【翻訳】SaaS向けカスタマーセグメンテーションガイド

Custify
2025.04.23

この記事は著作権を有する Custifyの許可を得て翻訳したものです。
Original article:https://www.custify.com/blog/saas-customer-segmentation-guide-csm/
はじめに
想像してみてください。ホリデーシーズンが訪れ、あなたは友人たちに最適なプレゼントを選ぼうとしています。それぞれの友人には独自の趣味や好み、関心があります。例えば、ある人は熱心な読書家であり、ある人はコーヒー愛好家だったり、またある人は筋トレに熱中しています。
それぞれの性格を熟知しているため、あなたは彼らにぴったりのプレゼントを選ぶことは難しくありません。プレゼントを手渡した瞬間、彼らの表情が喜ぶのを見て、あなたは最高のクリスマスを演出できたと喜びます。
「これがSaaSのカスタマーセグメンテーションと何の関係があるのか?」と疑問に思うかもしれません。
答えはシンプルです。
それは、顧客セグメンテーションの持つ力を示す完璧なアナロジー(推察)なのです。友人の好みを知っていれば、適切なプレゼントを選べるのと同じように、顧客の嗜好を理解することでエンゲージメント(繋がり)を深め、サービスを最適化し、顧客を維持する方法を革新できます。
SaaSにおけるユーザーセグメンテーションとは?
簡単に言えば、セグメンテーションとは、ユーザーのニーズや行動に基づいてユーザーをグループ化することです。
例えば、マーケティングキャンペーンを展開する前に、オーディエンス(顧客)の反応を事前に予測できるとしたら、あなたはどうしますか?
魔法みたいだと思うかもしれませんが、これはデータサイエンスの力によるものです。プラットフォームとインタラクトするユーザーは行動の痕跡を残します。彼らが取るすべてのアクションは、タイルのようなものだと思ってください。データのタイルを十分に集めると、大きな全体像(モザイク)が見えてきます。そのモザイクが、ユーザーセグメント -つまりセグメント——つまり、類似した行動、関心、嗜好を持つグループです。
ここまでは問題ありません。
ここからが面白いところです。セグメンテーション(市場区分化)の例を調べると、「この製品は30歳から50歳の人向けです」といった人口統計情報に基づくものがよく見られます。確かにこれは有効なセグメント(グループ)ですが、実用的なセグメンテーションを行うには、人口統計の枠を超える必要があります。
例えば、あなたがヘルス&フィットネスアプリを運営しているとします。その場合、単なる年齢や性別だけでなく、アプリの使用時間帯やワークアウトの目標を組み合わせたセグメンテーション(時間帯、目標の区分化)が可能になります。
早起き派は、深夜のワークアウトを好む「夜更かし派」では、好みや動機が異なる可能性があるため、ユーザーの行動データを組み合わせることで、それぞれに適した体験を提供することができます。
セグメンテーションを通じた理想的な顧客プロファイル(ICP)の特定
カスタマーセグメンテーションの領域では、「理想的な顧客プロファイル(Ideal Customer Profile, ICP)」という用語をよく目にします。これは「バイヤーペルソナ(製品の提供対象、ターゲット)」と区別することが重要です。バイヤーペルソナは、顧客ベース(収入の中心となる顧客)をより一般的に表現した言葉ですが、一方でICPは、「SaaSビジネスにとって長期的に最も価値のある顧客」という意味です。
SaaSのカスタマーサクセスマネージャー(CSM)にとってICPが重要である理由
SaaSにおけるカスタマーサクセスマネージャー(CSM)にとって、ICP(理想とする顧客像)を理解することは非常に重要です。以下がその理由です。
- 解約率(チャーン、Churn)の削減
正確なICPを特定することで、長期間に渡って製品を利用する見込みが高い顧客を特定できるため、解約率の削減に貢献できます。 - 顧客生涯価値(Customer Lifetime Value, CLV)の最適化
ICPは、製品購入の見込みを示す指標だけではありません。アップセル、クロスセル、リニューアルを通じて持続的な収益(顧客生涯価値)をもたらす顧客の種類を明確にするためのロードマップでもあります。 - リソースの最適化
ICPを特定することで、カスタマーサクセスのリソース(人的、経済的)をより効果的に配分(どのターゲットに分けるかを特定)できるため、施策のROI(投資対効果)を最大化することができます。
セグメンテーションを活用してICPを発見する方法
ICP(理想とする顧客像)を明らかにする鍵は、効果的なカスタマーセグメンテーション(顧客の区分化)にあります。以下の手順に従って、最適な顧客プロファイルを特定しましょう。
- データ駆動型の分析
使用データ、機能の採用率、顧客からのフィードバックなどの既存のSaaSメトリックを活用し、最も取引が成功し、かつ満足度の高い顧客の傾向を特定します。 - 多面的なセグメンテーション
基本的な人口統計データ(年齢、職業、業界など)だけに頼らず、行動パターン、エンゲージメント(顧客との繋がり)レベル、カスタマーヘルススコアなどを組み合わせた、より深い分析を行います。
包括的なICPを構築することで、オンボーディングから維持まで、顧客が製品と長期的な関係を築くのに最適な戦略を立案できます。
SaaSマーケティング担当者およびCSM向けのカスタマーセグメンテーションチェックリスト
カスタマーセグメンテーション(顧客の区分化)を開始する前に、マーケティング担当者またはカスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、以下の重要な質問を検討する必要があります。検討すべき質問は、以下の通りです。
アカウント単位と個別ユーザー単位、どちらでセグメントすべきか?
セグメンテーションを考える際の永遠の課題として、「アカウント単位でセグメントするべきか、それとも個々のユーザー単位で行うべきか?」という問題があります。
アカウントレベルのセグメントは、顧客のライフサイクル(製品使用の経過)全体を俯瞰して示しています。特にB2B SaaSの分野では、顧客のライフサイクルは企業全体の動きに基づいて決まることが多々あります。
しかし、アカウントデータとユーザーアクティビティを統合することで、より強力なインサイト(洞察)を得ることができます。たとえば、一つのアカウントで非常に活発なユーザーが、別のアカウントではあまり活動していないとしましょう。この場合、そのユーザーを初心者として扱うのは間違いで、彼らの持つ専門知識を考慮した後、彼らを「パワーユーザー」のグループに分類することができます。
一方で、個々のユーザー単位のセグメンテーション(区分)では、パーソナライズ(個人ごとの最適化)の精度が向上します。
例えば、サブスクリプションの更新や支払い遅延に関するキャンペーンを行う際、ユーザーの役職(例:請求管理者)ごとにメッセージをカスタマイズすることができます。もしあるユーザーが複数のアカウントで請求管理者としての役割を持っている場合、そのユーザーをセグメント化すれば各アカウントに関連した適切なメッセージを送ることが可能です。
なぜカスタマーセグメンテーションが必須なのか?
もしすべての洋服店で同じ服が販売され、すべてのレストランが同じ料理を提供し、聴ける音楽が1種類しかなかったらどうなるでしょう?
それはとても非現実的な世界です。しかし、一部のSaaS企業は、すべてのユーザーを同じように扱っています。80%の消費者は、「自分に合った体験を提供するブランドと取引したい」と回答しているにもかかわらず、一部のSaaS企業は、すべてのユーザーを同じように扱っています。です。この問題を解消するためにユーザーを適切にセグメント化することで、どんな事が起こるでしょうか?
1. パーソナライゼーションの向上
ユーザーセグメンテーションにより、ユーザーのスタイル、癖、嗜好に合わせてオファーを作ることができます。そのため、新しいトレンドを提示する度にユーザーはそれを無視する事が難しくなります。
Adobeの調査でも、66%の消費者は「自分に合わないコンテンツが提示されると購買意欲を失う」と回答しています。
好例として、Gusto のパーソナライゼーションがあります。初めて同社の Web サイトにアクセスすると、次のランディング ページが表示されます。
しかし、リピーターのユーザーにはまったく異なるものが見られます。
2. 最適化されたマーケティング戦略(Optimized Marketing Efforts)
Evergageによると、98%のマーケターが「パーソナライゼーションは顧客関係を向上させる」と回答しています。
では、次のような状況をシミュレーションしてください。
あなたの運営するeコマースプラットフォームは、テクノロジー愛好家からインテリア愛好家まで、さまざまな顧客のニーズに対応しています。
しかし、製品チームは大きな決断を迫られています。
「テクノロジー関連の機能を強化すべきか、それともインテリアのショッピング体験をより没入的にすべきか?」
ここで、データを分析したところ、次のような意外な事実が判明しました。
声高に発言する「テクノロジー愛好家」は売上全体のごく一部しか占めていません。
一方、あまり目立たない「インテリア愛好家」こそが、売上の大部分を支えているのです。
このデータをもとに、プロダクトチームはインテリア部門に注力することを決定しました。
おすすめ機能を強化し、部屋をデザインするためのインタラクティブツールを組み込んでいます。テクノロジー関連の要望を無視するわけではありませんが、最も価値の高いセグメントのニーズに焦点を当てています。
この戦略的な転換により、「インテリア愛好家」のユーザーエンゲージメントとコンバージョン率が向上しました。プラットフォームは、インテリア愛好家にとって頼りになる場所となり、この市場における地位を確立しました。
3. 効率的なリソース配分(Efficient Resource Allocation)
リソース配分は、料理を作るプロセスに例えることができます。
料理に必要な材料がすべて揃っていたとしても、それを適当に使うと、結局は誰も食べたくないものができあがってしまいます。
熟練したシェフは、食材の特性を理解し、最適な組み合わせを考えます。同じようにSaaS企業もリソースを適切に配分し戦略的な意思決定を行うことで、事業を成功へと導きます。
顧客を隅々まで知ることは、ビジネス成功の基礎です。例えば、あなたのSaaSサービスで特定の機能に多くのユーザーが魅力を感じているとしましょう。
これは単なるヒントではなく、今後どこにエネルギーとリソースを投入すべきかを示す「明確なロードマップ」です。
データポイント:Instapageによると、米国のマーケターの88%が「パーソナライゼーションによって実際の業績が向上した」と報告しています。
これはつまり、暗闇の中を手探りで進んでいるのではなく、セグメンテーションを活用することで適切なターゲットに対して最適な施策を常に打っているということです。
適切なセグメンテーションを実施すれば、推測に頼らずに顧客満足度の向上とビジネス成長を牽引することができます。
4. 戦略的な意思決定(Strategic Decision-Making)
適切なタイミングで適切な判断を下せるかどうかが、ビジネスの成功を左右します。では、優れた意思決定者とは誰でしょうか?
スティーブ・ジョブズは、技術の天才でもあり、ビジネス史上最高の意思決定者でもありました。彼がアップルの製品ラインナップを作り上げ、そのラインナップを絞り込んだことで、アップルは現在の成功を築き上げました。
しかし、スティーブ・ジョブズは未来を予測できる水晶玉を持っていたわけではありません。彼の成功は市場の動向とユーザーの嗜好を深く理解した上での戦略的な意思決定の結果から生まれました。そして、カスタマーセグメンテーションにより、それが私達にも可能になります。
カスタマーセグメンテーションは、例えるならデータに基づくコンパスのようなものです。消費者の嗜好や行動、製品への期待を正確に把握してデータを収集するだけでなく、それを適切に分析し、顧客の視点から解釈することで、ビジネス戦略を構築できるようになります。
カスタマーセグメンテーションを活用すれば、単なる直観に頼るのではなく、確固たるデータに基づいて戦略的な意思決定を行うことができます。これは、単にビジネスを運営するだけではなく、市場において新たな基準を確立し、競争優位性を確保する為の重要なステップです。
5. 顧客満足度とロイヤリティの向上(Increased Customer Satisfaction and Loyalty)
顧客はあなたの会社のことや、あなたが受賞した数々の賞については興味がありません。彼らが関心を持つのは、あなたのサービスが自分のニーズにどれだけ合っているかという点です。その為、彼らのニーズに合わないオファーや商品を提案しても無意味となってしまいます。
あなたのSaaSビジネスの成果は、顧客の満足度とロイヤリティに直結します。そして、カスタマーセグメンテーションは、この目的のための羅針盤になり得ます。
セグメンテーションを活用することで、ユーザーとのあらゆるインタラクション(やり取り)をパーソナライズできます。ユーザーの主な領域の嗜好、課題、使用パターンをすべて把握し、実践することができれば、ユーザーとのコミュニケーションや推奨する事項の提案、サポートのカスタマイズを行う事も夢ではありません。そしてそれを行う事はユーザー体験の向上だけでなく、企業のユーザー(顧客)第一主義の姿勢を示すことにもつながります。
Salesforceの調査によると、70%の消費者が「企業が自分の"個人的な"ニーズを理解しているかどうかが、ブランドへのロイヤリティに影響する」と回答しています。
つまり、顧客にとって企業が自分を理解している、自分を大切にしていると感じることで、ブランドとのより深いつながりが生まれます。これは、長期的な関係構築の基礎となるのです。
ユーザーとの関係をパーソナライズし、共感を持って対応するSaaS企業はトレンドの経過による変化を乗り越え、長期的に成功し続けられます。
顧客それぞれのニーズや希望に沿ったソリューションを一貫して提供し続けることで、そのSaaS企業は顧客のパートナーとして不可欠な存在になります。トレンドが次々と移り変わる中でも、理解と共感に基づいた関係は、長期的な成功の基盤となるのです。
6. 新たなトレンドと機会の特定(Identify Emerging Trends & New Opportunities)
本質的に、カスタマーセグメンテーションとトレンドの特定の関係は、まさに相互補完的な関係にあります。熟練した追跡者が足跡をたどって動物の行動を予測するように、カスタマーセグメンテーションは、顧客の行動変化や市場の変遷を先読みする手がかりを提供します。
特定のセグメントがあなたのオファーやコミュニケーションに対してどのように反応しているかを注視してみてください。あるセグメントが急激に行動を変えたり、新しい嗜好を示し始めた場合、その新たな変化の理由を分析することが重要です。それを察知することによって、トレンドが主流になる前に新たな市場機会を見出し、競合他社よりも一歩先んじて市場に新しい価値を提供することが可能になります。
さらに、カスタマーセグメンテーションは、未開拓だった収益の可能性を明らかにする役割も果たします。SaaSでは、特定の機能やソリューションに対して関心を示すセグメントを深く掘り下げることで、未開拓なニッチ市場や急成長中の市場を発見することができます。
つまり、カスタマーセグメンテーションは単なるユーザー分類だけでなく、未来の市場機会を見極め競争優位性を得る、あるいは革新的な事業の提案や拡大を行う為のツールにもなり得ます。
主要なカスタマーセグメンテーション戦略の種類
さて、ここからはカスタマーセグメンテーション(顧客細分化)戦略について詳しく掘り下げていきましょう。優れた建築エンジニアが頑丈な建物を建てるのに様々な資材を選択するのと同じように、SaaS企業も多種多様なセグメンテーション手法を駆使して、顧客ベースを包括的に理解する事ができます。
1. 人口統計的セグメンテーション(Demographic Segmentation)
最も一般的なセグメンテーション手法の1つが人口統計的セグメンテーションです。「18歳から30歳の男性」というようなカテゴリー分けがその一例です。
人口統計データの要素には、 職業、結婚の有無、収入、教育レベル などが含まれます。(上記以外にも様々な要因を含むかもしれません。)
- メリット
人口統計的セグメンテーション(市場細分化)は、年齢や性別、収入などの基本的な特性に基づいて顧客を分類するシンプルで費用対効果の高い方法です。これにより、ターゲットオーディエンス(製品に対して興味を持つ人々)の識別が簡素化され、ターゲティングした特定の人々に響くマーケティングキャンペーンを展開し、マーケティング効果が向上します。 - デメリット
しかし、この手法には限界があります。同じ人口統計カテゴリに属する個人でも、行動や嗜好が大きく異なる可能性があり、それらを分析した結果、単純すぎる分析結果になる可能性があります。また、人口統計データは時間とともに変化するため、効果を維持するためにはセグメンテーション(細分化)の戦略を継続して調整する必要があります。
2. 企業統計情報ベースのセグメンテーション(Firmographic Segmentation)
B2Cビジネスでは、ユーザーを特性や特徴で区分するために人口統計データを用いるのに対し、B2B企業は企業統計情報を用いて顧客をグループ化します。主な企業統計情報データの要素には、業界、従業員数、法的ステータス(例:株式会社、合同会社など)、財務状況、収益規模、成長率などが含まれます。
- メリット
B2B企業にとって、企業統計セグメンテーションは業界や企業規模、収益などのビジネス関連データに焦点を当てており、企業ごとの特定のニーズに合わせた製品やサービスをカスタマイズして提供することができます。特に、高価値のクライアントを特定し、よりパーソナライズされたマーケティング戦略を展開できます。 - デメリット
その一方で、企業情報ベースのセグメンテーションでは、企業内の個々のユーザーを考慮しにくい可能性があります。具体的には個々のユーザーのニーズや行動のニュアンスを見逃しやすいです。また、企業の合併や買収、成長、あるいは縮小などによってデータが変動するため、セグメンテーション戦略を定期的に更新する事が必要です。
3. テクノグラフィックセグメンテーション(Technographic)
名前が示すように、このセグメンテーション戦略は、顧客を特定のテクノロジーやツールの使用状況に基づいて分類・細分化する手法です。
テクノグラフィックセグメントを作成するには、顧客が使用しているテクノロジー、製品、またはサービスに関するデータを収集する必要があります。
例えば、Androidユーザーはテクノグラフィックなユーザーセグメントの一例です。
以下の例を見てみましょう。
Googleアナリティクスのドメインを見ると、大半のユーザーがAndroidデバイスからアクセスしている事が分かります。
では、この情報をどう活用できるでしょうか?まずは、アプリがそのプラットフォーム(Android)に最適化されているかを確認する事ができます。
- メリット
この戦略によって、顧客が使用しているテクノロジーやツールに関する洞察を得られ、 顧客の好みに合わせて、製品を提供する事が可能になります。その結果、マーケティングキャンペーンと製品の開発精度が向上し、競争の激しいテクノロジー主導の市場で優位性を得る事ができます。
もう一つの利点は、洞察を得る事によってその技術のアーリーアダプター(初期採用者)を特定し、影響力のあるセグメント(要素、あるいはグループ)として活用できる事です。 - デメリット
ただし、テクノグラフィックセグメンテーションは顧客のニーズや嗜好の一部分しか捉えられない可能性(全体を知ることができない為、このセグメンテーションだけでは顧客を完全に理解することは出来ない)があります。
また、テクノロジー関連のトレンドは急速に変化するため、効果的なセグメンテーションには正確なテクノグラフィックデータを維持することが必要です。また、先述の通りテクノグラフィックデータに依存しすぎると、ニーズや使用状況の一部分しか捉えられない事が要因で、顧客に影響を与える他の購買要因(心理的要素や行動データなど)を見落とすリスクがあります。
4. 地理的セグメンテーション(Geographic - どこにいるか)
地理的セグメンテーションは、顧客の所在地(国・都市・郵便番号など)に基づいて分類する手法です。
このタイプのセグメンテーションの背後にある考え方は、特定の地域の人々は、他のセグメントには当てはまらない、製品の特定の使用例を見つける可能性があるということです。
ワードローブ(衣服の着用計画)を考えてみましょう。
熱帯地域に住んでいる人は、冬用のコートや厚手のセーターをほとんど持っていません。逆に、寒冷地域の住人は、水着やサンダルを大量に持っていない(需要がない)と考えるのが自然です。
ワードローブが気候に適応するのと同じように、地理的セグメンテーションを使用する事により、さまざまな地域の顧客の気候、ニーズに合わせて製品を提供できます。
地理的セグメンテーションを使うことによって、顧客の「ファッション」に合わせてマーケティング戦略を調整し、その地域に適した機能的でスタイリッシュな製品を提供するという事ができます。
つまり、地理的セグメンテーションは、顧客の「環境」に適したマーケティング戦略を立てる上でために不可欠なのです。
例えば、以下のGoogleアナリティクスデータでは、ほとんどのユーザーがイギリスから(そのサイト、もしくは店舗を)訪問していることが分かりました。
この場合、その店舗は「イギリスの人々を対象にしたセグメント(区分)」を作成する事が理にかなっています。 - メリット
地理的セグメンテーションを使用することによって、地域ごとの顧客の好みやニーズに関する洞察を得られます。これにより、マーケティングを各地域向けに調整し、より関連性と文化性に適したプロモーションを実施できます。 - デメリット
一方、地理的セグメンテーションは顧客行動を単純化しすぎる傾向があり、同じ地域に住んでいても消費者の嗜好や行動は異なる為、必ず組み立てた戦略が成功するとは限りません。そして、地理的要素だけを注視してしまうと購入に関する顧客の心理的・行動的特性(何故商品を買ったか・買わなかったかに至る要因)を見落としてしまいます。
5. 心理的セグメンテーション(Psychographic - 顧客の価値観やライフスタイル)
ここから興味深くなります。
心理的セグメンテーションとは、顧客を深く個人的なレベルで知る手法です。大切な人を知るように、顧客の「価値観」や「ライフスタイル」、「信念」、「興味」などの深い部分を理解し、そして、それが何故そうなっているか、どのような人なのかを知る手法となっています。
顧客の性格、価値観、ライフスタイルを掘り下げることで、表面的な情報を超えた洞察が得られます。顧客の好きな音楽を知るように、真に共感を呼ぶやり取りを作り上げる事ができます。
ソムリエが料理に最適なワインを選ぶ様に、心理的セグメンテーションは、感情を SaaS サービスと組み合わせ、さらに魅力的なものにする事もできます。
心理的セグメンテーションでは、顧客の考えや動機を把握することで販売に合わせて彼らの根本的な欲求に合致する体験を創造することができます。また、彼らが効率性、革新性、環境の内どれを求めているかに関わらず、感情的なニーズを満たすようにアプローチできます。購入プロセスは感情のダンスであり、これらの感情を調和的にするように集中すると、取引を超え長期的な関係を構築できます。
政治コンサルティング会社である Cambridge Analytica は、「OCEANモデル」 (ビッグファイブ性格特性)と呼ばれる個人の性格特性を市場セグメントに分類するグラフィックモデルを開発しました。
彼らはOCEANフレームワークを活用し、個人を次の5つの性格特性に基づいて分類しています。
出典:cbinsights
Openness(開放性) – 新しい体験に対する好奇心の度合い
Conscientiousness(誠実性) – ルールや計画を重視する傾向
Extraversion(外向性) – 他者との交流を好む度合い
Agreeableness(協調性) – 他者と協力しようとする傾向
Neuroticism(神経症傾向) – 不安やストレスを感じやすい度合い
こうしたデータを活用することで、企業は自社のメッセージを微調整し、より効果的な広告戦略の策定が可能になります。Cambridge Analytica社がこの戦略で達成した成果は周知の事実となっています。
心理的セグメンテーションは人口統計と組み合わせることができ、それを活用した例がマーケティングの専門家による消費者の包括プロファイルを作成した事例です。このデータの融合により、より個別化されたメッセージを製作することができます。
例えば、心理的セグメンテーションを活用して、環境に優しい電気自動車を販売する場合、「環境意識の高いユーザー」をターゲットにした広告展開が考えられます。そして、さらに掘り下げることで 「二酸化炭素排出量の削減に熱心なユーザー」と、「長期的なコスト削減に関心があるユーザー」に対して、電気自動車の経済的メリットを強調するアプローチをかけられます。
このようなきめ細かなアプローチにより、ターゲットを絞り、インパクトを残すメッセージを発信することが可能になります。
- メリット
心理的セグメンテーションは顧客の心理を掘り下げ、その動機や欲求を深く理解する事ができます。この洞察により、ターゲット市場に対してオーディエンスの心に響く、よりパーソナライズされたマーケティングが可能になります。また、革新的な製品の開発を促し、ブランドのロイヤリティの向上や、感情や欲求に繋がるコンテンツの作成を補助する事ができます。 - デメリット
心理的セグメンテーションは深い洞察をもたらしますが、時として複雑な調査やメディア分析を主とした、多くの(人的・経済的)リソースが必要になります。また、顧客の行動や好みを単純化することはリスクでもあり、時としてそれはマーケティングの失敗に繋がるかもしれません。そして、勿論プライバシーを考慮に入れる可能性がある他、顧客の価値観や嗜好は時間とともに変化するリスクも存在します。
6. 行動ベースのセグメンテーション(Behavioral - 顧客の行動)
行動セグメンテーションは、ユーザーの行動に基づいて分類する手法です。
共通の行動パターンに基づいてユーザーをフィルタリングし、セグメント化します。Accenture の統計によると83%の消費者が、高度にパーソナライズされた体験を得るために自分のデータを提供することに関して肯定的である、という結果が出ています。
分類をするために明らかにすべき行動は、以下のようなユーザーの行動です。
・ページ閲覧履歴(どの製品ページをよく見ているのか?)
・ウェビナーや製品デモへの参加状況(どの段階で興味を示すのか?)
・アップグレードや追加購入の履歴(どの機能やサービスに魅力を感じているのか?)
行動セグメンテーションは、ユーザーとSaaSとのやり取りのデータを詳細に分析することで、ユーザーが何を好み、何を避け、何を求めているのかを正確に把握することに役立ちます。
ユーザーがサイトやアプリ上で行う すべてのクリック、スクロール、ボタンの押下 はデジタルフットプリントを残します。これらは、顧客の嗜好や意図について多くを語ってくれます。
これらのデータに関するパターンを見つけ出すことで、ユーザーの本当のニーズを浮かび上がらせることができ、ひいては将来の行動を予測する為の知識も身に着けられます。
つまり、ユーザーの興味・関心に基づいて カスタマイズされた製品やサービスを提供したり、パーソナライズされたプロモーションを実施することができるのです。顧客の購入プロセスにおけるエンゲージメント(関係)を最適化することがビジネス目標の1つである場合、行動セグメンテーションは単なるデータ分析ではなく、それに関する重要なマイルストーン(指標)となり得ます。
ストリーミングサービスのNetflixはこの行動データを活用し、視聴履歴に基づいたパーソナライズされたコンテンツを提供しています。
Netflix は、これがエンゲージメントを促進し、ユーザーが Netflix に費やす時間を増やし、ひいてはユーザーが長期間にわたって同社を利用し続けることを示す優れた指標となることを認識しています。
Netflixは、視聴者の関心を維持し、Netflixコンテンツを楽しむ時間を増やすことに繋がることを理解しています。これは、ユーザーがサブスクリプションを長期間継続する良い兆候です。
- メリット
行動セグメンテーションを採用する事によって、顧客が製品やサービスとどのようにやり取りしているか、データ駆動に基づく具体的な洞察を得ることができます。それにより、企業はカスタマイズされたマーケティング、メッセージング、および製品の強化のためのロードマップを得られます。
ユーザーとの契約を誘発するアクションやパターンを理解することで、アップセルの機会を特定する事ができます。行動セグメンテーションは、企業がロイヤリティの高い顧客を特定し、顧客維持への取り組みを優先し、長期的な関係を構築することにも役立ちます。 - デメリット
ユーザーが「なぜその行動をしたのか」は完全には分からない為、動機や感情に関する洞察が欠けている場合があります。行動データだけを注視すると、顧客を総合的に理解する機会を逃すかもしれません。顧客の行動も時間の経過によって変化する為、セグメントの安定性が低下します。そして、プライバシーの懸念や、(「なぜそうしたのか」は分からない為)読み取った行動パターンを誤解して間違った戦略を立てる可能性もあります。
7. カスタマーライフサイクルに基づくセグメンテーション(By Customer Lifecycle Stages)
サブスクリプション経済以前の時代では、カスタマー ジャーニーの成功とは、契約の成立と、満足した新規顧客の獲得を意味していました。しかし、現代では、契約後に真のカスタマージャーニーが始まります。
サブスクリプションモデルが主流となった現在では、顧客の「契約後」が最も重要です。
ユーザーエンゲージメント(顧客との契約)では、顧客は自分のペースで進みます。製品とのさまざまなインタラクション ステージを進むと、ユーザーのニーズは変化します。ユーザーの洗練度は上がり、ユーザーの期待も変わります。その結果、かつてのコミュニケーション方法はもはや通用しなくなります。
ここで、ライフサイクル ステージのセグメンテーションが役立ちます。この戦略により、ユーザーが商品とのジャーニーを進めるにつれて進むにつれて、変化する状況に合わせて顧客とのコミュニケーションを微調整できます。
ユーザーの成長段階に合わせたアプローチ
登録したばかりのユーザーを例に考えてみましょう。
この段階は 「オンボーディング」 と呼ばれ、顧客ライフサイクルの最初のステージにあたります。
ここから、あなたが望む長期的な関係に向けて、ユーザーを導かなければなりません。ユーザーには、製品に慣れるためのチュートリアルやガイドが必要です。初心者向けのヒントや、主要機能を紹介するウォークスルー(段階的に通り抜けられる過程)を用意する必要があります。
Salesforceによると、マーケティング担当者の88%がパーソナライゼーション(顧客分析と、サービスの最適化)の最大の推進力は、より優れた顧客体験を提供することだと述べています。
オンボーディング段階が終了すると、エンゲージメントフェーズが始まります。
例えば、ユーザーが動画配信サービスを利用していて、歴史ドキュメンタリーを頻繁に視聴しているとしましょう。そうしたデータをもとに、サービス側は、視聴パターンと予測分析に基づいて「あなたにおすすめの歴史番組」の通知を送ったり、その歴史番組をサイトのトップ画面などに表示したりできます。
このように、顧客が関心を持ちそうなコンテンツを適切なタイミングで提供することで、顧客の興味を反映し、かつパーソナライズされた体験を提供する事ができます。
顧客がライフサイクルを進めるにつれ、顧客の成長を促すことも考慮する必要があります。フィットネスコーチがアスリートの成長段階に応じて、トレーニングを調整するのと同じように、SaaS企業もライフサイクルステージを細分化することで、継続的な改善を促す方法でユーザーを育成することが可能になります。これは、個々のスキルレベルと目標に合わせた、カスタマイズされたトレーニングプログラムを提供するようなものです。
- メリット
ライフサイクルステージのセグメンテーションは、各カスタマージャーニーステージにおいて、適切なコミュニケーションを行うための戦略的なフレームワークを提供します。
これにより、企業は各ステージに応じた適切なコミュニケーションを提供でき、エンゲージメントの向上が期待できます。顧客がその過程(ジャーニー)のどの段階にいるかに合わせてコミュニケーションを調整することで、企業はより深い関係を築き、顧客生涯価値(CLV)を最大化することができます。また、リソースを効率的に割り当て、最も必要とされる分野に重点的に取り組むことも可能になります。 - デメリット
顧客ライフサイクルステージのセグメンテーションは、すべての顧客が明確にステージ分けできるとは限りません。カスタマージャーニーを過度に単純化し、各ステージにおける個々の顧客行動の違いを見落としてしまう可能性があります。
このセグメンテーションだけに頼ると、パーソナライズされたエンゲージメントの機会を逃す可能性があります。すべての顧客が事前に定義されたステージにきちんと当てはまるとは限らないため、例外を考慮することも重要です。最後に、顧客の行動パターンは時間の経過とともに変化するため、セグメンテーションフレームワークを定期的に更新し、適応させることが不可欠です。
8. 顧客価値に基づくセグメンテーション(Customer Value Segmentation)
世間では「顧客価値(Customer Value)」という言葉がよく話題になりますが、それは何を意味するのでしょうか?
ここでは、その意味を知るために顧客の視点と企業の視点の 2つの視点を通して見る必要があります。
顧客の視点では、それは「自分が支払った金額以上の価値を得られているか?」というシンプルな計算式に置き換えられます。その価値とは、画期的なサービスや人生を変えるほどの機能などその人にとって様々ですが、顧客は価値を求めてサービスに対価を支払います。
企業側の視点では、「今この瞬間の売上」だけではなく、長期的な収益、つまり顧客生涯価値 (CLV) も非常に重要とされます。「この顧客は長期的にどれだけの収益を生んでくれるだろうか?」という課題を考える事が必要です。
基本的な顧客価値は、以下の式で定義できます。
顧客価値(Customer Value) = 認識される利益 - 発生したコスト
どのビジネスでも同じですが、すべての顧客が同じ価値をもたらすわけではありません。そこで、顧客価値に基づいてユーザーをセグメント化する事が企業にとって最も価値のある顧客を特定し、適切な戦略を展開する事に役立ちます。
なぜ、顧客価値のセグメンテーションが重要なのでしょうか?
すべての顧客が同じように利益をもたらすわけではないからです。低価格プランのユーザーなのに、大量のサポートを必要とする顧客がいるとしたら、それは赤字のリスクへと繋がります。
逆に、高額プランのユーザーかつ追加購入の可能性が高い顧客は最優先で維持すべきです。収益の80%以上をこれらのユーザーが生み出していると言っても過言ではありません。マーケティングの焦点を当てるべきユーザーを特定・維持し、関係を構築する事こそがビジネスの成長にとって極めて重要なのです。
- メリット
この戦略を実行すると、SaaS ビジネスは取り組みの優先順位を効果的に決定できるようになります。最も価値の高い顧客を特定すれば、カスタマーサクセスやマーケティングリソースを効率よく配分できます。これにより、マーケティング戦略を最適化し、各顧客セグメントのニーズや好みに合わせて、メッセージやプロモーションをカスタマイズすることが可能になります。
さらに、アップセル・クロスセルの機会に繋がる洞察を得られ、収益増加に貢献できます。このターゲットを絞ったアプローチは、収益を最大化するだけでなく、顧客維持率も向上させます。また、解約のリスクがある顧客を把握し、積極的なフォローアップを行う事もできます。 - デメリット
金銭的な指標だけに頼ると、口コミで新規顧客を獲得する影響力のある顧客など、収益に繋がる他の側面を見落とす可能性があります。したがって、包括的なセグメンテーション戦略には、価値指標に加え、顧客の様々な側面を考慮した包括的なアプローチが不可欠です。
また、データ収集と分析プロセスが複雑になる可能性があり、CLV, MRR(Monthly Recurring Revenue), ARPU(Average Revenue Per User) など複数の指標を扱う場合にはさらに煩雑になります。
正確な分析には、高度な分析ツールやカスタマーサクセスソフトウェア(例:Custify)が必要になります。また、少しの育成で価値を高める可能性のある他の顧客セグメントを見落としてしまうリスクもあります。
目先の収益にこだわると、長期的な関係やロイヤリティを失う可能性もあります。そして、セグメンテーションはデータの品質にも左右されます。
以下のグラフは、各顧客セグメントに対してのエンゲージメント(契約)の指標であり計画を作成するためのガイドでもあります。
出典:Alacer Group
RFM分析(Recency, Frequency, Monetary)による高度なセグメンテーション
顧客セグメンテーションの主な種類をご理解いただいた後、「財務的な影響を考慮した、より高度な手法はあるのだろうか?」と疑問に思われるかもしれません。
その疑問には顧客を以下の 3つの指標 で分類し、最も価値のある顧客を特定する手法であるRFM 分析マトリックスが有用です。このフレームワークは、最新性、頻度、金銭的価値という 3 つに焦点を当てることで、セグメンテーションをさらに高度化させます。
RFMは、最も価値のある顧客を特定するための近道です。顧客が最近購入したかどうか、購入頻度、支出額に基づいてセグメント化することで、リソースを配分し、ROIを最大化するためのマーケティング戦略をカスタマイズできます。収益を実際に促進しているのは誰か、もう少し後押しが必要なのは誰かを正確に特定する事ができます。
出典: custobar.com
RFM はすべての SaaS ビジネスにとっての万能な策ではありません。多くの企業は、ユーザーの行動、機能の採用、または顧客のライフサイクルステージに焦点を当てた他のセグメンテーション方法を選択しています。
なぜかというと、SaaS モデルは、月間経常収益 (MRR) や顧客生涯価値 (CLV) などのサブスクリプション ベースの指標に依存しており、そこではRFM では十分に捉えられない微妙な洞察が得られます。
そして、RFMを実装するには正確な取引データが必要ですが、すべての SaaS 企業がこのようなデータを優先して管理している訳ではないのです。
したがって、RFM はゲーム チェンジャーになる可能性がありますが、すべてのSaaS企業にとって、最適かつ万能な選択肢ではないのです。
SaaSにおけるカスタマーセグメントの例(CSソフトウェアを活用)
適切なツールを持っていれば、カスタマーセグメンテーションは格段に簡単になります。
Custify のようなカスタマーサクセスプラットフォームを活用すれば、すべてのユーザーデータをシームレスに収集、分析、統合でき、各セグメントに最適化されたアプローチを行えます。
CRMツールとは異なり、Custifyは複雑なカスタマーライフサイクルを追跡し、単なる取引ベースの関係を超えた、より長期的で積極的な顧客対応を実現します。
CSSとCRMの違いについてはこちらで詳しく学べます。
https://www.custify.com/blog/crm-vs-customer-success/
CSS内で顧客をどのようにセグメントするかは、顧客が求めているものと、あなたのSaaSにとって何が最適かを検証する事が重要な材料です。場合によっては、複数の要素を組み合わせてセグメントを作成することもあるでしょう。
では、SaaS業界でよく使用される顧客セグメントの例 を見ていきましょう。
1. 新規ユーザー vs パワーユーザー(New Adopters vs. Power Users)
第一印象は極めて重要です。初めてサービスに触れるユーザーを感動させることができなければ、長期的な顧客にはなりません。ユーザーが製品の価値をすぐに理解しなければ、そのまま離脱する可能性が高くなります。
そのため、新規ユーザー向けに製品を使用する事でのメリットを提示できるオンボーディングフローを構築する必要があります。
このオンボーディングでは、ユーザーがサービスを最大限に活用できるよう補助し、その製品の価値を明示することが重要です。
では、パワーユーザーはどう扱えばいいのでしょうか?
パワーユーザーとは、「最も頻繁にサービスを使うユーザー」や「最も古くからのユーザー」、「最も正しく製品を使っているユーザー」ではありません。
パワーユーザーとは、ビジネスにとって最も価値のあるユーザーです。
最も価値のあるユーザーとは、平均顧客単価(ACV)の数値を上げ、顧客獲得コスト(CAC)を下げるユーザー、そして思いもよらなかった製品の使用ケースの特定に貢献したユーザーの事を指します。
それらの行動データを活用することで、マーケティング戦略や製品開発をより精度の高いものにすることが可能です。
2. トライアルユーザー vs 有料会員(Trial Users vs. Paid Subscribers)
考えてみてください。SaaS企業の目標は、できるだけ多くの無料トライアルユーザーを有料プランへと移行させることです。 しかし、多くの企業はこの「無料トライアルのセグメンテーション」を適切に活用できていません。
殆どの SaaS 企業は、トライアルユーザーの行動、振る舞い、意図が異なっていても、それらをセグメント化しません。
無料トライアルをセグメント化するにはどうしたらいいでしょうか。無料トライアルのユーザーに「開始方法」メールを送信し、そのメール内でのユーザーの行動に基づいて、エンゲージメントレベル(顧客との関わり度合い)を反映するセグメントを作成できます。メールを開いてオンボーディングアクションを積極的に実行するユーザーは、エンゲージメントが高いとタグ付けできます。これらのゲストには、積極的にコミュニケーションを取ってカスタマージャーニーを促進させていきましょう。
逆に、エンゲージメントが低いユーザーにはフォローアップメールを送り、機能を案内したりアドバイスを送る事で興味を持ってもらう事から始める事ができます。
また、そのようにして一度有料プランに移行したユーザーも、さらに細かくセグメントすることで、最適なマーケティング施策を実施できます。
有料ユーザーをセグメント化し、各セグメントごとにパーソナライズされたキャンペーンを作成できます。
例えば、高価格プランのユーザーにアップグレードを促すメールを送ってユーザーを戸惑わせたくはないでしょう。こうしたメールは、MRR(Monthly Recurring Revenue、月ごとに課金している金額)が低いユーザーに対して送り、アップセルを施策する方が最適です。
3. アクティブユーザー vs 非アクティブユーザー(Active Users vs. Inactive Users)
アクティブ ユーザーは、あらゆる SaaS プラットフォームの生命線です。これらのユーザーは頻繁に製品を利用し、その価値を享受しています。彼らは安定した収益基盤であり、企業にとって継続的な収益と成長の可能性の有望な源泉となります。
逆に、非アクティブユーザーは、どの SaaS にとっても大きな課題です。彼らは何らかの理由で製品やプラットフォームの使用をやめており、解約のリスクが高いです。ここで重要なのは、なぜ彼らが利用を停止したのかを把握することなのです。
価格か、あるいは競合製品へ乗り換えたかなど問題たなど問題を特定したらアプリ内メッセージではなく、Eメールや電話でアプローチする方が効果的です。サービスの利用をやめた瞬間に、その問題は取り返しがつかなくなる為、休眠ユーザーの対応には慎重になる必要があります。
一方でアクティブ ユーザーについても、もう少し深く掘り下げることが重要です。コンテンツの使用パターンに基づいてアクティブユーザーをグループ化する事で、パターンを把握してコンテンツをカスタマイズし、パーソナライズされた体験を提供できます。
ウェビナーやユーザーミートアップの機会を作って、コミュニティ意識を促進するようにしましょう。
コンテンツに対する洞察を共有し、ユーザー同士のコネクションを提供したりすれば、そのアクティブユーザーをパワーユーザーに引き上げ、取引を超えたロイヤリティを強化することができます。
4. フリーミアムユーザー(Freemium Users)
SaaS がフリーミアムモデル(基本無料で、行動なサービスは有料のモデル)に基づいている場合、生涯無料のユーザーを多く抱えることになります。これはブランドの認知拡大には効果的ですが、彼らを有料プランへコンバージョン(転換)させる事ができればさらに良いでしょう。
まず重要なのは、ユーザーに製品を実際に使わせることです。利用体験がなければ、価値を認識してもらうことはできません。そこから、オンボーディングメールを工夫する事が必要です。新規顧客のオンボーディングとは異なるアプローチも必要です。1つの方法としては、プレミアム機能のティザーを見せたり、アップグレードによるメリットを具体的に示し、その価値をアピールすることです。
Eメールかアプリ内通知を利用するかに関わらず、プレミアム機能を試せる特別オファーを提供するなどして強化されたメリットを紹介し、有料への移行を促す事が重要です。
5. 更新のタイムライン(Renewal Timelines)
リニューアル戦略を成功させるには、「適切なメッセージを、適切なタイミングで、適切なユーザーに送信する事」が重要です。
更新を促すアプローチは、ユーザそれぞれのタイミングによって異なります。目標は、クライアントにできるだけ早くサブスクリプションを更新してもらうことです。ユーザーをこの方向に導くための戦略としては、以下のようなものがあります。
- 価値要約メール
サービスから得られるROIを強調するメールを定期的に送信します。データに基づいて、真の価値をアピールしましょう。 - 早期契約特典
早めに更新したユーザーに割引や特典を提供します。「今更新すれば、より得になる」と感じさせることで、早期更新をスムーズに進めていただけます。 - カスタマーサクセスのチェックイン(Customer Success Check-ins)
チームからの迅速かつ個別対応のチェックインは、大きな効果をもたらします。懸念点の解消や、更新のメリットを伝えることによって顧客との信頼関係を深め、契約更新のハードルを下げる事ができます。 - 自動更新リマインダー(Automated Reminders)
SaaSプラットフォームを活用し、契約満了前に自動リマインダーを送信します。契約をワンクリックで更新できるようにし、手間を最小限に抑えます。 - 新機能のティザー(Feature Teasers)
「この機能がまもなく追加されます」といった予告を行い、契約更新のメリットを簡単に説明します。メリットを強調して今後を期待させる事により、更新を前向きに検討させます。
ここで、顧客が請求サイクルのどの段階にいるかによって、メッセージがどのように変化するかを見てみましょう。
請求サイクルの初期段階
この段階では、ユーザーに製品の価値と利点を再認識させる事が重要です。
顧客が得たメリットや成功事例を紹介するメールを送信する事が効果的です。新機能への独占アクセスや特別なプロモーションなどを提供し、早期の更新をポジティブに捉えてもらう事も良い方法の一つです。
請求サイクルの途中
顧客が購入から半年に近づいたら、顧客のフィードバックを確認し、抱えている課題を対処するのに適しています。チュートリアルやケーススタディなどの役立つリソースを提供し、顧客が快適に製品を活用できるようにします。また、期間限定のプロモーションや割引を提供して、課題を解決しながら更新を促すのも良いでしょう。
請求サイクルの終盤
サブスクリプションの有効期限が迫る時期には、より積極的なアプローチが必要になります。
「契約アップデートの締切まであと○日!」 というようなメールを顧客に送り、サブスクリプションを継続することで、引き続き得られる価値を強調します。また、最近の製品アップデートや機能強化を強調する事も重要です。
更新日が近づけば、顧客にリマインダーを送信することをお勧めします。
これらのリマインドにはカウントダウンメールを含めることができ、お客様のサブスクリプションの残り時間が限られていることを知らせルコとができます。より適切なプランに切り替えたり、変化したニーズによってサブスクリプションをカスタマイズしたりする選択肢も提供できます。
さらに、契約更新に関する疑問や不安を解決するための専用サポートチャンネルを提供する事も有用です。これを行う事によりスムーズで手間のかからない更新を保証し、サービスに対する信頼と価値が向上します。
期限切れの購読者
「契約を更新せずに解約してしまったユーザー」も、重要なターゲットです。
むしろ、彼らは貴重なフィードバックの宝庫であり、再獲得のチャンスがあるのです。
まず、なぜ顧客は解約してしまったのでしょうか?価格が高かったのか、それとも必要な機能がなかったのでしょうか?この情報を得るために、シンプルな解約アンケート(オフボーディング調査) を実施する事が重要です。
さて、次は顧客を取り戻す作業に移ります。顧客の悩みに対応するために、期間限定で割引を提供したり、新機能を先行体験できる特典を提供するなどして、再加入のメリットを伝えます。「新規顧客を獲得するよりも、解約した顧客を取り戻す方がはるかに低コスト」であることを忘れてはいけません。
他の顧客の成功事例を紹介し、再契約に向けての準備を進めましょう。
低NPSスコアのユーザー(Low NPS-score Users)
SaaSの成長において、NPS(ネット・プロモーター・スコア、顧客満足度)が低いユーザーの対応 は避けて通れません。
まずは、なぜ満足度が低いのか(なぜ不満を抱いているのか)を突き止める必要があります。必要な機能がない、使い勝手が悪いなど、原因となる情報を入手したら、問題に応じたターゲットを絞りキャンペーンを実施できます。(チームが個別フォローする、機能が使いづらいと感じているユーザーには、その機能を解説するウェビナーを案内するなど)
ところで、あなたの企業では全体的なNPSはどうなっているでしょうか。
4未満の場合は自己分析が必要であり、少数のユーザーに対して問題を修正するだけでは不十分です。戦略を見つめ直し、全体的な改善が必要です。
最後に
新規顧客を獲得するには、既存顧客を維持するコストの最大5倍がかかる と言われています。
このことを考えれば、カスタマー・ジャーニー全体を通じて、パーソナライズ(顧客個人に合わせて最適化)された体験を提供することが新たな標準になりつつあるのも理解できるでしょう。
では、どのようにして顧客一人一人にカスタマイズされた体験を構築するのでしょうか?
その答えは 「顧客のセグメント化」 から始まります。
ここで注意しておきたいのは、セグメント化は単に顧客を理解することだけではありません。有意義なやり取りを通して顧客の理解を示し、それを実際の体験として提供することが大切である、つまりは顧客を「理解」するのではなく、顧客に「体験を提供(最も好きなものを提供)」することこそが重要なのです。
選択肢が溢れる現代では、顧客は自分にとって「関連性がある」と感じるものを求めています。「その他大勢の1人」ではなく、「自分だけの価値を認めてもらっている」と感じたいのです。
そこでセグメンテーションが重要な手法として登場し、「万人向けの一般的なアプローチ」ではなく、「顧客一人ひとりに最適化された体験」 を生み出し、企業を更なる成長へと導いてくれます。
Custify が顧客セグメンテーションでどのようなアプローチを発揮できるか、デモをリクエストできます。https://www.custify.com/request-demo

この記事を書いたライター
Custify
本記事は、ヨーロッパのカスタマーサクセスベンダー「Custify」が運営する「The Custify Blog」(https://www.custify.com/blog/)にて作成された記事です。 アディッシュはCustifyに許諾を得て、翻訳記事を作成・掲載しています。