セールスイネーブルメントとは?意味、方法、役立つツールを紹介
前田千波
2024.11.07
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業で成果を出せるようになるための仕組みを指します。近年注目されるようになった言葉のため「どのような概念なのか」「どのように取り組むべきか」など、わからないことが多いという人も少なくありません。
そこで本記事では、セールスイネーブルメントの概要やメリット、方法などを解説していきます。
セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業で成果を出せるようになるための取り組み・仕組みのことを言います。
Enablementとは、「~できるようにする」「有効にする」といった意味をもつ「Enable」を名詞に変えた言葉のため、セールスイネーブルメントとは「営業ができるようになること」、つまり営業で成果を出し続けられるようにすることを意味しています。
具体的には、営業人材の採用・育成や、営業コンテンツの制作、営業戦略の設計、SFAやCRMなどのツールによるデータ分析・管理などを行い、各施策を行ったことで営業の成果にどれだけ貢献しているのか数値で判断し、ネクストアクションを決めていきます。
営業を強化する仕組み作りを社内で一貫することで、勘や経験に頼ったりハイパフォーマーに依存したりすることなく、誰でも営業で成果を出すことができるようになるのです。
従来の営業人材育成との違い
セールスイネーブルメントにおいては、営業で成果を出し続けられる人材を増やすため、営業人材の育成に力を入れます。従来の営業人材の育成では、以下のような事態が起こっていました。
- 研修のスケジュールや内容は人事部門が策定する
- 営業研修は外部のコンサルティング会社が行う
- 各営業担当者への日々のアドバイスや教育はチーム内で行う
このように、各部門が別々の育成施策を実行していると、どの施策がどれだけ効果が出ているのか測定できず成果につながりにくくなります。
しかしセールスイネーブルメントでは、全社横断的に人材育成に取り組み、それぞれの施策の成果を数値で検証するため、貢献度が明確になります。一貫した取り組みによって育成の成果を可視化でき、適切な人材育成を実施できるようになるため、従来の人材育成よりも効果の高い育成施策を実行できるでしょう。
セールスイネーブルメント市場の現状
セールスイネーブルメントが注目されていることから、関連するプラットフォームやツールの市場は成長傾向にあります。
過去のデータになりますが、株式会社アイ・ティ・アールの調査によると、セールスイネーブルメントツールの市場規模は2017年度には14億円で、前年度比6.1%増となっています。2018年度以降も上昇していくと予測されており、2022年度には2017年度の約2倍となる31億円の市場になるという予測も出ています。
(出典:ITRがセールス・イネーブルメント・ツール市場規模推移および予測を発表
|株式会社アイ・ティ・アール)
このデータは予測値も含まれていますが、過去のデータであってもこれだけ拡大する市場だと予測されているため、今後さらに拡大していくと言えるでしょう。
セールスイネーブルメントに取り組むメリット
セールスイネーブルメントは、なぜ取り組む必要があるのでしょうか。企業にとって得られる効果・メリットを紹介していきます。
営業の属人化を解消する
営業活動は個々の営業担当者ごとに動くことが多いため、顧客情報や進捗状況、ノウハウなどが属人化してしまう傾向にあります。営業が属人化すると、以下のような事態が発生するリスクが高まります。- 営業担当者によって成果にバラつきが生じる
- それぞれの案件の進捗状況がわからず、売上予測の目途が立てられない
- 異動や退職などによる引き継ぎがスムーズにできない
セールスイネーブルメントは、営業に関わるデータを一元管理・分析し、成果の出る営業方法を仕組み化します。そのため営業の属人化を防ぎ、上記で挙げたようなリスクを回避できるでしょう。
組織の営業力を底上げする
セールスイネーブルメントは成果の出る営業方法を仕組み化するため、年齢や経験年数などに左右されず、誰でも成果を出せるようになります。一人ひとりの営業の成果が向上すれば、営業組織全体の営業力も底上げされ、企業に大きな収益をもたらすことができるでしょう。
人材育成プログラムを最適化できる
日々の業務が忙しく、人材育成プログラムを策定する時間を確保できないため、以前からのプログラムを継続して活用している企業や、外部のコンサルティング会社に丸投げしている企業も多いでしょう。しかし、時代の変化や自社の特性に合わせてプログラムをカスタマイズしなくては、成果につながりにくいです。
セールスイネーブルメントに取り組むと、それぞれの育成施策の成果を判断したうえで、最適なプログラムを策定できます。自社に最適なプログラムで人材を育成できるため、人材育成にかかるコストや時間を削減できるでしょう。
営業とマーケティングの連携を強化できる
セールスイネーブルメントを行うことで、営業組織のみ成果が出るのでなく、営業とマーケティングの関係性にも良い影響が出ます。
従来は、営業担当者がリード選定からアポイント、商談実行、契約まで担当していました。しかし、営業プロセスを分業して、リード選定や獲得はマーケティングが担当し、営業はマーケティングからリードを引き継いで営業活動を進める組織体制が一般的となっています。
こうした体制では、いかにマーケティングが質の高いリードを営業に引き渡せるかが、売上を左右するポイントと言えます。そのため、マーケティングはリードに関する詳細な情報を営業に引き継いだり、取引データから受注につながりやすそうなリードを分析したりする必要があります。
セールスイネーブルメントで、マーケティングから引き継ぐリード条件を一定化したり、リードの詳しい情報を引き継いだりできるようになるため、営業とマーケティングの連携強化につながるのです。
セールスイネーブルメントの進め方
セールスイネーブルメントに興味があっても、どのように進めたら良いのかわからないという人も多いでしょう。そこで、セールスイネーブルメントの進め方を解説します。
営業データの収集・分析
まずは、自社の営業データを収集・分析します。
SFAやCRMなどに普段から営業データを蓄積している組織はそのまま活用できますが、個々の営業担当者がExcelやスプレッドシートなどで営業データを管理している場合は、社内に点在している営業データを収集することから始めなければなりません。
また、営業データと一口に言っても、顧客情報や取引履歴、商談履歴や売上データなどさまざまなデータがあります。他にも、各営業担当者のノウハウや成功事例などもあるでしょう。
こうした営業データを一元的に収集し、自社の営業組織の強み・弱みや傾向などを分析します。
人材の確保と専門部署の設置
セールスイネーブルメントを実行する人材の確保と、専門部署の設置は、成功するために重要なポイントです。
セールスイネーブルメントは日本ではまだそれほど浸透しておらず、社内での認知度も低いため、社内にセールスイネーブルメントの考え方や取り組み方を浸透させて促進していくためにも、専門となる部署を設けましょう。その際、適する人材を選定することも重要です。人材選定は、新たに採用する場合と、すでに自社にいる人材から選定する場合があるでしょう。
人手不足で専任人材を配置できない場合には、マーケティング部門や営業部門の人材をアサインし、自身の業務と兼任してセールスイネーブルメントのプロジェクトも進めてもらう方法もあります。
育成プログラムの開発
営業組織で共有できる育成プログラムを開発します。どのようなスケジュールで進めていくか、どの指標をKPIにするか、といった部分から設計してから、具体的にどのような育成施策を実行するか検討しましょう。
成果の高い営業担当者のノウハウや、受注につながった成功事例などをマニュアル化する
電話営業や商談のロールプレイングを行う
マネージャーと1on1ミーティングを行いフィードバックをもらう
このように実践的なプログラムにすることで、育成にかかる時間を短縮できます。
また、営業コンサルティングなどを外部に依頼している場合は、コンサルティング会社にプログラムを開発してもらうのも一つの手です。普段から自社の営業について理解しているコンサルタントに依頼することで、自社の特性に合ったプログラムを設計してもらえるでしょう。
セールスコンテンツの作成
次は、育成した営業担当者が現場ですぐに活用できるセールスコンテンツを作成します。提案資料や商品カタログ、料金表などのほか、プレゼン動画や試供品など、顧客の購買意欲を高められるコンテンツを意識して作成しましょう。
育成プログラムの実施
プログラムを設計してセールスコンテンツが揃ったら、実行に移ります。育成プログラムを実行してインプットを増やし、セールスコンテンツを活用して営業現場でアウトプットしていきます。
このとき、育成プログラムの実施状況や営業現場での商談履歴など、さまざまなデータを蓄積することを忘れないようにしましょう。それぞれのデータをもとに施策の効果を判断するため、SFAやCRMでの営業管理は欠かせません。
効果測定とプログラム改善
蓄積してきた各データをもとに、育成施策の効果を検証しましょう。KPIを達成できたか、達成できていない場合は達成率がどのくらいだったか、という視点でセールスイネーブルメントが実現できているか判断します。
また、組織全体の効果測定のほか、各施策がどのくらいの効果につながったか検証することも重要です。データだけでは判断できない部分もあるかもしれないため、営業担当者一人ひとりにヒアリングして各施策についてのフィードバックをもらうのも良いでしょう。
各施策、そしてプログラム全体の効果を判断できたら、さらに成果の出るプログラムになるようブラッシュアップします。こうしてPDCAを回すことで、セールスイネーブルメントの実現に近づけるのです。
セールスイネーブルメントに役立つツール
セールスイネーブルメントを実現するにあたり、データの蓄積・分析・活用ができるツールの活用が必須と言えます。そこで、セールスイネーブルメントに役立つツールを紹介します。
SFA/CRM
SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)は、顧客情報や取引情報など、営業に関わるさまざまなデータの蓄積に活用できます。メールシステムやカレンダーシステムなどと連携すると、データを2つのツールに入力しなくても自動で同期できるため、忙しい営業担当者にとって便利です。
特にSFAは営業活動に特化したツールのため、営業データの管理だけでなく、営業に役立つ機能も充実しています。
MA
MA(マーケティングオートメーション)は、マーケティング活動に関わるデータを蓄積する機能や、マーケティング活動で活用できる機能が搭載されています。営業には関係ないのではないかと思う人もいるかもしれませんが、マーケティングがリードを獲得したチャネルやプロセスなどを確認したい場合に便利なので、マーケティングとの連携を強化できるツールです。
MAによっては、SFA/CRMと連携できるものもあるため、データを自動同期することでさらに情報共有が活性化するでしょう。
コンテンツ管理ツール
コンテンツ管理ツールは、社内に点在しているコンテンツを一元管理して、すぐに取り出すことができるツールです。マニュアルなどの育成コンテンツや、提案資料などのセールスコンテンツを格納しておくと、必要なときに必要なコンテンツをすぐに確認できます。
ナレッジベース
ナレッジベースは、社内のナレッジを蓄積・共有できるツールです。営業ノウハウや成功事例などを蓄積しておけば、チーム内の営業メンバーがすぐにナレッジを確認できます。蓄積したナレッジをもとにマニュアルを作成するなど、さまざまな活用ができるでしょう。
最後に
「営業担当者によって成績にバラつきがある」「研修などの社員育成が成果につながっているのかわからない」といった課題を抱えている企業にとって、成果を出し続ける営業組織を構築できるセールスイネーブルメントに取り組むことで、効果が期待できます。
SFA/CRMやMAなどのツールを活用して日々の営業データを分析していくことで、組織の営業課題をしっかりと見極めることができ、営業力を強化していけるでしょう。ぜひ本記事で紹介した内容を参考に、セールスイネーブルメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。
この記事を書いたライター
前田千波
前職のITベンチャーにてインサイドセールスの立ち上げに参画し、SDR・BDR共に経験。特にSNSを活用したアポ創出を行う。 アディッシュではインサイドセールスの新規開拓推進担当として、カスタマーサクセス商材を中心にアポ創出やチーム構築に携わる。大分県在住