キーマン離職による解約を防ぐため、取り組むべきこと
藤木奈美
2024.10.15
「実は今月末で退職することになりまして。今までサポート頂きありがとうございました。今後は後任の者とやり取りして下さい。」
今まで頻繁にやり取りしていたキーマンの退職や異動。特に日本の企業は異動が多く、このような経験をした方も多いのではないでしょうか。「後任の方に上手くオンボーディングできるだろうか。」CSM(カスタマーサクセスマネージャー)であれば不安がよぎります。事実、このようなケースをきっかけに解約に繋がるケースは多いです。
本記事では、このような事態に直面した時どのようにフォローすべきか、また事前にどのような対策ができるかを詳しくご紹介します。
連絡が来てからでは遅い。事前に察知し先手を打つ
異動などの情報は内密にされるケースが多く、担当者も無闇に公開したくないものです。連絡を貰う頃には引き継ぎで慌ただしく、こちらからの連絡にもなかなか返信できません。
CSMとしては次の後任者にしっかり引き継ぎを行うため、出来れば前任者から導入に至った背景、継続すべき理由などを丁寧に伝えてもらいたいところです。こちらから説明するよりも説得力のあるメッセージとなります。しかし、異動の連絡を貰う頃にはそんな余裕はなく、引き継ぎも半ばで部署を去ってしまう可能性があります。この機会損失は非常に勿体ないことです。
そこで、事前に異動や退職の情報を察知できれば良いですよね。ここでは大きく4つの方法を説明します。
①キーマンとの関係性を強めるためのハイタッチを積極的に行う
1つ目は普段から信頼関係を強めるためハイタッチを積極的に行うことです。キーマンとの信頼関係が強ければ強いほど機密情報であっても事前に教えてもらえるかもしれません。しかし全ての企業にハイタッチすることは困難ですので、例えば異動が起こりやすい時期などを事前にヒアリングしておき、その頃になれば様子を伺います。定例会など複数名いる場所では答えづらい内容になりますので、電話や1対1で聞きましょう。
②ヘルススコアを用いて察知する
2つ目はヘルススコアを用いて察知する方法です。キーマンが離れる場合、例えばその人のログイン頻度が下がる、新たな管理者が追加されるなどの動きが見られる可能性があります。ツールにより異なりますが、特に毎日ログインする必要のあるツールであれば通常と異なる動きにはリスクが潜んでいるかもしれません。可能であればそのような場合に通知が飛ぶように設定しておき、積極的に様子を伺いに行きましょう。
③テックタッチを用いる
3つ目はテックタッチを用いる方法です。例えば「管理者変更マニュアル」「異動時・退職時に注意したい引き継ぎマニュアル」などのコンテンツを用意しておき、そのような状況になった方が必ず通るような道を用意しておきましょう。そうすればクリックしたタイミングで察知することが可能です。
④公開情報から人事情報を入手する
4つ目は担当者が大企業の役員クラスである場合ですが、公開情報から人事情報を入手することができます。過去の情報よりどの時期に人事異動が行われるかを推測できるので、時期が近づいたら積極的にアプローチします。今回のテーマからは逸れますが、同時に決算期も押さえておけばアップセルも狙えて一石二鳥です。
事前に察知できなかったとしても大丈夫、と言える状態に
事前察知をするための4つの方法をご紹介しました。とはいえ全ての企業の状態を把握するにはリソースも必要ですし困難な場合もあります。また、元はといえば目的があってSaaSサービスを導入しているので、キーマンが離れたからといっても利用が終了するはずありません。本来はキーマンの有無に関わらず、サービスがなくてはならない状態を作れているかが本質的に健全な状態です。そこで、以下2つについて見直してみましょう。
①営業が適切な顧客にアプローチできているかどうかをチェックする
1つ目は営業が適切な顧客にアプローチできているかです。よくありがちなのが、目標達成のために無理に営業活動を行うケースです。キーマンとしては導入の意思決定をしたため協力してくれますが、その他の方にとっては「新しいツールの使い方を覚えるのは面倒だな」「従来の方法ではダメなのか」などネガティブな感情が生まれオンボーディングが進みません。このような営業活動が常態化しているとカスタマーサクセスチームが疲弊します。MRRも積み上がらず、組織として不健康な状態といえます。営業とカスタマーサクセスが分かれている組織であれば、カスタマーサクセスが営業にしっかりフィードバックすることが重要です。どこでニーズの取り違えが起こったのか、顧客の期待値調整をどのように行っていたのかなどを擦り合わせましょう。また会社によっては営業の評価制度を導入後のLTVやヘルススコアを元に算出している所もあるので参考にして下さい。
②キーマン以外にも積極的にリーチする
2つ目はキーマン以外にも積極的にリーチする方法です。他部署や他チームの協力が必要な時、いつもやり取りしているキーマンに依頼してしまいがちですが、ここは関係性を深めるためにも直接やり取りするよう努めましょう。関係性が深まれば広い視野でクライアントの状況を捉えらえるようになりますし、例えキーマンが離れても自社の味方をしてくれる方が現れます。また同時に決済者との関係性も深めておきたいところです。例えば「次回定例では、これまでのサービス導入により得られた成果と今後の費用対効果の試算をご紹介できればと思いますので、決済者の方にも同席いただけないでしょうか」など、決済者も巻き込み味方につけましょう。
キーマンから急に離職連絡が来た場合に取るべき対策
事前察知する方法やサービスについて見直すポイントを紹介しましたが、事前に準備していたとしても、キーマンから急に離職連絡が来ると慌ただしくなってしまうこともあるかと思います。急に離職連絡が来たとしても慌てることがないよう、3つの対策を説明します。
①キーマンと後任者の両方が同席いただける会議を早急に設定する
1つ目はキーマンと後任者の両方が同席いただける会議を設定できないか、早急に打診することです。その場で後任者に改めてオンボーディングすることで、前任者から導入の背景、現場視点に基づいた進め方のポイントなど補足してもらえるかもしれません。こちらから説明するよりも遥かにメッセージ性の高いものとなります。
②過去の導入背景や解決したい課題感を明確に伝える
2つ目はオンボーディングMTGの際に、過去の導入背景や解決したい課題感を明確に伝えるということです。例えば初めてのキックオフMTGなどでその辺りを確認すると思いますので、しっかりログとして残しておきましょう。また途中で目的が変わることもありますので、しっかり情報を蓄積していくことで「当初このような目的で導入しましたが、今の貴社の状況からするとこの辺りの課題を解決したいですよね。そのために弊社サービスがお役に立てるはずなので、改めて使い方と、参考までに過去出ている成果もお伝えできればと思います」など説得力のあるメッセージを伝えていきましょう。
③サービス内に蓄積されたデータにも目を向けてもらう
3つ目はサービス内に蓄積されたデータにも目を向けてもらうことです。サービスの機能面も重要ですが、そこで溜まったデータ自体にも価値があるケースがあります。解約やリプレイスとなるとデータの移行コストがかかるため、部分的に移行を諦める所もあるかもしれません。つまり、今後の戦略を考える上での資産が失われることになります。そのあたりにも重点を置いて後任の方にお話していきましょう。
まとめ
本記事では、キーマン離職による解約を防ぐための対策について紹介しました。キーマン離職は解約リスクでもありますが、事前に察知し先手を打つことや、キーマン以外にも積極的にリーチすることでリスクを軽減することができます。また、急に離職連絡が来た場合には後任者との両方が同席いただける会議を設定することや、サービス内に蓄積されたデータにも目を向けてもらうことが重要です。上手くフォローを行いアップセル・クロスセルの機会に繋げられると良いですね。
この記事を書いたライター
藤木奈美
カスタマーサクセスのコンサルタントとして数々のSaaSプロダクトを支援。ヘルススコアの設計、オンボーディング戦略立案、顧客の自己解決率を上げるための提案など様々な支援実績を持つ。1児の母。