なぜカスタマーサクセスで「バトンミス」は起きるのか 原因と防ぐための設計ポイント
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堀野誠留
2026.06.09
The Modelの組織モデルが普及し、多くの企業で導入が進んでいます。
その中で、カスタマーサクセスの領域においては、さらに細分化が進み、
- オンボーディング
- アダプション
- エクスパンション
といったフェーズごとに、専門のチーム/担当者がいるケースも少なくありません。
このような組織モデルにおいては、営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎだけでなく、
カスタマーサクセスの内部での情報連携も非常に重要です。適切な情報連携は、
業務を円滑に進めるだけでなく、顧客に成功体験を提供するうえでも不可欠な要素と言えます。
一方で、その重要性を理解していても、実際には適切な情報連携が行われず、
- オンボーディングの遅延
- 定着率の悪化
- アップセル/クロスセル機会損失
といったマイナスの結果に繋がってしまうケースも多く存在します。
なぜ、このような事象が起きてしまうのでしょうか。
本記事では、その原因と対策について解説いたします。
各領域が目指すべき指標とのギャップ
バトンミスの本質は、「情報が足りないこと」ではなく、「情報設計が揃っていないこと」にあります。
営業から分化したインサイドセールス/フィールドセールス/カスタマーサクセスの各組織で、なぜ適切な情報連携ができないのでしょうか。
その背景には、各領域において、追うべき指標、つまりKPIが分化していることがあります。
KPIが異なるため、それらを達成するために重要視する情報も必然的に変わります。
その結果、前工程から引き継がれる情報は、後工程が求める情報ではなく
「その時点で重要とされていた情報」にとどまってしまいます。
また、状況によってはアダプションから再オンボーディングへ戻るケースや、
アップセル/クロスセルを営業に戻して提案を行うケースもあります。
このようなプロセス自体はフレキシブルに動く一方で、それを支える情報は柔軟に連携されていません。
以降では、各領域が重要視しているKPIと情報について整理していきます。
営業(IS / FS)目線
営業は売上/利益の最大化を目的とし、案件獲得、受注効率の向上に取り組みます。
そのため、受注の確度を上げ、多くの案件を獲得するための情報が重要になります。
具体的には、決裁者/顧客責任者から得られる情報が中心となります。
<KPI>
- リード獲得数
- 商談化率
- 成約率(受注率)
- 受注金額(ユーザー数含む) 等
<得るべき情報>
- BANT情報(予算、決裁者、ニーズ、時期)
- 競合情報
- 導入前の課題 等
オンボーディング目線
オンボーディングでは、顧客が自走できる状態を目指して支援を行います。
そのため、顧客の状態や課題感、本気度といった案件を推進させるための情報が最重要になります。
営業時とは異なり、PJ推進者や現場メンバーから得られる「現場に近い情報」が多く含まれます。
<KPI>
- オンボーディング完了率
- オンボーディング期間
- アクティベーション率(初回ログイン率) 等
<得るべき情報>
- 導入前の課題
- 顧客のあるべき姿(ToBe)
- 利用したい機能(サービス)
- プロジェクト推進体制
- 自社営業の提案内容 等
アダプション/エクスパンション目線
アダプション/エクスパンションでは、利用定着とMRRの向上を目的とします。
そのため、利用頻度・ヘルススコアといったCS的な情報に加え、アップセルクロスセル余地を判断するための営業的な情報も重要になります。
また、決裁者/現場メンバー双方から情報を得る必要があり、
営業時点でのBANT情報とは用途が異なるため、再度入手する必要があります。
<KPI>
- 利用頻度
- ヘルススコア
- アップセル率
- クロスセル率
- 解約率 等
<得るべき情報>
- オンボーディングからの残課題/満足度
- プロジェクト推進体制
- アップセル/クロスセル余地
- BANT情報(予算、決裁者、ニーズ、時期)等
情報分断が生まれる構造
このように、各領域で重要視する情報が異なるため、
- 営業:提案中の案件一覧
- オンボーディング:進捗管理用の案件一覧
- アダプション/エクスパンション:再提案/拡販用の案件一覧
といった形で、各領域が個別に情報を管理するケースが多く見受けられます。
その結果、バトンパス時に情報の粒度や内容が合致せず、
「引き継ぎはされているが、使える情報ではない」という状態が生まれます。
さらに、営業からカスタマーサクセスに至るまでのプロセスは長期にわたるため、顧客状況が当時と変わるケースも少なくありません。
そのため、営業時とアダプション時では目指すべきゴールが変わってしまっているということも起こりえます。
ギャップを埋めるために
こうしたギャップを回避するために、後続の工程ではどういった情報が必要かコミュニケーションをとる必要があります。
引き継ぎMTG等、都度コミュニケーションをとるのではなく、運用ルールとして明文化された状態で、顧客管理・案件管理を行っていく必要があります。
以降では、適切なバトンパスが行われている事例として「顧客カルテ」の運用を紹介いたします。
顧客カルテ(カスタマーサクセス主体の情報集約)
顧客カルテとは、基礎的な顧客情報に加えて、顧客課題やオンボーディングスケジュール等
カスタマーサクセス活動に必要な情報を一元管理する仕組みです。
利用ツールとしては、CRMのようなサービスを用いるのが理想ですが、スモールスタートとして、Excel/スプレッドシートで運用することも可能です。
どんな情報を管理すべきか
提供しているプロダクトや業界・組織風土によって必要とすべき情報が異なりますが、一例を下記に記載いたします。
営業・カスタマーサクセスの関係者で事前にすり合わせを行い、管理すべき情報を定義することが重要です。
<営業が入手・管理すべき情報>
- 導入時の課題
- 顧客の求める期待値
- 自社からの提案内容
- 導入前の利用ツール
- 契約に至ったポイント
- 今後の展望
<オンボーディングが入手・管理すべき情報>
- オンボーディング開始日/終了日
- 顧客が主として利用する機能
- ゴール設定(オンボーディング完了)
- 行った施策・アクション
- 担当から見た習熟度
- オンボーディング終了時点の顧客レベル
- トラブル・クレーム
- 顧客からの要望・要求(要望・要求に対する回答)
<アダプション/エクスパンションが入手・管理すべき情報>
- 定例開催頻度
- ヘルススコア
- NPS(顧客満足度)
- QBR実施有無(無の場合:QBR実施不要の理由)
- 現状の課題(課題に向けたアプローチ)
- ゴール設定
- ポテンシャル
- Expandスコア
- 年間予算
- 予算どりの時期
- 他部署への展開可否(否であるときの理由)
- 全社展開への展開可否(否であるときの理由)
運用設計のポイント
- 領域ごとに記載項目を分ける
各領域でしか得られない情報を明確に分けることで、後続の工程へ引き継ぐ際の情報の入力漏れを防ぎます。
- 時系列の情報を残す
顧客課題やトラブルといった情報を残すことによって、当時の状態を明確にします。
- 100%の情報入力は目指さない
引き継ぎ時、100%情報が入力されていることを目指すと現場が疲弊してしまいます。
運用が軌道に乗るまでは、共通した情報集約の基盤があることを最優先におき、
情報がないときに”記載漏れ”なのか、”入手不可”なのかを分かるようにします。
- オーナーの変化を前提にする
後続の工程を経るにつれて、顧客カルテの管理者(オーナー)は変わっていきます。
オーナーは変わっても、顧客カルテは常に更新され続けるべき情報資産として運用することが重要です。
まとめ
引き継ぎが適切に行われない場合、後続の工程に負荷がかかってしまったり、顧客に影響を与えてしまったり、最悪の場合、解約へと至ってしまうケースも存在します。
カスタマーサクセスが顧客の成功体験へと導くためには、顧客情報および周辺情報の適切な管理が不可欠です。
そのためにも、正しい情報を正しく伝達する基盤として顧客カルテを活用し、
関係者間で共通認識として、情報を明文化・管理していくことが重要です。
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この記事を書いたライター
堀野誠留
システムエンジニアを経験したのち、営業・CS・PMとして複数のセキュリティSaaSに携わる。現在はadishにてカスタマーサクセス業務に従事し、ハイタッチでのサクセス活動、オンボーディング等、様々な領域のカスタマーサクセスを経験、エンジニア経験を活かし、技術的視点からプロダクトを活用した 業務効率化・生産性向上の提案を日々行っている。
