SAPとは?ERPシステムの特徴や機能、製品種類まで簡単に解説!
武田龍哉
2024.10.11
「ERPで圧倒的なシェア率を誇るSAPはどのような製品なのだろうか…」「SAPのメリット・デメリットは何なのだろうか…」と興味をお持ちではありませんか?
ERPで投資対効果を得るためには、製品の特徴を理解した上で導入することが大切です。
今回はSAPについてわかりやすく解説します。この記事を読めば、SAPの特徴や機能、製品まで理解できるようになるため、ぜひ参考にしてみてください。
SAPとは
引用:『SAP』
SAPとは、ドイツのソフトウェア開発会社SAP SE社が提供するERPをいいます。SAPの呼び方は「エス・エー・ピー」です。
SAP SE社は1972年にSAP R/1、1979年にメインフレーム方式のSAP R/2など、さまざまなERP製品を開発してきました。
現在、SAPは世界40万社に導入されており圧倒的なシェア率を誇るERPとなっています。
2015年にはインメモリーコンピューティングを活用するSAP S/4HANAが登場し、大量データの処理や人工知能(AI)による高度な処理にも対応できるようにもなりました。
ERPとは
SAPについて理解を深めるために、ERPについて学習しておきましょう。
ERPとはEnterprise Resource Planningの頭文字で「経営資源計画」を意味します。つまり、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を最適に活用することをいいます。
しかし、大半は基幹業務システムを指すケースが多いです。
基幹業務システム(ERP)は、販売管理、生産管理、購買管理、人事労務、会計システムが一つのパッケージになっている製品です。ERPによりパッケージの構成が変わるため企業規模や業種で最適な製品を選びましょう。
SAP SE社のERPが普及した背景とは
1960年頃に、企業はメインフレーム(大型コンピュータ)を導入しました。
しかし、メインフレーム(大型コンピュータ)は導入や運用保守に莫大なコストがかかるため、処理負荷の高い業務から導入されました。つまり、部門毎に財務会計や生産管理、購買管理などシステムが導入されたのです。
その結果、販売と在庫のデータは連動しなければならないのに、連携させる方法がなく手作業でデータを再入力しなければなりませんでした。
経営資源をタイムリーに把握できない、データ重複入力でミスが発生するなど問題が発生し、これらの問題を解決できる製品としてSAP SE社のERPが注目を浴びたのです。
日本では1990年代にBPRブームが到来し、業務フローを再設計する上でSAP SE社のERPが導入されました。
SAPのメリット
SAPのメリットは3つあります。
業務効率化を図れる
SAPは業務プロセスを自動化して、データの統合を促進することで業務効率性を大幅に向上できます。
例えば、従来は手作業で行っていた発注処理や請求処理をSAPで自動化することも可能です。SAPを上手く活用して、1人1人の生産性を向上させていけば企業競争力を強化することができます。
ガバナンスの向上
SAPにはガバナンス対応強化を意識した高度なセキュリティ機能が搭載されています。最新のセキュリティ技術を採用し、データの機密性を担保しています。
例えば、データの暗号化、アクセス制御、監査機能などがあります。
また、SAPはEU域内での個人データ保護に関する法令など最新の規制にも対応しています。そのため、企業のコンプライアンスを遵守でき、社会的信頼性を高めることができます。
企業力を向上できる
SAPを活用すれば、リアルタイムでデータ分析ができるようになります。例えば、経営陣がSAPを活用すれば、リアルタイムデータに基づいて迅速な意思決定が行うことが可能です。
また、製造部門では生産計画の変更や在庫状況の確認などリアルタイムに行うことで市場変化に柔軟に対応できるようになります。
つまり、ビジネス環境の変化に迅速に対応できるようになり企業力を向上させることができます。
SAPのデメリット
SAPのデメリットも3つあります。
導入費用が高い
SAPは導入費用が高いです。初期費用には「ライセンス料」「システム構築料」「追加開発費用」が含まれています。
どのような製品で、どのような環境を構築するかにもよりますが、数千万円から数百億円する場合もあります。
導入費用を安く押さえたい場合は、クラウドタイプの製品を選びましょう。中小企業がクラウドタイプの製品を導入する場合は100万円程度に抑えられます。
システムの操作が難しい
SAPは、多くのモジュールが標準搭載されていることが魅力ですが操作方法が複雑です。SAPは独自の仕様のため操作に慣れるまで時間が必要です。
SAP特有の専門用語なども出てくるため、初めて利用する方は操作に慣れるまで時間がかかります。そのため、操作が難しいことを考慮して教育期間を設けましょう。
専門人材の確保が難しい
SAPは独自のプログラミング言語ABAPで構築されており、対応可能な人材は不足気味です。そのため、SAPを扱える人材は確保しにくいです。
社内にSAPを扱える人材がいない場合は、SAPコンサルタントやSAP代行会社に委託する必要がありますが、人材供給が追い付いていません。
SAPを利用してトラブルが発生したときの対応が遅れるなどのような問題が出てくる恐れがあるため注意しましょう。
SAPの構成モジュール
ERPは基幹業務に使うシステムがパッケージになった製品だと説明しましたが、SAPには8つのモジュールが搭載されています。
SD(販売管理)
SD(販売管理)とは、販売活動に関わる商品とお金の流れを管理する機能です。「何を」「誰に」「いつ」「どこで」「いくつ」「いくらで」などの情報を集約して管理します。
引合登録 | 得意先からのお問い合わせ情報を管理する |
見積登録 | 得意先に渡す見積もり情報を管理する |
受注登録 | 得意先からの受注情報を管理する |
出荷登録 | 倉庫に出荷指示をするための情報を登録する |
出庫確認 | 倉庫が製品を出荷した後に出荷確認を行う (※倉庫側から出荷完了の通知があり一括処理を行う) |
請求登録 | 請求情報を登録する |
PS(プロジェクト管理)
PS(プロジェクト管理)とは、プロジェクトの進捗管理やタスク管理、スケジュールやコスト管理を行うための機能です。プロジェクトに関する情報を一元管理することで、プロジェクトを効率的に運営できるようになります。
プロジェクト登録 | プロジェクト情報を管理する |
WBS・活動登録 | 各タスクの担当者、開始日、終了日、進捗状況などを管理する |
外注・手配管理 | 備品の調達などの手配に関する情報を管理する |
進捗実績管理 | 各タスクの実際の進捗状況を記録する 計画と進捗状況の差異を把握する |
プロジェクト原価 | プロジェクトにかかる費用を管理する |
PP(生産管理)
PP(生産管理)は製造業における業務を一元管理する機能です。生産効率を上げるためや、資材原価・受注内容・生産見積・在庫等あらゆる情報を正確に照合し生産利益を最大限に引き出上げるために使用します。
需要計算 | 製品の需要を予測して、生産量を算出する |
基準生産日程計画 | 生産開始時期や終了時期など生産計画を作成する |
MRP | 製品を製造するために必要な部品・材料の数量を算出する |
計画手配登録 | MRPで算出した部品・材料を手配する |
製造指図登録 | 各製品の製造指示書を作成する |
実績登録・入庫登録 | 実際の生産量や入庫数量を記録し、計画との差異を確認する |
資材払出 | 製品を製造するために必要な部品・材料を倉庫から取り出す処理を行う |
MM(在庫管理)
MM(在庫管理)は入出荷データや賞味期限など在庫情報を管理するための機能です。在庫状況をリアルタイムで可視化できるようになり、在庫管理業務の効率化・標準化ができます。
入出庫・在庫管理 | 入庫・出庫を記録して在庫数を把握する |
棚卸登録/決済 | 実在庫数と帳簿上の在庫数の差異を確認する |
MM(購買管理)
MM(購買管理)とは、購買物品の見積依頼から検収、納品までのプロセスを管理するための機能です。供給者の選定、価格交渉、発注処理、納品の検収などをチェックします。
購買見積登録 | 各サプライヤーの見積情報を登録する 価格、納期、品質などの条件を比較する |
購買依頼登録 | 購買依頼内容を記録して承認プロセスを開始する |
購買発注登録 | 購買依頼に基づいてサプライヤーへ発注する |
入荷予定登録 | サプライヤーの納期情報を登録する |
入庫登録 | 入庫情報を登録する 入荷数量、品名、納品書と照合する |
請求書照合 | 請求書と発注内容を照合する |
HR(人事管理)
HR(人事管理)とは、人材採用や人事評価、勤怠管理など人事業務を効率化するための機能です。
人事管理 | 従業員の個人情報、雇用契約情報を一元管理する |
勤怠管理 | 勤怠データから勤務時間や残業時間を計算する |
給与管理 | 給与計算、賞与計算、社会保険料計算などを自動で行う |
旅費管理 | 出張に関する経費精算を行う |
FI(財務管理)
FI(財務管理)とは、会社の売上・経費・資産を管理するための機能です。
従業員経費管理 | 従業員が立て替えた経費精算を精算する |
債務管理 | 仕入先への支払いを管理して支払遅延を防ぐ |
固定資産管理 | 会社が保有する資産を管理する |
総勘定元帳 | 企業全体の財務状況を記録する |
債権管理 | 売掛金などの債権を管理する |
CO(管理会計)
CO(管理会計)とは、企業の取引による損益管理やシュミレーションを行うための機能です。
指図会計 | 製品コストを、製造指図に紐付けて管理する |
原価センタ会計 | 各センタごとの費用発生状況を管理する |
原価計算 | 製品やサービスの製造に要した費用を算出する |
利益センタ会計 | 各センタの収益性を評価する |
収益性分析 | 製品、顧客、地域など、様々な視点から収益性を分析する |
SAP SE社が提供するERPの種類
SAP SE社が提供するERPの種類は6つあります。
SAP ECC (ERP Central Component)
SAP ECC(ERP Central Component)は、1970年代から企業に導入されてきたERPを総称して呼びます。
SAP ECC (ERP Central Component)は、機能の拡充やバージョンアップを繰り返してきた結果、システムが肥大化して構造が複雑になりました。SAP ECCは2027年にサポート終了となります。そのため、後継システムであるSAP S/4HANAへの切り替えが推奨されています。
SAP S/4HANA
引用:『SAP S/4HANA Cloud Public Edition』
SAP S/4HANAは次世代ERPです。インメモリーデータベースを利用しているため、従来のディスクのデータベースと比較して高速なデータ処理が行えます。SAP ECCで処理時間に数時間かかっていたものが数秒で完了します。
また、SAP S/4HANAは独自のユーザーインターフェースFiroriを採用しており、直感的に操作することが可能です。PCだけでなくモバイルにも対応しています。シンプルなデータ構造のため、SAP ECCから切り替えればシステム運用保守を抑えることができます。
※「オンプレミス環境」「クラウド環境」「ハイブリッド環境」など、さまざまな環境に対応していることも魅力です。
RISE with SAP
引用:『RISE with SAP』
RISE with SAPはSAP S/4HANAにAIを搭載したERPです。ビジネスプロセスの変革、継続的なイノベーションの推進ができます。
生成 AI ベースのデジタルアシスタントでユーザーをサポートしてくれる画期的な製品です。請求書の支払遅延リスクを予測したり、請求書照合の自動化が行えたりするため、生成AIに興味がある方におすすめの製品となっています。
GROW with SAP
引用:『GROW with SAP』
GROW with SAPはSAP S/4HANAにSAP BTP(サービス/業界ベストプラクティス・ラーニング・コミュニティ)を組み合わせたサービスです。ERP導入期間を短くして、運用負荷を軽減することで低コストで導入・運用する事を実現します。
サービス/業界ベストプラクティスは、業務効率をするためのガイドラインだけでなく、テンプレートまで用意されています。そのため、SAP S/4HANAを短期間で導入したい方におすすめです。
SAP Business ByDesign
引用:『SAP Business ByDesign』
SAP Business ByDesignは、中小企業向けのオールインワンパッケージERP製品です。会計、財務、購買、在庫、販売、顧客関係、レポート、分析までワンストップで行えます。オールインワンパケージタイプのため、スピード導入ができます。低コストで運用したい中小企業向けのクラウドERPです。
SAP Business One
引用:『SAP Business One』
SAP Business Oneは、中小企業向けのERPです。会計、財務、購買、在庫、販売、顧客関係、レポート、分析までワンストップで行えます。
中堅・中小企業向けに設計されていることが大きな特徴です。ビジネスの成長に合わせて、SAP Business One をカスタマイズ、拡張することも可能です。
SAPの2027年問題とは
2027年以降、SAP ERP 6.0がサポート終了となります。2027年以降はSAP ECCはサポートされなくなるため、企業は対応策を検討する必要があります。
SAP ERPの移行を遅らせると、セキュリティリスクやシステム障害のリスクが高まるだけでなく、システム運用・保守のコスト増につながるため、SAP ECCを使用している場合は対応策を検討されてください。
SAP S/4HANAに移行する
SAP SE社はSAP ECCがサポート終了となるため、SAP S/4HANAに移行することが推奨されています。SAP S/4HANAはビジネスプロセスを変革する最新機能が搭載されているERPのため、企業競争力を強化したい方におすすめです。
SAPコンサルティングも不足しているため、SAP S/4HANAに移行する場合は入念な計画を立てるようにしましょう。
他社ERPへ移行する
2027年以降、SAP ECCがサポート終了となるため、他社ERPに移行するのも選択肢の一つです。
SAPの導入コストが高いと感じる場合、他社ERPに切り替えることでコスト削減できる場合があります。
しかし、これまで蓄積したSAPに関するノウハウが活かせません。そのため、他社製品に移行する場合は新たなERPの操作に慣れるまで時間など間接的なコストを踏まえて費用対効果を検討することをおすすめします。
SAP ECCの保守サポートを延長する
SAP ECCの保守サポートは、保守料金に2%を上乗せすれば、保守サポートを2030年末まで延長することができます。
しかし、SAP ECCの保守サポート期限が3年延長されるだけで、2030年以降の対応策を検討しなければなりません。そのため、一時的な対応策と考えた方がよいでしょう。
まとめ
SAPとはドイツのソフトウェア開発会社SAP SE社が提供するERPをいいます。業務プロセスを自動化しデータの統合を促進することで業務の効率性を大幅に向上できます。
また、令など最新の規制にも対応しているなど、ガバナンス対応強化を意識して開発されているERPです。画期的なERPですがデメリットもあります。
この記事を読み、SAPに興味を持ったけれど導入すべきか悩んだ方、2027年の問題の対応策に悩んでいる方がいましたら、アディッシュにご相談ください。お客様に合ったERPのご提案をさせていただきます。
この記事を書いたライター
武田龍哉
Web制作会社、広告代理店を経験後、アディッシュに入社。 マーケティング担当としてリード獲得やナーチャリングの施策立案、実行を担当した後、インサイドセールスチームへ参画。 インサイドセールスチームでは、主にカスタマーサクセスの関連商材を担当し、商談機会創出とチーム体制構築に携わる。