AIで浮いた時間、貴社はどこに投資しますか? 米国最前線のBPO責任者が語る、CS人材の再配置戦略
この記事の要点
- AIエージェントが自らAIだと名乗った瞬間、半数以上の顧客が「人間と話したい」と言い出す。技術的にはAIの方が的確に答えられる場面でも、性能の高さと顧客満足は別物である。
- 余力ができた人材は、専門特化チームに再配置する。AIで浮いた時間は、「シューズ専門家チーム」のように、より深い専門性を持つ担当へと再配置することで価値を生む。
- 顧客に売り込むな、教育しろ。本音を引き出したりアップセルに繋げたりする研修は、「売る」ではなく「教育する」という枠組みで捉えると、既存の対応スキルの自然な延長になる。
この記事は、AIを導入されている・検討されているカスタマーサポート/CXのマネージャーに向けたものです。
チャットボット、音声AI、自動応答——顧客との最初の接点が、次々とAIに置き換わっている。問い合わせ対応の多くをAIが引き受け、人間はより複雑な対応に集中する。多くの現場が今、まさにその移行の只中にいるはずだ。
だが、本当にそれで大丈夫なのだろうか。AIに任せた顧客接点は、顧客の満足やロイヤルティに、本当につながっているのだろうか。
この問いに答えてもらうため、米国でAI活用の最前線に立つ人物に話を聞いた。オハイオ州コロンバスを拠点とする少数精鋭型のBPO(業務委託・アウトソーシング企業)、CertainlyCXのCEO、Kevin Zyskowski氏だ。
日本ではまだこれから本格化するAI×顧客対応の波を、米国はひと足先に経験している。その最前線で試行錯誤している実務家の言葉には、これから同じ課題に直面する日本の現場が先回りして押さえておくべきヒントが詰まっている。
― CertainlyCXはどのような会社ですか。

CertainlyCXは、スタートアップから確立されたEコマースブランドまで、幅広い企業のカスタマーサポートチームを構築・運営する少数精鋭型のBPOだ。メール、電話、チャット、SMS、SNSといったあらゆる顧客接点で、クライアントのブランドの「声」を保ちながら対応を代行する。カスタマーサポートに加え、セールスサポート、技術サポート、バックオフィス業務まで手がけ、「Human-Led AI(人間主導のAI活用)」——AIで人を置き換えるのではなく、人の力を増幅させる——を掲げている点に特徴がある。
Kevin氏によると、従業員のeNPS(従業員が自社を勧めたいと思う度合いを示す指標)は98.61%、年間離職率はわずか4%。スタッフの91%が3年以上のカスタマーサービス経験を持ち、36%は10年以上のベテランだという。87%が大卒者で構成され、英語・スペイン語・フランス語・中国語・ドイツ語・イタリア語・日本語・ポルトガル語・ロシア語・フィリピン語など10言語での対応体制を敷いている。
規模を追う大手BPOとは一線を画し、少数のクライアントに深くコミットするスタイルを掲げている。
Kevin Zyskowski氏(CertainlyCX CEO)
― Kevinさんご自身のご経歴も教えてください。
「JPMorgan Chase(世界有数の銀行グループの一つ。資産規模約4兆ドル、従業員30万人超)でHRテクノロジー部門群を統括していました。それが自分の会社を始める前の、最後の仕事の一つです。その前はファイザー(Fiserv、金融サービス)、そして地元オハイオ州が本社のウェンディーズにもいました」
「ウェンディーズでは、それまでランチとディナーしか出していなかったところに、朝食メニューを導入するという転換期に立ち会いました。法務、財務、不動産まで、あらゆる部門と関わる経験でした。大きな組織にいると、給料の心配をする必要はありませんが、何かを変えるのは巨大な機械を動かすように難しく、遅い。そこで感じたもどかしさが、後に自分でBPOを始める動機の一つになりました」
大企業のテクノロジー統括から、Progressive Insurance(損害保険)やEコマースブランドのCX改善まで——事業会社側・受託側の両方を経験してきたKevin氏は、AIと顧客対応の関係を、机上論ではなく現場の肌感覚で語れる数少ない実務家だ。以下、その言葉を紹介する。
「AIエージェントです」と名乗った瞬間に起きること
― 「Human-Led AI」というアプローチを掲げています。AIが担うべき範囲と、人間が介入すべき境界線を、実際どう判断していますか。
「これは今も進化し続けている答えです。半年〜1年前なら、簡単で反復的な、ルールベースの質問はAIに任せ、判断が必要な難しい場面は人間に任せるべきだと言っていました。でも今観察しているのは、それが顧客とその状況次第で大きく変わるということです」
「今、米国ではAIへの抵抗がとても強いんです。例えば、非常に洗練された音声AIエージェントがあります。プロセス情報も製品情報もすべて把握していて、技術的には人間のエージェントより的確に答えられます。膨大な情報を瞬時に引き出せるからです。人間には再現が難しいことです」
― それでも、人間が求められる場面が多いのですね。
「繰り返し気づくのは、人間の顧客は、AIエージェントと話したくないということです。ほとんどの場合、人間のエージェントを求めて、AIとの会話に抵抗します。だから、私たちはAIエージェントに、自分がAIであることを必ず名乗らせています。誰かを騙したくはありませんから。でも気づいたのは、AIエージェントがそう名乗ると、半分以上のケースで、人々の即座の反応が『人間と話せますか』になることです」
技術的な性能では、AIはもはや人間のエージェントに引けを取らない。それでも、顧客が求めるのは「答えの正確さ」だけではないということだ。では、そのAIが実際にうまく機能するのはどんな場面なのか、聞いてみた。
― AIが本当にうまく機能する場面はどこですか。
「人間が、すぐに人間と話せるとは期待していない場面です。営業時間外や、対応能力を超えていて全エージェントが埋まっている時、AIエージェントが介入して問題を解決したり負荷を軽減したりする。これはポジティブに受け止められています」
「顧客が自分で調べて解決する、いわゆる"セルフサービス"の仕組みとAIの組み合わせも良い例です。もともとこの仕組みは、顧客がすべての案内を読み通すという想定で作られていましたが、実際にはそうなりません。AIの価値は、自分で解決したい人がすぐに『これはどうやるの?』と尋ねられ、AIがすぐに手順を教えられることです」
― 逆に、人間が必要な場面は。
「決定が必要な場面、まだルールが存在しない場面。もう一つは、顧客にとってより個人的な判断が絡む場面です。例えば、高級衣類を売る小売業者では、注文に関する問題ならAIで十分ですが、『どの服とどの服を合わせるべきか』というアドバイスが欲しい時、顧客は人間と話したいと思います。その人間だけが、顧客にとって本当に重要なことを理解し、顧客が望む形で応答できるからです。AIにはできません、そしてできるようにもならないと思います」
コミュニティは、監視してこそ機能する
AIと人の役割分担と並んで、サポートコストを下げるもう一つの手段として近年注目されているのが、顧客同士が助け合うコミュニティだ。特にサポート対応にコストがかかりやすい高級ブランドなどでは、その活用に期待が集まっている。
― 高級ブランドのようにサポート維持コストが高い場合、顧客同士が助け合うコミュニティを作ってコストを下げる、という発想もあります。有効だと思いますか。
「コミュニティという発想は非常に価値があると思います。ただし、社内の人的リソースによってきちんと監視されている限りにおいて、です。あるレコード会社——今もビニールレコードを作っている、非常に専門性の高い顧客層を持つ会社——と仕事をしたことがあります。コミュニティは製品・サービスに非常に詳しく、出回っている情報の多くは良いものでした」
「それでも、私たちのサポートチームは常にそのコミュニティを監視し、必要な時に対応しなければなりませんでした。レコードの発売日が分からず、勝手に推測して間違った情報を広めてしまうことがあったからです。常に監視し、必要な時に正しい情報を提供することが重要でした」
― コミュニティ内で企業への批判が出た場合はどうすべきですか。
「過去に、企業がネガティブな会話をコントロールしよう、削除しようとしたケースがありました。それは大きな反発を招きました。コミュニティは、何が起きているかを十分理解できるほど賢いからです。それは絶対にお勧めしません。やるべきは、正面から向き合い、正直に認めることです。『確かにミスをしたが、こう直していく』と。隠そう、消そうとするのは逆効果です」
ここまでは、AIやコミュニティを使って、日々のサポート対応をいかに効率化するかという話だった。では、AI導入によって生まれた人員の余力を、対応の効率化を超えてどう活かすべきなのか。最後にそれを聞いた。
チームに余力ができたら、マネージャーはまず何をすべきか
― コスト削減は引きやすいレバーですが、あえてコストを据え置き、収益成長へ舵を切る企業はごく僅かです。小さく始めたい企業への、最初の一歩は何ですか。
「AIが業務の30〜50%をこなせるようになり、本来10人必要だったチームに5人分の余力ができた、という状況を考えてみましょう。彼らに何をしてもらえば、価値を生み、収益を伸ばし、そこにいる意味を持たせられるか。残念ながら、それは提供しているサービス・製品によって大きく変わります」
「小売の例で言うと、靴、パンツ、ジャケット、コートを売る組織と『シューズ専門家チーム』を作りました。靴に関する質問は、電話でもチャットでもメールでも、そのチームにルーティングされ、より高いレベルの対応を受けられるようにしました。ヨガ用品を売る組織でも同様に、実際にヨガをしていて、その道具・商品を自ら使っているチームに、質問を振り分けました」
― 余力があると、具体的に何が変わるのですか。
「一つは、担当者の教育レベルを上げ、扱う会話の種類をより専門的にできること。もう一つは、より長く話せるようにすることです。以前は対応時間の短さをとても気にしていましたが、AIが会話の大部分を素早く処理してくれる今は、エージェントにもっと自由に、長く話してもらい、関係を築いてもらうことができます」
― 顧客から本音を引き出したり、時にはアップセルへと会話を展開したりするのは、従来のサポート業務とは異なるスキルのように思います。その転換に向けて、チームをどう研修しましたか。
「まず社内では、これを『顧客に売り込む』のではなく『顧客を教育する』という枠組みで捉えています。この区別は、聞こえる以上に重要です。問題解決が得意なサポート担当者は『これを売って』と言われると身構えてしまいますが、『他に役立ちそうなことを理解してもらう手助けをして』という言い方なら、すでに得意なことの自然な延長になります。売り込みではなく、コンサルティング的な発想です。本音を引き出すことについても同じ論理が当てはまります。エージェントにクレームを探させるのではなく、すでに耳にしていることに注意深くなってもらうだけです。彼らは組織の中で誰よりも顧客に近い存在ですから」
「この枠組みが単に聞こえが良いだけでなく実際に機能する理由は2つあります。一つは選抜です。サポート業務の技術的な適性だけでなく、製品・業界そのものに本当の関心を持っているエージェントを探します。関心があるからこそ、より深い製品知識が定着するんです」
「もう一つは、これを最初から与えられる役割ではなく、勝ち取るべき階級にしていることです。サポート業務で安定して良い成果を出し、本当に関心を示し、知識テストに合格した人だけが、ロールプレイ研修プログラムに進みます。実務に入ると、コホート(同期グループ)として毎週集まり、何がうまくいっていて何がいっていないかを振り返る。研修マニュアルだけでなく、お互いの実際のやり取りから学ぶんです。この役割には昇給が伴いますが、それは準備ができたと証明された後に限られます」
― マネージャーが最初に取り組むべきことは何ですか。
「私たちのビジネスにおいて、AIが最も価値を発揮できる最初の場所は、モニタリングと品質監査だと思います。以前は人間がやっていたので、監視できるサンプルサイズはごく小さいものでした。今は全体を監視できます。そして、単に監視するだけでなく、顧客が何に満足しているのか、何がうまくいっていて何がいっていないのかを本当に理解する。その上で、余力のある人材をどう活かせば、より多くの顧客が良い顧客体験にたどり着き、成功できるのかを考える。まずAIを裏方で使って分析・理解を深め、それから人間を使ってその状況を改善する。チームの再配置を考える前に、この順番を押さえておくべきです」

インタビューに応じるKevin Zyskowski氏
冒頭の問いに戻ろう。「AIが顧客接点を飲み込む時代に、本当に大丈夫か」。Kevin氏の答えを貫いていたのは、AIの性能を疑う姿勢ではなく、「AIに何ができて、何が顧客の本当の安心につながらないか」を、現場の反応から地道に見極め続ける姿勢だった。AIエージェントが名乗った瞬間の顧客の反応も、コミュニティ運営も、離脱防止の事例も、余剰人員の活用も、共通していたのは「まず観察し、理解してから動く」という順番である。
米国の現場ではすでにこうした試行錯誤が積み重ねられており、同じ変化はいずれ日本の現場にも及ぶだろう。その時、カスタマーサポートマネージャーに求められるのは、AIか人かを一度きり決めることではなく、この見極めを更新し続ける姿勢なのかもしれない。
本インタビューは2026年7月、オンラインにて実施した。


