【翻訳】費用対効果分析とは?SaaS & CS における最適な活用方法

Custify
2025.04.21

この記事は著作権を有する Custifyの許可を得て翻訳したものです。
Original article:https://www.custify.com/blog/cost-benefit-analysis-saas/
顧客成功におけるリクエストの優先順位付けの課題
顧客成功において、顧客からのリクエストに優先順位をつけることは難しい課題ではあります。最もコスト効率の良い方法で対応するには、どのようにすべきでしょうか?
最近、私たちはこの問題をオンラインコミュニティで質問しました。その結果、多くの人が「コストと利益を比較」し、「費用対効果比率(Cost-Benefit Ratio、BCR)の計算」を行っていることが分かりました。
では彼らはそれを、実際にはどのように行っているのでしょうか?
この記事では、以下のポイントについて解説します。
- 費用対効果分析(CBA)とは何か、誰が活用するのか、そしてその利点
- CSがCBAを活用すべきタイミング
- CBAの具体的な例
- 費用対効果比率(BCR)とは何か、その計算方法(数式付き)
- 実際にCBAを実施する方法
- CBAのスプレッドシートテンプレートの提供
- よくある質問(FAQs)
費用対効果分析(CBA)とは?
費用対効果分析(CBA)は、組織の行動に関連する費用(コスト)と、それによって得られる利益を予測し、その行動がコストに見合っているか比較する財務分析手法です。CBAは公共機関で行われる意思決定には必要不可欠ですが、企業でも適切に実施すれば非常に有用な手段になります。
CBAは次の意思決定を考える時に役立ちます:
- 製品改善の選定(顧客のリクエストに応じて製品の改善点を選択し、それに伴うタスクの優先順位を決定します。)
- プロジェクト計画(部署やプロジェクトに対するマイルストーン、予算、リソースの割り当て)
- 人事の変更(従業員の追加・削減・異動)
- 製品機能の開発(ロードマップ作成、新機能の導入)
- 事業拡大の検討(新製品の開発、新サービスの追加をCBAでシミュレーションする)
- 購買判断(業務改善のためのソフトウェアやハードウェアの購入、それに関するコストをCBAで計算する)
CBAは、組織内の行動方針を決定するための客観的かつデータに基づいた方法です。
CBAを活用するのは誰か?
ほとんどのビジネスにおいて、詳細なスプレッドシートや経験に基づく推測などで費用対効果分析(CBA)が活用されています。上記のように、幅広い形でその手段は存在します。
CBAは特に以下の組織で一般的に使用されています。
- 政府機関
- NGO(非政府組織)
- 非営利企業
営利企業においては、CBAは顧客中心でCS(カスタマーサクセス)を導入している企業にとって特に役立ちます。カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、限られた予算の中で顧客のニーズを優先した意思決定を行うために、確立されたCBAプロセスを活用します。
CBAを実施すべきタイミング
CBAは、あらゆるビジネスの意思決定に役立ちます。しかし、小さな、または基本的な意思決定の場ではCBAにかかるコスト(人件費、時間リソース)がかかりすぎる場合があります。そのため、CBAを作成するタイミングの時期を理解することが重要です。
また、CBAを適用する際には、企業の行動を仮定し、予想できる影響の期間を考慮する必要があります。分析に長期的な影響が含まれている場合、物価の変動や経済状況の変化などの時間の経過による変化を考慮すると、正確性が失われる場合があります。
以下のような主要な意思決定のタイミングではCBAの活用が推奨されます。
- 投資判断:ビジネスリーダーにとって、どの分野に投資するべきかを決定するのは困難です。判断に感情が混じることもありますが、適切なCBAを実施すれば財務的にはデータに基づいている、健全な意思決定を行うことができます。
- 価格変更:特にSaaS企業において、価格戦略の幅広さ、複雑さが経営側が意図しない結果を引き起こすこともあり得ます。CBAを活用すれば、見落としを防ぐとともに最も合理的な価格設定を考えることができます。
- M&A(合併・買収):M&Aは企業にとって非常に重要なアクションの一つです。
M&Aを完了する前にCBAを実施することは、適切な判断を下すために必要不可欠です。 - 業務プロセスの変更:CBAを活用して様々な業務プロセスを最適化・効率化する事が可能です。また、一部のプロセスは CBA から恩恵を受けるかもしれません。プロセスが遅れて会社の業務スピードを低下させている場合、CBA を実行して、自動化やその他の手段によってスピードを改善できるか検討する事が賢明です。
- 組織変更:人事異動やチーム再編もCBAを通じて最適化が可能です。
- 製品・サービスの変更:CBAを使用して、実装する製品の変更を行うか、またはサービスに対してコスト調整を行うかを選択し、より良いコスト効率を検討できます。
CSチームはCBAを活用することで、ユーザーのフィードバックを慎重に分析し、製造チームにより良い提案をすることができ、将来の製品の変更や改善に向けた確固たる基盤を提供できます。
費用対効果分析(CBA)の具体例
CBAとはどのようなものか?
それでは、CBAが実際にどのようなものかを見てみましょう。
【参照:CBAのサンプルテンプレート】https://docs.google.com/spreadsheets/d/1xI996XfRuo5fv_gFjEk6MiahkiaAzxidZN9l7tskgVQ/edit?gid=985276986#gid=985276986
包括的なCBAのサンプルテンプレート(Netsuiteのテンプレートを基に作成)をご紹介します。このテンプレートは複雑ではありますが、数値の背景にある理由を記載するスペースがないことに注意が必要です。
適切なCBAには「CBAの実施方法」で詳しく解説するように、必ずその行動に対する理由が含まれています。編集済みのテンプレートにはこのセクションを追加しています。
CBAのメリットとデメリット
CBAを実施するメリット
- データに基づいた意思決定が可能
CBAは、確かなデータに基づいて洞察を得ることができます。
データに基づいた意思決定を行えれば、持続可能なビジネス戦略を構築することができます。 - 収益性(利益)を客観的に評価できる
CBAはデータ主導のプロセスであるため、主観的なバイアスに基づいた視点を排除することができます。提案されたアクションや変更を客観的な視点で評価する事が可能です。 - 定性的な要素を考慮する事が可能
CBAは基本的には予測計算と実数に基づいた数値がベースですが、ブランド価値や顧客満足度などの定性的な要因にも金銭的な価値を割り当てることができるため、そういった視覚化し辛い価値を把握するのに役立ちます。 - ビジネスを行う際の実際のコストを明確にできる
CBAを活用することで、ビジネスを行う際の意思決定をする前に、その行動の実際のコストを明確にし、より精度の高い予測を立てることが可能です。
CBAを実施するデメリット
- リソースと時間を浪費する可能性
適切なCBAを実行するには、入念なデータ管理やガバナンス(組織管理)が重要になりますが、これには多くの時間とリソース(人件費)が必要になります。 - データが曖昧で変化しやすい
CBAに財務見積もりなどの定性的な要素が多く含まれるほど、最終結果は曖昧になります。 - 予測が難しい
CBAを利用して損益分岐点を正確に把握することは難しく、特に1年以上の長期的な影響を考慮する場合は、その正確性に限界があります。損益分岐点の正確な評価を求めて CBA を実施している場合は、100%正確にはならない事に留意が必要です。 - 経験を考慮できない
CBAは数値に基づく客観的な指標ではありますが、ビジネスリーダーの経験や直感的な判断を考慮することはできません。
経験を積んだリーダーは独創的で革新的なアイデアを持っていることが多々あり、コストや利益を見積もるのが難しくなります。そのため、CBAだけに頼ることは必ずしも最適ではありません。 - 定量的すぎる場合がある
CBAが不適切に実行されると、定量的になりすぎる可能性があります。顧客満足度やブランドロイヤルティ、顧客の価値実現、カスタマーエクスペリエンスなどの見えにくい要素を省略すると、冷徹で計算的な分析になりすぎる可能性があります。
費用対効果比率(BCR)とは?
費用対効果比率(BCR)は、CBAの重要な要素の一つであり、コストと利益の基本的な比率を示します。計算方法は以下の通りです。基本の計算式
BCR = 総利益 ÷ 総コスト
BCRと純利益(Net Benefits)の違い
BCRは役立つ指標ですが、純利益(Net Benefits)を主な評価基準として注目する方もいます。この計算式も同様に簡単です。
純利益の計算式
純利益 = 総利益 - 総コスト
この式を使うことで、特定のアクション(企業の行動)がもたらすROI(投資対効果)をより具体的に評価することができます。
より詳細な分析を行いたい場合は、現在、価値係数(Present Value Factor)を考慮に入れ、金利を含めた計算を行うことも可能です。
CBAを実施する方法
以下は、CBAを実施する際のステップです。これらの手順はチームで行うことが推奨されます。これらの手順についてチームメンバーとブレインストーミングを行い、最も適切なリストを作成してください。(最終的には、チーム全体の承認を満たす最終リストを作ります。)
- 目的と期待する成果を明確にする
CBAを実施する前に、以下のような点を明確にします。
a.CBAの目的(実際に決定し、評価すべきこと)は何か?
b.評価しようとしているアクション(企業の行動)は何か?
c.このアクションに期待する結果(あるいは、アクションの目標)は?
d.CBAをどのように構成すれば、最も全体的な目標に貢献できるか? - すべてのコストを洗い出す
次に、発生する可能性のある(潜在的な)すべてのコストを特定し、リスト化します。 - すべてのメリットを特定する
コストのリストを作成した後は、潜在的なメリット(恩恵、または利益)をリストアップします。 - 各コストと利益に具体的な金額を割り当てる
コストと利益のリストが完成したら、それぞれのコストとメリットに実際の金額を割り当てます。
この作業は何度もやり取りが必要になり、意見の食い違いが生じることもありますが、それは正常なプロセスです。
議論を重ねながら、最も合理的な数値を決定してください。 - 各金額の根拠を記録する
CBAの結果が確定したら、単に見積りの金額を記載するのではなく、CBAの別セクションにある理由欄に、なぜそうなるのか(コスト・メリットの金額の理由)を詳細に記録します。
これにより、1~3年後にCBAを見直す際にも、意思決定の根拠が明確になります。 - 関係者を巻き込み、それぞれの意見を反映する
ブレインストーミングの段階では、すべての関係者を巻き込みましょう。
関係者をキー入力し、その理由も含めます。
たとえば、マーケティング部門は市場調査や価格戦略の観点から貴重な洞察を提供することになります。忘れずに入力しましょう。 - CBAを最終化し、レポートを作成する
すべてのデータが揃ったら、それを分かりやすい形に整理し、CBAを最終決定します。スプレッドシートやPPTレポートとしてまとめます。
このレポートは、意思決定に関与するすべての関係者が理解しやすい形式で作成してください。
また、より詳細にそれを掘り下げたい人の為に、補足レポートを別途用意するのも良い方法です。
SaaS / カスタマーサクセス向け費用対効果分析テンプレート
このテンプレートは、SaaS業界のカスタマーサクセスリーダーにとって貴重なツールとなるでしょう。
戦略的な意思決定を支援し、新たなカスタマーサクセスマネージャー(CSM)を雇うべきか、それともカスタマーサクセスプラットフォーム(CSP)ツールを導入すべきかを評価するのに役立ちます。
【参照:CBAのサンプルテンプレート】https://docs.google.com/spreadsheets/d/1xI996XfRuo5fv_gFjEk6MiahkiaAzxidZN9l7tskgVQ/edit?gid=985276986#gid=985276986
テンプレート構成
会社データ- 必要な投資利益率: 自身の会社が投資から期待する最小限の利益率。
- 税率:自身の会社に適用される税率。
初期投資: プロジェクトごとの年間コスト
- ハードウェア:物理的な設備(PCなど)への投資。
- ソフトウェア: 社内で使用するソフトウェアの購入またはサブスクリプション費用。
- 開発: プロジェクトの開発にかかる費用。
利益:プロジェクトから見込める年間利益
- 直接売上:プロジェクトから直接発生する収益。
- 増分売上:(プロモーションやパートナーの関与によって)プロジェクトから間接的に追加される売上。
- コスト削減: 旅行費、カスタマーサポート費など運用経費の削減。
運営コスト:初期投資を除いた、継続して支払われるコスト
- 売上原価:商品やサービスの提供に直接関連するコスト。
- メンテナンス:プロジェクトを維持・更新するためのコスト。
- 広告費: マーケティングおよび広告にかかるコスト。
- プロジェクト管理とサポートコスト:プロジェクトの管理とそのサポートにかかるコスト。
- 資本的支出の減価償却: 時間の経過に伴う初期投資の価値の減少。
合計(Totals)
- 純利益(コスト):総利益から総コストを差し引いた値。
- 税金: 純利益に適用される税。
- 税引後価値:純利益から税金を差し引いた後の金額。
- 減価償却の加算:キャッシュフローを分析するために減価償却費を加算する。
- キャッシュフロー: 生成または使用された金額の流れ。
- 累積キャッシュフロー:時間の経過に伴う総キャッシュフローの累積額。
評価指標
- 純現在価値(NPV):将来のキャッシュフローを必要な収益率で割り、それを差し引いた 将来キャッシュフローの現在価値。
- 投資回収期間:初期投資を回収するのに必要な時間。
- 費用対効果比率(BCR):投資対利益の比率。
CBA(費用対効果分析)とBCR(費用対効果比率)に関する追加FAQ
- CBAは定量的なものですか?
CBAは、明確な金銭的価値があると判断された要素に対しての意思決定には、主に分析が定量的なものとなります。
ただし、道徳的・倫理的な問題など、数値化が難しい側面を考慮する場合、CBAはより定性的なものになり、特に公的機関、政府組織、CSチームなどの顧客対応部門で顕著になる傾向があります。 - なぜ、CBAを行うべきなのか?
CBAは、意思決定の収益性を俯瞰する事に対して有用なツールです。
企業が行動を取るべきかどうか判断がつかない場合や、その決定に関する議論が感情的になってしまった際に、CBAは客観的な視点を与え、適切な決定を下す手助けになります。 - CBAが重要な理由は?
CBAがなければ、多くの決定は単純な推測や経験則に頼ってしまい、あるいは市場調査のような分析に依存することになります。
CBAは戦略的なフレームワークとして必要不可欠であり、特に企業の重要な意思決定において極めて価値のある手段です。 - SaaS業界において、なぜCBAは特に重要なのか?
SaaS業界におけるあらゆる主要な製品変更は、CBAを用いることでより改善することが可能です。
これを行わないと、SaaS企業のリーダーは市場に対して手探りで決定を行わざるを得なくなり、ビジネスの持続可能性を大きく損なう可能性があります。 - SaaS企業では、CBAをどのくらいの頻度で行うべきか?
一般的な企業、特に市場動向が急速に変化するSaaS企業では、CBAは少なくとも年1回の頻度で実施する必要があります。
また、以下のように特に大きい影響かつ、緊急性の高い意思決定を行う際にも、CBAを実施する事は賢明な選択といえます。
・新製品の開発
・新機能の導入
・大規模な組織変更
・価格モデルの変更 など - CBAは功利主義(Utilitarianism)の一例と言えるか?
前述のように、もしCBAが金銭的価値のみに焦点を当てた場合、それは冷徹で、功利主義的な分析になる傾向にあります。
この点については、1981年にスティーブン・ケルマン(Steven Kelman)が批判を提起し、2011年にはそれに対する研究論文が発表されました。
「多くの個人および社会的意思決定において、ある行為の利益がコストを上回るかどうかを問うことは有用である。しかし、すべての意思決定がこの基準で評価されるべきではない。例えば、嘘をつかない、約束を破らない、人を傷つけないといった義務が関係する場合、たとえ利益がコストを上回ったとしても、その行為は間違っている可能性がある。」
— スティーブン・ケルマン, 『費用対効果分析: 倫理的批判』
一方で、別の研究者であるローズマリー・ロウリー(Rosemary Lowery)とマーティン・ピーターソン(Martin Peterson)は、以下のように述べています。
「費用対効果分析は、功利主義と密接に関連していると理解されることが多い。しかし、私たちはこの主張を否定し、費用対効果分析は倫理的権利や、その他の非功利主義的な道徳的考慮を体系的に考慮することが可能であると主張する。」
— ローズマリー・ロウリー & マーティン・ピーターソン, 『費用対効果分析と非功利主義倫理』
最後に
あなたのBCRはどのような数値を示していますか?
もし十分な結果が出ていない場合は、顧客維持率(NRR)や全体のパフォーマンスを向上するために、より高度なカスタマーサクセスプラットフォームを活用し、長期的な顧客のロイヤリティを獲得する力を手に入れましょう!

この記事を書いたライター
Custify
本記事は、ヨーロッパのカスタマーサクセスベンダー「Custify」が運営する「The Custify Blog」(https://www.custify.com/blog/)にて作成された記事です。 アディッシュはCustifyに許諾を得て、翻訳記事を作成・掲載しています。