カスタマーサクセスのタッチモデルとは?ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチのタッチモデルを解説
山田理絵
2023.12.25
顧客の成功を支援するカスタマーサクセスでは、顧客や自社の状況に合わせた支援を行うため、複数のタッチモデルで顧客と接するのが一般的です。
タッチモデルには、1人の顧客を相手に細やかにフォローをする「ハイタッチ」、勉強会やミーティングで複数の顧客をサポートする「ロータッチ」、テクノロジーを駆使する「テックタッチ」という種類があります。
各タッチモデルの特徴を押さえておくと、顧客にニーズに合わせた適切な対応が可能です。結果として顧客満足度が高まれば、LTV(顧客生涯価値)やMRR(月次経常収益)の向上につながるでしょう。
本記事では、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの特徴や事例、施策を実施する際のポイントを解説します。
タッチモデルとは?
カスタマーサクセスには、「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」と呼ばれる3種類のタッチモデルが存在します。
それぞれのタッチモデルは対象顧客やコミュニケーション方法に違いがあり、実施するカスタマーサクセスの手法も異なります。
ハイタッチ | ロータッチ | テックタッチ | |
1回で対応する顧客数 | 1人 | 少数 | 多数 |
対象顧客 | ・契約規模が大きい ・フォローが必要 ・多忙 |
ハイタッチと テックタッチの間 |
・契約規模が小さい ・リテラシーが高くフォローが不要 |
特徴 | 顧客と1対1で丁寧にフォローアップする | 複数の顧客に対して同時にサポートを行う | 主にテクノロジーを駆使して、リソースを抑えながら多数の顧客にアプローチする |
主な施策例 |
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ここでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの特徴を詳しく解説します。
ハイタッチ
ハイタッチとは、カスタマーサクセス担当者が1対1でサポートすることです。顧客の要望や課題を丁寧にヒアリングした上で、ニーズに応じたきめ細かなサポートを実施します。
顧客ごとに専属の担当者を付けるため、ロータッチやテックタッチに比べて1社にかける工数が多いです。そのためハイタッチでは、LTVや契約規模が大きい、もしくはサービスに不慣れでとりわけフォローが必要な顧客等に、限定してアプローチするのが一般的です。
代表的な施策には、個別のセミナーやミーティングなどがあります。ほかにも、顧客のニーズに応じてKPIの策定、ロードマップの作成・レビュー、製品アップグレード時のケアなどを実施します。
参考資料:ハイタッチとは?カスタマーサクセスにおける重要性と活用すべき3つのKPI
ロータッチ
ロータッチとは、カスタマーサクセス担当者が複数の顧客を同時にサポートする手法です。ハイタッチと同様、ロータッチでもセミナーやミーティングを実施しますが、多数の顧客に同時にアプローチするのが特徴です。
1人で複数の顧客を同時に担当するため、ハイタッチより1社にかける工数は少なくなります。
そのため、個別のニーズに応じたきめ細かい対応が取りづらく、タイミング良く適切な支援ができないケースもあります。そのため、状況に応じて個別対応に切り替える柔軟性が求められるでしょう。
テックタッチ
テックタッチとは、テクノロジーを駆使して多数の顧客をサポートする手法です。ハイタッチやロータッチと比べて契約規模が小さい、または顧客自身のリテラシーが高く個別支援を必要としないケースを対象とします。
うまく顧客のニーズを捉えて適切なサポートができれば、LTVやロイヤリティの向上につなげられます。また、人手を介さずにカスタマーサクセスを実践できるのもメリットです。
テックタッチの代表的な施策には、FAQやチャットボット、チュートリアルなどがあります。過去に配信したセミナー動画のアーカイブ配信や、企業から積極的に情報を提供するメール配信もテックタッチの施策のひとつです。
4つ目のタッチモデル:コミュニティタッチとは?
カスタマーサクセスのタッチモデルには、前述した3種類のほかにもコミュニティタッチと呼ばれる手法が存在します。コミュニティタッチとは、顧客同士のつながりによって互いに影響を及ぼし合う施策です。
顧客同士がコミュニケーションをはかれるプラットフォームを用意することで、互いにノウハウを共有できるようになります。
結果として、企業が能動的にアプローチせずとも、顧客同士で自ら課題を解決できます。例えば、FAQに掲載していない質問をしたり、新しいサービスや機能の使い方を解説し合ったり等が考えられます。
企業にとっては、コミュニティを通じて得たフィードバックをもとに、サービスやサポート品質の向上につなげられるでしょう。
施策を実施する際は、タッチモデルを横断したコミュニティを形成することが大切です。特に、自社と最も関係の深いハイタッチの顧客層に情報を発信してもらうと、ロータッチやテックタッチの顧客層のノウハウが高まりやすいといえます。
参考資料:コミュニティタッチとは?メリットや具体例、運用時のコツを解説
顧客をハイタッチ・ロータッチ・テックタッチに分類する際の判断基準
では、顧客を3種類のタッチモデルに分類するには、どのような基準で決めれば良いのでしょうか。顧客を分類する際の判断基準の一例は次の通りです。
- LTVによって分類する
(LTVが高い顧客はハイタッチ) - 高価格帯のサービスの場合は顧客の定着状態から分類する
(定着率が低い顧客はハイタッチ、高い顧客はテックタッチ) - 顧客の前提知識で分類する
(前提知識があり、フォローが不要な場合はテックタッチ)
LTVは、1人の顧客がサービスの利用を開始してから、解約するまでにもたらす収益を指します。LTVが業績に直結するサブスクリプション型のSaaSビジネスにおいて、最も重要な指標といっても過言ではありません。とはいえ、LTVのみを基準にして顧客を分類すると、顧客のニーズを捉えきれず、かえって解約率が上昇してしまう可能性があります。
タッチモデルごとに顧客を分類する際は、LTV以外に顧客の定着状態にも目を向けましょう。サービス導入直後の顧客ほど疑問や悩みが多く、手厚い支援が求められます。手厚い支援が必要な顧客に対して、テックタッチのような画一的なアプローチをすると、疑問や悩みが解消できず、解約につながってしまう恐れがあります。
反対に、サービスが組織に定着し、顧客が自走できている状態であれば、入念なアドバイスを行ったり頻繁にサポートしたりする必要性は低いといえるでしょう。ただし、ハイタッチでのフォローには多くのコストがかかるため、実施に際しては費用対効果に細心の注意が必要です。
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ支援を実施する際のポイント
タッチモデルによって顧客の属性が異なるため、施策の内容も考える必要があります。ここでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの種類別に、カスタマーサクセスを実施する際のポイントをご紹介します。
ハイタッチの実施ポイント
ハイタッチの施策を実施する際のポイントは次の通りです。
- 顧客が抱える課題を徹底的に分析する
- ツールをうまく組み合わせる
- 顧客の情報発信を促す
顧客が抱える課題を徹底的に分析する
前述したように、LTVが高い顧客、あるいはLTVは高くないものの定着率が低い顧客を分類します。
いずれの場合でも手厚いサポートが求められるため、顧客が抱える課題を徹底的に分析し、質の高いアプローチをすることが必要です。
顧客の課題を調査するには、個別の顧客に対するヒアリングやアンケートが役立ちます。また、営業部門やマーケティング部門、カスタマーサポート部門との間で顧客情報を共有するのも効果的です。
ツールをうまく組み合わせる
テックタッチに比べてアナログによる手法が中心となるハイタッチですが、ときにはツールを効果的に活用しましょう。
1対1でサポートをするハイタッチは、顧客との信頼関係を築きやすいメリットがあります。メリットが大きい反面、一人ひとりの顧客を相手にすると時間やコストがかかりやすい点には注意が必要です。
操作方法の説明や簡単な質問への回答などは、人手を介さず、ツールを活用したほうが効率的です。人が担うべき部分とツールで代用できる箇所を整理しましょう。
顧客の情報発信を促す
情報発信を促すのも方法のひとつです。ハイタッチでは、1対1のコミュニケーションによって、手厚いサポートをしています。
個別化した丁寧なアドバイスや提案をした結果、自社サービスの仕様や使い方を十分に理解している可能性が高いといえます。そのため、自社サービスの魅力や好意的な意見を発信したり、使い方に慣れていない別の顧客の質問に答えたりして、全体に良い影響を及ぼすことが期待できます。
企業としては、ハイタッチの顧客層が情報発信しやすい環境を整えることが大切です。
例えば、SNSや会員制サイトを活用したコミュニティを構築するほか、定期的に顧客同士が交流できるイベントを開催するといった方法があります。もちろん情報発信等をする側の企業にもメリットを用意することも必要です。
他企業の疑問の解消に協力した企業が、自社やそのサービスの認知を広げられる、または採用活動にプラスになる等の仕掛けを用意すること等が考えられます。
参考資料:ハイタッチとは?カスタマーサクセスにおける重要性と活用すべき3つのKPI
ロータッチの実施ポイント
ロータッチの施策を実施する際のポイントは次の通りです。
- 必要に応じて個別対応やツールを活用する
- アップセルやクロスセルを意識する
必要に応じて個別対応やツールを活用する
ロータッチは、ハイタッチとテックタッチの中間に位置するタッチモデルです。イベントや勉強会を開催する際は、アナログな施策に限らず、ウェビナーやWeb会議システムといったツールを活用します。一方で顧客のニーズによっては個別対応をする等の柔軟な対応も検討しましょう。
アップセルやクロスセルを意識する
アップセルとは、現在利用している商品やサービスの上位モデルを提案する手法です。クロスセルは、メイン商材に関連する商品やサービスをセットにして提案する手法です。
ロータッチでは研修や勉強会、トレーニングプログラムなどを通じて、多数の顧客のニーズを調査できるため、アップセルやクロスセルを提案しやすいといえます。
アップセルとクロスセルはいずれも平均単価の向上につながるため、施策を実施する際に意識することが大切です。
テックタッチの実施ポイント
テックタッチの施策を実施する際のポイントは次の通りです。
- カスタマージャーニーマップを活用する
- 目的に応じた適切なツールを選ぶ
- 事前に導入テストを実施する
カスタマージャーニーマップを活用する
カスタマージャーニーマップとは、顧客の行動プロセスを図化し、各フェーズでどのような体験を求めているかを可視化するためのツールです。
本来はマーケティング領域で、適切なアクションプランを策定するために活用されるのが一般的ですが、その考え方やプロセスはカスタマーサクセスにも応用できます。
カスタマーサクセスにおける顧客の行動プロセスは、次のような流れが一般的です。
- 契約期:サービスに契約する前後の状態
- 導入期:契約後にサービスを導入する前後の状態
- 定着期:サービスの仕様や機能に慣れ始めた状態
- 拡大期:事業拡大に伴い新たな機能やプランを求めている状態
導入期の顧客に対しては、セミナーや勉強会によって各種機能の使い方や設定方法に関するアドバイスや、ミーティングでのKPI・課題の特定サポートいった施策を実施できます。
拡大期の場合は、現状よりもグレードの高いプランを提案するアップセルや、オプションや関連サービスをおすすめするクロスセル等の施策が代表的です。
カスタマージャーニーマップの役割は、上記のようなプロセスを図式化する点にあります。同時に、各フェーズにおける顧客の課題やニーズを記載すると、それぞれの段階で取るべき行動を考案しやすくなるでしょう。
目的に応じた適切なツールを選ぶ
テクノロジーを活用するテックタッチでは、さまざまなツールを活用できます。ツールを活用すれば、成功率の向上や業務効率化につながる一方で、やみくもに導入しても想定する成果は挙げられません。
導入するツールの種類が増えるほどアカウント管理や社員教育に手間がかかるため、目的に合わせて適切なツールを選び分けましょう。カスタマーサクセスに役立つツールには例えば次のようなものがあります。
- CRM(顧客管理システム):顧客情報を一元管理するためのツール
- 問い合わせ管理システム:複数の問い合わせ窓口を一元化
- チャットボット:AIがチャット形式で顧客の質問に回答
- FAQシステム:よくある質問と回答を作成
- Web会議システム:顧客とオンライン上で通話できるツール
- オンボーディングツール:自社システム内にチュートリアルやガイドツアーを設置
事前に導入テストを実施する
チャットボットやFAQシステムをはじめとする顧客向けのツールを導入する場合は、特にリリース前にテストを実施することが大切です。
導入テストをせずに進めた場合、システムに不備が見つかったり操作性が悪かったりと、かえって顧客満足度が低下してしまう可能性があります。
例えば、チャットボットを導入したものの、質問に対して明確な回答が得られないというケースも考えられます。そのため、顧客が実際に利用する前に、従業員の手で操作性や機能性をチェックしましょう。
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの企業事例
最後に、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの事例をご紹介します。
ハイタッチ:個別の顧客に支援担当を設定(シナジーマーケティング)
CRMツールを提供しているシナジーマーケティングは、一人ひとりの顧客に対して個別の担当者を設定しています。
顧客には、相談窓口となる営業担当者に加え、システム運用の支援担当者が付きます。支援担当者は、操作方法や運用方法に関する質問に対して即座にアドバイスを提供するほか、定期的に顧客のもとを訪問して現状の課題や悩みをヒアリングします。
また、メールマガジンで製品に関する改善要望を聞き取っているのも特徴です。メールマガジンの開封率は50~60%を超え、双方向的なコミュニケーションができる施策として機能しています。ハイタッチのなかでもアナログとデジタルをうまく融合させた好事例だといえます。
参考:シナジーマーケティング
ロータッチ:活用フェーズごとのセミナー開催(SATORI)
カスタマーサクセスを実践している企業のなかで、特にロータッチの施策が充実しているのが、MAツールを提供しているSATORI(サトリ)です。MAは「マーケティングオートメーション」と呼ばれる、マーケティング活動を自動最適化するためのツールです。
MAツールには、ランディングページ作成やフォーム作成、リード管理、スコアリングなどの多種多様な機能が搭載されています。
多機能かつ専門的なツールだからこそ、使いこなすのが難しいです。そこでSATORIは、導入直後の顧客の悩みや疑問が解消するよう、ハンズオンセミナーやオンラインミーティング、マニュアル動画といったさまざまなロータッチ施策を拡充しています。
実践的なコンテンツが多く、最短で操作方法や運用方法を学べるのが特徴です。
参考:サポート|SATORI
テックタッチ:AIやSNSを徹底活用(花王)
サブスクリプション型のBtoB企業で活用されるケースが多いカスタマーサクセスですが、BtoC企業で積極的に顧客支援を行っているのが花王です。
花王は2021年から本格的にDXを推進し始め、同時にカスタマーサクセス部門を設立しました。花王が真っ先に目を向けたのがLINEアプリです。
メッセージアプリであるLINEは、友人や家族以外に顧客とコミュニケーションをとる際にも役立ちます。花王のLINEアカウントでは顧客からの質問を受け付けています。
例えば、顧客が肌荒れに悩んでいる場合、対策方法やスキンケアのアドバイスを提供するような仕組みです。
LINEでのやり取りによって顧客の悩みや課題が解決されると、カスタマーサクセスのゴールである顧客の成功につながります。
参考:日経クロストレンド
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチをバランス良く組み合わせよう
カスタマーサクセスのタッチモデルには、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチと、さらに3つの手法を横断するコミュニティタッチがあります。
LTVの水準やサービスへの定着状態から、各タッチモデルに顧客を分類することで、各顧客のニーズに合うカスタマーサクセスを実施できます。
そのうえで、複数のタッチモデルを組み合わせて計画を立てると良いでしょう。タッチモデルごとに適切な施策を実行すると、顧客満足度やLTVの向上につながります。
カスタマーサクセスの専門会社アディッシュ株式会社では、企業のカスタマーサクセス・カスタマーサポートを数多く支援させていただいております。
本記事のタッチモデルを活用したカスタマーサクセス・カスタマーサポート業務のお悩み・業務代行など、カスタマーサクセス・カスタマーサポートのことなら何でもご相談ください!
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この記事を書いたライター
山田理絵
不動産営業を経験後、アディッシュにて、カスタマーサクセス関連商材のインサイドセールスを担当し、初期接点から課題の顕在化をし機会創出を行う。 趣味はポールダンスと料理。