事例から考えるオンボーディング設計の失敗と成功のポイント
森幹太
2024.12.12
顧客にとってプロダクトを最大限活用するためには、導入直後の「オンボーディング」が非常に重要です。オンボーディングの成功が顧客の目標達成や課題解決の第一歩となり、システムの利用定着と満足度を左右します。
本記事では、「電子請求書の発行・受取システム」「採用管理システム(ATS)」「新卒求人広告サイト」の3つの実案件を通じて、効果的なオンボーディング設計の失敗と成功ポイントについて解説します。
オンボーディング事例その①「電子請求書の発行・受取システム」
顧客課題と導入背景
この電子請求書システムの導入において、顧客の多くが求めていたのは業務のデジタル化による効率向上と、請求書発行・受取コスト(経理業務)の削減です。
このシステムは、顧客である有料ユーザーが取引先へ招待を送り、その招待を受けた取引先が無料機能を通じて請求書の発行や受取ができるようになります。
取引先がこのシステムを利用することで顧客の効率も向上するため、オンボーディングでは顧客に取引先を招待するプロセスをスムーズに進めてもらうことが重要です。
オンボーディングプロセス
キックオフミーティング
営業担当、オンボーディング担当、顧客の3者で打ち合わせを行い、導入スケジュールや初期設定、請求書の承認フロー等を決定します。
進捗フォローとタスク管理
クライアントがシステム稼働を開始するための準備をスケジュールに沿って支援し、設定に関するサポートを提供します。
取引先招待の促進支援
オンボーディング担当が取引先への招待方法を解説し、顧客がより多くの取引先を招待できるように支援します。この際、より多くの取引先へ招待送付をいただくためには、いかにシステム操作が簡単だと思われるかが鍵となります。
成功要因
ハイタッチモデルでの手厚いサポート
オンボーディング完了までの期間に限り、顧客からはオンボーディング担当に対してメールや電話でいつでもご相談を受け付けており、オンボーディング担当からも能動的に進捗状況のヒアリングのご連絡をしています。
目標の可視化
キックオフミーティング時点で確定した導入スケジュールをまとめた資料をもとに作業を進めることで、顧客とオンボーディング担当者が目標を共通認識として協力しながら進めることができ、スムーズなオンボーディングを実現しています。
KPIと効果測定
主なKPI
- オンボーディング進行率
- 請求書発行
- 受取の利用数
効果測定方法
定期的に顧客へ進捗状況の確認をし、進行の遅れがあれば早急に対応してフォローを強化。
オンボーディング事例その②「ATS(採用管理)システム」
顧客課題と導入背景
この採用管理システム(ATS)は、人事担当者が複数の求人広告サイトと連携し、応募者管理や面接調整を一元化するためのシステムです。日程調整や自動リマインド機能があるため、採用業務の効率化が大きな目的となっています。
オンボーディングプロセス
タッチモデルの最適化
事前アンケートで顧客を分類し、利用パターンに応じてタッチモデルを使い分けます。簡易設定のケースはテックタッチで資料提供、必要な設定が少し複雑なケースはロータッチでセミナー、さらに設定が複雑なケースはハイタッチでの個別打ち合わせを実施します。
ハイタッチのサポート
顧客の求める面接フローに合わせて適切な設定内容をご提案。具体的な利用手順や注意点についてもサポートし、運用の安定化を図ります。
進捗管理
導入過程での設定状況を確認しながら、初期利用の促進や定着をサポート。
成功要因
タッチモデルの柔軟な切り替え
設定の難易度やクライアントのリソース状況に応じて、最適なタッチモデルを提供することで、導入のスピードと顧客満足度を高めています。
機能活用の促進
日程調整やメモ機能(面接情報引継)など、実際の業務で価値を発揮する機能のデモ利用を促し、システムの便利さを体感していただきます。
KPIと効果測定
主なKPI
- 初期解約率
- システム利用率(利用頻度や応募者管理のアクティビティ数)
効果測定方法
設定状況やシステムへのログインペースを定期的に確認し、解約傾向が見えた時点で対応策を講じてフォローを強化しています。
オンボーディング事例その③「新卒求人広告サイト」
顧客課題と導入背景
この新卒求人広告サイトは、主に中小企業向けの新卒採用支援を行っています。他の2つのシステムと異なり、このシステムのオンボーディングでは、原稿内容や求人ページの「見せ方」による効果を最大限引き出すためのアドバイスが求められます。
オンボーディングプロセス
掲載準備とコンテンツサポート
顧客の求める応募者の人物像や企業のアピールポイントを詳細にヒアリングし、求人内容を魅力的に伝えるため、掲載原稿のライターと連携してコンテンツ作成を進めます。
求人効果を高めるページ作成のアドバイス
単に掲載するだけでなく、求人ページが応募者にとって魅力的に映るよう、レイアウトや文章の「見せ方」に関する提案を行います。
スケジュール管理と進捗フォロー
掲載予定日に向けたスケジュール管理と、ライターへの進捗フォローを徹底し、掲載日までのスムーズな進行をサポートします。
成功要因
求人ページの「見せ方」重視のサポート
特に中小企業では、求人の見せ方が応募効果に大きく影響するため、ページのレイアウトやコンテンツのアドバイスに重点を置いています。
ディレクションの徹底
掲載予定日までに必要な進捗管理や確認作業を徹底し、プロジェクトをスムーズに進行させています。
KPIと効果測定
主なKPI
- 掲載予定日の遵守率
- 掲載後の求人閲覧数
- 応募者数
効果測定方法
掲載後の閲覧数や応募者数を定期的にチェックし、顧客と共に求人ページの改善点をフィードバックすることにより、次回以降の効果向上にもつなげます。
3つの事例から共通して言える陥りがちな失敗ポイントと回避策
①失敗ポイント
情報過多による混乱
導入時に大量の情報を一度に提供してしまうと、顧客が混乱し、初期設定や利用開始に支障をきたすことがあります。特に、複雑なシステムでは全機能の説明を一度に行うことで、重要なポイントが埋もれてしまうリスクがあります。
①回避策
情報の段階的提供
オンボーディングの初期段階では、顧客が導入に必要な最低限の情報に絞って提供し、進捗に応じて追加の情報を提供するようにします。必要に応じて、タッチモデル(テックタッチ、ロータッチ、ハイタッチ)を活用し、情報量を顧客の状況に合わせて調整することも効果的です
②失敗ポイント
キックオフ時点での方針不確定
オンボーディング開始時に運用方法が確定していないと、必要な設定やタスクが不明確になり、プロジェクト全体が混乱する原因となります。これにより、スケジュールの遅延やタスクの二重発生といったリスクが高まります。
②回避策
キックオフ時点での綿密な擦り合わせ
オンボーディング開始前に、運用方針や必要な設定項目を顧客と詳細に擦り合わせ、明確な計画を立てます。キックオフミーティングでは、スケジュール、目標、設定内容、運用フローを具体的に確定し、それを共有することでプロジェクトに係る全員が共通認識を持つことが重要です。
③失敗ポイント
顧客ニーズの変化に対応できない
オンボーディング中やその後に顧客のニーズが変化しても、それに柔軟に対応しない場合、顧客がシステムを使いこなせなくなることがあります。また、ニーズや顧客の不満点に応じてオンボーディングプロセスの調整がなされないことで、顧客の不満が蓄積し、満足度の低下や早期解約が増加する可能性があります。
③回避策
顧客フィードバックをもとにプロセス改善
顧客からのフィードバックを随時収集し、必要に応じてオンボーディングプロセスや提供資料を更新する仕組みを構築します。定期的なフォローアップミーティングやアンケートを通じて顧客の状況を把握し、プロセスを最適化します。
④失敗ポイント
オンボーディング後のフォロー不足
オンボーディングが完了した後、システムの利用が定着しない場合、顧客が本来の価値を十分に引き出せず、早期解約につながるリスクがあります。また、担当者間の引継ぎが不十分だと、サポート体制に不備が生じることもあります。
④回避策
継続的なフォロー体制と引継ぎの明確化
オンボーディング完了後も、定期的な利用状況の確認や顧客の課題に応じた追加サポートを行います。
また、オンボーディング担当者からサポートチームへの引継ぎを徹底し、顧客対応の一貫性を確保します。引継ぎプロセスや運用ルールを明確化することで、組織全体での対応を円滑に進めます。
3つの事例から共通して見えるオンボーディング設計の成功への重要ポイント
オンボーディング設計の成功には、各プロジェクトに共通するいくつかの重要なポイントがあります。本記事で紹介した3つの事例から見えてきた主なポイントは以下の通りです。
スケジュールの進行状況の可視化と管理
オンボーディング期間中、忙しい担当者の方々とスムーズに連携を取るためには、明確なタスクスケジュールを共有し、進行状況を随時確認することが欠かせません。
例えば、キックオフミーティングでタスクを細分化し、それぞれの担当者に明確な役割を割り振ることが効果的です。これにより、目線を合わせたプロジェクト進行が可能となり、スケジュール遅延を未然に防ぐことができます。
顧客状況に応じてオンボーディング方法を変更する柔軟さ
顧客の業務環境や利用目的は多岐にわたります。そのため、画一的なプロセスではなく、顧客の状況やニーズに応じたオンボーディング方法を提供する柔軟性が重要です。
具体的には、タッチモデル(テックタッチ、ロータッチ、ハイタッチ)の使い分けや、顧客の設定難易度に応じたサポート体制を構築することで、顧客ごとに最適なサポートを提供することが可能です。この柔軟性が、顧客満足度の向上やシステム利用定着に直結します。
各プロジェクトの内容やオンボーディング期間に応じた指標設定
オンボーディングの進捗や成果を正確に把握するためには、適切なKPIを設定することが必要です。しかし、設定した指標が顧客満足度向上の妨げにならないよう、定期的に評価し、必要に応じて方向修正を行う柔軟性も求められます。
また、定量評価(KPI達成率や解約率など)と定性評価(顧客インタビューやフィードバック)をバランスよく取り入れることで、オンボーディングの効果をより正確に測定し、プロセス改善に活用できます。
オンボーディング後の継続的なフォロー体制の構築
オンボーディングが完了した後、システム利用を継続してもらうためには、フォローアップの仕組みが不可欠です。オンボーディング終了後に顧客の利用状況を定期的に確認し、疑問点や課題に対するサポートを継続することが重要です。
また、オンボーディング担当者からサポートチームへの引継ぎを徹底し、顧客が一貫したサポートを受けられる体制を整えることも忘れてはなりません。
まとめ
オンボーディングは、顧客がプロダクトの価値を最大限に活用するための重要なプロセスです。
本記事で取り上げた3つの事例、「電子請求書システム」「採用管理システム」「新卒求人広告サイト」から見えた成功の鍵は、スケジュール管理の徹底、顧客状況に応じた柔軟な対応、適切なKPIの設定、そして継続的なフォロー体制の構築にあります。
特に、新卒求人広告サイトのように「ページの見せ方」に重点を置くケースでは、サービスの特性に合わせたアプローチが求められます。
一方、電子請求書や採用管理システムでは、効率化や機能活用の促進が中心となります。このように、サービス内容や顧客の状況に応じた最適なサポートを設計し、顧客の課題解決と成功に向けて伴走することがカスタマーサクセスの本質です。
この記事を書いたライター
森幹太
営業代行会社で様々な業界の営業やカスタマーサクセスを経験し、元ハウスメーカーの営業でもあり、元パン屋の店長でもある、異色の経歴の持ち主。2023年にアディッシュへ入社し、現在は電子請求書システムのカスタマーサクセス支援を担当。スピーディーな成果達成や業務改善を得意とする。