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ITリテラシーが低いユーザーとの接し方──SaaS講師・CSが実践する3つの工夫

はじめに

「すみません、ログインできなくて……」
 SaaSのセミナーを始めようとした矢先、こんな声が複数上がり、その対応に時間を取られる——そのような経験をされたことはありませんか?


私はこれまで、エンタープライズ企業向けに、SaaSプラットフォームの活用を支援するセミナーを担当してきました。受講者は、DX人材育成を目的とした研修に参加されるユーザーの方々で、SaaSの基本操作やノーコード開発機能などをオンライン形式で学んで頂きました。


その中で強く感じてきたのが、「ITに不慣れな方との接し方」の重要性です。セミナーがうまくいくかどうかは、内容や構成よりも「誰に、どんな伝え方をするか」によって左右されることも多々あります。本記事では、そうした現場での経験から得た気づきや実践した工夫についてご紹介します。

 

セミナー現場で感じた“ITリテラシー格差”

参加者の中には、「そもそもクラウドサービスって何ですか?」という方もいらっしゃいました。 「メールは見る専門です」「ブラウザは会社のポータルを開くためだけに使っています」といった方々にとって、複雑で高機能なSaaSツールは、いきなり“高い壁”に見えてしまうこともあります。

 

特にハンズオン形式のセミナーでは、「画面のどこに何があるか分からない」「前の画面に戻れない」「そもそもZoomとブラウザの画面をどう切り替えたらいいか分からない」といった声もありました。


私たちが“当たり前”だと思っていることは、必ずしも相手にとっての“前提”とは限らない——そのギャップを強く意識するようになったのは、そんな現場での体験があったからです。

 

「資料が開けません」「タブの複製ってどうやるんですか?」から始まったセミナー

ある基礎編セミナーでは、開始早々、受講者の複数名から「セミナー資料のPDFが開けません」「ブラウザのタブのを複製するってどうやるんですか?」といったチャットが届きました。セミナー冒頭は、プロダクトにログインし、用意した画面を開いてもらうはずが、その手前の「資料を開く」「画面を整理する」段階でつまずいていたのです。

この日は、対応に追われて進行が10分以上押してしまいました。そこで次回以降は、以下のような対応を取り入れるようにしました。

    • セミナー前日のリマインドメールで、ログイン前の準備や資料の開き方を案内
    • セミナー中はZoomの「挙手機能」を使って、定期的に受講者の進捗の確認
    • 操作につまずいた方には、進行中でもチャットで逐一サポートする体制を用意


こうした“ちょっとした段取り”だけでも、受講者の心理的な負担を大きく軽減することができます。さらに、講師側にとっても予期しない質問や混乱が減り、落ち着いて進行できるというメリットがあります。

「分からないことが分からない」受講者との向き合い方

セミナー中の個別フォローでは、「自分が何に困っているかも分からない」「何を聞いていいか分からない」という方にも数多く出会いました。


そんなときに意識していたのが、以下のような接し方です。

    • 受講者の進捗を定期的にチェックし、つまずいている人にはこちらから声をかける
    • 「質問はありますか?」ではなく「今、どこで止まっていますか?」と具体的に聞く
    • 画面共有などで一緒に操作し、“つまずいた瞬間”を一緒に確認
    • 理解が進んだら「ここまでできたのは素晴らしいですね」としっかり称賛

 

「なんで分からないの?」と思われたくない——そんな不安を抱える受講者にとって、講師やCSの言葉ひとつが大きな安心材料になります。


 大切なのは、「理解できた」という実感を受講者と一緒につくること。その積み重ねが、学習の前向きなサイクルにつながっていきます。

 

講師・CSとして意識している「3つの工夫」

ここからは、私自身がセミナー実施時や個別対応時において、常に意識した3つの工夫をご紹介します。

1. 説明は“見た目と手順”ベースで行う

セミナーでは、「〇〇を作成してください」といった指示だけでは、すぐに操作に移れない方も多くいらっしゃいます。特にITに不慣れなユーザーにとっては、「作成する」という抽象的な表現だけでは、何をどうすればいいのかが見えてきません。


そのため、私は説明をするとき、「右上の“+”マークをクリックしてください」「画面右上に表示されている“作成”を押しましょう」といったように、具体的な見た目や手順に基づいて伝えることを大切にしていました。

 

どこを見て、何を押せばいいのかが視覚的にわかると、受講者は安心して操作に取り組めるようになります。また、使用する言葉もできるだけシンプルにします。

 

たとえば、「データ入力項目」は「Excelのセルのようなもの」、「ビュー」は「表示方法の切り替え」といったように、受講者がもともと知っているものにたとえて説明することで、理解のハードルがぐっと下がります。


伝え方を少し工夫するだけで、参加者の「わからない」が「出来る」に変わる瞬間を何度も目にしてきました。特にITリテラシーに不安がある方には、感覚的にわかる説明が何よりのサポートになると実感しています。

 

2. 1画面1アクションで区切る

オンラインセミナーでは、「一度にたくさんのことを伝えると、誰かが必ず置いていかれる」という現象がよく起こります。特にITに不慣れな方にとっては、画面の切り替えや操作が速すぎるだけで、混乱や不安につながってしまいます。そのため私は、1画面につき1つのアクションに絞って進行することを大切にしていました。


たとえば、「この画面で“+”ボタンをクリックしましょう」という操作を案内した後は、すぐに次に進まず、「皆さん、この画面になっていますか?」「今、ここまでできていない方はいらっしゃいますか?」と一呼吸おいて確認します。


こうした進め方をすることで、受講者の緊張もほぐれ、「聞いてもいいんだ」「置いていかれない」と感じてもらえるようになります。進捗を確認しながら丁寧に区切ることで、質問のしやすさや参加意識も高まり、結果として理解度の底上げにもつながります。

 

また、区切ることで講師側にも余裕が生まれ、つまずいている方へのサポートがしやすくなるというメリットもあります。セミナーは一方通行ではなく、参加者と歩幅を合わせて進めていくもの。だからこそ、「情報量の多さ」ではなく「理解の深さ」を重視した進行が重要だと考えています。

 

3. “ついていけなかった方へ”のフォロー資料を用意する

どれだけ丁寧に説明しても、全ての受講者がセミナー中に内容を完全に理解できるわけではありません。特にITに不慣れな方は、操作に時間がかかってしまったり、途中でつまずいてしまったりすることも少なくありません。

 

そうした方のために、「フォロー資料」を用意しておくことが非常に重要です。
私が作成したのは、主に以下の3つの資料です。

    • 操作ステップをまとめたPDF
      • 受講者がセミナー後に自分のペースで再確認できるよう、画像を中心に構成し、文字説明は最小限で済むようにしました。
    • 編集済みの短尺セミナー解説動画(5〜10分)
      • 要点だけを短くまとめることで、「一から見直すのは大変」という声にも応えやすくなります。
    • FAQ(よくある質問と回答)集
      • つまずきやすいポイントを事前に拾い上げておくことで、不安を感じたときにすぐ自己解決できる仕組みになります。


このように、受講後の自己学習や復習を支援するフォロー資料を提供することで、「セミナー中はついていけなかったけど、後から理解できた」という成功体験につながります。学びを“その場限り”で終わらせないための工夫こそが、講師・CSとしての重要な役割だと考えています。

 

まとめ:不安を“自信”に変える支援こそ、CSの本質

ITリテラシーが低いというのは、「できない人」ではなく、「まだやったことがない人」というだけの話です。 誰でも最初は初心者であり、ほんの少しの支援と、分かりやすい導線設計があれば、自信を持ってツールを使いこなせるようになります。


講師やカスタマーサクセスの役割は、単に技術を伝えることではありません。 「分かった!」「できた!」という成功体験を届け、その人がツールを活用できるようになる未来を支援することが本質です。


どんなユーザーであっても、安心して第一歩を踏み出せるよう、これからも試行錯誤しながら、より良い伝え方を模索していきたいと考えています。


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みなさん、こんにちは。扇と申します。
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エンタープライズ顧客への対応は、スモールビジネスに比べて導入規模が大きく、関係者も多いため、課題が複雑になりやすいのが特徴です。