営業とCSの連携がカギ!オンボーディングを成功に導く仕組みとは?

鬼頭 舞
2025.08.26

近年、SaaS(Software as a Service)やサブスクリプション型のビジネスモデルが主流となり、契約後の顧客体験がより重視されるようになってきました。従来のように「売って終わり」の時代は終わりを迎え、継続利用を前提とした関係構築がビジネスの成否を分けるようになっています。
その中でも、契約直後のフェーズである「オンボーディング」は、顧客との関係を築く最初の重要なタッチポイントであり、カスタマーサクセス(以下CS)の成否を大きく左右するプロセスです。
しかし実際には、営業とCSの間で情報共有が不十分だったり、役割分担が曖昧だったりすることで、オンボーディングの効果が半減してしまうケースが多く存在します。
本記事では、営業とCSがどのように連携し、オンボーディングの成功に繋げていくかを仕組みづくりや成功事例を交えて紹介します。
オンボーディングとは何か?なぜ重要なのか?
まず初めに、「オンボーディング」の定義について整理しておきましょう。
オンボーディングとは、顧客がサービスの契約を終えた直後から、実際にサービスを活用し成果を出すまでの初期プロセスを指します。製品の導入支援、トレーニング、環境設定、運用計画の策定など、初期の支援を包括したフェーズです。
このフェーズで顧客がスムーズにサービスを利用開始できるかどうか、また早期に価値を実感できるかどうかが、その後の継続利用や解約率(チャーンレート)に大きな影響を与えます。
実際、多くのSaaS企業では「初期3ヶ月以内に成果が出ない顧客は、その後の継続率が著しく下がる」と言われています。言い換えれば、オンボーディングの良し悪しがその顧客のLTV(顧客生涯価値)を大きく左右するのです。
オンボーディングの成功は、顧客の継続率(チャーン率)や満足度、さらにはアップセル/クロスセルの可能性にも直結する、まさに“カスタマーサクセスの最初の山場”です。
では、どのように体制を整えることでスムーズなオンボーディングが遂行できるのでしょうか?次に、オンボーディングが失敗する典型的なパターンとその対処法を見ていきましょう。
オンボーディングが失敗する典型的なパターン
なぜ、オンボーディングがうまくいかないのでしょうか。現場でよく見られる失敗の典型例には、以下のようなものがあります。
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- 営業が受注を急ぐあまり、顧客の導入目的や背景が十分にヒアリングされていない
- 営業からCSへの引き継ぎが口頭ベースで、情報が断片的
- 顧客が同じ説明を営業とCSの両方に何度もしなければならない
- 顧客の期待値と、CSが提供する支援内容にズレがある
- プロジェクトのキーパーソンが明確になっていない
このような状況では、顧客は「自分たちの課題や目的が理解されていない」「導入したはいいが、どう進めればいいかわからない」という不満を抱くことになります。結果として、初期段階での利用が進まず、契約更新前に解約されてしまうリスクが高まります。
オンボーディング成功のための「営業連携」3つのポイント
オンボーディングを成功させるためには、営業とCSが単に情報を渡すのではなく、「顧客を中心としたチーム」として連携することが重要です。以下に、営業とCSの連携を強化するための具体的なポイントを3つに絞って紹介します。
①情報共有:受注時の背景・期待値を引き継ぐ~目的の共有とゴールのすり合わせ~
営業とCSでは役割も評価軸も異なるため、連携の中で視点がズレることは珍しくありません。営業は「受注」をゴールとし、CSは「顧客の成功(リテンション・アップセル)」をゴールとします。
そのため、チーム内であらかじめ「顧客の期待する成果は何か?」「それをいつまでに、どう実現するのか?」といった共通の目的意識を持っておくことが重要です。営業が聞き出した顧客の期待や要望を、CSが具体的な支援内容やKPIとして落とし込み、チーム全体で可視化・共有しておくことで、ブレのないオンボーディング設計が可能になります。
引き継ぎミーティングやCRMを活用し、期待値のズレを最小化しましょう。
ポイント:
- ツールの背景や目的が具体的な言葉で言語化されているか?
- 「○ヶ月で○○を実現したい」といった期間と成果を含むゴールが明確になっているか?
②同席・同行:営業とCSのW体制で信頼を築く
営業とCSのスムーズな連携を示す実践的な取り組みのひとつが「三者同席MTG」の実施です。
キックオフミーティングや初回の導入支援に営業とCSが同席することで、顧客に対して一貫性のあるコミュニケーションが可能になります。
受注後の顧客は「担当が変わる」ことに不安を抱えるケースも多く、顔なじみの営業が継続して登場することで安心感が生まれます。
特に、顧客が営業と良好な関係を築いている場合、担当営業が「当社のCS担当が成功を全力で支援します」と紹介してくれるだけで、顧客は安心感を得ることができます。三者同席MTGは、引き継ぎの体制や方針を顧客に明確に示せるため、信頼構築にもつながります。
ポイント:
- 初回の場で営業から「CSへのバトンタッチ」を明言する
- 顧客にとって自然な流れで主担当が移行する自然な引継ぎの流れを設計をする
③成果設計:契約内容に基づいたKGI/KPIを共通認識に~情報連携の標準化と仕組み化~
営業とCSの連携がうまくいかない最大の原因は、「情報の非構造化」にあります。引き継ぎがメールやチャットで断片的に行われるだけだったり、口頭での情報伝達に頼っていたりすると、必要な情報が漏れてしまいます。
契約時の提案内容と、オンボーディング後の支援内容に齟齬があると、CSへの信頼は一気に低下します。
これを防ぐには、営業→CSへの情報連携フォーマットをあらかじめ定義し、SFA(営業支援ツール)やCRM上で運用を標準化することが有効です。 「営業が約束した価値」と「CSが提供する価値」が一致するよう、事前にゴール設定をすり合わせておくことが重要です。
具体的には、以下のような項目を網羅すると良いでしょう。
ポイント:
- 細かい項目
- 契約プラン・利用人数・契約期間
- 導入目的(背景、課題、期待する成果)
- 社内のステークホルダー(決裁者、利用部署、IT部門など)
- 競合製品との比較ポイント
- 社内展開のスケジュール
- リスク・障壁・想定される懸念点
- 広域の項目
- 提案内容とオンボーディング支援資料を事前にすり合わせ
- KGI/KPIを営業とCSで共有し、顧客にも説明する
このような情報が初期の打ち合わせ前にCSへ共有されていれば、顧客に合わせた準備や仮説構築ができ、無駄のない支援が可能となります。
オンボーディング成功のための「営業連携」実践アプローチ
一概に「営業と連携」といっても、何を連携すればいいかわからない。そのような場合にはぜひ下記を参照してみてください。
①クロージング時にオンボーディング工数を“見える化”
契約直前に「クロージングブック」を営業から提示し、導入までに必要な作業量とリソースを顧客に明確に伝えるようにしましょう。
「クロージングブック」とは、カスタマーサクセスが顧客へのオンボーディング完了時や導入支援の締めくくりとして作成する成果整理資料です。プロジェクトのゴールや導入状況、活用状況、成果指標(KPI)などを整理し、関係者間で共通認識を持つために活用されます。
「クロージングブック」には、以下のような内容が含まれることが一般的です。
- 導入背景・目的の再整理
- 実施した支援内容と成果
- 活用状況のサマリー(利用データ、活用部署など)
- 今後の運用体制とアクションプラン
- サクセスプラン(推奨の定着施策・拡張活用案)
- 担当変更時の引き継ぎ事項
この資料は、顧客側の担当者変更や社内共有にも使える「社内用の成果レポート」としての役割を果たします。CS側にとっても支援の一区切りを明示することで、次フェーズ提案や継続的な関係構築への橋渡しにもなります。
あらかじめ共有しておくことで、「こんなに設定が必要だとは思わなかった」といった認識のズレによる“ギャップ解約”を未然に防止することができます。
ポイント:
- プロダクト別の設定タスク一覧
- 担当部門・稼働目安時間を一覧化して共有
②一貫性を持ってスムーズな信頼関係の構築を目指す
オンボーディングを成功させるためには、導入初期フェーズにおいて営業とCSが連携し、顧客との三者キックオフを実施することが極めて重要と前項で述べていますが、顧客規模によっても留意すべき点があります。
特に、MM(ミッドマーケット)〜GB(グローバル・ビジネス)規模の顧客においては、CS単独での立ち上げでは情報や温度感にギャップが生まれやすく、スムーズな導入が難航するケースが多く見られます。
営業が受注までに築いてきた信頼関係や、商談の中で共有された顧客の背景・期待値・決裁経緯などといった貴重な情報を持っています。CSが正確に理解し、初期支援に反映できるかどうかが、オンボーディングの質を大きく左右します。
営業・CS・顧客の三者が一堂に会するキックオフを実施することで、これらの情報の引き継ぎが明確かつリアルタイムに行われ、顧客の期待を正しく理解した上で、最適な支援方針を立てることができます。
また、顧客にとっても「契約後も一貫して見てもらえている」という安心感を持つことができ、契約直後の高まった熱量を冷ますことなく、そのままアダプションフェーズへと移行しやすくなります。この“温度感を切らさない”ことが、継続率や活用度合いに大きく影響します。
グローバル・エンタープライズ領域においては、プロジェクト関係者が多岐に渡り、導入体制も複雑になりがちなため、「営業 → CS → アダプション」へのスムーズなバトンパスが非常に重要です。営業が築いた関係性や商談中に出た戦略的背景をCSが正確に理解し、それをもとに初期設計〜立ち上げまでを支援し、最終的に顧客内での活用定着(アダプション)へとつなげていく。
この一連の流れが、顧客との長期的な信頼関係の構築と、成果創出に直結します。
まとめ
オンボーディングは、単なる導入支援のフェーズではなく、「顧客との最初の成功体験」をつくる戦略的なプロセスです。その設計と実行の質が、チャーン率やLTV、アップセルの機会に大きく影響します。
その中核となるのが、営業とCSの連携です。オンボーディングの成功は、CS単独では達成できません。役割や評価指標が違うからこそ、共通のゴールを持ち、仕組みを整え、チームとして機能することが求められます。
営業は、顧客との最初の接点を担い、期待値と導入負荷を適切に説明し、導入に向けた土台を築くことで、CSはスムーズな支援を行うことができます。
営業との連携が深まれば、「売って終わり」ではなく、「売って、活用まで伴走する」体制が整い、結果として顧客満足度・継続率・収益すべてが向上していきます。
営業とCSが情報をシームレスに共有し、顧客に伴走する体制を整えることで、オンボーディング完了率や解約率の改善が期待できます。
今、あなたの組織では営業とCSが顧客に向けて“同じ地図”を見ながら並走できていますか?
情報・目的・ゴールをすり合わせ、両者一体となって、“顧客成功を支援する体制”を構築していきましょう。

この記事を書いたライター
鬼頭 舞
大手不動産会社に10年以上勤務し、企画・WEBマーケティング、広告運用など多岐にわたる業務を経験。これらの幅広いスキルと実績を活かし、現在はadishにてカスタマーサクセス業務に従事。顧客の課題解決に寄り添いながら、成果を最大化するための戦略立案やプロセス改善を手掛けている。顧客の課題をスピード感をもって解決する「即行動」を信条に、成功へと導くサポートを日々行っている。