カスタマーサクセスのテックタッチにおけるCRMの活用方法
山田理絵
2024.10.24
テックタッチでの顧客支援では、チュートリアル動画の配信やFAQサイトの提供、チャットボットによる疑問解消など、テクノロジーを駆使して顧客の支援を行います。顧客が抱えている課題に対して自己解決を促し、より効率的にカスタマーサクセスを実現するのが目的です。しかし、テックタッチにはさまざまな手法が存在するため、「どのような基準で各手法を取捨選択して良いかわからない」「あれもこれもと施策を導入してしまい、かえって効率が悪くなった」というケースも多いでしょう。そのような場合に効果を発揮するのが、顧客情報を一元管理するためのツール「CRM(顧客管理システム)」です。CRMを活用すれば、システムに集約した顧客情報を分析しニーズを明らかにできるため、最も優先的に実施すべきテックタッチの手法を洗い出せます。また、営業やマーケティング、カスタマーサポートとスムーズな部門間連携ができるのもメリットです。
本記事では、カスタマーサクセスのテックタッチにおけるCRMの活用方法を詳しく解説します。CRMを有効活用することでカスタマーサクセスのパフォーマンスが改善され、顧客維持率やLTV(顧客生涯価値)の向上へと結び付きます。
CRM(顧客管理システム)とは
CRMは、もともと「Customer Relationship Management (顧客関係管理)」というマネジメント手法として活用されていました。ただし最近では、顧客情報を一元管理するためのツール「顧客管理システム」を表す言葉として普及しています。顧客管理システムとしてのCRMは、企業の基幹システムや問い合わせ管理システム、アクセス解析ツールなどに蓄積された顧客情報を、1つのプラットフォーム上で一元管理できるのが特徴です。システム内には顧客の企業名や担当者名といった属性データに加え、Webのアクセス履歴、問い合わせ履歴などの行動データを蓄積できます。社内に散在するあらゆる顧客情報を集約できるため、そのデータをもとに部門間の連携を深め、営業やマーケティング、カスタマーサポートなどの業務を最適化するのが目的です。
また、CRMはカスタマーサクセスの領域でも欠かせないツールだといえます。CRMを活用して顧客の属性データや行動履歴の情報を分析することで、ニーズに添った最適な顧客支援を実現できるからです。しかし、CRMは活用範囲が広いだけあり、その効果を最大限に発揮できるよう、カスタマーサクセスにおける活用方法を十分に理解しておくことが重要です。
カスタマーサクセスのテックタッチにおけるCRMの活用方法
では、カスタマーサクセスにおいて、具体的にCRMをどう活用すれば良いのでしょうか。ここでは、特にテックタッチ領域でのCRMの活用方法をご紹介します。
- タッチモデルの分類
- 顧客ニーズにもとづいた適切なアクションプランの策定
- スムーズな部門間連携
- 顧客情報分析によるPDCA
タッチモデルの分類
カスタマーサクセスにおける顧客への支援方法は、「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」の3種類のタッチモデルに分類できます。
タッチモデル | 顧客への支援方法 | 代表的な手法 |
ハイタッチ | 個別の顧客に手厚くフォロー | ・個別ミーティング ・KPI策定、レビュー ・現場視察 |
ロータッチ | 一定数の顧客をまとめてフォロー | ・研修、勉強会 ・定例ミーティング ・トレーニングプログラム |
テックタッチ | ICTを駆使して大多数の顧客をフォロー | ・チュートリアル動画 ・FAQ ・チャットボット ・メール配信 |
そして、それぞれのタッチモデルには、異なる属性や行動傾向を持つ顧客を分類します。企業の基準によって方法は異なりますが、一般的な分類の仕方は次の通りです。
- 想定されるLTV(顧客生涯価値)
- 商品やサービスを使いこなすための難易度
- 商品やサービスに対する顧客のリテラシー
- 商品やサービスに対する顧客の習熟度
例えば、想定されるLTVが高い顧客に対しては、実施するために膨大なコストや手間がかかるハイタッチでも、十分に元が取れると判断できるでしょう。LTVが高いということは、サービスを継続利用するか否かで大きな利益にも損失にもつながるためです。
一方、商品やサービスの操作難易度が低く、システムを使いこなす十分なリテラシーを持っている顧客なら、テックタッチで課題の自己解決をはかることも可能です。このような各タッチモデルへの顧客の分類作業に欠かせないのがCRMです。CRMには、受注金額や商談履歴、アプローチ方法、応対履歴などの情報が蓄積されているため、LTVを予測したり顧客の状況を評価したりする際に役立ちます。
顧客ニーズにもとづいた適切なアクションプランの策定
テックタッチで実施する手法を決めるには、その基盤となる情報が必須です。CRMを活用すれば、顧客ニーズにもとづいた適切なアクションプランを策定できます。例えば、テックタッチには次のような手法があります。
- チュートリアル動画
- マニュアルサイト
- FAQ
- チャットボット
- メール配信
上記の手法を実施するにはコストがかかるほか、それぞれ期待される効果にも違いがあるため、優先順位を付ける、あるいは取捨選択して適切な施策を見極めなければなりません。CRMは、このような適切な施策を見極める際に効果を発揮します。CRMでは、購買パターンやロイヤルティが基準となる「顧客軸」、売れ筋商品や購買傾向をもとにする「商品軸」などから顧客ニーズを分析できるからです。テックタッチの手法を顧客ニーズに合わせて取捨選択すれば、より高い効果が見込めるアクションプランを策定できるでしょう。
スムーズな部門間連携
CRMには、さまざまな外部システムと連携できる特徴があります。そのため、営業やマーケティング、カスタマーサポートで利用しているシステムとCRMを連携させることで、よりスムーズな部門間連携が可能です。CRMと連携できる代表的なシステムには、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)があります。MAとは、見込み顧客の情報や広告キャンペーンの管理、メール配信、アクセス解析などの機能を使い、マーケティング活動を効率化させるためのシステムです。
SFAは、見込み顧客との商談内容や進捗状況、受注金額など、営業活動に関するあらゆる情報を一元管理するためのシステムです。このような複数のシステムと連携することで、見込み顧客から顧客へと転換するまでの行動データをCRMに集約できます。例えば、マーケティング部門がMAで見込み顧客をスコアリング(受注確度別に順位付け)し、営業部門に当該見込み顧客の情報を引き継ぎます。続いて営業部門が、契約情報や商談中に感じた見込み顧客の傾向などをSFAに記録します。これらの情報は連携しているCRMに集約されるため、たとえ後任の担当者に引き継がれた場合でも必要情報をすぐに取得できます。
顧客情報分析によるPDCA
カスタマーサクセスのPDCAにCRMを活用するという方法もあります。テックタッチを実施していると、商品やサービスに対する顧客の習熟度が日々変化します。その更新された顧客情報はCRMのシステム上に上書きできます。CRMの分析機能を活用し、日々更新される顧客情報を分析することで、カスタマーサクセスにおけるリアルタイムでの課題発見や改善策の立案につながるでしょう。CRMの分析機能には次のような種類があります。
- セグメンテーション分析:
顧客の属性や行動履歴に応じて顧客を細かいグループに分け、それぞれの傾向を分析する手法 - CPM分析:
契約金額やリピート率、離脱期間などのデータをもとに、顧客を「現役客」や「離脱客」といった複数のパターンに分類する手法 - RFM分析:
最終購入日や購入頻度、累計購入金額の指標で顧客をグループ分けし、優良顧客を明確にする手法
分析の結果、想定よりも水準が低いボトルネックの箇所がカスタマーサクセスにおける課題です。その課題に対して改善を行い、何度もPDCAサイクルを回転させることで、カスタマーサクセス部門のパフォーマンス向上へと結び付きます。
カスタマーサクセスのテックタッチでCRMを活用するためのコツ
カスタマーサクセスのテックタッチでCRMを活用する際は、次の3つのコツを意識することが大切です。
- CRMを導入する目的を明確にする
- 目的に合わせて適切なKPIを定める
- 現場スタッフの意見を尊重してツールを選ぶ
CRMを導入する目的を明確にする
CRMの費用対効果を正確に検証するためにも、導入前に目的を明確にする必要があります。適切な目的を設定するには、まずカスタマーサクセス部門が抱えている課題を洗い出しましょう。例えば、顧客転換率の水準が高いにもかかわらず、顧客維持率が伸び悩んでいる場合、顧客ニーズに合った適切なサポートを実行できていない可能性が考えられます。そこで上記の課題を解決できるよう、「CRMで顧客ニーズを特定し、適切なサポートを行って顧客維持率を20%向上させる」といった目的設定が可能です。目的に具体的な数値を含めることで、CRMを導入した成果を確認しやすくなります。
目的に合わせて適切なKPIを定める
目的を達成するためには手段を明確にする必要がありますが、その手段を洗い出すのに便利なのがKPI(数値目標)です。KPIを策定する際は、1つの目的に対して複数の指標を設定します。具体的には、「売上を30%向上させるため(目的)に、来店客数1.5倍、顧客単価1.2倍の目標(KPI)を達成する」といったイメージです。KPIを策定すれば、「来店客数を伸ばすために広告を出稿する」ような具体的な手段をイメージしやすくなります。例えば、カスタマーサクセスのテックタッチでは、次のようなKPIが考えられます。
- 顧客維持率・解約率
- NPS(顧客ロイヤルティを計測するための指標)
- NRR(売上継続率)
- LTV
- オンボーディング完了率
- アップセル / クロスセル率
各KPIの性質や計算方法、設定の手順を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
現場スタッフの意見を尊重してツールを選ぶ
CRMを比較・検討する際は、費用対効果を検証することも重要ですが、何より現場スタッフが使用してストレスを感じにくいものを最優先に選ぶと良いでしょう。ツールが使いづらいと誰にも使用されず、形骸化する可能性があるためです。経営層やマネジメント層が独断でツールを選択するのではなく、実際にツールを使用する現場担当者の意見を尊重しましょう。また、導入前に無料トライアルを活用し、現場担当者にツールの操作性や機能性を評価してもらうのも方法のひとつです。もちろん、場合によっては経営層やマネジメント層が独断でツールを選択した方が良いケースもあるため、自社の状況に合った選択が必要です。
カスタマーサクセスのテックタッチにおすすめのCRM5選
CRMにはさまざまな種類があり、それぞれ強みが異なります。自社に合った適切なCRMを選択するには、各ツールの仕様や機能性を十分に比較することが大切です。ここでは、カスタマーサクセスのテックタッチに活用できる代表的なCRMをご紹介します。
Salesforce Sales Cloud(セールスフォース・セールスクラウド)
出典:Salesforce
料金プラン(税別) | Essentials:月額3,000円/ユーザー Professional:月額9,000円/ユーザー Enterprise:月額18,000円/ユーザー Unlimited:月額36,000円/ユーザー ※すべて年間契約 |
主な機能 | 見込み客・顧客情報の管理 商談内容や進捗状況の管理 承認プロセスの自動化 ファイルの同期と共有 分析レポート・売上予測 |
公式サイト | https://www.salesforce.com/jp/ |
Salesforce Sales Cloud(セールスフォース・セールスクラウド)は、顧客情報を一元管理するCRMの機能に加え、豊富なSFA機能を搭載しています。商談内容や受注額、営業担当の進捗状況などの一元管理、ドラッグ&ドロップ操作による承認プロセスの自動化、売上予測などが代表的な機能です。また、スマートフォン上で商談時の会話内容の記録やダッシュボードの確認ができるため、外出時の営業活動をより効率化できます。営業活動によって、より実態に即す見込み客・顧客情報を取得することで、カスタマーサクセスにおいても質の高いアクションプランを策定できるでしょう。Salesforce Sales Cloudには充実したSFAの機能が搭載されているため、カスタマーサクセス部門を立ち上げておらず、営業担当者が顧客の支援を行っているケースに向きます。
Zoho CRM(ゾーホー)
出典:Zoho CRM
料金プラン(税別) | スタンダード:月額1,680円/ユーザー プロフェッショナル:月額2,760円/ユーザー エンタープライズ:月額4,800円/ユーザー アルティメット:月額6,240円/ユーザー |
主な機能 |
見込み客・顧客情報の管理
商談内容や進捗状況の管理
承認プロセスの自動化
分析レポート
マルチチャネル連携
|
公式サイト | https://www.zoho.com/jp/ |
CRMに加え、SFAやMAといった総合的な機能を標準搭載しているのが、Zoho CRM(ゾーホー)の特徴です。例えば、顧客情報の一元管理やデータ分析、メールの自動配信、アクセス解析などはCRMの機能にあたります。Zoho CRMでは上記のほか、営業活動のデータ管理や売上予測をはじめとするSFA機能、広告キャンペーン管理やスコアリングなどのMA機能を利用できます。外部システムと連携せずとも、1つのプラットフォームにCRM・SFA・MAの機能が集約されているため、低コストでスムーズな部門間連携を行えるのがメリットです。
HubSpot CRM(ハブスポット)
出典:HubSpot
料金プラン(税別) | 基本利用料:無料 Marketing Hub:月額96,000円~ Sales Hub:月額54,000円~ Service Hub:月額54,000円~ |
主な機能 |
見込み客・顧客情報の管理
メールの自動送信 ブログ作成 アクセス解析 チャットボット実装 |
公式サイト | https://www.hubspot.jp/ |
HubSpot CRM(ハブスポット)は、CRMの機能を無料で利用できるのが特徴です。具体的には顧客情報の一元管理のほか、メールの自動送信やブログ作成、アクセス解析などの機能が搭載されています。無料とはいえ、さまざまな外部システムと連携し、1つのダッシュボード上で顧客情報を一元管理できます。そのため例えば、「エクセルやGoogleスプレッドシートで管理していた顧客情報をCRMに移行したいが、あまりコストをかけたくない」というケースに最適です。また、HubSpotが有償で提供しているMA「Marketing Hub」やSFA「Sales Hub」、問い合わせ管理システム「Service Hub」と連携し、機能を拡張できます。
eセールスマネージャーRemix Cloud
料金プラン(税別) | スタンダード:月額11,000円/ユーザー ナレッジシェア:月額6,000円/ユーザー スケジュールシェア:月額3,000円/ユーザー |
主な機能 |
見込み客・顧客情報の管理
商談内容や進捗状況の管理 名刺登録・管理 社内SNS・チャット 分析レポート |
公式サイト | https://www.e-sales.jp/ |
eセールスマネージャーRemix Cloudは、豊富なSFA機能を標準搭載したCRMです。見込み客や顧客情報を登録・管理できるのはもちろん、営業担当者のスケジュールや商談内容の管理、日報作成、地図アプリを用いたルート作成などの機能が搭載されています。営業活動を効率化できるほか、顧客との継続的な接点を維持できるため、顧客へと転換した後のカスタマーサクセスにも役立ちます。また、サポート体制が充実しているのも特徴のひとつです。CRMの導入後3ヶ月、8ヶ月、15ヶ月を目安に、ベンダー側の担当者がシステムの使い方や設定方法、データ分析方法などを手厚くフォローしてくれます。
Zendesk Sell(ゼンデスク・セル)
出典:Zendesk Sell
料金プラン(税別) | Team:月額$19/ユーザー Growth:月額$49/ユーザー Professional:月額$99/ユーザー Enterprise:月額$150/ユーザー |
主な機能 |
見込み客・顧客情報の管理
営業パイプライン管理 電話のワンクリック発信 トークスクリプト 分析レポート |
公式サイト | https://www.zendesk.co.jp/sell/ |
株式会社Zendesk(ゼンデスク)は、CRMプラットフォーム「Zendesk Sell」と、問い合わせ管理システム「Zendesk」の2種類のサービスを提供しています。Zendesk Sellは、顧客情報を一元管理するCRMの機能のほか、営業活動を効率化させる独自性の高い機能を搭載しているのが特徴です。例えば、画面上に表示されている顧客情報から電話の発信ができるワンクリック発信や、テキストでのメッセージ送信機能、連絡時のミスや漏れを防ぐメール追跡機能などがあります。また、問い合わせ管理システムのZendeskと連携できるのも特徴です。2つのシステム連携により、営業部門とカスタマーサクセス部門(またはカスタマーサポート部門)が1つのプラットフォーム上で必要な情報を確認できます。
関連記事:Zendesk(ゼンデスク)無料トライアルの申込方法と試用期間を解説
まとめ:テックタッチ領域でCRMを活用しカスタマーサクセスを成功に導こう
カスタマーサクセスでテックタッチの施策を実施する場合、顧客の自己解決をはかるため、いかに顧客ニーズに合った適切な手法を導入するかが重要となります。そのため、顧客情報を集約・分析できるCRMは欠かせないツールだといえるでしょう。CRMを活用することで、テックタッチごとの適切な顧客の分類や効果が見込めるアクションプランの策定、質の高いPDCAサイクルの回転などが実現できます。
結果、カスタマーサクセスのパフォーマンスが高まり、顧客維持率やLTVの向上につながります。ただし、数あるCRMのなかから自社に最適なツールを見つけるのは難しいものです。もし製品選びで迷っている場合は、当社アディッシュが提供するコンサルティングサービス「CS STUDIO」の利用をご検討ください。
この記事を書いたライター
山田理絵
不動産営業を経験後、アディッシュにて、カスタマーサクセス関連商材のインサイドセールスを担当し、初期接点から課題の顕在化をし機会創出を行う。 趣味はポールダンスと料理。