企業の人事課題の解決に全力投球する中で見えてきた、カスタマーサクセスの活動意義と求められる人物像【EDGE株式会社様】
今回ご登場いただくのは、企業が抱える人事課題に向き合いユニークなSaaSプロダクトを次々に展開されているEDGE株式会社(https://edge-inc.co.jp/index.html)代表取締役の佐原 資寛様です。
EDGE社におけるカスタマーサクセスの取り組みの実態、そしてカスタマーサクセス人材のキャリアをテーマにお話を伺います。
EDGE社のサービス内容について
ーサービスの内容についてご紹介いただけますか
佐原様(以下、佐原):我々は人事課題、組織課題解決に特化した『エアリーシリーズ』を中心に開発提供しています。
新卒採用の内定者をフォローするSaaSサービスから始まり、最近では人的資本を可視化するために幸福度を測るサーベイや、上司と部下の1on1の質を高めるため科学的な論拠をもとにしたフィードバックを行うサービスなど、人事課題の解決というテーマのもとで幅広く事業展開をしています。
2021年に資金調達とMBOを行い、SaaSのプロダクトは大手企業を中心に600法人以上とのお取引があります。
ただ人事課題はHRTechだけではなかなか解決できないので、特に中堅・中小企業にはコンサルティングサポートサービスという形で導入されるケースも増えています。
具体的には評価制度を作ったりエグゼクティブコーチングをさせていただいたり、社内の会議のファシリテーションに入ったり。
人事や組織開発、経営のボードメンバーのコミュニケーションを促進するような取り組みを同時並行で提供しています。
佐原様のこれまでのキャリアやサービスへの想い
ーなぜHRTECH分野での事業を考えたのでしょうか?
佐原:EDGEが掲げる「人は、もっと輝ける」というCompany beliefは、私がインターン時代から変わらず抱き続けている課題意識です。
誰もが仕事を能動的に楽しめるように、そんな人が一人でも増えるようにサービスを通して貢献したいという想いでここまで走ってきました。
ー企業の人事の課題において、最近特に意識していることを教えてください
佐原:今は個人が会社に合わせるという時代から「個人の価値観を尊重する会社でなければ選ばれない」という時代へ変わる過渡期だと考えています。
企業の管理職は新しい価値観に適応してそのマネジメント手法をアップデートしていく必要があります。
とはいえ、なかなか急には変わることは難しい。
だからこそ新しい手法やテクノロジーで下支えできることがあるはずですし、今後必ず伸びてくるニーズだと確信しています。
EDGEにおけるカスタマーサクセスの取り組み
ーEDGEにおけるカスタマーサクセスの位置付けとは
佐原:我々の強みは課題解決に至るまでお客様に寄り添って伴走し、支援することです。
ツールの利用だけでカバーできない場合には有償コンサルティングも含めた柔軟な選択肢をご用意します。
その中で、ここまでは無償のカスタマーサクセスで、この先は有償のコンサルティングと明確な垣根は作っておりません。
顧客の声に直面し、課題と成功を最も近くで支えるカスタマーサクセスの担当者は、事業の要であると考えています。
現状、カスタマーサクセス部門は全て正社員であり外部への委託は行っていません。
特に新規事業では役員が担当、または代表である私自身がコンサルティングの現場に入って支援させていただくこともあるくらいです。
結局その製品やサービスが市場に受け入れられるかの分水嶺は、お客様の生の声や実例を社内にどれだけストックし、サービス改善に活かせるかだと考えるからです。
ーカスタマーサクセスが重要だという考え方に行き着いた背景を教えていただけますか
佐原:我々も最初は顧客サポート部門=コストセンターという意識が強くありました。
個別対応を実施しようとすればするほど体制そのものを手厚く補強する必要があります。
そのため、現状の対価に見合うのか、果たして正しいリソースの使い方なのかと、バランスに悩みながら実施してきました。
実際に既存事業では、人のサポートが必要な場面と、テクノロジーで解決できる部分(いわゆるテックタッチ)を線引きするような工夫も続けています。
新サービスの開発に関しては「たとえ採算に合わなくても顧客接点を増やし手厚くサポートする価値がある」というのが現時点での考え方です。
『フィードバッククラウド』という音声感情解析から1on1を支援する新しいサービスがあります。
例えば、こちらは、ツールの対価以外には費用をいただかず、お客様の管理職の方向けに無償で1on1を行うための研修を実施したことがありました。
当然コストはかかりますが、おかげで製品が提供する価値について「現場でどのように馴染み、成果を発揮するのか」という実体のある知見を蓄積できました。
こうした取り組みへ舵を切れたのは、我々がHRTechの分野でこれまでもかなり幅広く事業展開をしてきたアドバンテージがあるからです。
お客様に還元できるようなノウハウや知見がすでに社内にありました。
この強みのおかげでさまざまな顧客のニーズに柔軟に順応し、支援することができました。
顧客の声の活用
ー顧客の声を聞くことのメリットは何だとお考えでしょうか
佐原:投資の精度が上がることですね。
知名度も資金力も余剰があるわけではないので、毎回投資は勝負です。
開発コストを最小限に抑えて筋肉質な事業体を作っていると自負しています。
これは、顧客の声の活用が投資対効果に現れた結果であり、最大のメリットだと考えています。
ー実際にどのように活用されているのでしょうか
佐原:もちろん顧客の声を100%そのまま開発投資に反映させる訳ではありません。
ともすれば、マーケット全体の声や、製品の機能が与えるユーザーへの影響を考える際、自分たちの妄想をベースに考えてしまいます。
しかし、出来るだけ「事実」を掴むためには、顧客の生の声や実際に試した時にどんな壁にぶち当たるのかという「実例」を拾い集める必要があります。
顧客の声を集める方法はいくつかあり、各事業のフェーズによっても変わってきます。
当社が以前から実施していた事業の場合は、既にデータとして取れる部分が多くあります。
そのため、現在は直接ヒアリングするのではなく、ユーザビリティや運用状況などについて、データの動きを見て分析し、研究することが中心です。
一方で、新規事業については、直接顧客にヒアリングする機会を設けております。
顧客にどう使われているのか、何が課題になるのか、どんなニーズがあるのかを認識できていない状態で、製品開発上の判断を行うことはできません。
こうした背景から、先ほどもお話したようにお客様を支援し、直接お会いする接点を作ります。
私たちの研修をどんな表情で聴き、そこから何を学び行動に影響したか。お客様の率直な反応こそが何よりも貴重な参考情報になります。
これからのカスタマーサクセス人材に求められるものとは
ーカスタマーサクセス担当の役割をどう捉えるべきでしょうか
佐原:大手企業ならばカスタマーサクセス担当者の役割をフェーズで分け、個人の思考特性を見ながら人員配置することも可能かもしれません。
しかし弊社を含め、多くの企業ではそうはいかないでしょう。
お客様の支援を行うなかで、契約継続やアップセル/クロスセル等の営業的な役割を担う場面は必然的に出てきます。
担当者は各々に期待される役割を理解した上で、顧客とコミュニケーションを取らなければなりません。
お客様の支援をした結果、顧客が成功するかどうかがカスタマーサクセス担当者個人の能力に依存するとしたら、その時点で組織としては負けだと思います。
顧客の課題をある程度「型化」できていて、そこに対してのノウハウやソリューションがパッケージングされている状態でないと、組織としてスケールさせることは難しいでしょう。
特に成熟しているプロダクトに関しては、そういう状態にあってしかるべきです。
もしできていないなら、まずはそれを解決するべきだと考えます。
ーカスタマーサクセスに向いている人物要件とはズバリ?
佐原:人との関係作りが上手い人でしょうか。
懐にするっと入り込めるとか、話していて嫌な感じがしないとか、つい気持ちよく自分のことを話してしまうとか……
この人と話したいな、と思われるタイプの方こそカスタマーサクセスに向いていると思います。
さっきお話したように解決に向けた具体的な提案がある程度「型化」できているならば、そうしたコミュニケーションで、きちんと課題が抽出できることが大事なんじゃないかと思います。
ー「型化」するためのコツや組織づくりのポイントがあれば教えてください
佐原:うーん、そこに関するノウハウとか知見はむしろ教えてほしいぐらいですね(笑)。
一子相伝じゃないですけど、同行営業の中で伝えていくとか、案件の引き継ぎの中で意識するとか。
正直、具体的な進め方は完全に人伝で、というのが現状です。
ただ、幸いにも弊社のサービスは、裏側にカスタマーサクセス担当者が必要な情報を一覧で見られる管理画面とダッシュボードがあります。
そのため、見るべきポイントを押さえやすい環境だと思います。
ーこれからのカスタマーサクセス組織に求められるものとは?お考えを聞かせてください。
佐原:はい。組織という観点と、ビジネス上の役割とで整理してみます。
まず、組織としてですが、ここはシンプルに考えるべきだと思っています。
大事なのは「気持ち良くコミュニケーションが行えること」と「顧客の成功へコミットするマインド」の2つです。
お客様に「良いものだ」と感じていただければ、商品の追加購入や契約更新という結果は自然と付いてきます。
結局「型化」したものありきで、人の懐に入り込み、心地よい人間関係を作れる人材を大切に育てると良いのではないでしょうか。
次にビジネス上の役割について定量的な観点でみると、SaaS型のビジネスにおけるチャーンレートは本当に大事な指標です。
新規で受注が取れる金額を、チャーンレートで割った金額がそのプロダクトのMRR(Monthly Recurring Revenueの略。毎月繰り返し得ることのできる売り上げ)ないしARR(Annual Recurring Revenueの略。毎年決まって得ることができる売り上げ)の限界だとすれば、その指標が変わるだけで限界値が変わります。
特に我々のように早期上場を目指す会社にとって、そのギャップがどこで現れるのかは意識せざるを得ない最重要指標の一つです。
まさに活動の成果がチャーンレートに現れるカスタマーサクセスは、経営戦略上欠かすことができない重要なパートになっていると感じます。
さらに定性的な影響力も看過できません。我々の所属するHRTech、人事の業界は横のつながりがとても強い傾向にあります。
営業担当者の数が少なくても、お客様が満足して他にもご紹介いただけるような状態になれば、口コミや紹介で導入が進むというケースが増えています。
このモデルのいわば立役者とも言えるのが、カスタマーサクセスです。
今後は特定の業界に限らず、同様の傾向が出てくるでしょう。
このチームが担うべきビジネス上の役割はますます広がっていくのではないでしょうか。
ーこれからカスタマーサクセスに注力される方に向けてアドバイスできることがあればぜひ
佐原:難しいですね…。
お話したように、カスタマーサクセスは今後も多くを期待される存在になると思います。でもあえてシンプルに捉えるなら、お客様の成功というゴールに向かう過程における、人と人とのコミュニケーションです。
あまり仰々しく考えすぎず、基本に立ち返りながら進めていくことが大切なのではないかと思います。