【翻訳】顧客維持コスト:CRCを削減し、顧客ロイヤルティを高める方法

この記事は著作権を有する Custifyの許可を得て翻訳したものです。
Original article:https://www.custify.com/blog/customer-retention-cost/
SaaS企業が成功するためには、顧客の存在が不可欠です。しかし、ひとたび顧客が離れ始めると、チーム全体がその対応に追われます。その過程では、多くの企業が重要なSaaS指標のひとつである顧客維持コスト(Customer Retention Cost:CRC)」を見落としがちになります。
顧客を維持するためにどれだけの費用がかかっているのかを把握しなければ、SaaS企業は暗中模索の状態に陥ります。多くのリソースを費やせば顧客の維持は成功するかもしれません。しかし、その過程のコストは考慮していますか?
こうした疑問に答えるために、本記事では、顧客維持コストについて詳しく掘り下げます。
- CRC、CRR、および関連指標について説明する前に、まず顧客維持率全体を分析します。
- 次に、CRCを実際に活用する段階に入り、CRCの測定方法と、CRCの計算式を、そしてどのようにその指標を導入するのかを学びます。
- 記事のメインセクションでは、サービス提供においてのギャップを生んだり品質を犠牲にすることなく、CRCを下げるための施策を紹介します。
- そして最後に、CRCに関して議論されている質問に答え、この指標を導入できるようにサポートします。
顧客維持とは何か?
顧客維持とは、企業が顧客を満足させ、長期的なエンゲージメント(繋がり)を築くために用いる戦術、人材、ツールの組み合わせを指します。最終的な目標は顧客を「定着」させることで、一時的な利用だけでなく、長期にわたって継続的にエンゲージメントを維持する顧客へ促進させることにあります。
SaaS市場においては、顧客維持は成長戦略の標準的なアプローチとして定着しています。18%の企業が新規顧客獲得よりも顧客維持に多くの投資を行っており、これらの施策の中心を担うのがカスタマーサクセスチームです。顧客維持とはチャーンの対極を意味し、カスタマーサクセスチームは「チャーン率(解約率)」の低下を目標に活動しています。
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、この維持の取り組みにおいて測定や追跡、計画を立てるためには、複数の関連指標を使用します。その中でも最も重要な指標は、まさに本記事のテーマである「顧客維持コスト(Customer Retention Cost:CRC)」です。
顧客維持コスト(CRC)とは何か?
顧客維持コスト(CRC)とは、顧客維持活動に関連したすべての支出を表す指標です。これには、顧客エンゲージメントツールからアカウント管理の取り組み、カスタマーサクセス全体の諸経費に至るまで、あらゆるコストが含まれます。
CRCは、複雑かつ多層的な顧客維持の取り組みに対して、実用的なKPI(重要業績評価指標)を提供し、CFO(最高財務責任者)やその他の経営幹部が、顧客維持戦略の成果を正確に把握できるようにします。
顧客維持率とは何か?
顧客維持率は、特定の期間に獲得した顧客を除き、一定の期間において、どれだけの既存顧客を維持できたかを示す割合です。
顧客獲得コスト(CAC)と顧客維持コスト(CRC)の比較
CRCとよく比較される指標の1つが、顧客獲得コスト(CAC)です。
CRCが顧客維持に関する取り組みの総コストを示すのに対して、CACは顧客1人あたりの平均獲得コストとして計算されます。双方を比較するには、CRCを顧客の総数で割った「顧客1人あたりのCRC」を算出するか、同期間中に獲得した顧客数にCACを掛けた「全体のCAC」を計算します。SaaSにおいて、この2つは対立する指標として扱われがちで、予算会議ではしばしば誤解や混同の種になります。
ただし、CACが高いとアカウントの複雑さにより、CRCも高くなる可能性が高く、CACが低いと製品に対する期待が誤っていたりオンボーディングが不十分だったりして CRC が高くなる可能性もあるため、常にこれらを直接的に関連したものとして見る必要があります。
では、どうすれば良いのでしょうか?
新規顧客の獲得と顧客維持を担当する部門が協力することで、マーケティング段階から導入・拡大に至るまで、顧客にポジティブな体験を提供できるバランスの取れたアプローチを見つけることができます。
- 初期段階で過剰な情報を与えない(提供する情報を絞る)
- 誤った期待を抱いた顧客をCSMに引き継がない
- 自社と適合しない顧客をCSMに引き継がない
- 大規模な生産的なコラボレーションとコミュニケーションを可能にします
一般的に、CRCはCACよりも大幅に低くなる傾向があります。そのため、ROI(コストと比較して自社が生み出した利益の指標)の議論においては重要な比較基準となります。また、顧客維持は顧客ロイヤルティの向上にもつながり、CSチームの経験値が増えるにつれ顧客の定着度が上がっていき、CRCは時間の経過とともにコストを削減できる可能性があります。
顧客維持コスト(CRC)に含まれる要素とは?
顧客維持コストの合計として通常考えられるのは、次の通りです。
- カスタマーサクセスにかかるコスト(人件費及び諸経費を含む)
- アカウント管理や更新手続きに関わるコスト
- 顧客エンゲージメントと製品導入の支援に関するコスト(サービスに関する積極的な支援や、製品ガイドなど)
- サービスとトレーニングのコスト(顧客に提供している割合)
- 顧客マーケティングにかかるコスト(顧客アップセル マーケティング キャンペーンなど、実施している場合)
カスタマーエクスペリエンス(CX)分野では、カスタマーサポートもCRCに含めるべきという意見もあります。一般的な認識では、カスタマーサポートおよび、その他の専門的なサービスは、COGS(売上原価、企業がサービス提供の際に直接かかったコスト)の範疇に分類されるとされています。
顧客維持コストの測定方法
顧客維持コストの基本的な計算式は、「顧客維持に対し支出したすべてのコストの合計」です。
つまり、カスタマーサクセスにかかる費用、アカウント管理とサブスクリプションの更新、カスタマーへのマーケティングまで含めて、維持施策に要したすべてのコストを合計することになります。
こちらは、CRC(顧客維持のコスト)とその比率をより簡単に計算するために作成したスプレッドシートテンプレートです。
次回のQBR(四半期業績レビュー)で、このCRCテンプレートを活用してみてください。
他に、役に立つと思われるCRCの計算式には次のようなものがあります:
上記の計算式も、CRC Excelテンプレートで算出できます。顧客の生涯平均のサブスクリプション継続期間は、(毎年一定の時期にCRCを計算するとして、)その計算中の期間を超えるべきですが、基本的には顧客のライフタイムが計算期間より短かったとしても、その短いライフタイムに基づいて計算します。平均的なライフタイムCRCを把握したら、それをKPI(主要業績評価指標)やベンチマークとしてCLTV(Customer Lifetime Value:顧客生涯価値)と比較できます。CRCより上回っていれば緑色で、下回っていれば赤色で表示されます。
顧客維持コストを下げるための戦術
1. 顧客からのフィードバックを積極的に収集して活用する
「パーソナライゼーション(各顧客へのサービス最適化)の現状に関するレポート」によると、62%のビジネスリーダーが、CX(顧客体験)のパーソナライズ施策によって顧客維持率が向上したと回答しています。
しかしその一方で、72%のビジネスリーダーは、顧客のニーズを考慮できずにパーソナライズを進めているという矛盾した結果になっています。顧客のフィードバック(VoC)に耳を傾けない限り、パーソナライゼーションをどのように進めれば良いかさえ分からず、維持コストは増大することに名rます。
そのため、私は常にVoCイニシアチブ(率先した分析)を立ち上げることを推奨しています。これにより、関連性の高い情報を収集してパーソナライゼーションの推進と、フィードバックに基づいた製品アップデートやバグ修正を行い、製品やサービスの提供価値全体を向上させ、顧客のビジネス成長に寄与します。
もし時間に余裕があれば、カスタマーによるRATERモデル を使用しての評価も選択肢のひとつです。少し大がかりですが、カスタマーに対して、サービスに対する認識に関しての97項目以内の質問と発言を分析することで、非常に具体的かつ実用的なフィードバックを収集する最も高度な方法の1つでもあります。
2. オンボーディングに優先順位をつけて最適化する
カスタマーオンボーディングこそがカスタマージャーニーの中で最も協力かつカスタマイズ可能な部分であり、CSMが特に注力すべき領域です。
しかし、これまでのビジネスではオンボーディングが軽視されてきました。最近は流れが変わりつつあり、2023年オンボーディングレポートによると、50.3%の企業がカスタマーサクセス主導のオンボーディングを機能を有し、42.3%は企業が独立したオンボーディングチームを有しています。
では、なぜオンボーディングがCRCを下げるための戦術に採用されているのでしょうか。答えは、オンボーディングに十分な投資をすればCRCを最小限に抑えられるからです。オンボーディングに投資すれば、顧客は製品やサービスを効果的に使えるようになり、結果的に継続して利用を促すためのコストやリソースを削減できます。
ロータッチ型の製品ツアー(チュートリアル)、ハイタッチ(丁寧なサポート)型の60分間の個別相談、またはコンシェルジュ型のオンボーディングなど、様々なサービスをご検討ください。自社に合った方法を見つけて、それをカスタマイズしましょう!
3. 顧客に集中できるよう、雑務を排除する
カスタマーサクセスチームにおける静かな離職に関する調査では、カスタマーサクセスチームが多くの業務を担当し過ぎてしまい、業務に対する意欲を失っていく結果になってしまうことが分かりました。
上記のデータを考慮すると、本来は顧客サポート(本来の業務ではない)を担当するはずのCSMが契約更新、オンボーディング、顧客へのサービスの導入などと並行して業務を続けられるのは驚くべきことです。このような状況は、間違いなくCRCの増加に繋がります。CSMの過労状態は生産性が下がり、顧客の維持においてもコスト効率が悪化します。
CSMのワークフローを簡素化するには、自動化とAIを活用して、反復的な単純なタスクを取り除くことを検討してください。そうすれば、明確さと目的意識を高め、顧客とそのニーズに再び集中できるようになります。
4. 価格戦略を意図的に設計する
CRCを抑え、収益性を高める賢い方法は、顧客1人あたりの平均CRCそのものを予め製品の価格に組み込むことです。CRCを製品価格に組み込むために、価格を引き上げたり、製品価格を最適化したりできれば、基本的に成長に向けた準備は万端です。
ここで有利に働く可能性のある価格戦略とモデルとしては、スキム価格設定(最初に高価格を設定し、時間の経過とともに下げていく戦略)」や「プレステージ価格戦略(高級、ハイエンド価格)」があります。
5. 顧客の定着率を高める機能に投資する
製品の中には、あまりにも優れたものがあり、「それなしでは生活や仕事が成り立たない」と感じる状態を、ビジネスの世界では、顧客粘着力と呼んでいます。これは、本質的に、製品を非常に優れたものにし、顧客の日常生活や仕事に欠かせないものにする取り組みです。
例を挙げると、最も単純なのはメールです。特定のメールクライアントに一度登録してしまうと、既存の受信トレイ、アドレス帳、カレンダー、会話などにアクセスできなくなるため、切り替えが非常に難しくなります。
したがって、同様に、ソフトウェアを顧客にとってメールと同じくらい欠かせないものにするよう努めましょう。そうすれば、顧客離れの可能性が減り、自然と顧客維持コストも削減されます。
6.維持を超えて、ロイヤルティプログラムを開始する
顧客の維持は重要ではあります。ですが、それ以上に貴重なのは「顧客のロイヤルティ」です。ロイヤルティとは、顧客が製品に対し、非常に満足し絶賛のレビューを書いたり、友人に勧めたり、積極的にエンゲージメントを深める段階を指します。
そのため、顧客のニーズや製品で得た成果を優先し、それに応じて、報酬を与えるロイヤルティプログラムの導入を検討しましょう。これにより、顧客維持が促進され、製品やサービスのロイヤルティの高い顧客へと転換することができます。ロイヤルティプログラムは、市場の地理的分布によって効果が異なる可能性があります。
KMPGの調査によれば、ロイヤルティプログラムの導入が低い国ほど、導入によって得られるROI(投資対効果)が高くなる可能性があります。顧客体験(CX)に対する期待が低いためポジティブな体験を想定しておらず、アプローチを行うことで企業に対しての認識が向上します。
出典:KMPGhttps://kpmg.com/xx/en/home/insights/2019/11/customer-loyalty-survey.html
顧客維持コストに関するよくある質問
1. CRCの追跡が重要なのはなぜですか?
顧客維持のための取り組みや、顧客維持を主に担当するチームがある場合、取り組みの収益性を把握するためにCRCを追跡することは欠かせません。たとえば、ブートストラップ(自身のリソースのみで起業した)タイプのSaaS企業であれば、高額なCRCは難しいでしょう。その場合はプロダクトツアーツール(課金制のカスタマー向けガイダンスを製作するツール)など、コスト効率が高い維持施策のプロジェクトを使用します。
2.顧客を維持するのは、難しいのでしょうか?
典型的な顧客維持の戦略に対して、あるいは顧客維持がCSMにとってどれほど複雑で困難かを評論した質問であり、それに対して導くためのセクションです。
この問いに対する答えは、主に自社の製品やサービスによって大きく左右されます。
- あなたの提供している製品のジャンルは何ですか?
- 顧客はその製品やサービスからどのような価値を得ているでしょうか?
- 顧客は普段から、その製品・サービスを利用して目標を達成・価値を得られていますか?
- 価格はいくらですか?
こうした要素が、維持の難易度に直接関わります。顧客維持には常に課題や障害が付随しますが、顧客維持施策における全体は、比較的シンプルなはずです。製品や市場のニーズにかかわらず、約束した価値をしっかりと提供していれば、予算に見合った顧客維持戦略を見つけることができます。アプローチの例には、ロータッチ型の製品ツアーから、ハイタッチ型の個別セッションまで、あらゆる戦略が考えられます。
3. CRCは時間の経過とともに減少しますか?
はい。通常、アカウントとの取引期間が長くなるほど、顧客は製品の価値を理解し、評価してくれるようになります。ただし、継続的に製品やサービスの品質を保ち、バグを最小限に抑える努力は不可欠です。
また、拡張性を考慮した施策を選んでいれば、将来的にも長く活用できるツールやシステム、プロセスに投資することになります。つまり、サービスの質を犠牲にすることなく、時間の経過とともにCRCが自然と下がっていくということを意味します。
4. なぜ、カスタマーサポートはCRCに含まれないのか?
先述の通り、カスタマーサポート費用は伝統的にCOGS(売上原価)に含まれるとされています。製品を開発する際には、製品が継続的に機能し、顧客の期待に応える形で機能し続けることを保証する必要があるからです。したがって、カスタマーサポートは製品開発において不可欠な歯車であり、そのように扱う必要があります。
5. CRCに専門サービスのコストを追加する必要がありますか?
それは最終的には、自社が提供しているサービスの内容次第です。もしそれらのサービスが自社において、コアサービスの一部であれば、売上原価(COGS)に含めるべきです。一方で、それらがサブのサービスであり、製品やコアサービスの拡張と見なされるのであれば、CRCに含めることができます。また、決定する際には、それらのサービスから得ている収益も考慮する必要があります。もしそのサービスが価格設定されており、実際に収益を生んでいるのであれば、売上原価(COGS)として扱う方が適切な場合もあります。
6.顧客マーケティングは、CRCに含まれますか?
自社のマーケティング活動のうち、どれだけのリソースが既存顧客に向けられているか、あるいは見込み顧客や潜在顧客に向けられているかによって異なります。顧客マーケティングは、適切に注意を払えば、顧客維持のための強力なツールになり得ます。たとえば以下のような取り組みに留意しましょう。
- 顧客が活用できる調査やレポート、アナリティクスを作成・公開する
- 専門領域におけるトレンドについてのウェビナーを開催する
- 顧客向けのミーティングや対面会議の機会、カンファレンスなどを企画する
- 新しい機能やアップデートに関する統合的なマーケティングキャンペーンを施策する
これらの施策は、潜在顧客/見込み顧客への訴求にも有効ですが、既存顧客をターゲットにして設計された施策は、もっとも有効です。顧客に向けてアプローチを行うのであれば、よりプロダクトの詳細に踏み込み、技術的な情報や活用ノウハウ、自社製品にしかできないことをアピールします。
一方で、既存顧客を意識せずに展開したマーケティングでは、相手の理解度やニーズに合わせづらく、「上から目線」な印象を与えるかもしれません。逆に、既存顧客を想定した施策であれば、より同じ目線でコミュニケーションが可能になります。そして、そのような内容は、潜在顧客にとっても「かなりハイレベルだが信頼できる」と映り、好印象を与える確率が高いです。
もし、すでにあなたのマーケティングがこうしたステップにあるのであれば、その費用をCRCに含めてみましょう。まだそうした段階に至っていなければ、費用をCRCに含めるのは尚早かもしれません。
まとめ
顧客維持コスト(CRC)は、SaaSをリードする極めて重要な指標です。コスト分析がなければ、資金が枯渇するタイミングを予測することすらできません。
しかし、CRCを下げるための施策は数多くあり、比較的簡単に導入できます。
CRCに注意を払いながら、より拡張性のある施策を導入して顧客とのエンゲージメントを深めていってみましょう。
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