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「カスタマーサクセスは終わり」は本当か? ──AI時代に淘汰されるCSと、選ばれ続けるCSの境界線

近年、SaaSビジネスの成長に伴い、「カスタマーサクセス(CS)」という職種は企業にとって欠かせないポジションとして広く定着してきました。しかしここ数年、市場環境の変化やAI技術の台頭により、CSの役割や存在意義が大きく問い直されています。

私自身、現役のCSとして日々の業務に向き合う中で、ふと「カスタマーサクセスは終わりだ」という声を目にし、強い危機感を抱いたことが本記事執筆のきっかけです。

では、本当にカスタマーサクセスという職種は終わってしまうのでしょうか?

結論からお伝えすると、CSという仕事自体がなくなるわけではありません。しかし、「単なる御用聞き」のような従来型の役割は、確実に終わりを迎えつつあります。

本記事では、CSを取り巻く環境の変化を整理しながら、AIを恐れるのではなく「優秀な相棒」として活用し、これからの時代に「選ばれ続けるCS」になるための具体的なアクションを、現場での実践例とともにご紹介します。

なぜ今、「カスタマーサクセスは終わり」と言われているのか?

現場のCS担当者が将来に不安を抱く背景には、避けられない市場環境の変化とテクノロジーの進化があります。ここでは、なぜ「カスタマーサクセスは終わりだ」と囁かれているのか、その背景にある「2つの大きな変化」について詳しく見ていきましょう。

 

1-1. 利益重視へのシフトと現場の不安

現在、SaaS業界は「成長至上主義」から「利益重視」へと大きく移行しています。Gainsightのブログでも指摘されているように(※1)、経済的な逆風の中で顧客維持は、もはや「あったらいいな」というオプションではなく、ビジネスの「重要な成長軸」となりました。

その結果、「定期的に連絡する」「ツールの使い方を説明する」といった従来型のサポート対応は、費用対効果の観点で評価されにくくなっています。実際に海外ではカスタマーサクセス職のレイオフが相次いでおり、自身の役割に不安を抱える担当者が増えているのが現状です。

 

1-2. AIによる業務代替の現実

さらにAIの進化により、従来のCS業務は急速に代替されつつあります。

例えば決済サービスのKlarnaでは、AIがサポート対応の3分の2を処理することで、1件あたりの平均対応時間を11分からわずか2分へと短縮し、年間約4000万ドルのコスト削減を実現したと報告されています(※2)。

このように、人が担っていた定型業務や初期対応は、確実にAIへと置き換わろうとしているのです。

ビジネスモデルの転換と「新しいCSの役割」

「自分の仕事が奪われるかもしれない」という現場の危機感から一歩踏み込み、CSがビジネス全体の中でどのように役割を変えていくべきかを見ていきましょう。ここでは、AI時代の新たなビジネスモデルとトップ企業の動向から、これからのCSに求められる「生存の条件」を解説します。

 

2-1. AIの進化による「ユーザー数課金」モデルの限界

AIが人間の仕事を代替し始めると、従来のSaaSのような「利用ユーザー数」による課金モデルが通用しなくなります。

TSIAが発表した2026年のレポートでは、これを「AI Economics」と呼び警鐘を鳴らしています(※3)。これまでのSaaSは、人間の作業時間、いわば非効率な部分をユーザー数として収益化してきましたが、AIが作業を自動化すれば企業に必要なユーザー数は減少します。SaaSビジネスの売上構造そのものが根底から変わる中で、CSは「機能がどれだけのユーザーに利用されているか」ではなく、「顧客にどれだけの財務的な利益をもたらしたか」を証明しなければならないフェーズに来ています。

 

2-2. 「ビジネス成果」の証明が生き残りの条件

SaaStrのイベントに登壇したSlack、Mulesoft、OpenAIといったトップ企業のCSリーダーたちは、「更新対応だけを行う従来のCSは時代遅れである」と明言しています(※4)。例えばSlackのCSチームは、ただ契約更新を待つのではなく、「顧客に圧倒的な価値を感じてもらい、更新時の大規模なアカウント拡張を生み出す成長エンジン」として機能しています。

これからのCSには、顧客の「売上向上」や「コスト削減」といった具体的なビジネス成果を生み出し、それを定量的に示すことが求められます。これが、選ばれ続けるCSと淘汰されるCSの分岐点です。

 AI時代に選ばれ続ける次世代CS「3つの行動指針と実践」

ビジネスモデルが変化し、CSに「具体的な成果」が求められる今、私たちはこれまでの働き方をアップデートしなければなりません。では、具体的にどう行動するべきでしょうか?ここからは、明日からすぐ業務に活用できる「3つの行動指針」と、現場での実践例を交えてご紹介します。

 

3-1. AIを「優秀な相棒」として使いこなす

データ分析や資料作成などの作業の「下書き」はAIに任せ、自分は最終的な確認と調整に集中することで、仕事のスピードと質を劇的に引き上げます。OpenAIのCSトップであるVanessa Gatihi氏も、「CS担当者全員がAIを使って自分自身のビジネスアナリストになれる時代だ」と語っています(※2)。専門のデータチームに依頼して何日も待つのではなく、CS担当者自身がその場で分析を行い、顧客へのアクションに繋げられるようになっています。

 

【現場での実践例】議事録やデータ分析のAI活用

私は日々の面談議事録の作成や、顧客の解約・休止理由の分析といった時間のかかる作業をAIに任せています。最終的な内容は自分の目で確認していますが、ゼロから作成する手間が省けたことで生まれた時間を、顧客への戦略的な提案の検討に充てられるようになりました。

 

3-2. 「機能」ではなく「成果」をアピールする

単にログイン数などの「ツールの利用状況」を追うのではなく、「どれだけ時間やコストを削減できたか」という具体的な投資対効果を顧客に示すように意識を変えます。機能の利用状況はあくまで通過点であり、最終的なビジネス成果にこだわる姿勢が重要です。

 

【現場での実践例】ビジネスレポートでの成果提示

私が担当した案件の別チームでは、ビジネスレポートを作成する際、ツールのログイン率や利用状況だけでなく、「このツールによってどれだけ業務コストが削減できたか」というビジネス成果を可視化し、関係チームに提示する取り組みを行っていました。

 

3-3. デジタルに任せ、「人間ならではの価値」に集中する

よくある質問対応や定期的なフォローは、AIや自動化などのデジタルツールに任せます。このようにデジタルを駆使する戦略として、Gainsightが提唱しているのが「デジタルカスタマーサクセス」です(※1)。これは、デジタルと人間の対応を融合させ、顧客の自己解決を促すことで、CS担当者の時間を最も価値の高い活動へ最適化するという考え方です。

この考え方に基づき、アプリ内のチュートリアルやFAQを活用して顧客が自己解決できる仕組みを整えます。人間は複雑な課題解決や、顧客の経営層との関係構築など、付加価値の高い業務に専念します。

 

【現場での実践例】フォローメールの自動化

私の所属するチームでは、「2週間未ログインの顧客へのフォローメール」といった定型的なアプローチを自動化しました。これによって生まれた時間を、より解約リスクの高い重要顧客への個別対応や深掘りに集中的に充てています。

【深掘り】AIには代替できない「人間ならではの価値」とは何か?

AIは過去のデータから「論理的な正解」を導き出しますが、その正解をもとに顧客の組織を動かす最後の一押しは、人間にしかできません。では、これからのCSに求められる、人間にしか踏み込めない領域とは何でしょうか。

 

4-1. AIの「正解」を、現場の「現実的な一歩」に翻訳する力

AIは「この手順で進めるのが一番効率的です」という、いわば論理的な「正解」を出すのが得意ですが、現場でそれをそのまま実行するのは難しいことも多いです。だからこそ、その会社の雰囲気や担当者のこだわり、今の忙しさなどを汲み取る必要があります。

そうした背景を踏まえた上で、相手が納得できる形に噛み砕いて伝えることは、相手の「リアルな状況」を深く理解している人間にしかできない大切な役割です。

 

4-2. 新しいことを始める「心理的なハードル」を一緒に乗り越える伴走力

新しいツールを導入する際、現場ではどうしても「覚えるのが大変そう」「今のやり方を変えたくない」といった不安や抵抗感が生まれます。だからこそ、OpenAIの事例でも、AIツールの導入においては、最も技術力が高いメンバーではなく、技術力は中程度でも関係構築や対話を得意とするメンバーのほうが適任であるという教訓が語られています(※2)。

 

AIには難しい、こうした人間ならではの心理的なハードルに共感し、顧客と足並みを揃えて進めていく伴走力こそが、これからのCSに求められる重要な役割です。

 

4-3. 効率や数字だけでは測れない「この人なら」という信頼関係

論理や数字が重視されるビジネスの場であっても、顧客が「契約の更新」や「追加導入」といった重要な意思決定をする際、最終的な決め手となるのは、「困った時に親身になってくれた」「常にこちらの立場に立って考えてくれる」といった積み重ねです。こうした安心感が「この担当者だから任せたい」という信頼につながります。効率化だけでは割り切れない、人間的な関係性こそが、AI時代において私たちが発揮すべき重要な価値です。

 

デジタルに任せられる作業は徹底的にAIに委ね、こうした「人間にしかできない調整や、信頼関係の構築」に時間を使うことこそが、AI時代のCSに求められる最も重要な役割と言えます。

まとめ

「カスタマーサクセスは終わり」という声は、決して職種そのものの消滅を意味するものではありません。この言葉が本当に意味しているのは、単なる「御用聞き」や「成果に結びつかないサポート対応」の終焉であり、CSが顧客のビジネス成果を直接牽引する役割へと進化しなければならないという変化のサインです。

AIによって、自身の役割が代替されるのではないかと、不安を感じることもあるかもしれません。そうしたときには、まず「議事録をAIに任せる」「自動化できる業務は手放す」といった身近な実践から始めてみることをおすすめします。AIを「優秀な相棒」として使いこなすことで、CS担当者自身がデータに基づいて戦略を練る余裕が生まれます。

そうして生まれた時間を使い、AIの「正解」通りには進まない現場の課題を解きほぐし、心理的なハードルを顧客とともに乗り越えていくことが重要です。そして、効率や数字だけでは測れない「この担当者だから任せたい」という信頼関係を築くことこそが、AI時代に「選ばれ続けるCS」になるための確実な第一歩となります。

【参考記事・出典】


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