問い合わせ対応を“ゴール”にしない──顧客を次のステップへ導くサポートへ──

石毛由乃
2025.12.23
問い合わせ対応を“ゴール”にしない──顧客を次のステップへ導くサポートへ──
「問い合わせは解決したのに、その先に何をすればいいかわからない」
そんな状態の顧客に、心当たりはありませんか?
実はそれこそが、顧客がサービスの利用を止めてしまう大きな理由の一つです。困りごとが解決しても、「次にどのような行動を取れば良いか」「どんな順番で進めれば良いのか」「自分が今どの状態にいるのか」を把握できないまま時間が経過してしまう。その結果、利用が止まり、活用・成果に結びつかなくなってしまいます。
私はもともとサポート担当として経験を積み、その後カスタマーサクセスとして顧客企業に常駐した経験があります。その中で強く感じたのは、サポートが「問い合わせに答えるだけ」では顧客の成功にはつながらないという現実でした。
特に導入初期のつまずきは致命的です。導入直後に設定で迷ってしまうと、「このサービスは難しい」「今は忙しいから後回しにしよう」という心理が働き、活用されないまま時間だけが経過してしまいます。実際、従業員登録でつまずいたまま放置され、活用が進まず解約に至ったケースもありました。
「できなかった」ではなく「やらなかった」ことで失われてしまう顧客成功。これを防ぐためには、単なる回答で終わらず、顧客が迷わず次のステップに進める導線の提示が不可欠です。
サポートは、解決のその先へ。
顧客の活用を後押しする存在へ進化していく必要があります。
顧客がつまずきやすい3つの理由
実はこの活用停滞には、次のような要因が潜んでいます。
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- 問い合わせ対応=ゴールになっている
その場の問題は解決するが、活用フェーズへつながらない - 顧客が「次に何をすべきか」を把握できないまま終わっている
今の状態や次のステップが見えないことで、不安が発生し停滞を招く - FAQやヘルプページが“自力で探せる顧客”を前提とした設計になっている
必要な情報にたどり着けず、同じ領域で再度つまずいてしまう
- 問い合わせ対応=ゴールになっている
さらに、サポート対応では“何を聞かれたか”をただ処理するだけで終わると、顧客の真の目的を見落とすリスクがあります。
スマレジ社では「要件定義ではなく、要求定義」という言葉を用い、「なぜそれをしたいのか」という背景にある目的を明らかにすることを重視しています。問い合わせ対応の裏側にある“目的”にまで踏み込むことで、顧客が抱える本質的な障壁を解消できるのです。
例えば、初期設定での問い合わせに回答しても、その後の活用へ自然につながらない事例が多く存在します。またFAQやヘルプページが充実していても、「自分に必要な情報がどれか」「どのタイミングで見るべきか」の判断するのは容易ではありません。
つまり、サポート対応が“その場の解決”に留まってしまっていることが課題だと言えます。ここを改善できれば、問い合わせ対応が活用の入口へ変わります。
目指すべきサポートの姿
カスタマーサポートが目指すべき姿は、サポートを終えた瞬間に、顧客が「次はこれを進めれば良い」と迷わず行動できる状態です。
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- 問い合わせ解決=次のステップが明確になるタイミングへ
- サポートの返信文が、単なる回答ではなく”ナビゲーション”の役割を果たす
- 顧客の“成長段階”に応じて、自然と活用が進む
顧客の状態に寄り添いながら、「次はこれを進めれば良い」という導線を示すことで、問い合わせ一件が 利用定着のきっかけ となります。つまりサポートが顧客の成長を後押しする存在になるということです。
これを実現するために、次の2つのステップが有効です。
サポートができる2ステップ
① 顧客の“成長段階”に応じたフォロー設計
まずは顧客のフェーズ別に特徴を整理します。
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フェーズ |
状況 |
よくある問い合わせ |
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導入期 |
使い始める段階 |
初期設定がわからない |
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活用期 |
日常運用を回す段階 |
業務負担が大きい |
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拡大期 |
管理範囲が広がる段階 |
複数拠点の管理が難しい |
② “問い合わせ→次のステップ”を一体化した返信テンプレートの整備
回答と次のステップをセットで案内し、顧客が迷わず自力で進める状態を構築します。すべての顧客に同じ案内をするのではなく、成長段階別にテンプレ化しておくことで、サポート担当者が迷わず提案できます。
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フェーズ |
次のステップ例 |
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導入期 |
「導入期のゴールまでの流れ」をリンクで案内 |
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活用期 |
効率化できる機能を紹介 |
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拡大期 |
管理負担を軽減する機能を提案 |
テンプレート例
従業員登録が完了したら、次は〇〇の作成です。以下の手順に沿って進めてみてください。
・所要時間:3分
・ガイドはこちら(FAQリンクを添付)
長文ではなく、クリックひとつで前へ進める導線にすることが重要です。
効果イメージ
上記の取り組みは、顧客に次のような前向きな変化を生みます。
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Before |
After |
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問い合わせ対応が単発で終了する |
問い合わせをきっかけに活用フェーズへ |
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FAQを探せる顧客だけが前に進める |
返信文だけで次のステップがわかる |
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サポート=解決担当 |
サポート=活用ナビゲーター |
問い合わせ対応が、解約抑止・LTV向上につながる接点へと変わります。
サポート活用を支える裏側の準備
この運用を実現するためには、裏側での仕組みづくりも欠かせません。
- 成長段階別にFAQ・ナレッジを体系的に整理すること
- 読むだけで流れが理解できる導入ガイド記事の整備(参考事例)
サポートが“そっと顧客の背中を押せる”環境づくりが鍵となります。
まとめ
問い合わせ対応は「問題が解決できたら終了」ではありません。
顧客がプロダクトを使い続けるための大事な分岐点です。対応の中で次のステップを提示するだけで、顧客は迷わず使い続けることができ、結果としてプロダクトの活用度と定着率が向上します。
サポートが顧客の背中を一歩押すだけで、顧客成功とサービス成長の両方が実現します。
本記事で伝えたいことは、「問い合わせ対応はゴールではない」ということです。
サポートが課題を解決したその先に、顧客の目的達成という“本来のゴール”が存在します。顧客が求めているのは、FAQや設定手順そのものではなく、「使える状態になること」「負担を減らすこと」といった成果です。
だからこそサポートは、回答に留まらず、顧客の目的を捉え、その実現に向けて次の一歩を導く存在であるべきです。
私自身、サポートからサクセスへ領域を広げる中で、「顧客の成功は、困り事を解決した“その先”にある」ということを強く実感しました。
問い合わせ対応は、顧客の成功とサービス成長をつなぐ重要な接点です。
だからこそ、「問い合わせ対応をゴールにしない」という視点を、今後も大切にしていきたいと考えています。

この記事を書いたライター
石毛由乃
CSと物流の現場でフロー改善や体制構築に携わり、工数削減や配送効率化を実現。オンボーディングを含む顧客支援も担当し、現場と顧客双方に寄り添いながら、再現性ある運用づくりを強みとしています。
