「YES」を勝ち取る商談術

笠松 ゆい
2025.06.12

アップセル・クロスセルを目的とした、「カスタマーセールス」という言葉をよく聞くようになりました。
これは、既存顧客に対して、より高価格な商品やサービス、または関連商品やサービスの購入を促す販売手法のことを指します。
しかし、顧客の予算がある程度決まっている中で、アップセルやクロスセルを成功させるのは容易ではありません。
では、どうしたらスムーズに商談を進め、顧客から「YES」を引き出すことができるのでしょうか?
今回は、私が追加販売の営業を行う際に実践していた具体的な取り組みをご紹介いたします。
接点を途切れさせない
一度接点が途絶えてしまった顧客に対し、改めて販売促進等の連絡を試みる際、どのように切り出すか迷った経験はありませんか?
「営業目的の連絡が急に届いた」と警戒されることを懸念し、長らく連絡を取れていない顧客に対し、自然な会話の糸口を見つけることが難しいと感じる方も少なくないかと思います。
したがって、顧客と自然な形で連絡を取り合えるよう、常日頃から接点を維持する工夫が必要です。
具体的な取り組みについて、下記にご紹介させていただきます。
季節や行事の挨拶を必ず行う
実は、365日いつも何かしらの記念日であることを知っていますか?
季節の変わり目や行事・記念日などを利用して、定期的に顧客へ挨拶の連絡を行いましょう。
定期的に連絡を取ることで、顧客への連絡のハードルが下がります。
また、何気ない一言が、顧客との距離を縮めるきっかけになるかもしれません。
コミュニケーションが円滑になれば、顧客からの信頼も厚くなり、ビジネスチャンスの拡大にもつながるでしょう。
また、顧客のニーズに合わせた情報提供は、信頼関係の構築にもつながるため、挨拶に加えて、業務連絡や新しいサービス・商品の紹介を添えるようにしましょう。
私が実際に使っていた挨拶のフレーズを下記にいくつか紹介いたしますので、顧客の状況や関係性にあわせて、ぜひお試しください。
- あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。今年も何卒よろしくお願い申し上げます。
- 年度の切り替わりのタイミングですが、来年度もご担当者様は○○様でお変わりございませんでしょうか。
- 暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。夏季休業のお知らせでご連絡を差し上げました。
- 以前○○様からコーヒーがお好きだとお伺いしており、本日10月1日がコーヒーの日だったため、ご連絡を差し上げました。最近はいかがお過ごしでしょうか。またおすすめのコーヒー屋さんがありましたらぜひ教えてください。
- 紅葉が美しい季節ですね。行楽などお楽しみでしょうか。
- バレンタインデーにちなんで、日ごろの感謝をお伝えできればと思い、ご連絡を差し上げました。
次回のアポイントメントはその場で決める
「では、また良い頃合いでご連絡します」
そう言って、もしくはそう言われて、そのままになってしまっていることはないでしょうか。
また、次回のアポイントメントを確定させようと連絡を行っても、顧客から返信がなく、商談が思うように進まないといった経験はないでしょうか。
このような事態を避けるためにも、商談を行ったその場で次回のアポイントメントを確定させることが重要です。
私個人の経験としても、次回のアポイントメントを設定している場合は、日程の調整が難しくなった際に顧客から別日の候補をご提示いただけることが多かったように思います。
せっかくの商談の機会を逃さないよう、仮でも構わないので、次回のアポイントメントはその場で決定するように心がけましょう。
些細な季節の変わり目などの機会を捉え、定期的に連絡を行うことで、送り手が抱える「いきなり季節の挨拶の連絡をしたら、”営業目的で連絡した”という印象が強くなり、相手を困惑させるのではないか」という心理的なハードルを低減できます。
また、連絡を控えている間に、顧客に何らかの変化が生じているかもしれません。
定期的に連絡を行っていることで、顧客の状況や考え方の変化に気づくことができます。
顧客に、「この商材の担当は○○さんである」と、必要になった際に真っ先に思い出してもらえる存在を目指しましょう。
誰の「YES」が必要か見定める
提案が承認されるためには、現場のメンバーだけでなく、決済権を持つ責任者の承認を得ることが不可欠です。
提案内容がどれほど素晴らしく、現場のメンバーがどれだけ賛同してくれたとしても、決済権を持つ人物の承認がなければ、その提案は実現されません。
時間と労力を費やして練り上げた提案が無駄にならないように、提案の段階で誰の「YES」が必要になるかを明確にすることが重要です。
組織図を確認する
直接、担当者にどのような組織図になっているかヒアリングします。
直接ヒアリングするのが難しい場合は、企業のホームページやIR情報、企業が発行するパンフレットや会社案内などで調べてみましょう。
※情報源によっては、組織図が古くなっている可能性があります。最新の情報を確認するようにしましょう。
※組織図は、企業の内部構造や従業員の役割、権限関係などを視覚的に示す重要な情報です。
そのため、その情報の中には、企業の戦略や事業計画、人事情報など、外部に漏洩した場合、企業活動に重大な影響を与える機密情報が含まれている可能性があります。
したがって、組織図を入手する際には、公開情報や信頼できる情報源から収集する、クライアントとの間で機密保持契約を締結する、などの方法を検討し、情報源や入手方法の信頼性を十分に確認する必要があります。
※組織図を入手した場合には、アクセス制限や保管場所の管理など、厳重な情報管理体制を構築し、不正な利用や漏洩のリスクを最小限に抑える必要があります。
特に、社外秘の組織図を扱う際には、情報セキュリティポリシーを遵守し、必要に応じて法的助言を求めるなど、慎重な対応が求められます。
組織図の取り扱いには、常に情報セキュリティ意識を持ち、企業の機密情報を保護する責任を自覚するようにしましょう。
関係者間のつながりの強弱をヒアリングする
誰が誰と密接に関わっているのか、逆に、誰と誰の関係は希薄なのか、といった情報から全体の関係図を把握するため、関係者間のつながりの強弱について詳細にヒアリングしましょう。
特に、決済権を持っている人物が誰なのか、その人物にアプローチするには誰を経由するのが効果的か、といった各関係者の権限についても確認しましょう。
過去の取引の記録を確認する
効果的なアプローチ方法を見つけるために、過去、その顧客と何かしらの取引を行っていないか、記録を確認しましょう。
もしも、顧客との間に過去の取引が存在する場合は、下記の点に着目して情報を収集しましょう。
- 担当者: 過去に誰が顧客を担当していたのか
- アプローチ方法: 具体的にどのような方法でアプローチしたのか(メール、電話、訪問など)
- 提案内容: どのような提案を行い、どのような点が顧客に響いたのか
- 取引の経緯: どのような経緯で取引に至ったのか、または取引に至らなかったのか
- 顧客の反応: 顧客は提案に対してどのような反応を示したのか
- 結果: 最終的にどのような結果になったのか(成約、失注、保留など)
関係者をリストアップし、それぞれの役割と責任範囲、そして提案に対する影響力を把握し、その上で、誰の「YES」が必要なのか、どの段階で誰に相談するべきなのかを明確にすることで、提案がスムーズに進む可能性が高まります。
また、提案を行う際には、それぞれの「YES」を勝ち取るために必要な情報や資料を準備するようにしましょう。
話すより聞く
予算・サービス内容・アフターフォロー・手続きの簡易さ・専任担当者の有無…など、顧客によって重要視しているポイントは異なります。
製品やサービスの魅力を伝えることも大切ですが、顧客の視点に立ち、ニーズを深く理解することが、より良い提案、そして、長期的な関係構築へとつながります。
そこで、顧客が本当に必要としているもの、そして、成約に向けて何がボトルネックとなっているのかを理解するために、顧客の本音を聞き出すことが重要になってきます。
顧客の本音を引き出すためにすべきことを下記に紹介いたします。
相槌をうつ
顧客とのコミュニケーションにおいて、相槌を打つことは非常に重要です。
なぜなら、相槌を打つことで、顧客に対して「あなたの話を真剣に聞いていますよ」という姿勢を示すことができるからです。
人は誰しも、自分の話を聞いてもらいたいという欲求を持っています。
顧客の話に相槌を打つことで、その欲求を満たし、顧客との信頼関係を構築することができます。
また、相槌を打つことで、顧客の話のペースを調整したり、理解を深めたりすることにもつながります。
あわせて、相槌のバリエーションを増やすことも効果的です。
例えば、「はい」「そうですか」といった短い相槌だけでなく、「なるほど」「おっしゃる通りですね」など、共感を示す相槌や、「それは大変でしたね」「素晴らしいですね」など、感情を込めた相槌も効果的です。
ただし、相槌を打ちすぎると、不自然に聞こえたり、かえって話を遮っているように感じられたりすることもあります。
顧客の話の内容や、表情、声のトーンなどを観察しながら、適切なタイミングで、適切な相槌を打つように心がけましょう。
共感する
「ミラーリング効果」という言葉を聞いたことはありますか?
ミラーリング効果とは、顧客の言動をさりげなく真似することで、顧客との距離を縮め、円滑なコミュニケーションを図ることができる心理効果のことです。
これは、言動だけでなく、考え方にも応用できます。
顧客の考えに「そうですよね」「おっしゃる通りです」と共感を示すことで、顧客は「この人は自分のことを理解してくれる」と感じ、信頼関係が深まります。
そうすると、「この人になら、悩みや本音を打ち明けても大丈夫かもしれない」と感じ、相談してくれる可能性が高まります。
ちょっとした相談事から、顧客の潜在的なニーズや課題を引き出せるかもしれません。
顧客の考え方に共感する姿勢を心がけましょう。
質問する
自分に関心を寄せてくれていると感じると、人は自身の事情を語りやすくなります。
そのため、質問をすることで、顧客に対する関心を示すことが大切です。
質問力を高めるために留意すべき事項を下記に紹介いたします。
質問の仕方
オープンクエスチョン
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- 相手に自由に答えてもらうための質問
- 例: 「最近いかがですか?」「このサービスについてどう思いますか?」
クローズドクエスチョン
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- はい、いいえ、または短い言葉で答えられる質問
- 例: 「この機能はもう使っていただけましたか?」「明日の会議に参加されますか?」
具体的な質問
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- 5W1Hを活用した、詳細な情報を得るための質問
- 例: 「どこに課題を感じていますか?」「現在、この機能をどのように活用していますか?」
質問をする際のポイント
相手の状況を考慮する
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- 相手の立場や知識レベルを理解し、適切な質問を選ぶ
- 相手が答えやすい雰囲気を作る
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目的を明確にする
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- 目的が曖昧だと相手も答えに困ってしまうため、何を知りたいのか、質問の目的を明確にしてから質問する
- 相手の答えを遮らない
- 自分の意見を押し付けず、相手の言葉を聞く
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質問の仕方を工夫する
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- 商談の時間が限られている場合は、質問の内容を事前に精査する
- 例:「○○のサービスを導入したことはありますか?」ではなく、「○○の分野ではどちらのサービスを導入していますか?」と質問することで、1つの質問でサービスの導入の有無も含めて顧客の状況を確認する
- あえて1つの質問で多くの情報を得ようとせず、分割して段階的に質問する
- 相手が話しやすいように、質問の順序や言葉遣いを工夫する
- 商談の時間が限られている場合は、質問の内容を事前に精査する
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顧客と直接対話することで、顧客が何に関心を持っているのか、何に疑問を感じているのか、といった情報をヒアリングすることができます。
顧客のニーズや懸念を理解することは、顧客満足度の向上、ひいては良好な関係の構築に不可欠です。
たとえ今回の提案が顧客の「YES」を勝ち取れなくても、、次の提案に活かせる貴重なヒントを得ることができるため、顧客の言葉をしっかり聞きましょう。
顧客自身に選択してもらう
比較材料を提示することで、顧客に選択の主導権を渡し、納得感を醸成しながら商談を進めることができます。
そうすることで、その後のプロセスもスムーズに進み、円滑な合意形成ができます。
先に記載した「話すより聞く」でヒアリングした、顧客が気になっている点にあわせて、比較提案を行いましょう。
比較提案の方法について、下記にご紹介いたします。
料金で比較する
顧客の予算とニーズにあわせて、一番訴求したいプランと、それよりも価格が安いプラン、高いプランの3パターンを提示しましょう。
それぞれの価格によってどのような差異があるかを伝えることで、顧客が求めるサービス内容と予算のバランスを考慮した提案ができます。
内容で比較する
顧客のニーズに沿ったプランと、それよりも機能やオプションが充実しているプラン、充実していないがオススメもしくはデフォルトのプランの3パターンを提示しましょう。
そうすることで、どの機能やオプションが備わっていることが必須条件になるのかヒアリングすることができます。
メリットデメリットで比較する
提案する製品やサービスのメリットだけでなく、デメリットも正直に提示することで、顧客からの信頼を得ることができます。
デメリットを補うための解決策や代替案も合わせて提示することで、顧客の不安を解消することができます。
競合他社の製品やサービスと比較する
競合他社の製品やサービスと比較することで、自社の製品やサービスの優位性を明確に示すことができます。
ただし、競合他社を過度に批判するのではなく、客観的な情報を提供するように心がけましょう。
比較提案を行うことで、より詳細に顧客が悩んでいるポイントを知ることができます。
もしもお断りされてしまった場合は、具体的にどの部分に納得感を持てなかったのか、詳しくヒアリングしましょう。
なお、比較提案を行う際は、下記に気を配ると良いでしょう。
- 視覚的にわかりやすい資料を準備する
- 価格や性能、機能などの比較をする際には、図表やグラフ、写真などを活用する
- 顧客のニーズを把握する
- 顧客にとって不要な情報や、興味のない情報を提示しても、逆効果になる可能性がある
- わかりやすく説明する
- 専門用語や難解な表現は避け、顧客が理解しやすい言葉で説明する
- 押し付けにならないようにする
- 特定の選択肢を押し付けるようなことは避け、顧客が自由に選択できるようにする
背中を押す言葉をかける
多くの人が、重要な決断を下す際に、「誰かに背中を押してほしい」と感じるものです。
特に、新しいサービスの導入など、ビジネスシーンでの決断は、不安や迷いを伴うことが多いでしょう。
状況に応じた適切な言葉を、顧客が安心できるように笑顔で伝えることで、担当者の不安や迷いを払拭し、自信を持って決断できるよう、背中を押すことができます。
いくつかおすすめのフレーズを紹介いたしますので、状況に応じてぜひお試しください。
- こちらの内容でお手続きを進めさせていただけないでしょうか。
- それでは、お手続き○分ほどで済みますので、このまま進めさせていただいてよろしいでしょうか。
- こちらの機能をご活用いただくことで、○○様の普段の業務がより効率的に進むのではないかと思います。ぜひご利用ください。
- 〇〇様にとって、今回のご提案は、現状の課題解決をさらに加速させ、より具体的な成果に繋がる投資となるはずです。ぜひ、この機会にご検討いただければ幸いです。
- きっと○○様であれば今回のご提案内容を最大限に活用していただけるかと思います。
- 〇〇様とこれまでご一緒させていただく中で、弊社のサービスが大きく貢献していると実感しております。今回のご提案は、その効果をさらに高め、これまで以上に〇〇の課題を解決する手助けになるかと存じます。もちろん、現在のサービスも引き続きご活用いただけますのでご安心ください。より一層の成長に向けて、私たちも全力でサポートさせていただければ幸いです。
- 本日のご提案にご納得いただけましたら、ぜひ前向きにご検討ください。〇〇様からの『やってみよう』というお言葉をいただけることが、私たちにとって何よりの励みになります。もちろん、ご不明な点があれば、いつでもお気軽にお申し付けください。
まとめ
顧客の「YES」を勝ち取る商談術についてご紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
個人的に、特に大事にしているのは、「接点を途切れさせない」と「話すより聞く」の2つです。
今回ご紹介した内容を意識して取り組んでいれば、おのずとどのようにアプローチすべきかわかるはずです。
どれか1つでも構いませんので、ぜひ今日から実践してみてください。

この記事を書いたライター
笠松 ゆい
前職では保険会社に勤め、営業から契約後の支援まで一貫して担当。アディッシュに入社し、カスタマーサポート・サクセス・エクスペリエンスを経験。課題を見つけ、改善策を模索しながら、日々顧客の事業の成功を支援している。