SaaSの枠を超えて!サービス業の顧客体験を変えるカスタマーサクセスの可能性
尾崎未弥
2024.12.24
こんにちは。
アディッシュ株式会社カスタマーサクセスの尾崎です。
今回は私の過去の実体験をもとにした、サービス業におけるカスタマーサクセスの可能性について解説します。
SaaSだけじゃない!カスタマーサクセスがサービス業を変える理由
カスタマーサクセスの役割は、主にSaaS業界での顧客管理や解約防止のために発展してきました。
しかし、近年ではその重要性が他の業界、特に非SaaSからのご相談が弊社にも非常に増えてきています。
サービス業では、「人」がサービスを提供するため、そのサービス品質に個々のスキルや対応力が大きく影響します。
ここで重要なのが「サーブクオール(Servqual)」の概念です。
サーブクオールは、サービス(Service)と品質(Quality)を組み合わせた造語で、サービスの品質を測定するための尺度のひとつです。具体的には、信頼性、応答性、確実性、共感性、有形性などの要素を評価することで、顧客が感じるサービス品質を数値化します。
SaaSがソフトウェアを通じて安定したサービスを提供できる一方で、サービス業では従業員一人ひとりの対応が顧客体験を左右し、そのためにサービス品質のばらつきが生じることが課題です。
サーブクオールを活用し、これらの品質要素を管理・向上させることが、サービス業での顧客満足度を高めるカギとなります。
この点において、カスタマーサクセスの考え方が非常に参考になります。
特に従業員への「オンボーディング」プロセスを通じて、サービスを提供する人材のスキルやマインドセットを統一し、一貫したサービスを提供することにおいてはカスタマーサクセスのオンボーディングの考え方を活かすことができます。
フィットネスクラブでの学び
サービス業におけるカスタマーサクセスの重要性については、アディッシュでカスタマーサクセス支援に従事する前から感じていました。
私は以前、フィットネスクラブでインストラクターとして約10年間働いていました。
フィットネスクラブでは、顧客が自分自身で運動する「セルフサービス」の形式もあれば、インストラクターが顧客をサポートする「フルサービス」の形式もあります。後者の場合、インストラクターの対応一つで、顧客の体験が大きく変わります。
私が務めたのはフルサービスのフィットネスクラブでした。
そのフィットネスクラブは全国2000店舗以上あるFCでしたが、全国の店舗で同じマシン、同じ営業時間でサービスを提供していても、従業員のスキルや接し方が顧客の満足度、ひいては経営存続に大きく影響することを実感しました。
具体的には、非常に満足度が高い店舗は退会率が1%を切る店舗もある一方、満足度が低い店舗は退会率が5%~7%にまで達する店舗もありました。
また、店長が1人代わるだけで、会員数が1年もたたないうちに半分以下になり最終的には、閉店せざるを得ない所まで衰退してしまう店舗もありました。
こうしたケースでは、全インストラクターが同じ基準で指導し、一貫したサービスを提供できるようにするための徹底したトレーニング、すなわちオンボーディングが重要です。
子ども向けオンライン講座サービスでの取り組み
次に経験した、子ども向けオンライン講座サービスでは、コーチの約9割が業務委託で採用されており、その数は200名を超えていました。
しかし、コーチに対する十分なオンボーディングが行われておらず、以下の課題がありました。
- 勤怠の不安定さ
コーチの欠勤や遅刻が頻繁に発生し、レッスンに支障をきたすことが多かった。 - サービスのばらつき
コーチがそれぞれ独自の方法でレッスンを提供していたため、担当が変わるたびに「前のコーチはこうしてくれた」というクレームが顧客から多発していた。 - 運営側の負担増大
コーチ間でルールの徹底がされていないため、運営側がフォローに追われ、効率的な運営が難しかった。
こうした背景から、私は新規コーチ向けに、基本的なルールや勤怠管理、レッスンの進行方法に関するオンボーディングを担当しました。
オンボーディングのステップ
コーチ向けオンボーディングは、単なるマニュアルの説明にとどまらず、実際に現場でよくあるトラブルをヒアリングし実践的なオンボーディングを行いました。
具体的なステップとしては
- 基本ルールの共有
勤怠に関するルール、レッスンを遂行する際のルール、顧客への対応方法などを全コーチに徹底しました。 - 既存コーチへの再オンボーディング
既存コーチに対しても、再度オンボーディングを実施し、基本的なルールの再確認と、これまでの問題点を現場のコーチから情報を吸い上げ、運営チームに共有し、ルールの整備と再周知を行いました。 - 運営チームへのヒアリング
現場のコーチからの問合せやトラブルをヒアリングし、オンボーディング内で伝える内容のブラッシュアップを行いました。 - フローの改善案
他部署との連携がスムーズにいかない部分をヒアリングし、フローの改善とオンボーディングへの反映を行いました。
上記のアクションから、コーチがルールを遵守した状態での稼働へと少しずつ改善されました。
また、運営チームへのコーチからの問い合わせも減少し負担が軽減されてきたと嬉しいフィードバックをいただきました。
継続的なオンボーディングの仕組み化
しかし、オンボーディングは一度実施しただけでは長続きしません。
サービスを提供するのが「人」である以上、どうしても記憶が薄れてしまう、慣れからくる気の緩みといったことから、提供サービスの品質が落ちてしまう可能性は否定できません。
そのため、私は3か月ごとの評価期間と連動して、オンボーディングの内容を振り返る理解度テストを実施する仕組みを提案しました。
このテストは、コーチたちがルールを忘れずに徹底できるようにするための重要な施策です。
テストでは、以下のような要点を確認しました。
- コンプライアンスについての理解度
- 独自のレッスンテキストを使ってのレッスンをしていないか
- 勤怠についての理解度
- レッスンを提供する際のルールの理解度
- トラブル発生時の対応フロー
この定期的なテストと評価を通じて、コーチたちは定期的にルールを再確認し、より高いサービス品質を提供する意識を持つようになりました。
成果と結果
この取り組みの結果、以下のような具体的な改善が見られました。
- コーチの緊急欠席ルールの浸透
欠席申請を6時間前までに行うようにオンボーディングとテストで周知し、申請タイミングに応じてスコアを出して効果を測定した結果、コーチたちはルールを守るようになり、欠席の質が改善しました。 - 最新ルール周知の工数削減
ルール変更・更新時には周知を徹底しても、確認漏れにより把握が不十分なケースが見受けられました。定期的なテストを導入することで、最新ルールの浸透が促進され、管理負担も軽減されました。
欠席や遅刻の問題が減りつつあり、安定したサービス提供が徐々に可能になってきました。オンボーディングを徹底し、その後のフォローアップの仕組みを行った成果だと言えます。
サービスレベルの安定化と顧客満足度の向上
欠席や遅刻が減少することは、単にレッスンがスムーズに進行するだけでなく、顧客にとっての信頼感を高める大きな要素です。
子供たちを対象にしたサービスでは、親御さんの期待に応えることが重要です。レッスンの開始が遅れたり、担当コーチが変わるたびに対応が異なったりすることで不安を感じさせることがあれば、サービス全体に対する信頼が揺らぎます。
今回の取り組みでは、コーチたちが一貫したルールのもとでレッスンを提供できるようになり、顧客はどのコーチでも一定の質のサービスを受けられるという安心感を持つことができました。結果として、顧客満足度の向上が期待され、これが継続的な契約やリピート利用に繋がる可能性も高まります。
まとめ
今回の経験を通じて、カスタマーサクセスはSaaS業界だけに限らず、サービス業でも大いに活躍できる可能性があることを実感しました。
サーブクオールの観点で、サービスを提供する人材に対する徹底したオンボーディングと定期的なフォローアップを行うことで、サービス品質を安定させ、顧客の期待に応えることが可能になります。
サービス業では、顧客との接点が多いため、その一つひとつが企業の評判や信頼に直結します。だからこそ、従業員が一貫したサービスを提供できるような体制を整えることが重要です。
そして、カスタマーサクセスの役割は、顧客の満足度を向上させるだけでなく、従業員の教育やサポートを通じて、企業全体の成長に貢献するものとなります。
モノの売り方と、サービスの売り方は全く異なりますが、このような考え方を「サービス・マーケティング」といいます。サービス業の特性を理解して、顧客の満足度はどのように高まるのかを分析すること。そしてオンボーディングを型化し、改善し続ける仕組みを作ることが非常に重要です。
この記事が皆さまの参考となり、新たな視点をお届けできたなら嬉しく思います。
カスタマーサクセスの可能性や、サービス業における顧客体験の進化についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひお気軽にアディッシュまでお問い合わせください。
この記事を書いたライター
尾崎未弥
約10年間、フィットネス業界で店舗運営からマネジメントまで幅広い経験を積む。その後、組織マネジメントを専門とするコンサルティング会社でカスタマーサクセスを担当し、この分野の奥深さを知る。現在はアディッシュでカスタマーサクセスを務め、日々学びながら業務に取り組む。未経験の分野にも挑戦を恐れず、一歩ずつ成長する姿勢を大切にする。