事業フェーズごとに考える、適切なカスタマーサクセス人員数とは
SaaS企業の成長スピードは、他の業種と比較しても特に早いのが特徴です。事業フェーズに適したリソースの拡充、組織体系構築はどの組織においても課題として挙げられやすく、適切に舵を切れるかというのは事業の成功にも大きく関係します。
その中でも、今回焦点を当てるのはカスタマーサクセス事業部です。一般的に、会社の設立当初からカスタマーサクセスの組織があるのは珍しく、多くは営業チームが兼任することからスタートします。導入社数が増えるにつれ、数人のカスタマーサクセスジェネラリストによって部署が設立され、徐々に専門性の高い機能ごとに人員が切り出され、チームが形成されていくという流れを辿ります。
そこで本記事では、サービス導入社数が増えるにつれ何名のカスタマーサクセス人員がアサインされ、どのようなチーム編成を辿っていくのかを掘り下げて解説します。尚、ご紹介する「導入社数ごとの人員数」はあくまでも目安です。HiCustomer会社が提供する「カスタマーサクセス白書 2022」によると、1人あたりの担当者数は16社〜50社であると回答した企業が最も多かったため、今回はこちらの数字を引用しました。実際にはビジネスモデルや企業の大きさなどによって大きく異なりますので、本記事を読んだ後に自社の場合について検討してみて下さい。
事業フェーズごとのカスタマーサクセス
事業フェーズ1(導入社数1~10以下:カスタマーサクセス人員0名)
創業して間もないスタートアップではカスタマーサクセスの部署はまだなく、多くは営業が兼任している状態です。オンボーディングやアップセル/クロスセルなども営業が引き続き対応します。基本的には全ての顧客へハイタッチしながら、カスタマーサクセスについて模索している状態です。
アップセルについては、そもそも選択肢としてまだ用意できていないケースもあります。メインのプロダクトへ開発リソースが投入されるため、追加機能などへの開発は優先順位が低い状態です。このフェーズでは顧客の声を聞きながら、どのような機能があれば嬉しいかという仮説を洗練させていきます。そのため、オンボーディングと解約対策がメインとなるケースが多いです。
事業フェーズ2(導入社数10〜100社:カスタマーサクセス人員1〜2名)
(adishのCS BOOT CAMPについて)
事業フェーズ3(導入社数100〜500:カスタマーサクセス人員3〜5名)
契約社数増加に伴いオンボーディングなどの機会も増え、業務を効率化していく必要が生じてきます。その過程で業務内容の一部が形式化され、オンボーディング専任チームなどが立ち上がることもあります。
また、カスタマーサクセスの効果も徐々に数字で現れるようになります。それによって人員追加の判断が下され、営業からカスタマーサクセスへ人員が異動になったり、新たに採用するようになります。しかし、カスタマーサクセス市場はここ数年で誕生したポジションであるため、新たな採用は上手く進まないケースも多くあります。実際に弊社にご相談を頂いたあるSaaS企業様は半年ほど前に新規採用の募集を出しました。急成長をしていくためにも、外部での経験をもった方に入ってもらいたいと、従事歴3年以上という条件を設定したのですが、ほとんど応募が来ませんでした。SaaSではカスタマーサクセス職の売り上げに与える影響が大きい一方で、カスタマーサクセスの経験者が非常に少ないという状況があります。そのため、需要と供給のバランスが崩れていることから、カスタマーサクセス人材へは各社、高待遇での募集がかけられています。このような状況から採用が難航し、新たに実施したい取り組みもストップしました。
特にスタートアップであれば、事業を一気に拡大すべきタイミングが来ます。その時に採用が難航すると機会損失により売り上げを逃してしまいます。結局、先ほどの企業はカスタマーサクセスのコンサルティングを弊社に業務委託しながら、引き続き採用活動を継続する決断をしました。
事業フェーズ4(導入社数500〜1,000:カスタマーサクセス人員6名〜10名)
カスタマーサクセス専任者が増え、カスタマーサクセス部マネージャー、CSM、CS Opsなど役割が明確化します。CS Ops, CSMについては以下の通りです。
CS Ops(シーエス・オップス)
Customer Success Operationsの略称。
その役割はいわば縁の下の力持ちです。カスタマーサクセス全般の業務に対して最大の成果を得るべく、データ分析から施策の立案まで、幅広い業務を担います。
CSM
Customer Success Managerの略称。実際に顧客と接触し、オンボーディング支援やクロスセル/アップセル、解約対策について直接働きかける役割を担います。
具体的な業務内容は以下の通りです。
CS Opsの登場により業務の効率化や全体最適化が加速されます。例えばオンボーディングに時間のかかる企業であれば、顧客のゴールとそこに至るロードマップを明確に定義し、キックオフも戦略的に行われるようになります。
この頃になると顧客データも蓄積されているため、今までは感覚で判断していたものを定量的に裏付けられたロジックで説明できるようになります。分かりやすい例がヘルススコアです。最初の頃は担当者の肌感覚で取得項目やスコアリングを決めるケースが多いですが、データが溜まれば、例えば解約に至った顧客データから共通する傾向を分析することで、より良いヘルススコアを設計できるようになります。
企業によってはこの頃からデータサイエンティスト(データアナリストと呼ばれることもある)をカスタマーサクセスチームにアサインします。業務内容としては、例えばCS Opsが担っていたヘルススコアの管理〜レポートの作成をより専門的に実施したり、VoC分析から読み解いた内容を他のチームと協議したり、経営層向けへの報告書を作成するなどが挙げられます。カスタマーサクセス成功にはデータの活用が欠かせないため、最近ではデータサイエンティストの需要も増えています。
また、CSMの中ではハイタッチやロータッチの区分に合わせたチーム編成も行われていきます。ハイタッチではCSMが個別に対応しますが、ロータッチについてはチームを組んで多くの企業にアプローチを行います。しかし事業の急加速に伴いフォローしきれない顧客も出てくるため、顧客がセルフオンボーディングできるようなコンテンツも用意していく必要があります。
例:Sansanさんのカスタマーサクセス組織図
事業フェーズ5(導入社数1,000以上:カスタマーサクセス人員10名以上)
導入社数が1,000社を超えてくると地方の顧客も増えます。今までは主要都市の顧客のみ直接会うことができていましたが、次第に地方のニーズも高まります。そこで、カスタマーサクセスの地方拠点設立の検討が始まります。例えばSmart HRさんは現在登録社数が50,000社を超えましたが、東京、愛知、大阪、福岡の4拠点にカスタマーサクセス部隊があります。地方拠点を立ち上げるメリットは、対面での会話を好まれるクライアントのニーズに答えられるということ、また近くに拠点があるということでクライアントの安心に繋がったり、競合他社と比較した時の強みにもなります。
(例)SmartHRさんの組織図
またこの頃になるとサービスの方向性も定まります。顧客のどのような課題を解決するのかも明確になるため、顧客は従来のオンボーディングを超えるサービスを求めるかもしれません。複雑なサービスであるほど、有料のオンボーディングへの需要も高まります。しかし有料版の提供を開始すると判断するのであれば、それ相応の専門的なコンテンツを準備する必要があります。高度なコンテンツを用意するほど、社内のレベルアップや引き継ぎの問題が発生します。また、顧客側が覚えることの負担も増えるのも事実です。何度も説明する必要がないよう、後ほど確認できるコンテンツなども準備しておくのが良いでしょう。とはいえ、有料版のオンボーディングではクライアント担当者のモチベーションも高く、無料版と比較し成功しやすい傾向があります。企業としてもそれ相応のお金を払っているため、担当者はプレッシャーを感じやすく、モチベーションが高いケースが多いためです。
例:Salesforceの有料オンボーディングプラン。
専門家によるサポートや追加のガイダンス、コーチングやライブサポートなどを受けることができる。
まとめ
いかがでしたでしょうか。事業フェーズごとにカスタマーサクセスの歩みを5段階に分けてご紹介しましたが、冒頭でもお伝えした通りこれらはあくまでも一例です。実際にはビジネスモデルやオンボーディングの難しさ、アップセル/クロスセルの戦略によって、組織の歩みや体制も大きく異なります。アディッシュではカスタマーサクセスのコンサルティング事業を行っていますので、今後どのように組織を作っていくべきか、どのような採用活動が必要になるのかなど、お気軽にご相談下さい。