた後に改善する
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- 実際に読んでもらい、理解度をテストしましょう
- 更新履歴を管理し、内容を常に最新に保ちましょう
- 他の執筆者やチームメンバーとレビューし合うのも◎
もっと学びたい方へ(参考資料)
サイボウズ新入社員向け研修資料
Technical Writing研修資料(Speaker Deck)
┗ 初心者でも理解しやすい基本的な考え方がまとまっています。
LINE社内で大好評のテクニカルライティング講座まとめ
LINE Engineering Blog
┗ 実務に直結するポイントが豊富に掲載されています。
IIJPRのYoutubeチャンネル動画
仕事がやりやすくなる“テクニカルライティング”
┗ わかりやすい警告文の書き方など、具体例を見ながら学ぶことができます。
まとめ:CSとテクニカルライティングは「顧客体験を支える両輪」
テクニカルライティングは、CSがプロダクトを理解し、顧客と向き合うための“見えない武器”です。
顧客が「わかりやすい」「迷わない」と感じられるプロダクトは支持され、継続利用につながります。
顧客の声を起点に、社内外での情報の伝え方・見せ方を見直す文化が根付けば、プロダクト全体の価値も底上げされます。
さらに、情報共有がスムーズになることで社内の業務効率も向上し、働く側にとってもメリットが生まれます。テクニカルライティングは、その改善の連鎖を生み出す起点となるのです。

この記事を書いたライター
山家瑞紗
カスタマーサポート歴7年以上。2019年にアディッシュへ入社し、約5年間SVとしてチーム運営を経験。 研修や従業員オンボーディングを得意とし、カスタマーサクセス人材のマネジメントにも携わる。教える力でチームや顧客を支えることを得意とする。