顧客との最初の一歩を確実に!「印籠」で始めるオンボーディング成功への道
顧客の成功のため、様々な役割を担うカスタマーサクセス活動ですが、最初の顧客の接点はオンボーディングというケースが大半なのではないでしょうか。
オンボーディングは、顧客がプロダクトを最大限活用できるための重要な要素です。オンボーディングの成否によって、後続のサクセス活動も大きく影響してきます。
今回は、そのオンボーディングをうまく進めるために私が取り入れている「印籠」についてご紹介します。円滑なオンボーディングの実施を、目指し、ぜひご活用ください。
オンボーディングと印籠
オンボーディングとはカスタマーサクセス活動における第一歩であり、顧客がプロダクトを最大限活用できるための重要な要素です。
一口にオンボーディングといっても、そのプロセスは様々なものがあり、
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- 運用のヒアリング
- ヒアリングをもとにしたプロダクトの設計・設定
- プレローンチ
- ローンチ後の定着支援・活用支援
等が挙げられます。
また、提供するプロダクトによって必要なプロセスは異なりますが、顧客の要求・要件通りにプロダクトが設定されていることはどのプロダクトでも共通して言えることであり、「ヒアリングをもとにしたプロダクトの設計・設定」がオンボーディングの完遂、ひいては、カスタマーサクセス活動の要だと考えています。
そして、ヒアリングした内容を一枚絵にまとめたものを「印籠」と名付けて私は随所で活用しています。
印籠の元となる、ヒアリングをもとにしたプロダクトの設計・設定で必要なものとは
<よくあるヒアリングシートの罠>
プロダクト利用開始時の設計・設定を行う前に行われるヒアリングでは顧客の課題や目的・現行の運用等を明確化するために行い、オンボーディングを進めるための第一歩として、ヒアリングシートを
活用する企業も少なくないと思います。
また、カスタマーサクセス活動に限らず、営業やサポート等コミュニケーションが発生する業務では広く利用されているため利用方法や型化は一定進んでいます。
一方で、ヒアリングシートの型化は行えているものの、顧客の課題は多種多様であるが故に、ヒアリングした後の情報の使い方については、型化が進んでおらずそのヒアリングシートの内容だけを見て、プロダクトの設定や導入作業が行われたり簡単なデモを作成し、課題1つ1つに対して、プロダクトのアンサーを見せながらオンボーディングを進めるケースはないでしょうか。
そのような状態のまま進めてしまうと、プレローンチや運用開始の段階で顧客から「実はこういうこともしたいんだけどできるの?」「この状態だと業務が回らない」といった予期せぬコメント・ご指摘をいただいてしまい、顧客にとって理想的なプロダクトになれず、定着や活用に大きな支障が発生しかねません。
<原因>
ヒアリング自体は行われているため、課題や目的・現状は共通認識として生まれています。
一方で、目的達成の方法が共通認識として生まれていないからこういった事象が発生するものだと考えています。
オンボーディング担当の目線:目的達成の方法=プロダクトの活用プロダクトを深く理解しており、プロダクトを活用することは当たり前だと捉えています。
故にプロダクトを活用することに焦点を当ててオンボーディング活動を行いプロダクトの利用が定着することが目的達成の方法だと捉えています。
顧客の目線:目的達成の方法=業務の改善=プロダクトの活用顧客が求めることは「プロダクトを活用すること」ではなく、もっと言えば、「そのプロダクトを活用して課題を解決すること」でもありません。
端的に言えば、「課題を解決すること」であり、課題である業務の改善をするための
手段としてプロダクトを利用することを選択してます。
故に、明確化すべきは「そのプロダクトを活用してどう業務が改善されるのか」まで
双方の共通認識として持たせ、業務イメージを持っていただく必要があります。
その業務イメージがない状態で設定の落とし込みや運用開始を進めてしまうとイメージが沸かぬまま使わされてる感だけが残ってしまい、活用やその先のアップセルにつながることはなく、解約リスクだけずっと付きまとってしまいます。
<対策>
原因は分かった一方で、業務イメージを持っていただくにしても、口頭での説明や、プロダクトの動作デモだけでイメージ付けするのは非常に困難です。
口頭だけでは、どうしても主観が入ってしまい、細かな認識のすれ違いが多発し、動作デモでは、全容を伝えきれず、各論になりやすく、全体を通してみたときに違和感や齟齬が生まれてしまいます。
こういった中で、私は業務フローを1枚の絵に起こし、現状の業務がどのように流れていくのか誰がそのプロダクトを使うのかプロダクト以外に関連するシステムは何かあるのかといった情報をまとめてます。
これを印籠と呼んでいます。
誰が見ても、どこで見ても、いつ見ても業務の全容がわかる資料として扱ってます。
印籠の作り方と効果
<作り方>
オンボーディングを行うプロダクトにより業務は多種多様です。
ただし、どんな業務であっても、王道となる一本道が存在します。
まずは、例外系を一切考慮せず、軸となる標準的な業務プロセスをフロー図化しその後にイレギュラーケースを考慮しましょう。
STEP1:標準的な業務プロセスの作成
【ポイント】
・関連するシステムや人物は網羅されているか
・言葉の定義は適切か(=人により解釈が異なる言葉を使っていないか)
・システムで行うことと人で行うことが明確に分かれているか
STEP2:イレギュラー対応の精査
【ポイント】
・イレギュラー対応となりえる点はどこなのか全量をリスト化する
・どの程度発生するかについては必ず定量化する
例:●%、年に〇回等
※「●●の時に起きえる」等の定性的な情報である場合、
それが果たして本当にレアなケースなのか、よくあるイレギュラーなのか
人によって判断が変わります。
それでは、誰が見ても分かる資料にはなりません。
STEP3:イレギュラーケースの検討
【ポイント】
・よくあるイレギュラーケースのみを対応する
・イレギュラーケースを網羅的に対応しないこと
STEP4:STEP1資料のアップデート(イレギュラーケースの反映)
【ポイント】
・顧客を巻き込んでともに資料を完成へとつなげる
・顧客と業務プロセスの資料として合意を得る
印籠はパワーポイントやExcelで作成することが多く、様々のユースケースの精査や必要に応じた追加ヒアリング等、大きく工数が発生するケースもあります。
ChatGPTやclaudeを導入しているのであれば、半自動化することも可能です。特にClaude 3.5 Sonnet等、資料作成に特化したAIであれば、リアルタイムに図を作りながら、印籠を作成でき、効率良くオンボーディングを進めることも可能だと考えております。
<効果>
オンボーディングの規模が大きく、期間が長期化すればする程、当初、想定していた要件定義は暗黙知へと変わっていきます。
社内外、様々メンバーが関わっているからこそ、印籠を使うことで形式知へと昇華させることができます。形式知となった印籠を用いることで生まれる効果・メリットを下記に記載します。
1.スコープの明確化
印籠を作ることにより、プロダクトの対応範囲が共通認識として生まれます。
その範囲が逸脱するような状況になった時、印籠を見ることにより、
当初の目的に立ち戻り、迷走することなく走りきることができます。
2.急な要件変更への迅速な対応
顧客は様々な課題を抱えており、状況も急に変化する場合も多々あります。
時には、要件が変わってしまうケースもゼロではありません。
そういったときに、印籠があれば、影響範囲が一目で明確となりPhase2へと持ち越しやそもそもやる意義があるのか等のジャッジが迅速に行えます。
時には、追加要望として取り扱う要件変更もあるでしょう。
そういった場合も、可視化された印籠を使えば、顧客に納得感を持たせた状態で追加発注の提案を行うことも可能です。
3.サクセス活動への情報共有
アップセル・クロスセルを担うサクセス担当へ情報共有を行う際、印籠を見せるだけで、業務の全体像が可視化された状態でシームレスに引継ぎができます。
また、印籠の中に関連するシステムや部門(人)がおり、それが自社プロダクトに関連していれば、ピンポイントにささる提案へとつなげることもできます。
まとめ
私自身、過去の経験から、エンジニア・セールス・カスタマーサクセスとして様々な目線でプロダクトに関わってまいりました。
どの立場であっても、顧客と共通認識を持って会話するということは変わらないものであり1つの要件に対して、どのような業務が関わるのか、影響を及ぼすかを明確化することで顧客に実イメージを持たせつつ、円滑に物事を進めることができます。
また、何かあった時に原点にたち戻るベースの絶対的存在として印籠を作成してきました。
時には印籠が紛い物で100%の効力を発揮しない場合もありますが、それでも、ない状態と比較すると確実に前へと進めることができると信じています。
オンボーディングは、顧客がプロダクトを最大限活用できるための重要な要素です。
オンボーディングの成否によって、後続のサクセス活動も大きく影響してきます。
だからこそ、オンボーディングの序盤で転ばないように印籠を作り掲げて、顧客の信用を勝ち得た状態で、円滑なオンボーディング活動へと進められればと思っています。