SaaSにおけるオンボーディングプロセス|5つのフェーズと施策例を紹介
山田理絵
2024.10.24
SaaS企業がカスタマーサクセスを実施するうえで、オンボーディングは最も重要なフェーズだといえます。オンボーディングは顧客がサービスを導入した直後の状態で、使い方に関する悩みや設定方法の疑問などが発生しやすいのが特徴です。
オンボーディングの段階で顧客の悩みや疑問を解消できれば、スムーズにサービスの定着へとつながり、LTV(顧客生涯価値)やMRR(月次経常収益)の向上が見込めるでしょう。そのためには、一般的なオンボーディングの5つのプロセスを深く理解しておくことが大切です。
本記事では、オンボーディングプロセスの概要とプロセスを構築するための手順を詳しく解説します。この記事を読んで一般的なプロセスを把握した後は、自社のサービス等の状況に合わせて、カスタマイズしましょう。
カスタマーサクセスのオンボーディングとは
オンボーディングとは、飛行機や船に乗っている状態を指す「on-board」から派生した用語です。飛行機や船に新たに乗り込んだクルーは、業務に慣れておらず、経験豊富な上級クルーによる手厚い指導やフォローが必要です。このように、慣れていない人を手厚くフォローし、次のステップへと成長させるオンボーディングの考え方は、ビジネスでも用いられるようになります。
当初は人事領域において、人材を組織の一員として定着させるプロセスとして用いられていました。その後ビジネスシーンでさらに広まり、現在はSaaSビジネスのカスタマーサクセス分野で活用されています。SaaSビジネスでは、豊富な機能を持った専門的なサービスが提供されるケースも多く、導入して顧客がすぐに使いこなせるとは限りません。そこでカスタマーサクセスの担当者が、導入直後の顧客の悩みや疑問を聞き取り、サービスの定着をサポートします。
このような役割が、カスタマーサクセスにおけるオンボーディングです。サービスの導入直後は顧客から悩みや疑問が生まれやすく、放置すると解約につながってしまうケースも珍しくありません。オンボーディングによって定着をはかることで、解約リスクの抑制とLTVの向上に結び付きます。
オンボーディングの重要性や事例を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
SaaSにおけるオンボーディングの5つのプロセス
一般的に、顧客のサービス利用度合いを、サービス導入以降「導入期・定着期・拡大期」という3段階に分類することがあります。オンボーディングは上記プロセスの初期段階である導入期にあたり、さらに細かなプロセスが存在します。以下は、SaaSビジネスでオンボーディングを実施する場合の一般的なプロセスです。
- サービスの契約締結
- アカウントの登録・開設
- サービスの利用開始
- セルフオンボーディング
- カスタマーサクセスの次のプロセスへ移行
各手順の流れを順番にご紹介します。
1.サービスの契約締結
SaaSにおけるオンボーディングは、すべてサービスの契約締結からスタートします。SaaSビジネスの場合、契約内容やサービスの利用規約は、Webサイトの申込画面に記載されているケースも珍しくありません。
一方、事業内容や提供するサービスによっては、メールやチャットでやり取りしながら契約手続きを進めるケースもあります。その場合、契約書のデータ管理や進捗管理を適切に行える体制を整えておくことが大切です。ペーパーレス化やテレワーク対応が進むなか、契約管理システムを活用するほうがスムーズに管理できる場合もあります。
2.アカウントの登録・開設
次に、アカウントの登録・開設のプロセスへ移行します。SaaSビジネスの場合、アカウントの開設時に、ユーザー情報を登録するフォームを、サービス提供者がユーザーに送付するケースがあります。まだ顧客がサービスを導入していないとはいえ、アカウント開設のプロセスでつまずくと、顧客はサービスあるいは企業に対して悪い心象を抱いてしまうでしょう。
そのため、入力中に顧客がストレスを感じないよう、事前にEFO(Entry Form Optimization:入力フォーム最適化)を実施することをおすすめします。EFOとは、適切な項目数への調整やナビゲーション表示などで、入力フォームを最適化する施策です。オンボーディングツールのなかには、EFOの機能を備えたものも存在します。例えば、入力フォーム内に操作ガイドを表示させたり、エラー箇所を表示したりとさまざまな機能を利用できます。アカウント開設時の負担を軽減することで、サービスのコンバージョン率を高められます。
3.サービスの利用開始
続いては、顧客が実際にサービスを導入し、利用し始める段階へと移行します。利用開始後は、顧客がサービスの仕様や機能に慣れていない状態なので、多くの悩みや疑問が生じます。特に初期段階で、サービスに不便を感じると、顧客の不満に直結しやすいため、オンボーディングプロセスのなかで最も注力すべき段階といっても過言ではありません。具体的なフォロー内容としては、以下5つがあげられます。
- 顧客に直接ヒアリングして悩みや疑問を明らかにする
- チャットやSNSなどを通じて質疑応答の機会を設ける
- セミナーや勉強会を開いてサービスの仕様や機能を説明する
- 他社の事例を顧客と共有する
- KPI・アクションプラン策定業務をサポートする
早い段階で顧客の悩みや疑問を取り除いておくことで、サービスの定着率を高められます。
4.セルフオンボーディング
セルフオンボーディングとは、企業側がアプローチせずとも、顧客自らが自走状態に到達できる仕組みを整える施策です。SaaSのなかでも単価が低く、操作性や機能性がシンプルな場合、セルフオンボーディングの状態を形成するのが理想だといえます。上記のようなサービスは、顧客自身で悩みや疑問を解消しやすいからです。
例えば、サービスの使い方に関するマニュアル動画やFAQを整備すると、顧客自ら問題の解決へとたどり着ける可能性があります。サービス内部にチュートリアルやガイドツアーを実装するのも方法のひとつです。セルフオンボーディングの状態が定着した結果、過剰な問い合わせ件数が抑制され、業務効率化・コスト削減へと結び付きます。
ただし、リリースしたばかりのサービスで、顧客から積極的なフィードバックを受け取りたい場合、優先すべきはセルフオンボーディングよりも直接的なコミュニケーションです。自社の事業内容やサービスに合わせてセルフオンボーディングの必要性を判断しましょう。
5.カスタマーサクセスの次のプロセスへ移行
最後に、カスタマーサクセスの次のプロセスへと移行します。オンボーディングは、カスタマーサクセスの初期段階である導入期にあたります。導入期を過ぎると定着期・拡大期へとプロセスが進みます。まずは、オンボーディングの体制を整えたうえで導入期の足場を固め、以降は定着期や拡大期の施策を順に考えると良いでしょう。
オンボーディングプロセスを構築する手順
オンボーディングプロセスを構築する方法は、次の6つの手順に分かれます。
- 顧客の業務フローを整理
- オンボーディングのゴールを設定
- オンボーディングの具体策を検討
- 必要なツールの選定
- 効果検証・改善
1. 顧客の業務フローを整理
まずは顧客の業務フローを整理し、サービスの利用開始から活用までの流れを把握します。オンボーディングを実施する前に顧客の業務フローを可視化すると、各フェーズでどのような課題を抱えているのかが明らかとなり、適切なアクションプランを策定できます。例えば、自社が請求書発行ツールを提供する企業の場合、サービスを購入する顧客の業務フローは、次のような手順であると想定されます。
- 請求方法の種類や金額を確定
- 支払サイトの確認
- 請求書の作成・発行
- 上長による承認
- 請求書の送付
- 入金確認・未払いに対する催促
上記のような業務フローを想定すれば、自社サービスで解決できる課題と該当フェーズ、サービス導入後にありがちな顧客の悩みや疑問などがイメージしやすくなります。
2. オンボーディングのゴールを設定
次に、オンボーディングのゴールを設定しましょう。オンボーディングのゴールとは、顧客がサービスを使いこなせるようになる基準です。ゴールの定義は企業によって異なりますが、「1ヶ月以内に初期設定が済み、データ入力ができる状態」のようにイメージするとわかりやすいでしょう。ゴールには、顧客の具体的な行動と目安となる期間を設定するのがポイントです。ただし、あまりにも厳しい基準を設けてしまうとオンボーディング完了率が低くなり、的確に効果を検証しづらくなります。初めてゴールを定義する場合は、ハードルを低めに設定し、実績を検証しながら水準を調整すると良いでしょう。
3. オンボーディングの具体策を検討
続いてオンボーディングの具体策を検討しましょう。オンボーディングでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3つのタッチモデルごとに適切な施策を実施します。
- ハイタッチ:顧客と1対1で手厚くサポートする施策
- ロータッチ:基本的に複数の顧客を同時に支援し、必要に応じて個別対応する施策
- テックタッチ:テクノロジーを駆使して大多数の顧客をサポートする施策
サービスに対する悩みや疑問が生じやすいオンボーディングプロセスでは、まずハイタッチで顧客の声に耳を傾けることが大切です。しかし、ハイタッチは大きな金銭的・時間的コストがかかります。ロータッチやテックタッチの施策を併用し、効率性を高めると良いでしょう。
4. 必要なツールの選定
施策を実行へと移す前に必要なツールを選定します。オンボーディングはただ実行すれば良いものではなく、顧客からの意見やフィードバックを社内で共有し、効果を検証して施策の改善をはかる必要があります。情報共有や効果検証をするためには、ITツールを活用するのが効果的です。オンボーディングに役立つツールにはさまざまな種類があり、用途や機能、価格が大きく異なります。ツールを導入する目的を明確にしたうえで選び分けましょう。
5. 効果検証・改善
最後にオンボーディングの施策を実行に移し、運用しながら効果検証と改善を行います。オンボーディングの効果を的確に見極めるためには、KPIを設定しておくことが大切です。KPIは目標の達成度合いを計測する指標で、オンボーディング完了率やリテンション率(顧客維持率)、アクティブユーザー数などの種類があります。あらかじめKPIとして数値目標を設定し、運用中に計測した実績と比較しましょう。目標に対してあまりにも実績の数値が低いなら、課題を特定したうえで適切な解決策を講じる必要があります。
オンボーディングプロセスの構築に役立つツール
ここでは、オンボーディングプロセスの構築に役立つ3種類のツールをご紹介します。
セルフオンボーディング機能実装:Onboarding(オンボーディング)
出典:Onboarding
料金プラン | 要問い合わせ |
主な機能 |
|
公式サイト | https://onboarding.co.jp/ |
Onboarding(オンボーディング)は、セルフオンボーディング機能を実装するためのツールです。自社サービスのシステム内に、Onboardingで発行したJavaScriptタグを埋め込むだけで、簡単にガイドを実装できます。ガイドにはチュートリアル形式やヒント形式など多数の種類があります。
顧客の属性や習熟度に合わせ、自由に条件を設定してガイドを表示できるのが特徴です。また、顧客のガイド利用率やログイン頻度などを可視化できる「機能活用レポート」を使うと、定量データにもとづいて適切なアクションプランを策定できるでしょう。自社サービスにチュートリアルやガイドツアーを実装することで、顧客の理解度促進がはかれます。
FAQ作成:Tayori(タヨリ)
出典:Tayori
料金プラン | フリープラン:無料 スタータープラン:月額3,400円 プロフェッショナルプラン:月額7,400円 |
主な機能 |
|
公式サイト | https://onboarding.co.jp/ |
Tayori(タヨリ)は、プレスリリース配信サイトのPR TIMESが提供しているFAQシステムです。オンボーディングに役立つFAQや入力フォームを、プログラムコードなしで作成できます。FAQや入力フォームを作成する際は、豊富なテンプレートから好みのデザインを選び、細かいディテールを変更するだけで済みます。また、回答形式に合わせて柔軟にカスタマイズできるアンケートを作成できるのも特徴です。無料プランが用意されているため、まずは試験的に導入してみるのも良いでしょう。
SaaSの利用状況を可視化:pottos(ポトス)
出典:pottos
料金プラン | 初期費用:300,000円~ 月額利用料:98,000円~ |
主な機能 |
|
公式サイト | https://pottos.jp/ |
pottos(ポトス)は、カスタマーサクセス業務を全般的に支援するために生まれました。利用状況の収集から一元管理、顧客応対まで、カスタマーサクセスにかかわる業務を、1つのツールで完結できるのがメリットです。顧客の利用状況はレポート画面に「ヘルススコア」として可視化されます。ヘルススコアは顧客の利用状況をもとに現在のサービス継続利用の可能性を表す指標で、カスタマーサクセスのKPIの一種です。主にサービス継続利用の可能性が低い顧客の課題や問題点を抽出する際に用いられます。
オンボーディングプロセスにおける顧客の状態を常にモニタリングできるため、成果の改善へとつなげられます。さらに多くのオンボーディングツールを比較したい方は、こちらの記事をご覧ください。
オンボーディングプロセスを最適化し顧客の定着率を高めよう
オンボーディングはカスタマーサクセスの初期段階にあたり、自社サービスが顧客企業に定着するか否かを決める重要なフェーズです。そのため、まずはオンボーディングプロセスへの理解が欠かせません。オンボーディングプロセスは、顧客との契約が締結してからサービスが定着するまでの流れを表しています。
同じオンボーディングでも、フェーズごとに顧客が抱える悩みや疑問は異なるため、各フェーズにおける顧客の行動をしっかりと理解し、適切な施策を考える必要があります。適切なオンボーディングプロセスを構築するためには、目的やゴールの明確化や必要なツールの選定、PDCAサイクルの試行といった取り組みが必要です。オンボーディングプロセスを最適化し、顧客に継続して利用してもらえるサービスを目指しましょう。
この記事を書いたライター
山田理絵
不動産営業を経験後、アディッシュにて、カスタマーサクセス関連商材のインサイドセールスを担当し、初期接点から課題の顕在化をし機会創出を行う。 趣味はポールダンスと料理。