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SaaSの海外進出は「言語の翻訳」だけでは失敗する?日泰ハーフの視点で読み解く「CSローカライズ」の本質

国内のSaaS市場が成熟の兆しを見せる中、次なる成長の舞台として「グローバル展開」に舵を切る企業が急増しています。海外進出と聞くと、「まずはUIやマニュアルを現地の言葉に翻訳しよう」と考えるのが自然なアプローチでしょう。

ただ、ここに多くの企業が直面する大きな落とし穴が潜んでいます。それが「ローカライズの壁」というものです。言葉を現地の言語に翻訳しただけで「海外対応は完了した」と安心してしまう。その奥にある商習慣やコミュニケーション文化の違いに適応できず、結果として海外ユーザーの定着(サクセス)に苦戦してしまうケースが後を絶ちません。

私自身、タイで生まれ育った日泰ハーフというバックグラウンドを持ち、日系企業で日本人とタイ人の混合チームで働いた経験もあります。そうした環境の中で強く感じてきたのは、日本基準の「当たり前」をそのまま海外へ持ち込むことの危うさでした。

本記事では、客観的な市場データと、私が肌で感じてきた「現地のリアル」を交えながら、海外進出におけるカスタマーサクセスの本質について紐解いていきます。

国内市場の飽和とグローバル展開における「翻訳の罠」

そもそも、なぜ今、多くの日本のSaaS企業が海外を目指し、そして壁にぶつかっているのでしょうか。

 

その背景には、国内市場における成長率維持の難しさがあります。国内SaaS市場は2024年時点で1.4兆円規模に達していますが、ARR(年間経常収益)100億円を超えたトップ企業と、それ以外の企業との差は広がる一方です。その中で、新たな成長エンジンとして海外市場を求めるのは、必然の流れと言えるでしょう。

(引用:SaaS Annual Report 2024-2025 | ファーストライト・キャピタル)

 

ところが、いざ海を渡った企業の多くが「言語さえ通じれば価値は伝わるはずだ」という過信、いわゆる「翻訳の罠」に陥ってしまいます。SaaSの海外展開において、UI/UXのローカライズは単なる表示言語の変換ではありません。もっと深い、習慣や文化への適応プロセスそのものなのです。また、プロダクトの質がどれほど高くても、市場選定からカスタマーサクセスに至るまでのステップを「正しい順番」で現地の文脈に適応させなければ、早期の離脱を招く原因になってしまいかねません。

 

この罠の根底にあるのが、文化人類学者エドワード・T・ホールが提唱した「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」の差異です。日本やタイなどのハイコンテクスト文化圏では、メッセージの意味が言葉そのものよりも、人間関係や非言語的な合図によって形成されます。こうした環境でビジネスを軌道に乗せるには、データによる定量的な提示よりも、長期的な信頼関係の構築が優先される傾向が強いのです。一方、米国などのローコンテクスト文化では直接的かつ明示的なコミュニケーションが求められ、曖昧な表現は時に「不誠実」と見なされることすらあります。

(引用:Low-context culture and high-context culture | Smartling)

良かれと思った「日本式」が海外の現場で「冷たさ」に感じる理由

このように文化の前提が大きく異なるにもかかわらず、多くの日本企業が無意識にやってしまいがちなミスがあります。それは「自国基準のサービス品質」をそのまま現地に強いてしまうことです。良かれと思って提供している「日本式」のサービスが、現地のユーザーにとっては全く別の意味で受け取られてしまうという、悲しいすれ違いが起きてしまう可能性があります。

 

「うどん」と「寿司」から考える、受け入れられ方の違い

日本のきめ細やかなサービスは本当に素晴らしいものです。ただ、それをそのまま海外へ持ち込む難しさを、私自身、現地で何度も痛感してきました。

ふと思い出すのが、かつてタイに進出した日本のうどんチェーンの一部店舗が撤退した事例(主な理由は資金面であったようですが)です。ここに通じるものを感じずにはいられませんでした。

 

近年、タイで目覚ましい成功を収めている回転寿司チェーンですが、「お寿司」というシンプルなネタの美味しさが現地の舌にも分かりやすく伝わった結果でもあると思います。それに対して、日本のうどん文化にある「コシ」や「出汁の良さ」といった奥深い味わいは、日本独自の味覚センスであり、残念ながら、現地の方には少し伝わりづらかったという側面があります。また、立ち寄ってサッと食べる、あの効率的なセルフサービスの仕組みも、「みんなでわいわい、ゆっくり食事を楽しむ」というタイの食文化のスタイルには、どうしても馴染みにくかったように感じます。

 

こうした構造は、SaaSのカスタマーサポートにも潜んでいるように感じます。日本独自の「奥深さ」や「静かな効率性」が、実は現地のニーズと噛み合っていないのではないかと、そこから一度疑ってみる必要があるかもしれません。

 

タイの現場で裏目に出てしまう「効率化」の落とし穴

SaaSのサポート体制において、日本で「親切で効率的」と称賛されるやり方がタイの現場ではネガティブな評価に繋がってしまうケースもあります。

 

具体的には、「充実したマニュアルを読んで自分で解決してもらう(セルフサーブ)」スタイルや、個人の時間を尊重するあまり、対話的なチャットや電話を極力排除したコミュニケーション方法です。これらは日本の感覚では「相手の時間を奪わない配慮」かもしれませんが、タイの現場では「冷たく突き放されている」「サービスが不十分である」と、真逆に捉えられてしまうリスクがあります。

 

フードデリバリーが教えてくれる「信頼の距離感」

そもそも、タイの生活者が日常的に求めているコミュニケーションの密度は、日本とは根本的に異なります。たとえば現地のフードデリバリーでは、ドライバーがチャットで「今、お店の前で料理を待ってます」「今向かってますよ」と随時進捗を報告し、最後には「着きました!料理はここに置いておきますね」と写真付きで送った後に、電話で一報するレベルのこまめな連絡をくれるのが当たり前です。

 

このような「密で温度感のあるフルサーブ」に慣れ親しんでいるユーザーにとって、日本基準の「必要な時だけ連絡する」というドライな対応は、信頼を築くためのシグナル不足と感じられてしまう可能性があります。

 

そこで大切なのは、「日本で成功しているから」という自負を一度手放し、現地のスタイルやリズムに適応していく姿勢を持つこと、これこそが、海外展開におけるサクセスの第一歩といえるでしょう。

ローカライズの壁を乗り越える進め方

では、具体的にどのようなステップでローカライズを進めるべきでしょうか。海外市場で勝負するための「正しい順番」として、カスタマー体験を再構築する3つのステップを整理します。

言葉の向こう側にある「文脈」を訳し、伝える

第一のステップは、単なる直訳を超えた、現地の文脈に合わせた「意訳」の徹底です。ドイツ市場に参入したあるマーケティングSaaSの事例では、直訳された不自然な用語を現地の専門家が全面的に書き換えたところ、プロダクトの採用率(利用率)が110%も向上したというデータがあります。

(引用:SaaS App Localization: How to Go Global the Smart Way | Wildnetedge)

 

また、タイのような市場では、テキストベースの分厚いマニュアルを渡しても、恐らくほとんど読まれません。事実、2025〜2026年のタイのインターネット・SNS利用データによると、TikTokの利用率が85.7%へと急拡大し、ユーザーの多くが視覚的な動画コンテンツから情報を得る傾向が顕著になっています。

(引用:タイのインターネット・SNS利用の全体像【2026年最新データ】| Dayzero Bangkok)

 

こうした「活字より視覚情報」という文化特性を踏まえれば、マニュアルを思い切って動画化したり、画像中心のチュートリアルを構築したりと、「情報伝達の形」そのものを現地化する工夫が、定着率を高める重要な戦略になってきます。

 

現地の「不満」と「インフラ」の現実に寄り添う

第二のステップは、現地のインフラや法的環境への適応です。特にバーティカルSaaS(業界特化型)においては、この適応の成否がビジネスの致命傷になりかねません。

 

過去には、日本の労働基準法に準拠した複雑な集計ロジックを持つ勤怠管理システムをそのまま東南アジアに持ち込んで失敗した事例があります。現地の企業が求めていたのは、「複雑な集計機能」ではなく「GPSによる打刻の正確性」や「低スペックなスマホ環境でもサクサク動くアプリの軽快さ」でした。結果として、アプリが動作しないトラブルが現場で多発し、解約に至っています。

(引用:勤怠管理システム導入事例 | 起業LOG SaaS)

 

国内のよくある課題ではなく、現地の「本当のペインポイント」はどこにあるのかを捉え、インフラの現実に即した機能を提供することが、何よりも不可欠であると言えるでしょう。

 

「成功の定義」を現地の目線で描き直す

最後のステップは、オンボーディングと成功指標(サクセスメトリクス)の再定義です。UIの導線設計をやり直すのと同様に、CSの体験設計も現地の感覚に合わせる必要があります。

例えば、日本の組織では「ミスの削減」が成功の指標になりやすい一方で、米国では「売上の増加」が重視されるなど、顧客にとっての「成功」の定義は文化によって異なります。

また、CSローカライズを本当の意味で完遂するためには、日本本社主導のトップダウンだけでは不十分です。現地の業界トレンドやビジネス文化に精通したローカルチームに主導権を委ねる体制構築こそが、長期的な定着を後押しする最大の要因になると言えるでしょう。

(引用:Top Reasons Why Japanese IT Firms Struggle Overseas | NRI)

 

まとめ

グローバルSaaS市場における成功は、言語の翻訳というベースラインの先にある「文化や商習慣への深い適応」が定着への鍵を握っています。今回例に挙げたタイや東南アジア市場を目指す際、現地の「フルサーブ」への期待値や、文字よりも視覚情報を好む特性、などの「日本基準との違い」を深く理解することは単なる配慮ではなく、事業を継続させるための強力な戦略そのものになります。

アディッシュでも、こうした文化的な背景や現地のリアルを知っている国際的なメンバーが多く在籍しています。単なる言語対応に留まらない「伴走型のCSローカライズ」の視点を大切にしながら、日々のクライアント支援に向き合っております。


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この記事は著作権を有する Custifyの許可を得て翻訳したものです。 Original article:https://www.custify.com/blog/reengaging-churned-customers/...
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