カスタマーサクセスとマーケティングの違いとは?関係性・連携強化のポイントを解説
近年、ビジネスにおけるカスタマーサクセスとマーケティングの役割の重要性が増しています。これらは一見別々の領域のように見えますが、実際には深く関係し合っています。
本記事では、マーケティングとカスタマーサクセスがどのように相互補完し、企業の成長を推進するかに焦点を当てます。両部門の役割や違い、関係性などを深掘りし、連携を強化するポイントについて解説していきます。
カスタマーサクセスとマーケティングの関係性
まずは、カスタマーサクセスとマーケティングはそれぞれどのような役割を担っているのか、そしてどのような点が違うのか、といった内容を解説します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、自社商品・サービスを活用した顧客が成功・成長するように継続してフォローしていく取組み、および部門・職種を指します。既存顧客を対象としており、カスタマーサクセスの適切な働きかけによって解約率の低下やアップセル・クロスセルなどが実現します。
カスタマーサクセスは、主にサブスクリプション型のSaaS業界で活躍している職種です。サブスクリプション型のビジネスは、新規顧客を増やすだけでは売上は安定しません。既存顧客をいかに維持するかが、ビジネスの成長ポイントとなります。
そのため、カスタマーサクセスが顧客をサポートし、顧客にとって「この商品・サービスは、なくてはならないもの」とすることが重要なのです。
マーケティングとは
マーケティングの定義は幅広く、企業や専門家によっても異なりますが、一般的には見込み顧客(リード)の獲得を行う部門・職種です。展示会やセミナーなどのオフライン施策、SNSやWeb広告、SEO対策などのオンライン施策などを組み合わせ、多くの潜在層にアプローチして見込み顧客を獲得することを役割としています。
マーケティングが多くの良質な見込み顧客を獲得することで、商談件数や受注件数が増加し、売上にも大きく影響します。
カスタマーサクセスとマーケティングの違い・関係性
カスタマーサクセスとマーケティングは、ターゲットとする顧客層や役割などの面で大きく異なります。
ターゲット層については、マーケティングは潜在層や見込み顧客を対象としますが、カスタマーサクセスは受注後の既存顧客を対象としています。
また、見込み顧客を獲得することが主な役割のマーケティングに対し、カスタマーサクセスは受注後に解約しないよう顧客を成功体験に導くことが主な役割です。
このように、カスタマーサクセスとマーケティングは社内でも大きく異なるポジションではありますが、企業内で両部門がうまく機能することでビジネスを強化できます。新規顧客の獲得と既存顧客の維持を両立できるため、企業成長には欠かせない2部門と言えるでしょう。
カスタマーサクセスとマーケティングの連携を提唱する「The Model」とは?
カスタマーサクセスとマーケティングの関係性を理解するうえで知っておきたいのが「The Model」です。
The Modelとは、セールスフォース社が提唱するマーケティングセールスプロセスのモデルで、一連のプロセスを以下の4つに分類して分業化を目指す手法です。
- マーケティング:見込み顧客の獲得
- インサイドセールス:見込み顧客の育成と商談創出
- フィールドセールス:商談実施と受注獲得
- カスタマーサクセス:既存顧客の維持とアップセル・クロスセル
分業することで各部門の専門性を高めて成果につなげ、分業するだけでなく連携し合うことで一貫した顧客体験を提供できます。
このThe Modelからもわかるように、マーケティングとカスタマーサクセスは営業プロセスにおいては離れた位置関係ではあるものの、お互いの業務や成果が関係し合っているのです。
カスタマーサクセスとマーケティングの連携による効果
カスタマーサクセスとマーケティングの連携を強化することで、以下のような効果が期待できます。
新規顧客獲得と既存顧客維持の両立
カスタマーサクセスとマーケティングは、新規顧客の獲得と既存顧客の満足度の向上という異なる目標を持つ一方で、企業の成功に向けて互いに補完し合う重要な役割を担っています。
マーケティングは主に新規顧客の獲得に重点を置きます。商品やサービスの価値を伝え、見込み客の興味や関心を引きつけ、最終的には購入につなげるための戦略を立てます。一方、カスタマーサクセスは既存の顧客と深く関わり、製品やサービスの利用方法を指導し、問題解決の支援を提供します。これにより顧客満足度が向上し、結果的にはロイヤルティやリテンションが高まります。
これらの目標は互いに排他的なものではなく、連携して取り組むことでより強力な効果を発揮します。たとえば、高い顧客満足度は良好な口コミを生み出し、それが新規顧客の獲得につながることがあります。同様に、マーケティング活動により魅力的なブランドイメージが形成されると、既存の顧客もそれに引きつけられ、さらに深い関与を持つようになります。
一貫したブランドメッセージの発信
カスタマーサクセスとマーケティングが一貫したブランドメッセージを提供することは、顧客が受け取る情報の一貫性を保つために重要です。これは顧客の混乱を防ぎ、企業と顧客との信頼関係を強化します。一貫したブランドメッセージは、顧客に対する明確で一貫した期待を作り出し、結果的に顧客満足度の向上につながります。
戦略・施策の強化
マーケティングチームは、顧客が商品・サービスを購入する前の「課題」や「ニーズ」を把握しています。一方のカスタマーサクセスチームは、顧客が商品・サービスを導入したあとの「効果」や「感想」を把握しています。
これらのデータを情報共有することで、お互いの戦略・施策の強化につながります。
たとえば、サービスを導入した顧客にカスタマーサクセスチームが働きかける際、その顧客が抱えている課題や導入の背景などをマーケティングチームから情報共有してもらえれば、一人ひとりの顧客の課題やニーズにマッチしたフォローができます。またマーケティングチームは、カスタマーサクセスチームからLTVが高くなりやすい顧客や解約しやすい顧客の特徴を情報共有してもらうと、コンテンツ制作や広告出稿などのヒントを得られます。
アップセル・クロスセル、解約率低下による売上向上
カスタマーサクセスチームは顧客の使用状況やニーズを理解し、アップセルやクロスセルの提案をしたり、解約を防ぐために働きかけたりする役割を担います。
カスタマーサクセスチームが入手している顧客の使用状況やニーズなどのデータは、マーケティングチームでも活用できます。マーケティングチームはそのデータを活用して効果的なプロモーションを企画し、アップセル・クロスセルをさらに幅広い顧客にアピールしたり、解約率低下のためのコンテンツを制作したりできるでしょう。
このように、カスタマーサクセスとマーケティングが協力して動くことで、アップセル・クロスセルの可能性を高めたり、解約率を低下させたりでき、企業の成長を促進することが可能になります。
ブランドアドボカシーの促進
ブランドアドボカシーとは顧客が自発的にブランドを推奨・宣伝する活動のことで、ブランドアドボケイトとはブランドアドボカシーを行う顧客のことを指します。
カスタマーサクセスチームが顧客に対して適切に働きかけることで、顧客は製品・サービスに対して高い満足度を持ち「誰かに勧めたい」という気持ちになり、ブランドアドボケイトとなります。ブランドアドボケイトが発信する口コミやレビューは企業の宣伝ともなるため、マーケティングチームはWebサイトやSNSなどでアドボカシーを促すような戦略を立てることで、ブランドアドボケイトの口コミを拡散させて多くの潜在層にリーチできるでしょう。
カスタマーサクセスを活用したマーケティング戦略
カスタマーサクセスから得られる情報をマーケティング戦略に活用することで、より精度の高いマーケティング活動を展開できます。具体的にどのような方法があるのか紹介します。
カスタマーサクセスからのフィードバックの収集と分析
カスタマーサクセスから得られる直接的なフィードバックは、マーケティング戦略の設計に非常に価値があります。カスタマーサクセスは既存顧客との接点が多く、顧客のニーズや問題、感想を直接聞くことができます。これらの情報を適切に収集し、分析することで、製品の強みや弱点、市場のトレンド、顧客のニーズなど、マーケティング戦略を策定する上で必要な多くの洞察を得ることができます。
顧客から直接得られるフィードバックは、製品の改良やサービスの改善に対する貴重な指標となりますが、それだけではありません。顧客の声はマーケティング戦略においても重要な役割を果たします。例えば、顧客が製品やサービスについてどのように感じているか、どの機能に最も価値を感じているかを理解することで、より効果的なマーケティングメッセージを作成することができます。
顧客の声を活用したコンテンツ制作
顧客の成功事例や体験談を活用することは、新規顧客に対する説得力を高める有効な手段です。これらは具体的で信頼性があり、製品やサービスの実際の効果を強調します。顧客の声を引用したコンテンツは、信頼性と共感性を持つため、潜在的な顧客に強い影響を与えることができます。たとえば導入企業の事例集やインタビュー記事、取材動画などは、新規顧客への訴求効果の高いコンテンツと言えます。
カスタマーサクセスとマーケティングの連携を強化するポイント
カスタマーサクセスとマーケティングはお互いに連携し合うことで、より高い成果が期待できます。連携を強化するためのポイントを解説します。
内部コミュニケーションと協力体制を促す
The Modelでもわかるように、マーケティングは営業プロセスの初期段階であり、カスタマーサクセスはプロセスの最後に位置しています。そのため、意図的にコミュニケーションをとる場を設けなければ、なかなか接点を作る機会がありません。また、対象とするターゲット層も異なるため、協力意識が生まれにくいという課題もあります。
月に1度の共同ミーティングを設けたり、一緒にブレストを行ったりするなど、内部コミュニケーションと協力体制を促す働きかけが必要です。
情報共有できる仕組みを構築する
マーケティングチームが保有している情報はカスタマーサクセスチームの施策に役立ちますし、カスタマーサクセスチームが保有している情報からマーケティング戦略のヒントを得られます。したがって、お互いの情報をスムーズに共有できる仕組み作りが必須です。お互いにコミュニケーションを取り合うだけでなく、ビジネスチャットやMAツール、CRMやSFAなどのツール活用も効果的です。
適切なKPIを設定する
社内における両部門の役割分担を明確にしつつ、お互いの業務が影響し合っていることを理解するために、適切なKPIを設定することもポイントの一つです。たとえば「解約率」はカスタマーサクセスのKPI指標として一般的ですが、マーケティングチームが活用を促進するコンテンツを制作したり、既存顧客に向けたセミナーを企画したりすることでも、解約率の改善に影響します。適切なKPIを設定し、協力しながら業務を進めることの意識づけをしましょう。
注目を集める「カスタマーマーケティング」とは
カスタマーサクセスとマーケティングと関わり合う概念として、近年「カスタマーマーケティング」が登場しました。
カスタマーマーケティングとは
カスタマーマーケティングとは、既存顧客に向けたマーケティング活動です。具体的には、以下のような施策があります。
- 既存顧客向けキャンペーンの企画
- コミュニティの運営
- セミナー・ウェビナー開催
- お役立ちガイドや活用事例などのコンテンツ制作
既存顧客の利用促進やアップセル・クロスセルなどを目的としたマーケティング活動です。
一般的なマーケティングとの違い
一般的なマーケティングとは「見込み顧客」を対象とする活動として広く認識されていますが、カスタマーマーケティングは「既存顧客」を対象とする点で大きく異なります。そのためアプローチの仕方が異なり、戦略や施策内容なども違います。
カスタマーサクセスとの違い
カスタマーマーケティングは、「既存顧客へのアプローチ」という点でカスタマーサクセスと同じです。しかし、カスタマーサクセスは一社ずつサポートすることが多いですが、カスタマーマーケティングは既存顧客全体を対象とします。ここでも、お互いに連携して補完し合うことで、より成果を高めることが可能です。
まとめ
ビジネスの成長には、カスタマーサクセスとマーケティングを連携し一貫した顧客体験の提供が必要
カスタマーサクセスとマーケティングが連携されることにより生み出された、一貫した顧客体験は、顧客満足度の向上、ブランドアドボケイトの増加、そして新規顧客獲得を通じて、ビジネスの成長を推進します。カスタマーサクセスは顧客が製品やサービスを最大限に活用するための支援を提供し、一方でマーケティングはそれを補完する形で、顧客が製品やサービスにどのように関わるかを形成し、新たな顧客に対してブランドメッセージを伝えます。
そのためには、両部門が互いの役割と目標を理解し、共通の目標に向かって協力する必要があります。カスタマーサクセスとマーケティングの協力は、顧客体験の改善とビジネスの成長を促進するための不可欠な要素です。両部門が互いに補完し連携を深めることで、顧客に対する価値の最大化を目指し、ビジネスの成功につなげましょう。