現場から見えてきた「理想のカスタマーサクセス像」とは——常駐支援のリアルから紐解く価値提供のかたち

田中琴梨
2025.07.24

カスタマーサクセスとは、単なる顧客対応ではありません。顧客がサービスを通じて成功するために、先回りして課題を捉え、行動し、伴走し続ける存在です。では、その“成功”とは具体的に何を指すのでしょうか? そして、どうすれば顧客にとって本質的な価値を届けられるのでしょうか?
アディッシュは、クライアント企業に常駐する形でカスタマーサクセス・カスタマーサポートを支援する、少しユニークな形態をとっています。現場でともに働きながら、顧客の内側に深く入り込む——それゆえに、目に見える成果だけでなく、言語化されていないニーズや企業風土にも日々向き合うことになるのです。
本記事では、アディッシュに所属し、実際に複数の現場で活動してきた3名のカスタマーサクセス人材——Aさん、Bさん、Cさん——の声を通して、「現場から見えるカスタマーサクセスの理想像」と「その価値提供のスタンス」について深掘りしていきます。
現場で向き合う“答えのない支援”——それぞれの立ち位置と実務
まずは、それぞれがどのような現場で、どのような役割を担っているのでしょうか。インタビューの結果、三者三様の実態が浮かび上がってきました。
今まで2社を担当してきたAさんは、アディッシュ入社前のフィットネス業界での店長・マネージャーやコンサルティング企業での経験を経て、現在はSaaS企業のオンボーディング支援に従事しています。例えば、グローバルなコーチ陣に対するマニュアル整備や評価制度の提案を通じ、仕組み化と定着支援を行ったこともあるそうです。「オンボーディングは1回きりではなく、継続的な働きかけが必要」と語り、3ヶ月ごとのテスト導入など中長期視点の施策を自ら提案していたといいます。
一方、Bさんは累計3社を担当。サービスの立ち上げフェーズから開発支援、カスタマーサクセス組織の立ち上げ、さらには稼働率向上といった定着フェーズまでを幅広く経験してきました。アディッシュ入社当時のことを「カスタマーサクセスの知識はなかった」と謙遜しながらも、「バグ対応や開発とのやりとりを通じて、その都度調べて対応してきた」と語る姿は、現場での即応力と地に足のついた対応力を象徴しています。
Cさんは、業界特化型SaaSでオンボーディング支援を担当しています。顧客のプロダクトや組織の全体像が見えにくい中でも、「どうすれば質問が受け取られやすいか」「どうキャッチボールを増やせるか」に注力。リモート前提の環境下で、雑談を交えた関係構築を意識的に試みているのだそうです。
共通して見えてきたのは、「現場に入り込む」からこそ見える課題があり、それに対して「唯一無二の正解がない」ということ。それでも彼らは、一つひとつの選択に責任を持ち、支援の形を日々探っているのです。
正解のない現場で、自分なりの“成功”を描くということ
では、彼らが考える「理想のカスタマーサクセス像」とはどのようなものなのでしょうか。
Bさんが繰り返し語っていたのは、「お客さんの“目的”に立ち返ることの大切さ」でした。施策や依頼の背景には必ず“目的”があり、そこを見失うと、形だけの支援になってしまいます。だからこそ、「何のためにやるのか」を都度確認し、目的思考を貫くスタンスが、彼にとっての「理想のカスタマーサクセス像」に近いのでしょう。
Cさんは、「まずはカスタマーサクセスとは何かを理解することが目標」と語りますが、その背景には“自分の強みを尖らせたい”という意思があります。自身の対応力や着眼点を言語化・再現可能にし、カスタマーサクセス組織全体の底上げにつなげたい——という未来志向の思いが、まだ見ぬ理想像をかたちづくっているのです。
Aさんは、明確に理想像を語る場面は少なかったものの、「費用対以上効果」を出すことの重要性を強調していました。そのためには、目標や評価軸を明確にし、握り合い、数値化する力が不可欠だといいます。つまり、価値を“伝わる形”に翻訳し、相手と合意をとっていく姿勢こそが、Aさんにとっての理想的な支援なのかもしれません。
「支援」とは、手を貸すこと、引き出すこと、見守ること
常駐という働き方は、カスタマーサクセスに特有の「距離感」を変えます。プロダクトチームの一員として働く中で、どこまで踏み込み、どこで一歩引くべきか——その関わり方に“正解”はありません。
「常駐だからこそ見える課題もある」と語るのはCさん。営業との連携、社風との相性、リモートでの関係構築……様々な難しさがあるからこそ、単なるマニュアル対応ではない、丁寧な“問いかけ”や“返し方”が重要になってきます。
Aさんは、「支援とは、顧客の課題を肩代わりするのではなく、前進のきっかけをつくること」だと語ります。カスタマーサクセスが全部を背負うのではなく、「どうなったら成果なのか」「どう評価されるのか」といった問いを投げかけることで、顧客自身の意識を引き出し、ともに答えを探っていく——その関係性こそが、支援の本質なのかもしれません。
未来のカスタマーサクセスに求められるもの——汎用性か、専門性か?
インタビューを通して見えてきたのは、アディッシュのカスタマーサクセス人材が、極めて柔軟かつ主体的であるということです。
Bさんの「単純なオンボーディングよりも、提案や要件定義といった“コンサル的”な要素に面白みを感じる」という発言からは、プロダクトの性質や業界ごとの文脈に応じて支援のかたちが全く異なる現場において、汎用的なスキルと専門性のバランスが求められていることが読み取れます。
Cさんは、「まずは目の前の業務に最善を尽くす」ことを重視しつつも、「いつか自社サービスのカスタマーサクセスも経験してみたい」と語ります。その視線の先には、汎用性だけでなく、自らの軸を持ち専門性を磨く未来が見えているようでした。
Aさんのように、「個人のスキルだけでなく、アディッシュという組織の知見を活用できること」が強みになるという声もあります。常駐という働き方であっても、個と組織の力を融合させながら、顧客の“成功”を支えるプロとしての未来を描いているのです。
他者の思考に触れることで、自分のカスタマーサクセスを見つける
カスタマーサクセスの仕事には、唯一の正解はありません。プロダクトも顧客も文脈も、それぞれ異なります。だからこそ、自分なりのスタンスを持ち、判断し、行動することが求められるのです。
Aさん、Bさん、Cさん——3人の言葉から見えてきたのは、「問いかける力」「目的に立ち返る視点」「地道な関係構築」「汎用性と専門性のバランス」など、カスタマーサクセスという仕事の多層的な奥深さでした。
アディッシュの現場には、それぞれのスタイルで“誰かの成功”を支えるプロがいます。支援とは、ときに背中を押し、ときに静かに見守り、ときに一緒に悩むこと。そんなカスタマーサクセスの仕事の魅力とリアルを、少しでも多くの方に届けられたなら幸いです。
今後も、私たちは“支えるプロ”として、常駐というフィールドからカスタマーサクセスの可能性を広げていきます。

この記事を書いたライター
田中琴梨
新卒入社したSaaS系IT企業にて、カスタマーサポート領域からサクセス、PM業務を経験。2024年にアディッシュにジョインし、現在はtoB向けサービスのオンボーディング業務等に従事。顧客ごとの課題へ向き合い、課題解決にとどまらない業務の効率化や事業発展を目指している