カスタマーサクセスにおけるセルフオンボーディングの必要性と進め方
鬼頭 舞
2024.12.06
セルフオンボーディングとは
カスタマーサクセスにおけるセルフオンボーディングは、顧客が製品やサービスをスムーズに使い始めるために、自分自身で設定や学習を進められる仕組みです。
カスタマーサクセス(CS)チームが主導するオンボーディングとは異なり、顧客が主体的に進めるプロセスを提供することで、企業側のリソースを最適化しつつ、顧客に自立した体験を提供します。
セルフオンボーディングの最大のメリットは、顧客が自身のペースで進められる点です。顧客の状況やニーズは千差万別であるため、一律のサポートではカバーしきれない場合があります。
そういった場面で、セルフオンボーディングは顧客に柔軟な選択肢を提供します。たとえば、ある顧客は詳細な手順書を読むことで理解を深める一方で、別の顧客は動画やインタラクティブなツールを好む場合があります。多様な学習スタイルに対応できることが、セルフオンボーディングの強みとなります。
セルフオンボーディングの必要性
企業側にとっても、セルフオンボーディングはリソースを効率化する大きな鍵となります。CSチームがすべての顧客に個別対応を行う場合、特に顧客数が増加する企業では、チームの負担が増え、重要な顧客への深いサポートが手薄になるリスクがあります。
さらに、サービスや製品に精通した人材の不足により、リソースの制約が一層強まります。このため、顧客がCSのサポートを最小限にしつつ、スムーズに環境構築を進められる「セルフオンボーディング」が、解決策として注目を集めています。
セルフオンボーディングを導入することで、顧客が基本的な設定や学習を自分で進められるようになり、サービスや製品の理解度が向上します。また、CSチームは複雑な課題や戦略的な支援にリソースを集中できます。
これにより、顧客満足度を保ちながら業務効率を向上させることが可能となります。
セルフオンボーディングの手順
セルフオンボーディングの成功には、顧客が直感的に利用できる構成が不可欠です。以下に基本的な手順例を挙げます。
STEP 1: ペルソナ作成のために、セルフオンボーディング対象顧客をピックアップする。(ペルソナを作成する)
対象顧客を明確にすることで、セルフオンボーディングの構築イメージをより具体化できるようになります
- 主なポイント
- 顧客の技術的なスキルレベル: 自己解決が可能な顧客か
- 利用頻度: 基本的な利用が中心の顧客か
- 製品・サービスの複雑さ: 簡単に環境構築が可能なケースか
対象顧客を明確にすることで、セルフオンボーディングの構築イメージをより具体化でき、効果的な施策を計画できます。
STEP 2: コンテンツの計画と作成
環境構築が比較的簡単な顧客向けに、シンプルで明快なガイドや資料を整備します。これにより、顧客が一人でも取り組みやすい環境を提供します。例としては次のようなコンテンツが含まれます。
- 例
- スタートガイド:初期設定や基本操作を説明するテキストと画像を含むガイド。
- 手順動画:ビジュアル重視で、環境構築や基本機能の利用方法を分かりやすく解説。
- FAQ:よくある質問とその解答を提供。顧客がつまずきやすいポイントを事前にカバーする。
- 特にビジュアルコンテンツは効果的で、視覚的な情報により顧客の理解度が向上します。また、顧客のフィードバックをもとに、柔軟にコンテンツを調整する計画を立てることも重要です。
STEP 3: プラットフォームの整備
作成したコンテンツを顧客が簡単に利用できるプラットフォームに配置します。配置する際には以下の点を考慮しましょう。
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- サポートサイトの構成: コンテンツがカテゴリー別に整理され、直感的にナビゲートできるようにする。
- インタラクティブ機能: 製品内ヘルプやチャットボット、ツールチップを追加し、顧客がつまずいた際にリアルタイムでサポートを受けられるようにする。
- 既存のリソースの活用: 既にサポートサイトがある場合は、どのような追加や改善が可能かを検討する。
これにより、顧客が必要な情報に素早くアクセスできる環境が整います。
STEP 4: セルフオンボーディングの告知と実装
基本的なコンテンツの整備が完了したら、対象顧客へ告知を行い実際にセルフオンボーディングを実施していきます。
- 告知方法: メールや通知を活用して、セルフオンボーディングの利用方法やメリットを簡潔に伝える。
- 進行状況のモニタリング: 顧客がどのステップで進捗しているかを定期的に確認し、つまずきがある場合は迅速に対応する。
- フィードバックの収集: 顧客が各コンテンツやプロセスについて感じた課題や改善点をヒアリングし、記録する。
この時、セルフオンボーディングを進めていく中で各コンテンツのどこで不明点が出てくるのかなどのヒアリングを実施しながら進めていきます。
セルフオンボーディング稼働時は担当CSも進捗状況を定期的に確認をしながら、実際に使用した感想などを把握し、必要に応じてフォローアップを行いましょう。
STEP 5: フィードバックの反映と改善、コンテンツの更新
STEP4でヒアリングした改善案をもとに、プロセスを改修します。どのコンテンツが有効か、どのステップでつまずきが多いかを分析し、必要に応じてコンテンツを追加・更新をしていきます。
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- データ分析: どのコンテンツが効果的か、つまずきやすいステップはどこかを把握する。
- コンテンツの更新: FAQの追加や動画の再編集など、顧客のニーズに応じてコンテンツを改修する。
- 継続的な改善: 製品やサービスに変更があった場合、コンテンツを随時更新し、常に最新の情報を提供する。
この反復プロセスを通じて、セルフオンボーディングの品質を向上させ、顧客満足度と効率性を最大化します。
セルフオンボーディングの手法
セルフオンボーディングを効果的に進めるには、顧客が自分のペースで進められる手法やサポートを適切に用意することが重要です。具体的な手法とその効果を詳しく解説していきます。
- サポートサイトでの手順動画作成
- 目的: 視覚的なガイドにより、複雑なプロセスを分かりやすく解説する。顧客が迷うことなく手順を進められるコンテンツを提供する。
- 動画内容のポイント
- ステップバイステップの具体的な操作手順
- よくあるエラーや回避方法の説明
- 成功した際の結果イメージの提示
- 細かな補足説明
- 利点
- 顧客が好きなタイミングで視聴できるため、柔軟性が高い。
- チュートリアル形式で顧客の習得率を向上させることができる。
- 要件整理シート
- 目的: 顧客が目標達成のために習得すべき機能や設定を整理する要件整理シートは、全体像を把握するのに役立ちます。単体としても活用できますし、さらにガントチャートを利用する際にも活用することができます。
- 内容のポイント
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- 顧客の最終目標を記載(例: 新しいダッシュボードの設定完了)
- 必要な要件や準備事項の一覧を明示
- 進捗を記録できる項目を追加
- 利点
- 顧客の学習計画を具体化し、ステップの抜け漏れを防止できる。
- サポートチームと顧客が共通のゴールを持つことができる。
- ガントチャート
- 目的
プロジェクトを階層的に整理し、それぞれの工程の作業時間、完了時期などの目安をプロジェクトとして可視化するためのワークシートを準備しておくことで、セルフオンボーディングがスムーズに進められます。 - チャート内容のポイント
- 目的
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- 各工程の開始日・終了日を設定する
- 必須タスクとオプションタスクを区別する
- 作業の優先順位を視覚化する
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- 利点
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- 顧客がセルフオンボーディングの全体スケジュールを理解できる。
- 遅延や課題が発生した際の早期発見が可能となる。
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- 作業完了時のチェック項目
- 目的
作業や設定に抜け漏れがないかを確認するチェックリストを提供することで、顧客が安心してオンボーディングを進められます。ガントチャート内に項目を追加し、一元的に管理する形でも良いかもしれません。 - 内容のポイント
- 目的
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- 各設定や操作の完了確認欄(例: 「初期設定が完了した」)
- よく忘れられる作業項目のリマインダー
- チェック後の次のステップを案内する
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- 利点
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- 顧客が自信を持ってプロセスを進められるようになる。
- 必要な作業がすべて行われたことを簡単に確認することができる。
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- ポップアップ機能やチャットサポートを提供
- 目的
セルフオンボーディング中に、顧客がつまずいた際のサポート手段として、リアルタイムで支援を受けられるポップアップ機能やチャットサポートを用意します。
- 目的
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- 機能の特徴
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- ポップアップ: 操作中の画面に、次に行うべきステップを提示する
- チャットサポート: 質問やトラブルに対して即座に回答できる体制を整える
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- 利点
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- 顧客のストレスを軽減し、プロセスの中断を防止できる
- サポートチームへの問い合わせを削減することができる
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伝えたい内容をどのようなコンテンツ形式でどのチャネルを利用して届けるのか、情報が必要となる適切なタイミングで必要な情報を顧客自身が探し出せることができるかがセルフオンボーディングでは重要となります。
上記の手法は全て実施する必要はなく、自社の製品やユーザー特性に基づき、最適な組み合わせを選択するように心がけることが大切です。
他社事例の紹介
セルフオンボーディングを導入し、顧客満足度やオンボーディング完了率を向上させた企業の事例もあります。セルフオンボーディングを導入している代表的な企業の一つとして、SmartHRの取り組みがあります。
SmartHRは、人事情報をクラウド上で管理し、企業の人事・労務業務を効率化するSaaSサービスを提供しており、特にオンボーディングプロセスに注力しています。その背景や具体的な施策について詳しくご紹介します。
SmartHRではオンボーディングフローを「キックオフ」「トレーニング」「状況確認」「クロージング」の4フェーズに分けてサポートを行っています。そして、セルフオンボーディングのサービスとして「 チェックリスト形式のチュートリアル」「 動画コンテンツの活用」「 ヘルプセンターの充実化」「 利用状況に応じたコンテンツ配信」を提供しています。
顧客ごとの利用状況を分析し、最適なタイミングで必要なコンテンツを提供する、例えば、設定が完了した顧客には、次のステップとして推奨する機能を案内するなど、顧客の進捗に合わせたサポートを実現しています。
また、上記サービスを提供し顧客状況によってコンテンツを最適化することによって顧客の様々な状況を把握でき、様々なコンテンツが増えていく。そのことにより顧客がコンテンツを活用していくといった好循環が生まれます。
まとめ
セルフオンボーディングの運用は、顧客の利便性を向上させ、企業リソースを効率化するために導入される仕組みですが、実際に運用してみると、期待どおりの効果が得られる部分と、改善が必要な課題の両方が見えてきます。
ただコンテンツやサービスを提供するだけでは成功しませんので、対象となる顧客に対して適切な情報を提供できるようにコンテンツの計画と構築が大きなポイントとなります。
もちろん初期構築の段階では完璧なフローを作成することは難しいと思いますので、構築してからPDCAを常に回していくことが成功の大きな鍵になります。
セルフオンボーディングは、顧客が自立的に環境構築を進められるようにすることで、企業のリソース効率を高め、顧客満足度の向上を図る手段です。
カスタマーサクセスのリソースを最適化しつつ、顧客がサービスを活用しやすくなるため、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょう。
この記事を書いたライター
鬼頭 舞
大手不動産会社に10年以上勤務し、企画・WEBマーケティング、広告運用など多岐にわたる業務を経験。これらの幅広いスキルと実績を活かし、現在はadishにてカスタマーサクセス業務に従事。顧客の課題解決に寄り添いながら、成果を最大化するための戦略立案やプロセス改善を手掛けている。顧客の課題をスピード感をもって解決する「即行動」を信条に、成功へと導くサポートを日々行っている。