オンボーディングの成功におけるハンドオフの重要性

阿部恭弥
2025.04.23

アディッシュのカスタマーサクセス部門の阿部です。
近年多くのSaaS企業でThe Model型が広く採用されています。
これは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった各部門が専門性を発揮し、顧客獲得から育成までを効率的に行うという体制です。
この中で、各部門間で行われる顧客の引き継ぎ、いわゆるハンドオフと呼ばれる過程は顧客体験の質を大きく左右する重要なプロセスであると考えています。
適切なハンドオフを実施することで、顧客満足度を高め、解約率を低減させ、最終的には収益成長に貢献しうると考えているためです。
本記事では、そのハンドオフの重要性や具体的な方法についてご紹介します。
ハンドオフとは
直訳すると「手渡し」を意味する単語ですが、カスタマーサクセスにおいては「ある担当部門や担当者から別の担当部門や担当者へ業務や関係性を引き継ぐプロセス」のことを指します。
中でもカスタマーサクセス部門が直面するであろうハンドオフの場面は以下となります。
- セールスからカスタマーサクセスへのハンドオフ
新規顧客を獲得した後、セールスからカスタマーサクセスに顧客情報や関係性を引き継ぐプロセス - カスタマーサクセスからカスタマーサポートへのハンドオフ
カスタマーサクセスによるオンボーディングが完了した後、日常的なサポート担当部門に引き継ぐプロセス - アカウント変更時のハンドオフ
担当者が異動や退職により交代する場合の引き継ぎプロセス
カスタマーサクセス部門で、セールスから顧客が引き継がれた後に発生する業務としてはまずオンボーディングが挙げられますが、このオンボーディングをより充実したものにするためにもハンドオフは重要な役割を担います。
ハンドオフの重要性
カスタマーサクセス部門が実施するオンボーディングは、顧客が製品やサービスに対し早期に価値を実感し、継続利用へと繋げるために、担当者が顧客それぞれの状況を正確に把握したうえで適切な情報提供を行う必要があります。
顧客が購入前に期待していたこと、購入に至った背景などを理解することで、よりパーソナライズされた情報提供が可能となります。そのようなオンボーディングを実現させるためにあらかじめ必要とされる顧客情報は以下のようなものが挙げられます。
- 顧客の基本情報について
- 会社名と詳細
- 顧客の正式名称、所在地、業種、従業員規模などの基本的な企業情報。
- 担当者と役割
- 主な連絡窓口となる担当者の氏名、役職、部門。
- 連絡先
- 担当者の電話番号、メールアドレス。
- 会社名と詳細
- 契約とサービスの詳細について
- 契約プランと期間
- 顧客が契約した具体的なプラン名、契約期間、更新日。
- 購入したユーザー数/ライセンス数
- 契約したユーザー数またはライセンス数。
- 料金と支払いスケジュール
- 合意された料金、支払い頻度。
- サービスレベル契約(SLA)
- 営業プロセス中に特別なSLAが合意されている場合、その内容。
- サービスの範囲
- 契約に含まれるサービスの範囲、および含まれないサービス。
- 交渉された条件や特別な要望
- 営業段階で顧客と合意した特別な条件や要望、カスタマイズの内容。
- 営業段階で顧客と合意した特別な条件や要望、カスタマイズの内容。
- 契約プランと期間
- 導入背景について
- 顧客が製品やサービスの購入を通じて解決しようとしている具体的な課題点
- 顧客の痛みを理解することで、オンボーディングプロセスを顧客のニーズに合わせて調整し、これらの課題に直接的に対処できる機能や活用方法を強調できる。
- 製品やサービスの導入によって顧客が達成したい具体的な目標、期待する効果や価値
- 顧客の目標を把握することで顧客の成功を定義し、その達成に向けてサポートすることができる。
- 顧客が組織内で製品やサービスをどのように活用しようとしているかの具体的なシナリオ
- 顧客の具体的な利用方法を理解することで、より関連性の高いガイダンスやサポートを提供することができる。
- 顧客が特に興味を示した製品の機能やサービス。
- 顧客が関心を持った機能をオンボーディング中に重点的に紹介することで、早期に価値を実感させることに繋がる。
- 意思決定プロセスと主要な関係者
- 意思決定者を特定することで、適切なコミュニケーションラインを確立し、必要な場合に協力を得やすくなる。
- 営業プロセス中に顧客が示した懸念や疑問点
- 過去の懸念事項を事前に把握し、オンボーディング中に積極的に対応することで、顧客の不安を解消し、信頼感を得ることができる。
- 顧客が製品やサービスの購入を通じて解決しようとしている具体的な課題点
これらの顧客情報は、オンボーディング内でのヒアリングにより取得できるケースもありますが、セールス部門と重複したヒアリングとなる場合は、顧客に混乱や不満を与えることで初期体験を損なってしまったり、信頼を失ってしまう可能性を高めます。
とはいえ、未だ顧客との接点がない状態のカスタマーサクセス担当者が、オンボーディング前に1から情報を取得するための行動をとるのは非効率的です。
よって、ハンドオフは顧客体験を向上させるためだけでなく、業務を効率的に進めるという観点でも重要であるため、適切に実施をすべきであると考えています。
ハンドオフが適切でない場合に起きること
ハンドオフが適切でない=顧客への理解が十分でないままオンボーディングが進められることで、本来顧客が望むものでない案内となったり、その場で解決できない事項が発生したりすることで、顧客満足度を大きく損なう可能性が高まります。
さらに、営業プロセス時点の案内と相違が出てしまった場合は、顧客に対し大きな不信感を与えてしまいかねません。
現に私が過去支援していた案件では、このハンドオフが適切になされていないがゆえにオンボーディング中の認識齟齬が多数発生することで進行が困難になり、最終的にオンボーディングを中断せざるを得ないという状況が多発していました。
その後は一旦セールス部門に差し戻し、リテンションを行うフローとなっていましたが、そのまま契約自体が取り消しとなるケースも多く、結果として顧客と企業の双方にとって時間だけを費やした形となっていました。
具体的なハンドオフの進め方
では実際にどのようにしてハンドオフを進めていくとよいのか、具体的な進め方を紹介します。
準備編
まずは、ハンドオフ時の必要項目を定めるためにオンボーディング時にあるとよい情報を中心に、必要情報の洗い出しを行います。
(必要な情報例は「ハンドオフの重要性」の箇所に記載しています。)
次に、整理した情報をセールスとカスタマーサクセスの両部門間で擦り合わせを行います。
それが本当に必要な情報であるのか、商談時に取得可能な情報であるのかなどを互いに確認し、両部門間で目線合わせをしておくとよいでしょう。
実施編
準備が整えば、実際にハンドオフを実施します。
手段としては以下の方法が挙げられます。
- ハンドオフミーティングの実施
- 両者が会話や質問を行うことができる場を設けることで、情報や背景について細かなニュアンスまでを直接共有することができる方法。ミーティング自体の時間を捻出する必要がある点がデメリット。
- 商談時の録画を残し、共有する
- 録画を閲覧しさえすれば、いつ何時でも情報を共有することができる方法。顧客担当者の特徴などまで把握することができる反面、ピンポイントで欲しい情報にたどりつくためには若干の工数がかかる。
- 商談時の議事録を共有する
- 議事録を閲覧しさえすれば、いつ何時でも情報を共有することができる方法。記載内容をあらかじめフォーマット化しておくことで、引き継ぎ事項の抜け漏れを防ぐことができるが、テキストであるゆえに温度感などの細かなニュアンスまでの共有は難しい。
上記それぞれの手段に一長一短があるため、一つの手段のみに限定せず、時と場合に応じて柔軟にハンドオフが行えるような体制を整えておくとよいでしょう。
効率化編
ハンドオフプロセスをよりスムーズかつ効率的にするために、テクノロジーを効果的に活用することも手段の一つです。
- CRM
- 営業担当者が収集した情報をカスタマーサクセス担当者が容易にアクセスできるようになり、情報の引き継ぎがスムーズになる。
- 代表的なツール例:HubSpot
- 営業担当者が収集した情報をカスタマーサクセス担当者が容易にアクセスできるようになり、情報の引き継ぎがスムーズになる。
- 共有ドキュメントプラットフォーム
- 関連するドキュメントにまとめてアクセスできるようになることで、情報が孤立化されるのを防ぎ、常に最新の情報を共有することができる。
- 代表的なツール例:Google Drive
- 関連するドキュメントにまとめてアクセスできるようになることで、情報が孤立化されるのを防ぎ、常に最新の情報を共有することができる。
- カスタマーサクセスプラットフォーム
- オンボーディングの進捗状況の追跡、顧客の健全性の管理、コミュニケーションの促進などの機能を活用できる。
- 代表的なツール例:Gainsight
- オンボーディングの進捗状況の追跡、顧客の健全性の管理、コミュニケーションの促進などの機能を活用できる。
- DSR(デジタルセールスルーム)
- BtoB企業が未商談の顧客や、商談済みの顧客と議事録等の情報や営業資料などの営業コンテンツを共有できる。
- 代表的なツール例:openpage
- BtoB企業が未商談の顧客や、商談済みの顧客と議事録等の情報や営業資料などの営業コンテンツを共有できる。
テクノロジーを効果的に活用した情報の一元管理を徹底することで、セールス部門からカスタマーサクセス部門へのハンドオフのみならず、その後のカスタマーサクセス部門からカスタマーサポート部門へのハンドオフも効率化することが可能です。
最後に、ハンドオフプロセスを設計する際は、顧客の体験も重要視し、ハンドオフがよりスムーズに感じられるよう顧客目線で考えることも忘れずに心掛けましょう。
まとめ
本記事ではセールス部門からカスタマーサクセス部門へのハンドオフプロセスに焦点を当て、その重要性や具体的な方法についてご紹介しました。
やはり効果的なハンドオフの実施は、顧客満足度を高め、解約率を低減させ、最終的には収益成長に貢献しうる強固な基盤となると言えるでしょう。
カスタマーサクセス部門としてオンボーディングの内容自体にこだわるのはもちろんですが、今回の内容のようにセールスなど他部門も巻き込み、全体の仕組みにも目を向けることで新たな成功への糸口を見つけることができるかもしれません。

この記事を書いたライター
阿部恭弥
前職はスマホ販売員として家電量販店に勤務。アディッシュ入社後はオンボーディング業務やカスタマーサポート業務も含め、複数社の常駐支援を経験。アピールポイントは「案件参画時における立ち上がりの速さ」。