カスタマーサクセスで重視すべき4つのフェーズとは?成功するための組織図も紹介
ビジネスの成功において、製品やサービスの品質は重要ですが、それと同じくらい大切なのがカスタマーサクセスです。顧客が製品やサービスを最大限に活用し、その価値を十分に体感できるよう支援することで、継続的なビジネスの成長を促すことが可能となります。
また、事業フェーズに合わせた組織編制を行うことで、すべての顧客に対して十分なサポートを提供できるでしょう。
本記事では、こうしたカスタマーサクセスの成功ポイントをまとめて紹介します。組織図の例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
カスタマーサクセスにおけるフェーズと組織編制が重要な理由
カスタマーサクセスは、顧客が自社の商品・サービスを最大限に活用し、ビジネス上の目標を達成するのを助ける取り組みです。単に商品・サービスを販売するだけではなく、顧客が目標を達成できるように支援して成功へと導くことで、長期的に顧客満足度を醸成し、収益の増加につながります。
これは特にサブスクリプション型のビジネスモデルでは重要です。カスタマーサクセスの支援によって、顧客にとっての商品・サービスの価値が高まるほど、顧客の解約を防いだりアップセル・クロスセルを増やしたりでき、収益増加の可能性が高まります。
ただし、すべての顧客に対してやみくもにサポートしても成果につながりません。自社サービスを導入した顧客のフェーズによって、サービスへの理解度や関心度が異なるため、フェーズに合わせて柔軟にサポート内容を変える必要があります。
それとあわせて、自社の事業規模やビジネスモデルに合わせたカスタマーサクセスの組織編制も重要です。事業規模やビジネスモデルに合わない組織編制では「人手が足りなくてサポートしきれない」「個人のスキルに合わないカスタマーサクセス業務を担当しているため非効率だ」といった事態を招きかねません。
このような理由から、カスタマーサクセスを成功させるにはフェーズへの対応と柔軟な組織編制が重要なのです。
カスタマーサクセスで成果を出す4つのフェーズ
カスタマーサクセスを実現するためには、準備段階と4つのフェーズを理解し、適切に行動することが重要です。具体的には、以下の通りです。
- 【準備段階】クオリフィケーション
- 【フェーズ1】オンボーディング
- 【フェーズ2】アダプション
- 【フェーズ3】リニューアル
- 【フェーズ4】エクスパンション
それぞれのフェーズに必要なカスタマーサクセスのサポート業務を紹介します。
【準備段階】クオリフィケーション
まずはカスタマーサクセスを始める準備段階として、顧客と自社サービスのマッチング度を評価する「クオリフィケーション」を行います。
クオリフィケーションを行う際には、まず顧客がどのようなニーズを抱えているのか、どのような課題を解決しようとしているのかを深く理解します。そのうえで、そのニーズや課題を自社サービスで満たすことができるのか、適合性を評価します。
顧客のニーズや課題と、自社サービスが適合していれば、顧客との長期的な関係性を築く素晴らしいスタートとなります。
一方で、自社サービスが顧客の期待に合わない場合、それを早期に認識し、適切な対応を取ることも大切です。無理に販売を進めてしまうと、後々の顧客の満足度や信頼を損なう可能性があります。必要であれば他のソリューションを提案したり、他社への紹介を検討したりするなど、顧客の成功を最優先に考えることが求められます。
このように、クオリフィケーションフェーズは顧客との長期的な関係を築くための土台となるステップです。
顧客の期待値を正確に理解し、それが商品・サービスとどの程度マッチしているのかを見極めることで、顧客の成功を促進することが可能となります。
【フェーズ1】オンボーディング
自社サービスを導入した顧客は「オンボーディング」のフェーズに入ります。
オンボーディングとは、顧客がサービスの使い方や価値を理解して使いこなし、利用を自走できるようサポートすることです。この段階で、顧客がどれだけサービスについて理解して価値を見出すことができるかで、その後の長期的なエンゲージメントに大きな影響を与えます。
そのため、このフェーズの目的は、顧客がサービスをスムーズに始めることを支援し、それぞれの機能や利点を理解し、使用開始後すぐに価値を感じられるようにすることです。
まずは、顧客がサービスを容易に理解して利用を始めることができるように、独自のオンボーディングプログラムを作成しましょう。たとえば、詳細な機能について説明されたマニュアルの作成、画面上で操作方法を学べるチュートリアルの提供、ウェビナーやセミナーによる勉強会の開催などがあります。
【フェーズ2】アダプション
スムーズにオンボーディングが進んだら「アダプション」のフェーズに入ります。
アダプションとは、顧客が本格的にサービスを利用して運用を定着させることです。そのためカスタマーサクセスでは、顧客がサービスを最大限に活用することによってビジネスの価値を引き出せるよう支援します。
アダプションが成功すれば、顧客の満足度とロイヤルティが高まり、長期的に関係を維持できるでしょう。また、顧客がサービスに価値を見出せば、ワンランク上のプランにアップグレードしたりオプションを追加したりするなど、アップセル・クロスセルにつながる可能性もあります。
アダプションの取り組みとしては、顧客にヒアリングを行い、活用方法を提案したり活用事例を紹介したりして、活用を促します。
また、顧客の利用状況をモニタリングし、運用が停滞していないかチェックすることも重要です。たとえばBtoBの場合、ログインユーザー数や頻繁に利用している機能などを分析し、他のユーザーの利用を促すよう勉強会を開いたり、別の機能も利用してくれるように活用方法を紹介したりします。
このようなアダプションのアプローチにより、顧客にとって自社サービスが「なくてはならないもの」という認識になります。さらに、自社サービスだけでなく「この人なら安心して任せられる」「この企業なら信頼できる」と、企業自体への信頼性を醸成できるため、エンゲージメントを向上させ長期的な関係性を構築できるのです。
【フェーズ3】リニューアル
アダプションが成功したら「リニューアル」へと進みます。
リニューアルとは、顧客との契約を更新し、継続的なビジネス関係を確保する段階を指します。顧客が自社サービスの価値を見出し、長期的に利用を続けたいと思うことで、顧客のリニューアルにつながります。
リニューアルを実現するための取り組みとしては、定期的なパフォーマンスレビューを行い、製品やサービスが顧客のビジネス目標にどのように貢献しているかを明示します。また、顧客のフィードバックを積極的に取り入れ、サービスの改善や新機能の開発に反映させることで、顧客のニーズに応え続けます。
カスタマーサクセスチームが主導して、顧客の成功体験を社内で共有したり、サービスの最適な活用方法を提案したりすることも効果的です。これにより、顧客は自社のビジネスがどのように改善されているかを実感でき、さらにはその価値を最大化するための新たな可能性を発見できます。
これらの活動は、顧客が自社の製品やサービスに継続的な価値を感じ、契約の更新を選ぶための信頼と満足感を構築します。そして、それは長期的なビジネス関係の確保と、カスタマーサクセスの持続的な成功につながります。
【フェーズ4】エクスパンション
運用が定着し契約を継続している顧客に対し「エクスパンション」の提案をします。エクスパンションとは、自社サービスの利用を拡張していくことで、具体的にはアップセルやクロスセルなどが該当します。顧客がサービスに対して満足して価値を感じられていれば、「もっと活用したい」という気持ちになり、エクスパンションにつながります。
エクスパンションを実現するには、定期的なヒアリングが効果的です。課題や要望などをヒアリングし、その意見を満たすためのアップセルやクロスセルを提案します。
たとえば以下のようなアップセル・クロスセルがあります。
- 上位プランへのアップグレード
- オプションの追加
- 関連サービスの利用開始
- 利用アカウント数の追加
これらのエクスパンションにつなげるために、モニタリングやヒアリングで顧客の現状を理解することが重要です。
カスタマーサクセスを成功させるタイムトゥバリュー(TTV)とは?
カスタマーサクセスを成功させるために知っておきたいのが「タイムトゥバリュー(Time to Value)=TTV」です。
TTVとは、顧客がサービスに対する価値を理解するまでにかかる時間を指します。
サブスクリプション型のサービスの場合、契約更新までに顧客に価値を感じてもらえなければ、解約につながりかねません。そのため、サービスの導入後、なるべく早いタイミングで価値を感じてもらう、つまりTTVを短縮する必要があります。
しかしながら、顧客自らにサービスの利用を任せていると「使い方がわからない」「この機能を使うとどんなメリットがあるのだろう」など、利用が進まないことも珍しくありません。
そこでカスタマーサクセスが適切にサポートして利用を促進し、自社サービスの価値を顧客に伝えます。特にアダプション期のサポートの充実度によって、顧客に価値を理解してもらうスピードを速めることが可能です。
カスタマーサクセスの取り組みによってTTVを短縮することで、解約率低下や顧客満足度向上につながります。
カスタマーサクセス成功には事業フェーズに合わせた組織編制がポイント
一般的に、会社の設立当初からカスタマーサクセスの組織があるのは珍しく、多くは営業チームが兼任することからスタートします。導入社数が増えるにつれ、数人によって部署が設立され、徐々に専門性の高い機能ごとに人員が切り出され、チームが形成されていくという流れを辿ります。
事業フェーズに適したカスタマーサクセスのリソースの拡充が成功のカギとなるため、ここでは事業フェーズに合わせた組織編制の例を紹介します。
事業フェーズ1(導入社数1~10以下:カスタマーサクセス人員0名)
スタートアップや新規事業ではカスタマーサクセスの部署はまだなく、多くは営業が兼任している状態です。オンボーディングやアップセル・クロスセルなども営業が引き続き対応します。基本的には全ての顧客へハイタッチで対応しながら、自社のカスタマーサクセス組織の編制について模索している状態です。
アップセル・クロスセルについては、そもそも選択肢としてまだ用意できていないケースもあります。メインのプロダクトへ開発リソースが投入されるため、追加機能やオプションへの開発は優先順位が低い状態です。
このフェーズでは顧客の声を聞きながら、どのような機能があれば嬉しいかという仮説を洗練させていきます。そのため、オンボーディングと解約対策がメインとなるケースが多いです。
事業フェーズ2(導入社数10〜100社:カスタマーサクセス人員1〜2名)
導入社数が10~100社ほどに増えると、カスタマーサクセスの部署が設立されますが、まだ数人の担当者が全ての業務をこなしている状態です。社内のカスタマーサクセス未経験者がアサインされることが多く、何から着手すべきか分からないためさまざまな情報を収集する段階です。
また、プロダクトとしても模索を続けている状態であるため、VOC分析(VOC=顧客の声)が重要な段階でもあります。カスタマーサクセスというポジションは導入後の顧客の声に触れやすいポジションです。そのため、さまざまなステークホルダーの声を分析し、社内へフィードバックを行うのも大切な業務です。
このように、初期のカスタマーサクセス部門では少ない人員で幅広い業務を行う必要があります。
事業フェーズ3(導入社数100〜500:カスタマーサクセス人員3〜5名)
契約社数増加に伴いオンボーディングなどの機会も増え、業務を効率化していく必要が生じてきます。その過程で業務内容の一部が形式化され、オンボーディング専任チームなどが立ち上がることもあります。
また、カスタマーサクセスの効果も徐々に数字で現れるようになります。それによって人員追加の判断が下され、営業からカスタマーサクセスへ人員が異動になったり、新たに採用されたりするようになります。
しかし、カスタマーサクセス市場はここ数年で誕生したポジションであるため、新たな採用は上手く進まないケースも多くあります。SaaSではカスタマーサクセス職の売り上げに与える影響が大きい一方で、カスタマーサクセスの経験者が非常に少ないという状況があります。そのため、需要と供給のバランスが崩れており、採用が難航してしまうのです。
特にスタートアップや新規事業であれば、事業を一気に拡大すべきタイミングが来ます。その時に採用が難航すると機会損失により売り上げを逃してしまいます。社内の配置転換や新規採用のみならず、外部の企業へのアウトソーシングも視野に入れましょう。
事業フェーズ4(導入社数500〜1,000:カスタマーサクセス人員6名〜10名)
導入社数が500社以上にもなると、カスタマーサクセス専任者が増え、カスタマーサクセス部マネージャー、CSM、CS Opsなど役割が明確化します。CS Ops、CSMについては以下の通りです。
CS Ops(シーエス・オップス)
Customer Success Operationsの略称。
その役割はいわば縁の下の力持ちです。カスタマーサクセス全般の業務に対して最大の成果を得るべく、データ分析から施策の立案まで、幅広い業務を担います。
CSM
Customer Success Managerの略称。実際に顧客と接触し、オンボーディング支援やアップセル・クロスセル、解約対策について直接働きかける役割を担います。
CS Opsの登場により、業務の効率化や全体最適化が加速されます。例えばオンボーディングに時間のかかる企業であれば、顧客のゴールとそこに至るロードマップを明確に定義し、キックオフも戦略的に行われるようになります。
この頃になると顧客データも蓄積されているため、今までは感覚で判断していたものを定量的に裏付けられたロジックで説明できるようになります。分かりやすい例が「ヘルススコア」です。最初の頃は担当者の肌感覚で取得項目やスコアリングを決めるケースが多いですが、データが溜まれば、例えば解約に至った顧客データから共通する傾向を分析することで、より良いヘルススコアを設計できるようになります。
企業によっては、この頃からデータサイエンティスト(データアナリストと呼ばれることもある)をカスタマーサクセスチームにアサインします。業務内容としては、例えばCS Opsが担っていたヘルススコアの管理〜レポートの作成をより専門的に実施したり、VOC分析から読み解いた内容を他のチームと協議したりします。また、経営層向けへの報告書を作成することもあります。カスタマーサクセス成功にはデータの活用が欠かせないため、最近ではデータサイエンティストの需要も増えています。
また、CSMの中ではハイタッチやロータッチの区分に合わせたチーム編成も行われていきます。ハイタッチではCSMが個別に対応しますが、ロータッチについてはチームを組んで多くの企業にアプローチを行います。しかし事業の急加速に伴いフォローしきれない顧客も出てくるため、顧客がセルフオンボーディングできるようなコンテンツも用意していく必要があります。
事業フェーズ5(導入社数1,000以上:カスタマーサクセス人員10名以上)
導入社数が1,000社を超えてくると地方の顧客も増えます。今までは主要都市の顧客のみ直接会うことができていましたが、次第に地方のニーズも高まります。そこで、カスタマーサクセスの地方拠点設立の検討が始まります。
地方拠点を立ち上げるメリットとしては、近くに拠点があるということでクライアントの安心につながったり、競合他社と比較した時の強みになったりします。
この頃になるとサービスの方向性も定まります。顧客のどのような課題を解決するのかも明確になるため、顧客は従来のオンボーディングを超えるサービスを求めるかもしれません。複雑なサービスであるほど、有料のオンボーディングへの需要も高まります。
有料版のオンボーディングではクライアント担当者のモチベーションも高く、無料版と比較し成功しやすい傾向があります。企業としてもそれ相応のお金を払っているため、担当者はプレッシャーを感じやすく、モチベーションが高いケースが多いためです。
カスタマーサクセスを成功させる組織図の例
自社のビジネスモデルに最適化された組織編制であれば、顧客層の偏りを防いだり、すべての顧客に等しくサポートしたりできます。ビジネスモデルによって最適な組織図は異なりますが、ここでは5つの組織図の例を紹介します。
オールラウンダー型
オールラウンダー型は、カスタマーサクセス担当者がオンボーディング、アダプション、リニューアル、エクスパンションといったすべての業務を行います。一気通貫でサポートできるため、顧客満足度を向上し解約を防ぐ効果があるでしょう。
ただし、カスタマーサクセス担当者一人ひとりの業務負荷が大きくなる点はデメリットです。
スペシャリスト型
スペシャリスト型の組織図の場合、カスタマーサクセス組織内に「オンボーディングチーム」「エクスパンションチーム」など専門チームを構成します。業務範囲が明確になっているため、自身の業務に集中でき、成果を高めることが可能です。
しかし、他チームとの情報共有や連携がうまくいかないと、顧客体験を低下させる原因となりかねないため、注意が必要です。
セールス連携型
セールス連携型の場合は、営業部門とカスタマーサクセス部門が連携し合い、最適なタイミングでフォローや提案を行います。カスタマーサクセスが「契約更新」や「アップセル・クロスセルの受注業務」などの営業業務の一部を担うこともあるため、顧客にとっては営業担当者が2人いるように見えることもあるでしょう。
パートナーシップ型
パートナーシップ型は、カスタマーサクセスが顧客と密に伴走する組織図のため、顧客単価が高いエンタープライズ企業と取引している場合によく用いられます。1社に付きっきりで対応することになるため、顧客数が少ない企業に向いている組織図を言えるでしょう。
ただし、すべての顧客に対して1on1で対応できるリソースがない場合は、スペシャリスト型の組織内に、パートナーシップチームを構成する方法もあります。
エリア型
地方にも顧客がいる場合は、エリアごとに組織を分けることも可能です。東京や大阪などの拠点にカスタマーサクセスチームを設置し、それぞれのエリアの顧客に対して密接にサポートします。
まとめ
カスタマーサクセスを成功させるには「顧客のフェーズ」と「自社の事業フェーズ」に合わせたサポート体制や組織編制が必要です。ビジネスモデルに最適な組織図を構成し、成果の最大化を目指しましょう。
当社、アディッシュ株式会社ではCS BOOT CAMPというカスタマーサクセスの壁打ちプログラム(無償)を実施しており、カスタマーサクセスの組織編制に関するご相談は頻繁に寄せられます。
実施すべきと考えている業務の洗い出し、他にも取り組むべき施策の検討、他社事例を紹介しながらのディスカッション、業務の優先順位付けまでサポートすることも多いです。特に業務の棚卸し、優先順位付けは今後のカスタマーサクセス部門の成果を大きく左右します。
サポート体制や組織編制にお悩みの方は、ぜひ実績豊富な当社へお気軽にご相談下さい。